第113話 改革の始まり
「………………」
ひたすら本社フロントにてパソコンのキーボードを打ち付けていた乙名が、ピタリとその動きを止めた。
カウンターを隔てたところ、肘をつきながらこちらをにこにこと見つめている男を見て、乙名は心底嫌そうに顔を歪めた。
「どうしたんだい?続けたまえ」
「……視線が気になって仕事になりませんので」
「おや、君はそういう言い訳をする類いの人間だったのか」
「……」
にっこりと、乙名もまけじと微笑んだ。もちろん額には青筋が浮かんでいる。
乙名にとって、神居とはむかつくことこの上ない男ではあるが、仕事は自分よりもできるので否応なしに認めるしかない存在だ。
実際あの事件のあとも、宣言通り沖田と一緒に仕事をこなし、不備なく社員たちに指示を与えているようだった。
いつまでも自分を見ている神居に苛立ちを感じながら、乙名はぱちぱちと指を動かす。
神居は乙名を狙っている。もし自分が社長となったとき、おそらくは反対勢力として派閥が生まれることを想定しているからだ。
そうなった場合、乙名を沖田側にいかないようにするため。
乙名はそれを理解しているから、なおさら神居を好きにはなれない。
昼休憩まで30分。早くいなくならないかなー、と思っていたら、珍しい来客に神居の意識が離れた。
「若じゃーん!どうしちゃったの」
「うるせぇよ」
不愉快そうな春平が、スーツのネクタイを緩めながらフロントに近づいてくる。
もともと個人的に連絡を受けていた乙名は何も言わずに資料をめくる。
その間、神居は楽しそうに春平に声をかけている。
「どうしちゃったのー暇なのー?」
「アロエは別に忙しくないから、息抜きだよ。――乙名」
「はいはい、清住班は今日は本社待機だよ」
「……俺、別に清住たちに会いに行くとまでは言ってないよな?」
「予想はつくからー」
おおかた、久遠の様子を見に来るのだろうと目星をつけていたが、どうやらそのとおりだったらしい。
乙名はぺろん、と資料をめくってため息をつく。
「久遠ちゃん、どうにかしてあげてよー。親父さんに不幸があったからってこれじゃあ社会人としてダメなわけ!」
ぱんぱん、と乙名が書面を叩いてみせると、春平が寂しそうに眉尻を下げた。
「じゃあ少しは気遣ってやれよ。お互いに見知ってんだろ、久遠がもろいことくらい知ってるんじゃねぇのかよ」
「それは俺のすることじゃない。そもそも、清住から久遠に近づくことは禁止されている」
「それは……傷心につけこんでくると思われてるんじゃないか……?」
「じゃあ、俺が慰めに行こうかな」
にこりと笑って神居が割り込んできた。
「さ、春平行こうか」
「……馴れ馴れしい」
自分の肩を持つ神居の手を振り払い、春平はエレベーターへと向かう。
その後ろをついていく神居の背中を見てから、乙名は小さいため息と共に沖田が戻ってくるのを待つ。
3階に行くと、明らかに無理な笑みを浮かべる久遠に迎えられてしまった。
「やっほー。新社長候補と一緒なのね」
「うん」
なんだか見ていられないほどの無理矢理な態度に、春平は寂しげな笑みを浮かべた。
しかし隣の神居は「やぁ」と親しげに挨拶をしている。
久遠のことだから嫌な顔のひとつでもするかなぁと思っていたのだが、神居を見るとぺこりと遠慮がちに頭を下げた。彼女にしては珍しい。
「……知り合い?」
「社長の危篤に来てくれたの。沖田とはすれ違いだったんだけどね」
なるほど。
どうやら神居の「社長補佐」という言葉は嘘ではないらしい。
「うん、ちゃんと会社に来ているようでよかったよ」
本当にそう思っているのやら。神居はにっこりと虫も殺さぬ笑みを久遠に向けている。
乙名がたぬきならこいつはきつねだな、と春平は内心思いながら久遠に向き直る。
「な、時間あるならゆっくり茶でも飲みながら話さないか?」
