第5章
その日から、ライラはネル達と共に暮らすようになった。ネルの地下室とトルネの窓枠の間に位置するライラの小窓。小窓の中にある小さな部屋がライラの家だった。ネルの家と同じく所々崩れていて、雨が降れば部屋の角には雨水がたまる。それでも風は凌げたし、半壊としていると言えどベッドがあった。
コンコンコンコン
その小窓を四回ノックするのが仲間の印だった。ネルとトルネはそんなものいらないと言ったのだが、他の子供達が作りたいと言った。彼らも幼いなりにライラと仲間意識を共有したかったのだろう。
小窓を叩く音で目を覚ましたライラが窓を開けると、ネルが小さなお椀を持って外で待っていた。
「ライラ、早く支度しないと」
「何があるの?」
「今日は日曜日だよ。教会で日曜のミサがある」
ネル達は毎週日曜日の朝になると街の外れにある教会に足を囲んだ。無論彼らに信仰心などはなく、金が作れるのならマリア像を売り飛ばしてもいいと考えているほどだ。しかし日曜日はミサが開かれ、多くの敬虔な信者が教会にやってくる。中には物乞いをすれば食べ物やお金を置いていってくれる人もいる。それが目当てで、日曜日は早起きをして教会で待ち伏せるという一種の慣例ができていた。
「トルネも起こさなきゃ。行こう」
ライラが急いで家から出ると、ネルはトルネの窓枠を叩いている最中だった。ライラの小窓と同じように、トルネの窓枠にも印がある。窓枠を石で二回、間を開けて一回叩くのがルールだ。
「ネル、ライラおはよう」
寝ぼけ眼のトルネが大きな欠伸をする。ネルは呆れたように息を吐き出して、石を投げ捨てた。
「早くしろよ。人が来ちゃうぞ」
「わかってる。そう急かすな」
トルネが窓枠を飛び越えて二人に合流する。走って教会に行くと、他の子供達は既に場所を取っていた。
「Give me chocolate」
まるで呪文のようにその言葉を来る人来る人にささやく。何かをくれる人もいるが、中にはネル達が見えていないかのように素通りしていく人もいて、時には唾を吐きかけられた。しかし少年達はそれでも椀を持ち続けた。