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けして魔女を狩るなかれ

掲載日:2025/09/01

 9/2 日刊ランキングファンタジー部門(短編)で64位にランクインしました!

 ファンタジー部門は初めてです。応援ありがとうございます!


  https://ncode.syosetu.com/n6219kq/


「マギー、大変だ」


 私の店に兵士が入って来た。友人のロンドだ。

 息を切らしている。随分急いでいるようだ。


「どうしたの」

 水の入った器をさし出し私はたずねる。

 


「魔女狩りが、決定された」

 水を飲み干した彼の言葉に、私の顔から血の気が引いた。



 魔女は災害の被害を抑え、薬草の効能を発見し、普通の人では見ることができない何かを認識できる。

 その能力を恐れられ、時々魔女狩りを行う愚かな為政者も歴史にはいた。




「今さら?」

「ああ、新しい領主様はバカだったようだ」



 数年前、マギーの町で領主の交代が行われた。

 高齢の先代が病で亡くなったからの交代で、何も問題のないはずだったが。



「マギー、もうすぐ追手が来る。一緒に逃げよう」


 ロンドはいい奴だ。


「私は隠れる。それよりできたら王都に知らせに行ってくれない?」

「分かった。他の魔女、町とか村には俺の部下が伝える予定だ」


 友人は警備隊の隊長だ。懲罰覚悟の独断で兵士を動かしてくれた。

「責任は自分に押しつけろって言ったら、素直に従ってくれたよ」

 

 ロンドは苦笑いしている。

 私はいい奴を友人に持てた。

 

 


 現代、国家は何とか魔女を管理するため免許制を取り入れている。

 災害時には国に協力することを義務づけるかわりに、身分を保護し活動を援助してくれる。


 私の店も法に則って開いている。



 だからこの国では魔女狩りは過去の遺物のはずなのに。



(まあ自分の理解が及ばない存在を、無駄に嫌い恐れるのが人間だしね)



 そして普段から自宅に引きこもりぎみの魔女は特に怪しげに見られがちだ。

 近所の交流も少なく薬草の匂いをプンプンさせている人間は、大衆からの理解は得られにくい。


 恐れて遠巻きにされるくらいならマシだ。

 下手に恐れて攻撃してくるバカは時々いる。



 今回はそれが為政者なのが問題だった。



 急がなければ、惨劇が待っているだけ。




 私は身の回りの物をカバンにつめこんだ。

 数日分の着替えに貯金箱と装飾具、それに何より貴重な薬。


 

 私は信頼する知り合いの家に転がりこむ。


「またなんでそんな愚かなこと」

「さあ。とにかく良識のある人がロンドにすぐ伝えてくれたから良いけど」




 過去には、何十人何百人の魔女が殺された。

 被害者たちの哀れな最期は津々浦々まで噂にのぼるほど。



 そして魔女がいなくなった地には破滅が待っていた。

 土地に祝福を与えていた魔女を殺してしまったのだ。

 残ったのは怨嗟だけ。



 だから国は魔女を保護することにしたのだ。法律で。


 警備隊だって知っている。ロンドの命令がすっと通るのもそのため。

 だれだって非業の死は避けたい。



 つまり魔女を狩って処刑する領主など、いるはずがないのだ。リスクが大きすぎる。




「なのにねぇ」

 屋根裏のホコリを片付けながら、サマンサさんとため息をつく。



 今日からこの屋根裏が私の住処。

 物置に使われていた場所だから、大きな箱がいくつもごちゃごちゃしている。

 多少窮屈だがしばらくは仕方がない。


(王都から反応があるまでは我慢。長くて一カ月くらいか)



 早めに逃げ出したのは正解だった。



 翌日、私の店は焼打ちにあう。

 置いて来た薬草が全滅だ。


(くっそ、慰謝料ふんだくってやる)

 サマンサさんからの報せに、ギリッと歯を食いしばった。

 小さな店だけど、私の憩いの場所なのに。




 私はほとんど屋根裏から出ない。

 夕食は家主の一家と一緒に取る。


「せめて料理くらいは私がやりますよ」

「そんな構わなくてもいいから。あんたには息子の命を助けてもらった恩義がある」


 旦那さんのダンさんも息子さんもダニー君もニコニコしていた。



 三日後、物乞いの老婆が処刑される。

 魔女として、だ。


 その日の夕飯はみんな無言だった。



「また、捕まった人がいるんだって」

 

