第6章
「今日の収穫はまぁまぁだな」
椀に少しばかり入ったお菓子やコインを見ながら、トルネが言った。隣では子供達が早速飴をほおばっている。
「帰ろう。そろそろ司祭が来て追い出されるぞ」
「まったく、司祭のくせに罰当たりな奴だぜ、あいつ」
「俺達みたいなのは加護対象外なのさ」
「くそったれ」
「おい、来たぞ」
ネルがトルネを小突く。教会のドアから豪華な司祭服を着た中年の男が姿を現した。その顔は怒りで眉間に皺が寄っていた。
「逃げろ!」
子供たちを先に逃がし、次いでネル、トルネ、ライラも逃げる。司祭は手に棒を持ち、今にもそれを振り回さんばかりの形相だ。司祭という立場の手前、大声で喚いて追い掛け回すということはしないが、それでも威嚇でこちらに近づいてくる。
「森へ逃げろ!」
ネルが叫ぶと、少年達はそれぞれ森へ散り散りになって走った。司祭の男は追いかけるのをやめ、憎々しげに舌打ちをして教会の中へ戻っていった。
「もう大丈夫だ」
後ろを振り返っても誰もいないのを確認したネルが、全員に呼びかける。トルネ達は足を止めて、息を整えた。
「みんな、大丈夫か?」
トルネが子供たちに話しかけると、それぞれから声が返ってきた。しかし、返ってくる声が一つ少ない。
「シュカは?誰か、シュカ知らないか?」
シュカというネル達よりも五歳年下の少女が見当たらないのだ。辺りを見回すが、彼女はいない。
「シュカを探せ!」
もしかしたら逃げ遅れて司祭に捕まったのかもしれない。ネル達は二人一組になって森を引き返した。きょろきょろと辺りを見ながらシュカの名を呼ぶ。しかし返事は返ってこない。
それから森の中をしばらく彷徨うと、突如としてトルネが声を上げた。
「シュカ!しっかりしろ!」
「トルネ、どうした!」
ネルが叫んでも、トルネはシュカの名を呼び続けるだけで、ネルの方を見ようともしない。ネルがトルネに駆け寄ると、そこには倒れ伏したシュカがいた。幼い少女の顔は頬が赤く染まり、白い肌がそれを強調させている。周りには先刻もらったコインと椀が散乱していた。
トルネがシュカの体を抱き上げ、揺さぶっている。しかしシュカは目を閉じたまま苦しそうに息をするだけで、トルネの声にも反応しない。
「どうしたんだ?」
「わかんない……」
やっとトルネがネルに気づいて、正気を取り戻す。体をゆするのをやめて、額に手を当てる。すると、高温がトルネの手を覆った。
「熱い……熱を出してる。どうしよう、ネル」
ネルもシュカの額に手を当てる。並みならぬ熱さだ。高熱を発している。
「どうしたの?」
異変に気付いた他の子供達も、ネル達の周りに集まってくる。そしてシュカを見てうろたえる。
「シュカ、どうしたの?」
「高熱が出てるんだ。お前ら、今日集めたコイン、持ってるよな?」
ネルが鋭い目つきで子供達を見据えると、彼らは弾かれたように頷いた。
「う、うん。でも、どうするの?」
「すぐ医者に連れてくぞ。俺らが集めた金で、何とか薬を出してもらうんだ。俺達には、それしかできない」
ネルが悔しそうに奥歯を噛み締めると、子供達が椀をネルに差し出した。
「シュカ、助けないと」
「ネル、助けて。シュカを助けて」
「ネル、トルネ、ライラ」
今の子供達にとって、頼れるのは年長者の三人だけだ。涙が溢れている目で、ネル達をじっと見る。ネル達は頷いて、コインを受け取った。