28.入団試験
カミーユの手によって飾り立てられピカピカになった私は、敷地内にある騎士団の訓練場へ向かう。テッサの手によって任命式の時のようにラメを髪にまで振りかけられたので、陽の光があたるたびキラキラと輝くのがわかった。
横を歩くエリュシカ様もラメを試してみたいと言ったので、今日は普段以上に神聖さが感じられるキラキラ具合だ。
「大げさすぎない? 派手好きの領主だと思われないかしら?」
「服装がシンプルですから、問題ありませんよ。きっとお嬢様の美しさにみな見惚れるでしょう」
十歳かそこらの幼女に見惚れるのは問題があるだろうと、私は頭の中でテッサに突っ込みを入れた。試験は十二歳から受けられるので、歳の近い子ならあるのかもしれないが、私はテッサのいつもの過剰な賛辞だと受け流す。
到着した訓練場には、すでに何十人もの騎士志望の男性達が居た。この国では男性しか騎士になれない。女性はミーシャのようにメイド兼護衛などにはなれるものの、騎士にはなれない。なぜと問われると返答に困ってしまうが、そういう決まりが根強くあった。
「エリュシカ様、お嬢さま。お久しぶりでございます」
「うむ、久しいな。デルタよ」
「デルタ。久しぶりね。それともデルタ団長と呼んだ方がいいかしら?」
到着するなりひざまずいて声をかけてきたのは、灰色の髪のデルタという騎士だ。デルタは元母の専属護衛騎士である。今は騎士団長を任せている。
彼は跳躍の異能を持っていて、屋敷の屋根の上くらいなら余裕で跳躍することができる。走力は普通なのに飛び上がる力だけが異常に強いという不思議な異能だ。
壁を足場にすれば真横には跳ぶことも可能だが、それより下に向かっては跳躍できない。あくまで真横か上にしか跳躍できないというが弱点だ。
「デルタで結構ですよ。本日は専属護衛騎士を探しに参られたとか。騎士団内でも候補者は見繕っております。本日試験を受けるものから選ばれてもかまいません。そうなった時は私自らの手で、お嬢様に相応しい騎士に鍛え上げてみせましょう」
デルタは私の前にひざまずいたまま候補者の方へ視線を向ける。そこには数名の十代後半とみられる騎士たちが居た。私と歳の近い騎士というにはちょっと離れすぎているが、そもそも私が九歳なのだ。騎士になれるのは十二歳からで、すでに騎士として働いているものとなるとそれよりさらに年齢が上がってしまうのは当然だろう。
デルタは母と同い年だと聞いていたが、私も母のように同い年の騎士を専属にするのは無理があるのである。
面倒な風習だと思うが、身近に信頼のおける騎士を置くのはいざという時のためになる。
「お嬢様。本日入団試験を受けるものと模擬戦をするのはみな、私が選んだお嬢様の専属騎士候補です。それをふまえてご覧ください」
さすがデルタだ。長く母の専属護衛騎士をしていただけある。私がどこに目を向けるべきか困らないように、そのような仕組みにしてくれたのだろう。
「今この訓練場にいるのは、面接と基礎体力テストに合格した者たちです。始める前に、お嬢様からお言葉をいただけたなら、彼らの士気も上がりましょう」
私はデルタにエスコートしてもらって受験者たちの近くに寄った。もとより私が来た時点で静まり返ってこちらの様子をうかがっていた彼らだが、近づくとさらに空気がはりつめた。
「初めまして受験者の皆さま方。私はシーリーン・テレス。このテレス領の領主でございます。本日はこのテレス家の騎士団入団試験におこし下さり、ありがとうございます。試験の様子は見学させていただきますので、皆さまが個々のお力を存分に発揮できますようお祈りしております」
私は受験者に向かって笑いかける。上から目線で話さないのは私が子供だからだ。子供だからとなめられても困るが反感を買うのも困る。丁寧に接しておくに越したことはない。
挨拶を済ませると私はエリュシカ様とミーシャ、テッサを連れて訓練場の片隅に置かれたソファに座る。わざわざ私のために敷物を敷いて天幕を張り、ソファとテーブルを置いてくれたようでとても居心地がいい。
「テッサ、茶を入れろ。ゆっくりとひよっ子どもの実力を見極めようではないか」
なぜか私より気合いの入っているエリュシカ様に不思議な気持ちになりながらも、入団試験の幕は上がった。
はたして私やエリュシカ様の眼鏡にかなう騎士は現れるのだろうか。




