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アロエ  作者: 小日向雛
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第34話 スーパーヒーロー

昨日のパーティで飲みすぎてガンガンと響く頭を抱えながら、春平は新幹線の中に居た。


アロエから本社までは割りと遠い。おそらくはもうアロエに来るような時間も与えられないだろうというぐらい交通に時間がかかりすぎるので、春平もそのつもりでアロエを出てきた。


とりあえず美羽がしつこく携帯の番号を聞いてくるので教えて、春平は新幹線の中でぼうっと音楽を聴いている。


そうして、目的の地へとついた。


「ふぅ、懐かしいなぁ」


そう言って目の前の巨大なビルに臨む。


こそこそと店を偽って続ける店舗とは違い、本社は巨大な敷地にビルが堂々と建っている。


「他の店舗も、こんだけ堂々としてればいいのになぁ」


そんなことを呟いて、春平はなんのことはないといった風に本社へと足を踏み込む。




中は至って普通のビル内だ。ただ、依然高瀬と行ったところよりははるかに広い。


1階はどこにでもあるロビーやカウンターに食堂や休憩所などしかないが、2階はどうなっているかな?


実際本社に訪れたのは敷地内にある学校に通っていた時だけで、ビル内見学などぐらいしか入ったことがないのだ。


そんなことを考えながら、春平は懐かしい顔を目の当たりにしていた。


「わぁ春平くん!久しぶりだね」


青年は心底驚いたようにこちらを見つめていた。


大きく開かれた両目は葵春貴に負けずとも劣らない少女のような幼さを思わせる。


黒の髪の毛は短く刈られていてさっぱりとしている。


春平と同い年、つまりは20歳になるわけだが、


「本当に子供みたいだよな」


「春平くんには言われたくない」


さも不満というように目の前の青年は眉を顰めた。それが春平には面白可笑しくてしょうがない。


「本当に久しぶりだね。まさかまだ本社に居座ってるなんて思いもしなかったよ」


「そりゃあ、俺は学校卒業してからずっと本社でしか働いたことが無いから」


彼は、全員が一度は通る、店舗で1年間研修の道を唯一通っていない人物だ。


本社には一刻も早く彼の能力が必要だったからだ。


「何はともあれ会えて嬉しいよ、沖田」


春平がそう言って右手を差し出すと、青年、沖田は嬉しそうに目を細めて、彼の右手を差し出し、強く握り締めた。


「こちらこそ、春平くん」




彼が一体どんな役割を担っているのかは不明だが、沖田は春平を彼の新しい職場へと連れて行った。


「春平くんは3階で皆と仕事をするんだ」


「皆?」


「うん、皆。その階に居る社員と一緒に働くの。まぁ、今までアロエで働いていたみたいに、新しい同僚ができるだけだからね」


そこまで言われて、春平は大事なことを思い出した。


「ここって階によって区分されてるんだっけ?その、それぞれの店舗みたいに」


本社の中でも、2階の店舗と3階の店舗というように、複雑に分かれているのだろうか?


「んーと」


沖田は少し間をおいて、丁寧に言葉を選んでいる様子だった。


「店舗に分かれてるっていうか……それぞれの役割に区分されてるって感じかな。例えば2階での主な仕事は金がしつこく付きまとう金利関係の仕事だったり、4階の仕事はお得意の大企業しか受け付けないし、って感じかな」


「……さりげなく3階の仕事を飛ばしたよね」


春平のめざとい着眼にも大して気に留めず、沖田はエレベーターに乗り込んで3階のボタンを押した。


エレベーター内では、沖田は普段そうしているかのように胸から手帳を取り出して、今日の仕事を確認しているようだ。


恐らくは、この数少ない呆然と突っ立っているこの時間を有効に活用しようとしているのだろう。


「相変わらず忙しそうだな」


春平はぽつりと呟いた。


すると沖田は手帳を閉じて、苦笑いをしながら春平を見つめた。


「『相変わらず』って変だよ。君は俺が仕事をしている姿を見たことがないだろう?」


その言葉に釣られて、春平も苦笑いする。


しかし本社の敷地内にある学校に通っていたことの沖田は、学生だというのにそれはそれは忙しそうだった。


何故か彼にだけは本社からの小さな仕事が託され、山となった仕事を片付けるのに毎日走り回っているのを覚えている。


だから恐らくは、社員としてここで働き、あの時以上に走り回っているのだろうと思ったのだ。


「ついたよ、3階だ」


エレベーターの扉が開くと、そこの階だけ不穏な空気が漂っていた。


ピンと張り詰めたような冷たい空気が、肌にじっとりとまとわりついている。


春平が不快そうに眉を顰めて周りをきょろきょろと見回している隣で、沖田は平然と歩を進め、誰か居ないか確認していた。


そうしてとある1室の前に立ち止まり、コンコン、と軽快にノックしていた。


遅れをとって春平が沖田の後に続き、その1室の前で立ち止まる。


3階は驚くほどに殺風景だった。


目に見えるのはまるで獄中を想像させるような小分けされた部屋、自販機、遠くには購買のようなものもある。


そして驚いたのは、この階のほとんどが何らかの道場のような形をなしていたことだ。


「格闘技を習うの?」


「仕事柄上、せめて護身術は覚えておかなければならないからね。ビルの外、つまりは本社の敷地内だけど、そこにはこの階の人間の為だけの場所があるんだ」


それだけ言って、沖田は深く説明しなかった。


段々と嫌な予感が春平を襲う。


明らかに動揺して目の焦点が合っていない。新しい職場というだけで緊張はするものなのだが、それ以上に3階の仕事内容が気になってしょうがない。


そうして心臓だけが早鐘を打って急いている中、唐突に目の前の扉が乱暴に開けられた。


「沖田ぁ!3階にくるなら下でラーメンぐらい買って来いっていつも言ってるでしょー!」


耳障りと言えるような金切り声を上げて、部屋の中から女性が出てきた。


「あぁ、そういえば言っていましたね。あまりにもどうでもいいことだったので忘却しました」


「むきー!」


沖田はあくまで冷静にそう受け流した。それがさらに女性を逆上させているのだが。


「あ、あの」


「ん?」


どうしていいのか分からずに春平がそう言うと、女性は忌々しげに視線を向けた。


しかしその瞳はすぐに新人を受け入れる優しいものに変わっていった。


「やだ、気付かなかった!たかがラーメンごときでこんなに取り乱した姿見られるなんて……恥ずかしい」


一応どうでもいいことだと本人も分かっているらしい。


「春平くん、紹介します。こちら――」


「自分の紹介ぐらい自分でするよ」


女性は不服そうに沖田の言葉を遮り、先程春平が沖田にしたように、右手を差し出してきた。


久遠くおん。それだけ覚えてくれれば十分だから」


その腑に落ちない自己紹介を受け取って、春平は苦笑まじりにその手をとった。


「あなたの、お仕事は?」


春平のその問い掛けには『ここの仕事は?』という意味が含まれている。


それを覚ってか、久遠はにやりと不敵に笑った。


「命を懸けて悪と戦うスーパーヒーローだよ」



いよいよ本社編突入!

久しぶりに再会した沖田という青年につれてこられたのは、何やら怪しい雰囲気漂う職場。

出てきた人もちょっとずれてる!

スーパーヒーローってどういう意味だ!?

段々と不安が募り、段々と仲間が増えて、春平は一体どうなってしまうのでしょうか!

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