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27.夢

『お前のせいだ……! お前のせいで母さんは死んだんだ!』

 月の光が美しい回廊を照らしている。そこには二人の男性がいた。艶めいた長い桃花色の髪の青年と、硬そうな赤毛の中年の男だ。

 桃花色の髪の青年は手に剥き身の剣を持っている。先程叫んだのは青年の方だろう。

 赤毛の男は腰に剣をはいているが、抜くつもりはないようだ。青年を小ばかにしたように口の端を持ち上げている。

『あの女は死んだか。……それでお前は俺を殺すつもりか? ただの騎士であるお前が、英雄である俺に勝てると?』

 男が口を開くと、青年は頭に血が上った様子で男に切りかかる。その攻撃をすんでのところでかわした男は目を見開いていた。

『なんだ? この速さは……まさかお前も異能持ちか? ならば俺のように爵位を得ればいいものを……馬鹿な奴だな』

『お前なんかと俺を一緒にするな! 権力に溺れ、人の道を外れた屑が!』

 私は二人の殺し合いを必死に止めようとした。しかしどれだけ叫んでも、手を伸ばしても、二人の元には届かない。

 やがて男が剣を抜き、青年の腹に思い切り剣を突き立てる。口から血を吐いた青年は、床にくずおれながらも必死に男を睨みつけていた。

 

「駄目ー!」

 私はそう叫んで飛び起きた。窓から差し込む月明かりが、ここを先程の回廊だと錯覚させたが、私がいるのは自室の寝台の上だった。

「夢?」

 意味の分からない夢だった。私は夢に出てきた二人のことなど知らない。

「どうした。シーリーン」

 先ほどの叫びを聞きつけたのだろう、エリュシカ様が突然目の前に現れた。

「……起こしてしまい申し訳ありません。不思議な夢を見たのです」

「ふむ予知夢か、それとも過去の夢か?」

 そう言われて初めて気がついた。これは異能によって見た夢かもしれない。私の頭はまだ寝ぼけているようだ。

「わかりません。知らない人達でしたし、未来なのか過去なのか……」

「きっといずれわかろう。未来視も過去視も、本人に全く関係ないことを見ることはない。そういう異能だ。一見して無関係と思っても、本人の人生を大きく左右する出来事なのだ」

 それは新情報だ。唯菜の世界で言うバタフライエフェクトというやつだろうか? これからは夢を見るたび、もっと細部まで目を向けるべきかもしれない。

「ありがとうございます。エリュシカ様。肝に銘じます」

「うむ朝まではまだある。もう一度眠るといい」

 私はなぜか私のベッドの上で伏せたエリュシカ様を撫でながら横になった。何か術でも使ったのだろうか、普段ではありえない早さで深い眠りに落ちていった。

 

「お嬢様。朝でございます」

 目が覚めると、エリュシカ様はいなくなっていた。ミーシャがお湯を用意してくれたので顔を洗って眠気をとばす。

「今日の予定は騎士団の入団試験の見学でございます」

 テッサが目覚めのお茶を入れながら今日の予定について話してくれる。私はもしかしたら今日の入団試験で、昨日の夢に出てきた人物に会えるのではと思っていた。

「今日はスターズからカミーユを呼んでおります」

 テッサの言葉に私は首を傾げる。

「なぜカミーユを呼んだの? スターズの仕事で忙しいでしょう?」

 まったくわかっていない私にテッサは大まじめな顔で説いた。

「お嬢様。お嬢様は守られる側なのです。ですから騎士から見ても守りがいのある主でなければいけません。幼くも美しく聡明なお嬢様であることは、騎士たちのやる気を引き出すことになるでしょう。ですから今日は着飾っていただきます」

 わかったようなわからないような説明に、私はしぶしぶ頷いた。

「でしたらカミーユが持ってきた新作の服、すべて試着してくださいますね」

 テッサがベッドルームの扉を開けて、私室を指す。扉から中を覗き込んだ私は大量のハンガーにかかった服に茫然とした。

「おはようございます。お嬢様。これらはスターズの仕事の合間に新しく作ったお嬢様の衣装になります。新人の針子の習作がほとんどですが、お嬢様のためにお作りしました。どうか袖を通してみてくださいませ」

 なるほど新人の習作かと手に取ってみると、素人目には習作とは思えないほど丁寧に作られていた。

 ドレスというより普段着が多いため、着回しできてありがたい。

「ありがとう。カミーユ。嬉しいわ」

「こちらこそ、みなお嬢様に感謝しているのです。スターズほど条件の良い職場は他にありませんから。成長期のお嬢様のために少し大きめに作ってありますので、長く着られると思います」

 何着も着せ替えられながらカミーユとデザインの話で盛り上がっていると、あっという間に時間がやってくる。

 さて昨日の夢に出てきた人には会えるのか、会えたらどうするべきなのか私は考える。

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