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ものがたり
「そう、ものがたりです」
窓は猛烈な風に叩かれて、がたがた、ぴしぴしと軋んだ音を立てている。
「作り話でもかまいません。交代でお話をしましょう。どうせ、こんな嵐では眠れないでしょうから」
「作り話でも、本当の話でも構わないんですね?」
「ええ。何も難しいことはありませんよ。ただ・・・」
青年の口元は、指に隠れて見えない、けれど、笑うように歪められた気がした。
「ひとつだけ、決めごとをしましょう。
お も し ろ い 話 を す る こ と 。 」
雷が鳴る。
強い閃光で、青年のからだは境界が曖昧になる。
私は目がくらんだ。
さっき感じた違和感が、よみがえる。
私はまっすぐ青年を見た。
「いいわ。その提案、受けましょう」
青年は、ふふ、と笑いながら指を崩して、「そんなに堅苦しく考えることはありませんよ」と言った。
青年の細くきれいな指は、黒い髪をかきあげる。
「まずは、僕から話そう。恐ろしい魔物の、お話です」