表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【あなたが夢中のその女を殺す!】と叫んだ悪役令嬢カンヌは、前世の記憶を思い出したので、クズ男は捨ててカフェ巡りを楽しむ。新しい恋の予感がかけ  作者: 山田 バルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/38

第12話 ランスの告白

再会のカフェにて


 数日後。

 町の広場に面した小さなカフェに、私は一人で座っていた。窓際の席からは、夕暮れに染まる石畳の通りがよく見える。

 待ち合わせの時刻より少し早く来たのは、落ち着かない心を誤魔化したかったからだ。


 扉のベルが鳴り、視線を上げると――彼がいた。

 ランスロット=マルセイユ。淡い金色の髪に夕日が差し込み、彼の横顔を輝かせる。

 胸が高鳴るのを抑えきれず、思わず立ち上がった。


「カンヌ嬢、待たせてしまったかな」

「いえ、私が早く来ただけです」


 互いに微笑んで席につく。店内は以前よりも落ち着いた雰囲気で、近くの客も少ない。まるで、この時を二人のために用意してくれたかのようだった。


 紅茶とケーキを注文すると、短い沈黙が流れる。

 けれど、不思議と居心地の悪さはなかった。むしろ、これから何か大切な言葉が交わされる予感がして――胸がそわそわしていた。


「……先日は、すまなかった」

 ランスが口を開いた。

「サンオリ=ポールの件で君を怖い思いをさせてしまった。あのとき僕が殴られてでも、君を守ると決めていたのに……情けない姿を見せてしまった」


「そんなこと……!」私は慌てて首を振った。「ランス様がいてくださったから、私は勇気を出せたんです。あの場で一人だったら、とても……」


 声が震えて、言葉の先が続かなくなる。

 ランスはじっと私を見つめ、静かに息をついた。


「ありがとう。そう言ってもらえると救われるよ」


 紅茶が運ばれてきた。カップを受け取り、私は小さく口をつける。けれど味はほとんど感じなかった。鼓動の音が大きすぎて、耳の奥で響いている。


「カンヌ嬢」

 ランスの声が、やけに真剣だった。

「実は、どうしても伝えたいことがあって、今日こうして会ってもらったんだ」


「……はい」


 胸がきゅっと縮む。言葉の先を待ちながら、指先が小さく震えるのを感じる。


「僕は――」

 ランスはまっすぐに私を見つめた。

「君といると、とても穏やかな気持ちになる。甘いものを食べて笑い合ったあの日から、ずっと胸の奥で温かい灯がともったまま消えないんだ」


 言葉を選ぶように、一つ一つ確かめるように続ける。


「これまで貴族の義務に縛られて、誰かと心を通わせることなんてないと思っていた。でも、君と出会って変わった。僕は、君と一緒に歩んでいきたい。……カンヌ嬢、どうか僕の傍にいてほしい」


 頭が真っ白になる。

 胸の奥で何かが弾けて、熱いものがこみ上げてくる。


「……私なんかが、本当に……いいのですか?」


 気づけば、涙声になっていた。

 ランスは驚いたように目を見開き、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。


「“私なんか”なんて言わないでほしい。君だからいいんだ。君だから、僕はここまで真剣になれる」


 その言葉に、胸がいっぱいになる。

 ずっと恐れていた。過去のしがらみ、サンオリの影、貴族社会の噂……そんなものが私を縛って、誰かに心を開くことなんてできないと思っていた。

 けれど今、目の前の彼は――そんな不安を全部、温かな手で溶かしてくれる気がした。


「……私も」

 小さく声を絞り出す。

「ランス様と一緒にいると、怖いことも忘れられるんです。甘いものを食べて笑って……あんな時間が、ずっと続けばいいと心から思いました」


 頬を赤らめながらも、私ははっきりと口にする。

「だから……はい。私でよければ、これからも傍にいさせてください」


 ランスの瞳が驚きに揺れ、それから喜びに満ちて輝いた。

 彼は思わず立ち上がり、そして慌てて言葉を探す。


「……ありがとう。本当に……ありがとう、カンヌ」


 その声は震えていて、私の胸にまっすぐ届いた。

 店内のざわめきも、外の鐘の音も、今はすべて遠くに感じる。ただ彼と私だけが、この世界にいるようだった。


 紅茶はすっかり冷めてしまったけれど――

 心の中には、熱い灯火がいつまでも燃えていた。


 こうして、二人の想いは確かに重なった。

 けれど同時に、サンオリ=ポールの影はまだ完全に消えたわけではない。

 これから先、試練は訪れるだろう。


 だが今だけは――

 この小さなカフェで交わした約束を、胸の奥に強く刻む。


 それが、私たち二人の新しい一歩となったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