第2章
日も暮れて、そろそろ夜になる。そんな昼と夜の中間の空間を、ネルたちは走った。ラスクリン伯爵の邸はここからそう遠くない丘の上に建っている。坂を上って裏側の森林の方から回ると、肉の焼けたいい匂いが鼻孔をくすぐった。この世のものとは思えないような至福の香りが辺りに充満している。他の子供たちも、少しでもこの香りを自分の中に吸い込もうと必死になっている。
「ネル、あれ見てみろよ」
トルネがひっそりと声をかけてきた。彼が顎で指す方を見やると、馬車に乗った御者と荷台に乗っている少女たちがいた。少女たちは全部で十人近くおり、全員ネルたちと同じ年の頃だ。
「ラスクリンの奴、おれらと同じくらいのガキにまで手出してるんだぜ。吐き気がする」
普段はにこにことしているトルネが憎々しげに唾を地面に吐き捨てる。
「……飯を探そう」
そんなトルネに何を言うわけでもなく、ネルは年下の子供たちを率いて調理場の裏へと回った。
調理場の裏には生ごみのにおいが充満していて、息がしづらい。物陰に潜んでしばらくすると、調理場の裏の扉が開いて、そこからどさっとごみ袋が投げ捨てられる。戸を閉まるのを確認したネルたちは、すぐさまそのごみ袋めがけて突進した。縛られている口をほどいて、食材の余りを探す。みな空腹に耐えかねているだけに、少しでも食料をみつければ争奪戦だ。
「その骨肉はおれのだぞ!」
「俺が先だ!」
「しっ。静かにしろ。使用人に見つかったらどうするんだ」
ネルが小さい声でしかると、子供たちは静かになった。ここで使用人に見つかって追い出されようものなら、せっかく食料に手の届くところまで来たのに振出しに戻ってしまう。
いくつかある袋をすべて物色し、食べられるものをすべて食らい尽くした子供たちは一目散に駆け出した。