第27話 反撃開始
「近付くな気色悪い!」
自分の腰にくっついて離れない高瀬を、春平は無理矢理引き離そうとする。
しかし高瀬はそれに抵抗して必死に食らいつく。
「止めろって!拳銃が怖いんだよー」
「怖いんだよー、じゃねぇっての!」
「お前の方が俺より強いだろー。俺昔ッから体育とか苦手だったし」
はぁー、と長い溜息をついて、春平は高瀬を放っておいた。
「かっこよく便所から出てきたと思ったらこれだ。少しは体鍛えろよ」
「お前は脳みそを鍛えた方がいいぞ」
「……助けて欲しいのかそうじゃないんだか」
イライラと高瀬を蹴る春平。そんな時、微かだが人の気配がした。
「本気で離れろ。誰か居る」
小さく呟くように言う春平に、高瀬は目を向け、そしてゆっくりと離れる。
壁に背中をくっつけて、向こうの様子を観察する春平。
現在強盗の状況はロビーに3人、下の階のトイレに1人、そしてビル内旋回中が1人。
拳銃を握る手が嫌に湿っている。
「1人……だなっ!」
ダッ、と床を蹴ってそのまま男に体当たりをする。
「ぐっ」
男は目の前に飛び込んできた春平に押されて尻を地面に打ち付ける。
その様子をじっと見ていた春平に、男は銃口を向ける。
「撃たれたくなかったら大人しくしろっ」
一瞬冷や汗をかいて春平は立ち止まる。それを見て男はゆっくりと立ち上がり、目の前の春平をじっと凝視する。
そして、異変に気付いた。
「あれ?」
春平はにやりと笑って両手をあげていた。
春平の手には拳銃はない。
次の瞬間、男の後頭部に激しい痛みが響く。
高瀬が背後に回り、弾倉で男の後頭部を強打したのだ。それに気付けずに、男はそのまま意識を失ってうつ伏せに倒れる。
「ひゃーおっかねー。どうしてそんな技覚えちゃったの?」
「何となく、ここ硬くて痛そうだろ」
そう言いながら高瀬は男から銃を奪う。これで、1人1つの銃を所持できることになる。
しかし
「おっと悪いね君たち」
突然、背後から知らない人物の声がした。
まさか、と春平は目を見開いた。
このビル内に居るのはロビーの3人、そして既に倒した2人だけではないのか。
目の前に居る男は、同じくアタッシュケースを持って立っている。
1人、ではない。複数名。ここに居るだけでも5人。
「マジかよ」
まったくもって、苦笑いするしかない。
「無闇に銃は連発するな。外の奴らが騒ぎ立てたら厄介だ」
1人の男の命令に、他の4人は黙って頷く。そして、春平と高瀬をじっと凝視する。
そんな冷たい視線が集中してくる中、2人はどうしようもなく立ち尽くしていた。
「やれ」
一言に反応して、全員が襲い掛かってくる。
「畜生!高瀬、踏ん張れよ!」
そう言って拳や蹴りを回避する春平。動体視力ならお手の物だ。
しかし、高瀬はそうもいかない。
飛んできた拳を回避すると、おもいっきり腹を蹴られる。
「っかはっ!」
そうしてよろめくと、背後から頭を強打され、高瀬はその場に倒れこむ。
「高瀬っ!」
気を許した瞬間、春平もわき腹を強打。
襲い掛かる拳を止めると、背後から背中を殴りつけられた。
「――――――!」
ズキーンと神経に鋭い痛みが生じる。
どうしようもなく倒れこんだ春平に、続けざまに攻撃してくる男2人。
ちらりと高瀬に目をやると、高瀬も同じ様に殴る蹴るの暴行を受けっぱなしだった。
お互いにもうボロボロの状態で、時期に意識が遠のいていくのを感じていた。
情けないな。こんな所で人生終わるってのか……
春平はゆっくりと目を閉じた。
「っ!」
そうしてパチッと目を覚まして蹴りつけてくる男を凝視する。
「覚悟しろよ」
突然響き渡る銃声、男の悲鳴。
「ぎゃあああああああああああ!」
全員が何事かと春平を見る。
そこには、拳銃をしっかりと男に向けて構えている春平が居た。
「はっははー調子に乗りやがって!」
「てめぇ!」
他の男が春平に向かって発砲。
鋭い銃声が響き、銃弾は春平の耳をかする。反動で髪の毛が少し撃ち切られただけだ。
自分の髪の毛が地面に落ちるのを確認して、春平はにやりと笑った。
「これでよし」
そうして両手でしっかりと銃を構える。
「死んでも知らねぇからな」
春平の不敵な笑みと構えられた拳銃、発砲された弾丸に全員がパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う。
「てめぇ起きろ!」
高瀬を無理矢理起こして男たちを追いかける。
大抵の男は自分に向けられた銃口と銃声でショックで気を失うが、そうでもない強い男も数名居る。
春平と男は対峙して、お互い息を切らしている。
「強いな、お前」
「お前こそ」
そんな短い言葉の交わしの後、銃声が響く。
春平は自分の肩に、激しい痛みを感じていた。
「いいか。これは遊びじゃない」
冷たく放たれる言葉を、自分の肩の痛みと比較する。
ゆっくりと触れると、そこにはぬるりとした感覚。血だ。
「成る程、理解した」
春平は苦笑して、目の前の男と対峙した。
いよいよ次回、男たちの目的が明らかに!
そして会社の運命は!?