「……そうしたいのはやまやまだけど、残念ながらこれから訓練なのよね。また今度誘ってよ」
じゃね、と手を振ってぱたぱたと廊下をかけていく後ろ姿を見送って寂しい思いになりながら、春平はくるりと体を反転させた。
だが、目の前にまるで春平の退路を塞ぐように立ちはだかる神居に思わず身構えた。
口許はにっこりと笑いつつ、目はまったく笑っていないのがどっかの誰かみたいだと思いつつ、長身の男に上から見下ろされる迫力に息を呑む。
「アロエは、今でも持っているのかい?」
「――は……」
その言葉に、体が硬直してしまった。
便利屋の支店であるアロエの近状でも聞かれたかと思ったが、これではまるであの「アロエ」をさしているようではないか。
「なんで知ってるんだ?」
あのアロエは、社長の手を渡ってきたとはいえ、別段ワイロのようなものでもないし、会社に関わるような深い意味合いがあるわけでもない、個人的なものなのだ。
それを部外者が知っていることに不快感にも似た不気味さがあったが、とりあえず「ま、俺が持ってるけどさ」と答えた。
すると神居は、今度は目を細めてにっこりと微笑んだ。まるで蛇が誘惑するように。
「ふぅん。じゃあ結局君だけ仲間はずれなわけか」
「なっ!」
――何をこいつは突然……っ!
カッ、と頭に血がのぼった直後、目の前のエレベーターがポーンと音を立てて到着した。
「あれ?珍しい2人組だね」
その中に、ぽかんとした表情の沖田をのせて。
「え?あぁ、うん。なんでか神居が勝手についてきてさ」
「えー、若ってそんな冷たい言い方する人だったのかー」
春平に続いて、神居がぶーぶー言いながらエレベーターに乗り込む。なんとも居心地の悪い3人組だ。
春平は、明らかに自分だけ場違いな感覚に陥り、エレベーターの隅で小さくなっていた。
だが気にしているのは春平だけらしく、当の本人たちはそ知らぬ顔だ。
「……」
居づらい。
春平が眉間にシワを寄せていると、神居がおもむろに口を開いた。
「あとで、上層会議に草案を提出する予定だから、そのつもりで」
「はい」
「……」
そういえば、沖田が黙って突っ立っている。
いつもならエレベーター内でも仕事をするような男なのに。
それだけ、神居がいることで仕事に余裕が出ている、ということだろうか。
なんだか納得できないが、それが現実なら春平には何も言うことはできない。
「――ざっけんなよ!」
バンッ!と会議で渡された資料を、乙名はフロントスタッフの控え室のテーブルに叩きつけた。
それを見た他の社員がぎょっとし、怖がっているように全員が体を強張らせている。
「あの、乙名くん?」
めったに感情を表に出さない乙名が憤怒しているのを見ておどおどしている女性社員を見て、乙名は我に返り「ごめんね」と言って資料を差し出す。
乙名はフロント代表として会議に出たが、内容は広く普及しなければならない。特に、フロントスタッフには。
「なんだか荒れてるね」
一足遅く戻ってきた沖田が、何とも言えない表情で乙名を見つめる。
どこまでものほほんとしたその表情に苛立ちを覚えながら、沖田を顎で誘導する。
「沖田。ちょっと、こっち」
奥の部屋に連れ込んで、乙名はどかっとパイプイスに腰を落とした。
「出し抜かれたぞ」
鬼気迫る乙名の言葉を聞いても、沖田はあくまでのんびりとした様子で「そうだねー」と言いながら正面に腰かけた。
乙名は改めて書類を思い出し、深いため息をつく。
突然の会議で、神居がひとつの草案を出したのだ。
内容は単純明快。
『特殊護衛科の紛争介入の解除』だ。
それは、神居が本格的に便利屋を改革しようと動き出したことを意味している。
よりによって特衛科の問題を持ち出して、大々的な改革を。
そして対立者である沖田は、それに異議を唱えることもしなかったのだ。
