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29.専属護衛騎士

 入団試験の内容は現役の騎士との模擬戦だ。とはいえ十二歳から受験できるこの試験には、素人同然の人もいる。そういう人は騎士が軽く切りかかってそれにどう対処するか、運動神経があるかをみられる。

 逆に経験者――ほとんどが街の兵士だった者――の場合は実力をみられる。

 私は受験者の中から昨日の夢に出てきた人物を探した。すると端の方に目立つ桃花色の長い髪を見つける。夢の中の青年よりかなり幼いように思うが、その特徴的な赤みの強い桃色は夢の中の青年と酷似している。

 夢の中の青年は異能持ちだった。彼がもし異能を持っていたら確定だろう。

 

 私はデルタの選んだ専属護衛騎士候補の実力を確かめながら、彼の模擬戦を待った。

「次! ラシャード」

 姓がないということは彼は平民だということだ。ラシャードと、聞こえた名前を頭の中で繰り返す。事前に貰った受験者リストによると、彼は十三歳でどこにも所属していたことはない素人。その上両親の居ない孤児だという。

 彼は剣を持っていなかった。試験管である騎士が木刀を渡すと、試験が始まる。

 試験官がラシャードに向かって軽く木刀を振ると、次の瞬間には試験官は地面に抑え込まれていた。

「ほう、身体強化で木刀を掴みそのままねじって抑え込んだのか。異能に頼るだけでなく、戦い方も心得ているようだな」

 私にはさっぱりだったが、エリュシカ様的には高得点のようだ。

 それからしばらく試験官の繰り出す様々な攻撃に対処していたが、一度も地面に膝をつくことはなかった。

「見る限り剣は使い方がわからないのだろう。しかし体術はなかなかのものだ。異能のせいで反応速度が速いのもあるが、相手を無力化させるのに慣れているようだな。護身を第一に考えた戦い方だ。苦労してきたのだろう」

 確かに彼は美しい顔立ちをしている。それで孤児だったのならきっとエリュシカ様言うように身を守らねばならない場面は多かっただろう。

「異能は身体強化だな、それもかなり強いようだ」

 身体強化はよくある異能だが、強さによってはかなり厄介だ。元々人間より身体能力の高い獣人よりも、さらに強い力を持つこともある。戦争時には身体強化の異能を持つ人間が一人いるだけで、戦況が百八十度変わるのだ。

 私は考える。彼は間違いなく夢に出てきた青年だろう。彼は数年後、母の敵だという誰かを殺そうとして敗れる。……実はその男が何者かはすでに目星がついているのだが、どうするべきだろう。

 彼が復讐をしようとするなら、ここで彼を入団させると間違いなく厄介なことに巻き込まれる。

「デルタ。私は彼、ラシャードを私の専属護衛騎士にするわ」

 どうせ厄介なことになるのなら、近くで監視していた方がいい。私ならきっと殺す以外の、他の復讐方法も探してあげられる。

「かしこまりました。教育はどうぞ私にお任せください」

 デルタはそう言って、試験を終えたラシャードの元へ向かった。

 

 全員の試験が終了した後、デルタがラシャードを私の元まで連れてきた。その顔は困惑しきっていて少し笑ってしまった。きっと専属護衛騎士のことを全く知らなかったのだろう。平民である彼が侯爵家のしきたりを知らないのは当然のことだ。

「初めましてラシャード。私は領主のシーリーン・テレス。こちらは守護獣のエリュシカ様よ」

 にこりと笑って挨拶をしてエリュシカ様を指すと、ラシャードは私とエリュシカ様を交互に見て戸惑っているようだった。

「えっと……ラシャードといいます。よろしくお願いします。領主様」

「どうぞ名前で呼んでちょうだい。専属護衛騎士とはね、家族のように長い時間を共に過ごし信頼関係を築くものなの。私はあなたと仲良くなりたいわ」

「……はあ」

 何を言えばいいのかわからないのだろう。ラシャードの目は泳いでいた。警戒しているようにも見える。

 さもありなんだ。私だって、試験を受けに行ったら合格を通り越して上等な肩書を与えられたら戸惑う。

 気持ちはわかるが私は早くラシャードと打ち解けなければならない。そしてあの男(・・・)との関係について聞きださなければ。

 私は微笑みをうかべて手を差し出した。ラシャードはおずおずと私の手を握る。

「これからよろしくね。ラシャード」

「……よろしくおねがいします。シーリーン様」

 戸惑いつつもわずかに口角を上げたラシャードにの肩を、デルタが叩く。

「一週間お時間をいただけますか? 専属護衛騎士としての在り方を叩きこみます。それ以降は教育しつつお嬢様の側に仕えさせますので……」

「そう。では待っているわね、ラシャード。大変だろうけど頑張って」

 ラシャードは緊張した様子で頷いた。きっとこの後デルタにしごかれるだろう。全くの新人から専属護衛騎士に選ばれるのは長い侯爵家の歴史の中でも稀だ。この選択が吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知るものである。

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