 サマンサさんが噂を仕入れて来てくれる。

「身寄りのない老人二人と、無免許の魔女一人だってさ」

 

 夕食の席からは笑顔が消えた。

 

 翌週、町では連行される人間が増えた。


 大抵は物乞いや不治の病にかかった病人だ。

 無免許の魔女が捕まった時は広場で引き回されたらしい。


「どんどん被害が増えているね」

「そうなんだよ。かわいそうだったねぇ。私は魔女じゃないって最後まで叫んでいたそうよ」

 サマンサさん一家の表情もどんどん暗くなる。


 最初は処刑に抗議する人も出たらしい。

 しかし兵士に次々と逮捕されるのを見て、町の人々は口を閉じた。




 そして私が隠れてから一か月がたった。

 王都からの使者はまだ来ない。


 度重なる魔女の処刑に、群衆から歓声が上がるようになってしまった。



(そろそろ、潮時かもしれない)



 そしてとうとう村に隠れ住んでいた免許持ちの魔女が検挙される。


 私の茶飲み友達だった。

(キティばーちゃん、逃げられなかったんだな)





「処刑は明日だって。かくまっていた家の人も逮捕されたみたい‥」


 蒼白な顔でうちあけてくれたサマンサさんに、私は覚悟を決める。



「明日の朝、出て行きます」



     *


 

 そして朝。


 まだ日が顔を出したばかりで、人通りはない。


 サマンサさんには引き留められたが、私の決意は変わらなかった。



 広場に向かい、近くの暗がりに潜んで様子を見る。



 時間が経過するとざわめきも増える。処刑の準備が進んでいるようだ。



「魔女だ!」

 声が上がる。


 私は建物の屋根に這い上がった。




 広場の中央には処刑用の柱が建てられ、薪が積まれている。

 生きたまま焼き殺すために。


 見物客も十分いる。


 縛られた老女が連行されてくるのを確認し、私は息を吸いこんだ。



「魔女は私だ!」


 大声に、広場の民衆は全員こっちを見る。


 

「無実の民を虐げる悪逆領主よ、この魔女マギーがお相手する!」


 広場は大さわぎになった。




 私は屋根から飛び下りて、老女を拘束する縄を切った。

「遅くなってごめんね、ばーちゃん」


 ばーちゃんは首をふる。

「マギーちゃんは逃げな、これは年寄りの仕事さね」



(ああ、ばーちゃんも覚悟を決めてたんだ)


 魔女は頑固だ。みんなそれなりに矜持もある。



 キティばーちゃんは自分の命をかけて、バカ領主を呪い殺そうとしていた。



「私の方が上手くやれる。終わったら、またお茶につきあってよ」


 適当な木箱を引っ張り出して、老魔女を座らせ、サマンサさんに渡された包みを持たせる。

「お茶とお弁当が入ってるから、好きに食べて」


 ニッコリ笑い彼女の周りに円を描いた。

 円の外側からフッと魔力を注いで、炎の壁を作った。


「この者に手を出そうとした愚か者は業火に焼かれる」


 広場を見渡しながら宣言すると、みんなの顔は恐怖に染まる。

 ハッタリだけど効きそうだ。


(これでばーちゃんは無事っと)

 もし私の魔力が消えても、キティなら必要な分の魔力が注げる。


(半日は持つか)


 まあそこまで時間をかけるつもりはない。


 私はギロッと兵士を睨んだ。



 ここに領主はいない。

 責任者は隠れている。



「ねえ、領主様はどこ?」

 私が近づくと、兵士は思い出したように動き出した。



 私は襲いかかるそいつらを雷撃で失神させる。


「まあお屋敷かな」


 そのまま領主邸に向った。



「大雨を、病を、魔女のせいと嘯(うそぶ)く領主よ、民の怒りと悲しみを思い知れ!」

 目を丸くする民衆に向って喧伝しながら馬車道を進む。




 貴族が住む屋敷は平民が入らぬよう、鉄柵で区切られている。

 もちろん閉じられているが、鍵開けの呪文を使ったら一発で開いた。


「ま、待て」

 ここにも護衛がいるが、敵じゃない。

 数秒で全員倒れた。


 屋敷の扉も鍵がかけられている。

 しかしこっちの鍵もすぐ開く。


(魔女を敵視している割に、警備がザルじゃね)