「まぁ、その問題はおいおいやっていかなければならない項目だったからね。それを神居君が先立って提案しただけであって」
「だからそれが問題なんだろ!」
声を荒げて立ち上がる乙名を、沖田は眉間にしわを寄せて見上げる。
「なんで?」
「――は?」
すっとんきょうな返答に、乙名も気の抜けた声を出すしかなかった。
だがすぐに頭を振って気を引き締めて熱弁を始める。
「少しでも奇抜なことをして気を引いて、流れをもっていこうとしてるじゃんかよ!このままだとあいつに流されたままになるぞ!先手なんか絶対とらせちゃダメなんだよ!」
「そんなものかなぁ」
「沖田!」
「乙名くん、あのさぁ」
少し苛立ったように沖田が声を出す。
乙名が何を言われるのかと身構えていると、沖田は少しだけ参ったように困った表情を向けてきた。
「それって、そんなに悪いことかな?」
「お前はまた――!このままだったら、神居が優位になるっていってんだよ!」
「だからそれ、そんなに悪いことなのかなって言ってるの」
きっぱりと言う沖田に、乙名は口をわなわなとさせる。
しかし沖田は乙名に発言権を与えずに続けた。
「誰が社長になろうが、関係ないでしょ」
その言葉が決定打となった。
これ以上話し合えることはないと理解した乙名は、何も言わずに沖田だけを残して退室した。
だが苛立ちは抑えきれておらず、舌打ちをしてから乱暴に扉を閉めたのだった。
「乙名がねぇー、すっごく機嫌が悪いのよー」
と、アロエの玄関先で開口一番に言ったのはミミ。妙安寺の社員で、諜報科とは一切関係はない。
きれいに化粧をしてOLのような格好をしているところを見ると、これから仕事なのだろう。
彼女をインターホンで発見して玄関まで迎えに来た春平は、「はぁ」としか対応できない。
「というわけで、つれてきました」
彼女の横には、不満顔の乙名が腕をがっちりとロックされて立っている。
しかしそれを見かねたのか、ミミが店の奥に「美浜さーん」と声を伸ばすと、途端に乙名は緊張した面持ちとなる。
「あら」
そして玄関までやってきた美浜と目が合った途端、乙名の顔が一気にゆでダコ状態となった。
いつもの余裕はどこへやら、と春平は思いつつ、ミミは乙名のことをよく理解しているなぁと感心していた。
「どうしたのこんな朝から」
「乙名がアロエに遊びに行きたいらしいんで連れてきましたー」
「ミミちゃん!」
「ではミミはこれから仕事なので、坊やをよろしくお願いします」
ぴっ、と敬礼をして、ミミは早々に出ていってしまった。
取り残された乙名は何が何やらという様子で立ち尽くしている。
なんだか可哀想になってきたので「とりあえず入りなよ」と春平は乙名をアロエへ招き入れた。
美浜は用事があるということですぐに出ていってしまい(乙名は顔には出さないものの、落胆しているようだった)、土曜日だからといってのんびり起きてきた高瀬が加わって、むさくるしいトライアングルができてしまった。
高瀬はというと、噂で聞いていた本社フロント様を目の前に感動しっぱなしだった。
「これが本社のフロントか……」
ふぉぉ、となめまわす視線に乙名はいづらそうにするだけだ。
いつもならここでちょっときつい冗談でもかましてさらりと受け流すだろうに。
「余裕ないな。どうしたんだ?」
春平が切り出すと、乙名は不満げに一言「神居」と言うだけだった。
それで、高瀬は自分がいてはいけないのだろうと席を外した。
別にいてもいなくても構わないのだが、高瀬がいないことはメリットでもある。
あえて誤解をとくようなことはせず、2人きりのリビングで話が始まった。
「あいつ、特衛科の紛争介入をやめようとしてる」
「!本当か!」
ついつい立ち上がって前のめりになる春平を、乙名は「それで」とやや声を上げて制した。
「あいつ、ついにどっちが社長にふさわしいかを見せつけるつもりなんだよ」
