違和感
青年について、階段を上り、二階にあがった。
エントランスは吹き抜けになっているので、エントランスを見下ろすようなかたちで壁に沿って歩く。
曲がり角があって、廊下へ入る。
その廊下も広くて、長くて、突き当りは見えない。
床はやっぱり赤いビロードの絨毯で、壁は白いつるつるした象牙。
ところどころ大きな肖像画がかけてある。
青年は、きょろきょろ回りを見回している私の前を歩きながら話した。
「私は、この屋敷に一人で住んでいるので、ちょうど退屈していました。普段から来客もおらず、ほんとうに一人で暮らしていましたから」
私は、緊張しているので、はぁ・・・とだけしか言えなかった。
「申し遅れましたが、私の名前はウィリアム・オースティン。貴女は?」
「マリア・・・です。マリア・ウェストウッドです」
ウィリアム・・・。
私は目の前を歩く青年の背中を見た。
肩幅がとても細い。華奢だ。
髪はさらさらしている。
白いうなじに髪がかかっている。
「マリア、貴女はこの近くの村の人間ですか?」
「はい、もともとはこの村で、家の畑を守っておりました。7年前に奉公に出てから、初めて帰ってきたのです。それが、森の中で道を失ってしまって・・・」
「そうですか、災難でしたね」
青年は、そういうと、少し振り返って私に微笑みかけた。
あれ・・・?
なんだろう、この気持ち・・・
ずうっと前に、こ の ひ と を―――――――――
それから、私は廊下の途中で部屋に入り、傷の消毒をしてもらい、新しい服も出してもらった。
着替えている間、青年は部屋の外で待っていた。
着替え終わって部屋から出ると、青年は、よく似合っています、と言ってほほえんだ。
「まるで、あなたのために誂えたようだ」
それから、彼は廊下の突き当たりの大きな黒い扉を開けた。
「おはいりなさい」
彼は扉を開けて、招き入れるように私の左手を取った。
ひんやりしているけれど、どこか懐かしい温かみがあった。