 まあ、開かない時は燃やすだけだが。




「ひぃ」

 召使たちが逃げ惑っている先に、盾を構えた兵が並んでいる。

 私の情報が届いたからか、重装備だ。


「侵入者だ、進め」


(それでもこの程度か)


 雷撃と火球を適当に放っておけば、問題ない。

 鎧や盾は金属だから電気も熱もよく通すし。


 ガシャンガシャン音を立てて全員倒れた。




「そ、そこまでじゃ、魔女め」


 玄関ホールの上から声がした。


 発音に違和感がある男だ。全身を文様で埋め尽くしたローブをまとっている。


「あなたがバカ領主?」

「我は万能の魔導士オムニス! 呪われし魔女め、我が術を受けよ」


 声をかけたら名乗ってくれた。



「灼熱の炎よ、ドラゴンの咆哮よ、我が前の敵を」

 悠長に呪文を詠唱している。


 そのスキに私は火球を打ちこんだが、しかし火球はオムニスの体に触れる前に霧散した。


 目を見張る私に向って魔導士は不敵に笑う。


「吹き飛ばして焼きつくせ、姿を保てぬほどの煤にするまで!」

 詠唱を終え術を放つ。



 衝撃波が私の体を揺らした。






「ど、どうだ」

 頼りなさそうな声がホールに響く。


「ふ、我が衣は魔術を通さぬゆえ敵の魔術は効きませぬ。もう魔女は跡形もありませぬな、ご安心下されご領主殿」


「そ、そうか、良かった。さすがは大魔導士殿だな」



「なるほど、そんな便利アイテムがあるから、魔女を敵にしたのか」


 耳が少しジンジンするが、必要な情報は聞き取れた。

 領主がいることを確認して、私は焼け焦げた玄関ホールに再突入。


 うわぁ、私が気絶させた兵士が血まみれになってる。



「何、無傷じゃと!」

 魔導士があわてる。


「まあね」

 私は別に技を食らったわけじゃない。


 大技が来ると思ったから、開いたままの扉から出ただけだ。

 外に出てすぐ横に飛べば、丈夫な壁が衝撃から守ってくれる。



 階段は破壊されていたから、身体強化と浮遊魔法を併用してオムニスに接近し、なぐった。


 ゴフッと魔導士は倒れかかったが、曲がった鼻は急速に形を整える。

「ふはは、その程度の攻撃、我には効かぬ」



 万能を名乗るのは伊達ではないらしい。


 だけど。


「チェックメイトだよ」

 私も笑う。



 そして雷撃を放った。


「無駄じゃ、ギャア!」

 私の攻撃が完璧に作用したから。


「な、なぜ、我が魔よけの衣が効かぬ」

 万能の魔導士にも理解が追いついていないらしい。



「いや、今その便利アイテム、呪ったから」

 殴ったのはついで。


「そんな呪文、効かぬはずじゃ!」


「え、知らないの」

 呪いは、小手先の便利アイテムなんかじゃ防げない。


 

「そこら中に魔法使いがいる中で、わざわざ魔女って区別する意味、知らなかったの?」



 魔女は呪詛を得意とする存在。(祝福も)


 呪詛が得意な男性も存在するが、特定の用語はない。

 呪いの力は女系で遺伝するようで、圧倒的に女性が多いから。

 


 魔法と呪いは同じようだけど違う。

 まあ同じ部分もあるけれど。



 私が魔女の修業中、師匠から散々注意された。


 呪いは強力だが自分に返ってくる。

 だから魔法を使うことはあっても、けして呪ってはいけないと。


 呪う時は返ってくることを覚悟しろと。



 そして呪いは恨みを受けている者ほど強烈に効く。


 この屋敷は、領民から、特に被害者周辺からの怨みで渦巻いていた。


 

 私が呪ったのはたった一瞬。


 しかし小さな炎でも投げこまれた先が火薬庫であれば爆発を引き起こすように、怨念をまといまくった魔術師にはクリティカルヒットする。


 一級品の『魔よけの衣』から効力を消し去るくらいは余裕なのだ。




「まさかまさかまさか」

 ボロボロ崩れ出す衣を必死につかんだ魔導士を、私は蹴り上げて殴って踏みつけた。



 すぐには回復できない状態にしてから、電撃で気絶させる。


「さて、ロープとかあるかな」

 探していると、ぶるぶる震える固まりが目に入る。バカ領主だ。



「うわ、呪い殺してやりたい」

 思わずつぶやくと、領主は手を組んで私に頭を下げた。


「た、助けてくれ、何でもする! 言う通りにする!」



 どーしよっかなー?