「――そうか」
「紛争介入に関しては、沖田自身もいずれは着手しなければと考えていた項目だ。たぶん、あいつに意見をすることはあっても反対なんかしない」
「それじゃあ神居がどんどん有利になるってわけか」
「お。珍しく物分かりが早いな」
「珍しくは余計だ」
春平はテーブルを離れると、キッチンでコーヒーの支度をする。
その背中に乙名は視線を向けて、真剣に言い放った。
「そうなると、まず間違いなく会社に派閥ができる。お前は迷ったふりして神居派に入れ」
「――はっ!?うわっち!」
突拍子もない発言に驚いてコーヒーをこぼしてしまい、手を火傷してしまった。
しかし乙名は構わず話を続けた。
「そこで情報収集してくれ」
「は!?俺にそんな大役勤まるかよ!そもそも、そんなことが通用するとは……」
「あぁ、通用しねぇだろうな。いくらお前が介入中止派だろうと、沖田派に入るのは一目瞭然だ。みんなを騙すためにひと芝居やることになるが、それでも神居は騙せない。たぶん……俺が春平を利用して諜報活動を始めたっていうところまで丸わかりだろうね」
「それじゃあ意味ないだろ!」
もし見つかって神居にいいように扱われたら、ますます沖田派は不利になる。
だが乙名はずる賢い笑みを浮かべて春平を妖艶に誘う。
「のってやろうじゃん?」
「――な」
「どうせ背後に俺がいることなんてすぐにバレる。なら、悪あがきしようぜ。どんなになっても、俺たちは神居派になることはないって、見せつけようぜ?」
それに、と乙名は立ち上がり、自分でコーヒーの準備を始めた。
「俺は簡単には攻略できないぜ」
「――――――」
何かあるのだ。
乙名には何か策があるのだ。
隣の沖田が春平の呆然とした視線に気づいて「な!」と相変わらずたぬきな笑みを向けてきた。
これほど、乙名を先輩として頼りがいがあると思ったことはない。
「あぁ」
こいつに何か考えがあるなら、俺は助けになる。
春平が強く頷くと、チャイムが鳴った。
「はいはいー」
高瀬が珍しく率先して客を引き受けるようだ。おおかた、乙名がいるので緊張し遠慮しているのだろう。
合図は「お尋ね者です」。
クリアしたら玄関の扉を開く約束だ。
目の前の、少年か青年か判別しにくい男の子を目の前に「はい」と高瀬はアロエへと引き込もうとする。
だが少年はすぐには足を踏み入れなかった。
「春平くん、います?」
「あぁ、リビングにいますから、詳しい話は中でどーぞ」
「恐れ入ります」
その会話は、玄関の横にあるリビングまで聞こえてはいたが、2人の耳には入っていなかった。
「おーい、お客さんだぞ。春平に」
「俺?」
はて。
指名してくるような客なら、高瀬だって相手の名前を言うはずだ。
疑問に思いながら立ち上がる。
そして高瀬の後をついてリビングに現れたのは――
「沖田……!?」
予想外の人物にすっとんきょうな声をあげてしまった。横の乙名はぽかんとしたまま動かない。
「えっ、沖田!?」
高瀬が大袈裟に声を上げた。
まさか今話題の沖田を招き入れたとは思わなかったのだろう。
オーバーリアクションを受けた沖田は恥ずかしそうにはにかんでいる。
「こんにちは。乙名くんも来てたんだね」
矛先を向けられた乙名は「いやぁ……」と予想外の事態に脳内処理が遅れている様子。
「お前、仕事は?神居に任せてきちゃったの?」
「うん、神居くんに頼んでお休みもらっちゃった」
「もらっちゃったって……はぁー」
乙名は頭を抱えて大袈裟にため息をついた。
なぜこの男はこんなクソ忙しくて緊迫した状況の中、簡単に敵に全権預けるなんてことができるんだろうかと、説教したところで沖田は聞く耳もたない。
もちろん乙名の考えは理解した上で、沖田は「僕にだって休みたいときくらいあるよー」とおどけている。
「たまには息抜きしないと……初心を忘れないために」
