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物語を、はじめましょう
そこは、薄暗いけれど、広い部屋だった。
どこかの国の王様が、宴をもよおすような、長い広いテーブル。
天井は高くて、立派なシャンデリアが3つも下がっている。
壁は黒が基調で、落ち着いた装飾が施されている。
明りはたくさんの蝋燭だ。
私と青年の影が、不気味にゆらめいて映し出される。
青年と私は、テーブルの長い辺の真ん中あたりで、向かい合わせに座った。
青年の後ろには、両開きの大きな窓がある。
窓の向こうでは嵐のように、雨と風が暴れている。
森の木は激しく揺さぶられて、おばけの叫び声みたいな音を立てている。
雷が鳴った。
閃光が一瞬だけ、部屋を白く照らした。
逆光を浴びて、青年の顔は暗い孔のように見えた。
「さて」
口の前で指を組みながら、青年は言った。
「夜が明けるまでは、まだまだ長い。嵐も止む気配はありません。どうでしょう、物語でもして、時間をつぶすというのは・・・」
「物語・・・?」