 今ここで殺してもいいし、民衆の前に引きずり出して処刑でもいいのか?


 悪い顔でニヤニヤしていたら、肩をたたかれた。



「その辺でやめとけ」


「ロンド!」

 私は振り返った。



 そこにいたのは王都に向った我が友人。

 あきれ顔で息を切らしている。


「もうすぐ都から軍が来る。それ以上はやりすぎだ」



(やっとか)

 私の肩から力がぬけた。



     *



 館を出ると群衆が集まっていた。爆発音に驚いたらしい。

 魔導士は両腕を拘束し、警備隊の本部に連行する。



 次は広場だ。私たちの後ろを少し離れてやじ馬がゾロゾロついてくる。


 広場ではばーちゃんが待っていてくれた。もう炎には囲まれていない。

「おトイレ行きたくなっちゃってね。ああ、みんなは大人しかったから大丈夫」



 魔女の力にビビったのだろう。一定の距離以内には誰も近づいてこない。



「魔女狩りは王国法で禁止されている! 掟を破った領主を処罰するため、この町に軍が向かっている。みな騒ぎを起こさぬように」

 ロンドは声を上げながら、手に持った巻物を周囲に提示した。


 長身の友人は目立つ。群衆から『おおー』とざわめきが上がった。



「それ、先に済ませなきゃ」

「うん、まず一回はそうしたよ。だけど少年にしか見えない自称魔女が領主邸に向かったと聞かされたら肝が冷えた」


 ロンドはため息をつく。

「マギー、君がもし領主を手にかけていたら、俺でも守れなかったからな」

「あははは」

 私はから笑いをした。


 貴族を殺していたら、免許剥奪で逃亡生活だったからね!




 とりあえず私とばーちゃんと逮捕された人たちは警備隊あずかりになる。

 ロンドと一緒に食堂で昼飯を食べている最中に、町中がまた騒然とした。


 軍が到着したのだ。


 送られてきたのは一個小隊? とかで数は少ないが、領主邸は一瞬で占拠されたらしい。



「さすが王軍、エリートだね」

「お前が暴れまくったからだろ」

 友人にツッコまれながら最後の一口を飲み下す。




 事情聴取は本当に面倒くさかった。


 生真面目そうな役人が、メガネをキラリとさせながら細かく聴取する。

 まあこれを何人分もやらなくちゃいけないことには同情するけど。




「力の制御が素晴らしいですわ」


 呪ったのは魔導士のローブのみ、と強調したら、調査官の隣から声が上がった。

 白と青のヴェールをかぶっている、聖女様だ。



 思ったより軍の到着が遅かったのは理由があった。

 王都では魔女狩りの記憶が薄れていたのだ。



 普通に考えてそんな残酷な所業を行う領主がいるなんて、と報告した役人は信じなかったらしい。

 誤報を疑われて王家への報告が遅れる。


 役所の対応に危機感を持ったロンドは、中央神殿に赴き聖女様に訴えた。


 聖女様から王宮に訴えてもらって、やっと国が動く。

 感謝してもしきれない。



「聖女ルイーズに感謝を申し上げます」

 私だって、ちゃんと尊敬している人には敬語使えるのだよ。


「頭をお上げください魔女マギー、この度はお手柄でした」


 まあね。


 


 私とかばーちゃんとかが本気で領主を呪ったら、被害がどこまで出るか分かったものじゃなかった。


 領主邸だけとか一族だけで済めば良いけど、町全体とか領地全体になる危険があったのだ。


 優しい聖女は被害が最小限にとどまってホッとしている。




 昔、生きたまま火あぶりにされた魔女は、命が尽きるまで呪詛を吐き続けた。



 ただでさえ呪いの力は人の手に余る。

 命をかけた呪詛が何十人分も集まったら‥ 国を亡ぼすことさえ可能だ。



 歴史によるといくつもの国が魔女狩りの後危機に見舞われ、王朝が途絶えた。


 今の王家は、たまたま魔女を保護したおかげで破滅を免れた、辺境の貴族が母体である。




「でもそもそも何で魔女狩りなんてやろうと思ったんだろうね?」

 いくら恐ろしく思っても、リスクが大きすぎる。



 