高瀬が出したコーヒーに短く礼を言って、沖田はゆっくりと穏やかに瞳を閉じた。
「え……まさか沖田も美浜さんに会いにきたの……?」
「おい正田春平。沖田『も』ってなんだよ、『も』って」
「僕が会いに来たのは違う人。――もし今時間があるなら、春平くんの部屋に行ってもいいかな」
「えっ?」
きょとんとする春平と恥ずかしがる沖田を交互に見て、乙名が「あ、あー……」と早合点する。
「なに、君たち。もしかして昔からそういう関係だったの?」
「ゲスな勘繰りはやめろ!」
「なんなら乙名くんも一緒においでよ」
「いやいや、残念ながら俺にその気はないから」
「や め ろ」
頭を殴ると、ようやく乙名は口を閉じた。
春平の部屋はとてもシンプルだ。
最低限の知識のための本棚があるくらいで、あとは無造作に野球の道具が置いてあるくらいでほとんど寝室としか使っていない。社員の仮眠室としても利用されている。
そんな中で、窓際にアロエがちょこんと置いてあるのはなんだかバランスがわるく奇妙でもあった。
乙名が面白がって近づき、かがんでまじまじと見つめている。
「へー、アロエねー。ちゃんと世話してんじゃん。もしかしてこれがこの店の名前の由来?」
「えっ、知らないの?」
「は?」
乙名がきょとんとした表情をしたのに気づいて、春平は「なんでもない」とごまかした。
乙名はおそらく寺門がどういった経緯でこの店を開いたのかは知っているだろうが、だからってアロエのことなど知るわけもないだろう。それはあくまで個人的なやりとりだ。
乙名は春平の態度を見てにやりと笑い、「ふーん」とずるがしこい笑みを浮かべた。
「曰く付きのアロエなわけね」
「いや、お前には関係ない」
「会社に関わることとあっちゃあ聞きたいじゃんかよー」
「やだ。教えない」
別に教えたくないような何かがあるわけではないが、いつもこいつの思い通りになると思われているのが癪だったのだ。
そんな2人をよそに、沖田はアロエの前に座り込んだ。
それが、あまりにも寂しそうな眼差しだったので、春平はついつい声をかけてしまった。
「沖田、アロエのこと知ってんの?」
「んー、まぁ、なんとなくは。僕にとっても、意味のある大切なものだから」
そうか。
アロエと同じ名前なのだから思い入れくらいはあるだろう。ただ、それが「このアロエ」と関係があるかまではわからない。
聞いてみたいのはやまやまだったが、本人が「重荷」だと名前を呼ばれるのを嫌うくらいなので、どうしても踏み込んだ質問はできない。
「……でもお前、だからってここに来ることなんてなかったじゃん」
「普段はね。でも、今は違う」
今。
それが、新生便利屋になろうとしている現在のことを示しているのは、春平にもわかる。
「だからこうして、覚悟を決めに来たんだ。この社を、守っていくために」
「――」
言われて、春平の頭の中でパズルのピースがかちりと音を立ててはまっていく。
そういえば、神居もこのアロエのいきさつを知っていた。
そして、春平だけ仲間はずれだと言っていた。
別に、個人的にもらったものに仲間はずれもなにもないと思っていたが――
もしかしたら、それ以上の何かがこのアロエには隠されているのかもしれない。
そして思い出す神居の台詞。
『初代の悲願を叶えるために』
「――これ、お前にあげようか」
春平の口をついて出たのは、そんな言葉だった。
もしかしたら何かあるのか、なんて、聞きたくても聞けない。
でも、このアロエは春平よりも沖田に必要なものなのかもしれない。
そんな気持ちのこめられた発言だったが、沖田は目を細めて恥ずかしそうに笑った。
「それじゃあ順番が逆になっちゃうよ、春平くん」
なんて、意味深なことを言って。
動き出す神居。
意味深な発言をする沖田。
いよいよ動き出した新生便利屋が、ばらばらになっていく――