黒い森で
ざく、ざく―――
私は草を踏みしめて歩いていた。
黒い森の中を。
手には小さなランタンを持っている。それだけでは、暗くて、暗くて不安な気持ちになる。
頭上を見上げると、森の木々がおおいかぶさってくるようだけど、でもそのすきまから、ぽっかりと月が出ている。
森が深くて、月の光も届かないわ・・・
私は焦った。
これでは家につかない。
夜までに森を抜けなければ、ならなかったのだ。
私はこの森を切り開いた村に生まれた。
貧しい農家の長女として。
私の家は、小さいけれど、豊かな畑を耕している。
でも、家が貧しいから、長女の私が働かなければならない。
だから、山を3つ越えた町まで出稼ぎに出ている。
ただの皿洗いや掃除が仕事だけど、住み込みで食事ももらえる。
今日はひさしぶりの帰宅が許されて、ためておいたお金を持って帰れる日だ。
家には小さい弟妹がおなかをすかせて待っているのだから、急がなくちゃ、急がなくちゃ。
私はエプロンのポケットの中のお金を確かめた。
だいじょうぶ、ちゃんと入ってる。
鳥がホゥホゥ鳴きはじめた。
木々がざわざわする。
さっきから湿っぽい、もしかしたらひと雨来るのかも・・・