「中央では、魔女がどんな存在かさえ忘れられていたんだ」

 翌日、お茶を飲みながらロンドが苦々しく教えてくれた。



 テーブル席には私・ロンド・ばーちゃん・聖女様・調査官が座っている。




 王都には魔女が少ない。

 魔女は自然が少ない都会が嫌いだ。


 そのせいで魔女と付き合いのある一般人も役人も少ない。

 それに魔女狩りが発端の災害は、もう歴史の教科書の一部分でしかなかった。



「試験で高得点をとるためだけの知識なんて、勉強する意味あるのか」

 話が通じない役人とのやり取りを思い出したか、ロンドは眉間にしわを寄せている。




 田舎であれば魔女の店が身近にある。


 ちょっかいを出そうとするバカは常にいて、数年に一度はそんなバカが返り討ちにあう。

 娯楽の少ない町は一気にうわさ話で盛り上がるのだ。


 で、その時ついでに国が滅んだ昔話が語られる。


 だから地方の方が魔女の脅威を忘れていなかった。




「今の領主は王都育ちなんだと」

「学院ではそこまで教えず私も知りませんでした。申し訳ない」

 眼鏡の調査官が目をふせる。


「わたくしも神殿に入ってから知りましたの。さすがに王家にはすぐ深刻さが伝わりましたが‥」

 聖女ルイーズも昔は知らなかったらしい。


「都会モンは何にも知らないんだねぇ」

 もくもくとお茶菓子を食べていたばーちゃんも、さすがにあきれた。



 私にはまだ納得できないが、聖女様が話題を変えてきた。


「マギーさんも王都にいらしてください、今回の事件は広く知らしめる必要がありますから」

「え~っと、私が暴れたことは大丈夫なの?


 眼鏡さんによると、私がやったのは兵士を気絶させたくらいだから、正当防衛が認められるようだ。


「今回の非は領主側にあるからな」

 ロンドもうなずく。


「おそらく、慰謝料に加えて報奨金が出ます」

 眼鏡さんは自信たっぷりだ。


 聖女様は私が重い罪に問われなくてホッとしていた。



     *



 そして報奨金の話は本当になった。


 私だってお金は好きだ。大好きだ。

 くれると言うならもらいたい。



 しかし‥



「王都になんか行きたくないよー。都会嫌いー」

「一緒に行ってやるから我慢しろって」


 今回の領主のやらかしに危機感を持った王家は、魔女の存在を大きく喧伝することにした。


 そのために、私を、この私を、宮殿に招いて貴族たちにお披露目させるだと!



「無理無理無理」

 マナーとかダンスとか、何それおいしいの? って私だぞ。


「断るのは無理だ。王命だぞ」

 嫌がる私を、ロンドは無理やり馬車に押しこむ。



 王家が用意した馬車は無駄に豪華で落ち着かない。

 泊まるのも高そうな宿だし、王都の滞在先は貴族の館だった。



「ようこそいらっしゃいました、魔女マギーに騎士ロンド」

 迎えてくれたのは聖女ルイーズ。


(そっか、この人貴族だった)

 貴族としての義務感から、聖女を引き受けた話を思い出す。



「ご自宅と思ってくつろいでくださいね」

 いや無理。



「お二人とも、叙勲おめでとうございます。式までの一週間、こちらで所作を訓練しましょうね」


 聖女様の優しい笑顔が怖いです。


 ちなみにロンドがくっついて来たのは、王宮に知らせを届けた功績で爵位が上がるから。

 今まで騎士爵だったのが男爵位を贈られるとか。


 一代限りなのは変わらないけど。



 まあ私は儀式で陛下から何かの勲章をもらうだけだから、最低限の所作を身につければ大丈夫だろう。


 祝賀会はロンドが生贄になってくれるし。




「この度、愚かな領主を諫め国土の荒廃を防いだ魔女マギーをたたえる。王家は感謝と共にそなたを子爵に叙し聖女の称号を与えよう」


 言い返せない状況で、国王陛下は爆弾発言をぶちかませられた。



(はあ? 聖女? あれ平民じゃなれないんじゃ? あ、だから叙爵?)


