表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

第10章

 それから二週間経っても、ネルは悲しみを拭えずにいた。物を盗りに行く元気などなく、今まで以上にろくに食べ物を食べていなかった。目は虚ろなまま、何を映しているのか知れない。

「ネル」

 声がした方を向くと、ライラがパンを抱えて立っていた。ネルは一人で動こうとしないため、ライラが自分の食糧をネルに分け与えていた。

「パン、一緒に食べよ?」

「ありがとう」

 二人は無言でパンをかじった。もちろん味などわからないが、飢えを凌ぐための行為として食事をする。

「ネル、今日で二週間だね」

「うん」

「トルネとシュカ、仲良くやってるかな?」

「きっとね」

 感情のこもっていない形だけの返事に、ライラは胸を痛めながら立ち上がった。

 ネルの前に、ライラの右手が差し出された。

「……?」

 ネルが何のことかわからずにきょとんとしていると、ライラは頬を膨らませて怒ったように言った。

「ちょっと、レディが手を差し伸べてるんだから早く握り返してよ。そもそも、こうやってエスコートするのは紳士の役目なのに」

「あ、うん」

 未だに何かよくわからず、ネルは言われるがままにライラの手を握った。ライラの手はネルよりも小さくて、何よりも温かかった。久々に感じた温もりに、ネルははっと気づいた。自分は、生きている。

「こっち」

 手を引かれるがままにネルの地下室を出ると、辺りはもう闇に染まっていた。いつの間にか夜になっていたらしい。

 行先はライラの小窓だった。家の中に入ると、壊れかけているベッドに腰掛けた。つられてネルも隣に座る。

「上、見て」

 ライラが天井を指さす。指の先を見やると、穴の開いた天井から黒い夜空に浮かぶ二つの星が見えた。まるで寄り添うように並び、光っていた。一つは二等星ほどの大きさで、青色に輝き、もう一つは三等星くらいで赤く光っていた。

「ちょうどここから見えるの。あの二つの星、トルネとシュカじゃないかな」

「何で?」

「人ってね、死んじゃうとお星さまになるんだって。前に聞いたことがあるの。だから、あれはきっとトルネとシュカ。二人はああやってお星さまになって、仲良くしてるの。ああやって、私たちを見守ってくれてるの」

「そうか……」

 ネルは食い入るように瞬く星を見上げた。青色の星が赤色の星をそっと守っているように見えた。

「トルネはネルのこと見てるよ。きっと今のネルを見て心配してるよ」

「うん……」

「見せてあげなきゃ。ネルの姿を。自分がおにいちゃんだって言い張るネルを」

 ライラはそっとネルの左手に自分の右手を重ねた。ネルはその手を見つめ、そして握った。

「今の俺を見たら、トルネは笑うかな。『おれがいなくなったくらいでそんなに落ち込んで』って。『おれの兄貴なんじゃないのかよ』とも言うかな」

「多分ね」

 ライラがくすりと笑うと、ネルも優しく微笑んだ。

「……トルネに見せなきゃ。しっかり生きてる俺を。俺がトルネの分まで、みんなのことを守るんだ。おれが兄貴で良かったって思ってもらえるように。しっかりとした頼りがいのある姿を」

「うん!」

「ライラ、ありがとう」

 返事の代わりにライラがにこっと輝くように笑うと、ネルはライラのことを見つめた。ライラもネルのことを見つめ返し―二人は唇を交わした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