 混乱のうちに式典は終わり、私は伯爵邸に戻る。




「ルイーズ様、ちゃんと説明して下さい!」


 私がつめ寄ると、聖女様は困ったように笑った。

「聖女は多い方が国は助かるんですって。わたくしが提示したのは、あなたでも飲める条件にすることだけ」


 まず王都で貴族としての社交は免除されるそうだ。

「当たり前です。できないんだから」


 義務は三日に一度は町の神殿での奉仕。

「それ以外なら好きにしていらして。店を開くなり野山を歩くなり」

「それくらいはできますけど」


「もちろん災害時には今以上に国に尽くしてもらうけれど、わたくしと協力すれば良いのだし、謝礼も上乗せされるの」


 つまりメインの聖女は今まで通りルイーズ様が行い、私は補欠くらいで済む。

 義務は少なくてお金はしっかり入る。

 確かに、その程度なら受け入れ可能なのか?



 領地の運営は、とりあえずこの前会った調査官のメガネさんが代理で行うことに決定していた。



「そう言えば‥ バカ領主と捕まった魔導士はどうなりますか?」

 とりあえず気になったので聞く。


 あれだけのことを起こして、貴族だからと軽い罪で済ませられたらたまらない。

(流刑か、せめて国外追放にはしろよ)



 私の思いが伝わったのだろう、ルイーズ様はコロコロ笑った。


「そこは大丈夫。もう貴族籍は剥奪されたし死罪は決定済みよ。魔導士も一緒に」


 私は思いかけない罪名にびっくりする。

 そんな私にルイーズ様は静かに告げた。


「ええ、だって彼らのやったことは国家反逆罪だもの」



 ゴホン、とロンドが割りこんできた。


「君が倒した魔導士オムニスは、隣国の間諜だったんだ。魔女を殺すことで我が国の弱体化を狙ったらしい」


 ポンっと手を打つ。

 事件の動機、それなら納得できるよ。



 魔女の呪いの恐ろしさをしっている敵国が、愚かな領主をそそのかす。

(ありえる。十分に)



「今まで機密事項だから話せなかった。すまん」

「もう議会には提出した情報だから、そろそろ広場に張り出されるはずよ」



 罪人の二人は、城前広場で火あぶりの刑が決まった。


 ある意味スッキリしながら、私とロンドは帰途につく。



     *



 馬車が町を囲む壁の門をくぐると、喧騒が聞こえてくる。

 日常が戻って来たんだと実感した。


 馬車はまっすぐ領主邸に向かう。



「お家は燃えちゃったのでしょ。しばらくは領主邸で暮らしてね。女子爵様なんだから、民家の屋根裏も安宿もダメよ」


 ルイーズ様に釘を刺されてしまったから、サマンサさんの家には戻れない。


(明日にでもお礼を持って行こう)

 お土産はたっぷり買ってある。



 

 しかしのんきに構えていた私が町に出ると、群衆が歓声を上げながら向かってきた。


「新しい領主様だ!」


 え、と周りを見る。


「私たちを助けてくれたマギー様、万歳!」

「愚かな前の領主を倒してくれた、新領主の魔女様よ!」


 口々にたたえる民衆にとまどっていると、一緒にいたロンドが口を開いた。



「あー、お前領主なんだよ」

「はァ?」



 

「お帰りなさいませ、領主様」

 昨日馬車を下りた時から、屋敷の前には使用人がズラッと待っていたけど。

 同行したリチャード卿に言ったのかと思った。


「あの人は領主代行だろ、ただの代理。お前が本当の領主。ルイーズ様からバレるまで黙っていろって。ちなみに俺は護衛だから」



 そんな面倒くさい褒章はいらなかった。

 私は膝から崩れ落ちる。





 後日、私は町の外れに小さな薬屋を開いた。


 領地と爵位の返納は認めてもらえないけれど、これだけは捨てられない


(魔女として、町のみんなとささやかな日常を守ってやる!)


 それが私の矜持なんだよ!




 でも段々領主の仕事に首を突っ込むマギー。


 そして無理やりロンドを婿に取らされる。


 魔法がある世界で、魔女を区別する理由を考えて作りました。

 呪詛の力は女系で遺伝する、ってのは筆者が代々の霊感持ちだからです。

 心霊話は高祖母まで遡れます! Σ(っ °Д °;)っ

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