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悪役令嬢だそうですが、保護施設をつくりたいと思います。  作者: はにか えむ


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24/30

24.エルサニカという国

 領主任命式からしばらく、私は王都から領地に戻ってきていた。

 今は児童保護施設を建てる土地を決定したところだ。あの少年が死んだドブ川のそばの貧民街である。

「貧民街から少し外れたところに大きな宿泊施設を作りましょう。いいえ、宿泊施設兼工場ね。工場では簡単な商品製作とか職人の育成なんかをするの。子供たちが将来手に職をつけて巣立てるように」

「ビーズの製作も、将来的には子供たちにゆだねるおつもりなのでしょう? 可能でしょうか?」

「貴族向けのビーズは変わらず職人に任せるわ。子供たちが作るのは庶民向けに販売するアクセサリー用の大き目のビーズ。多少大きさが不ぞろいでも形が悪くても問題ないの。細かすぎないビーズだから慣れれば子供でも作れるだろうって職人さんも言ってたわ。子供たちの中でも器用な子や希望者に覚えてもらうつもり。そこから職人を目指すこともできるし、身についたら就職には困らないでしょう?」

 テッサはカップにお茶を注ぎながら懸念点を指摘してくる。それにすべて返答できなければテッサはこの計画を止めるだろう。領主の言うことだろうが唯々諾々と従わないのがテッサの信頼できるところだと、亡くなった母も言っていた。

 

「さて、早速下見に行きましょう。テッサ、ミーシャ、準備して!」

 慌ただしく馬車の手配を始めるテッサとミーシャを横目に、エリュシカ様があくびをしている。

「しかし大丈夫か? アイリーンが当主だった頃は高位貴族が過度な慈善活動など高潔さを損なうと、貴族どもが意味の分からん主張をして邪魔してきていたが……」

 エリュシカ様の言っていることは本当のことだ。このエルサニカ王国では高位貴族家のほとんどに守護獣がついている。だから高位貴族とそれ以外の貴族の序列が入れ替わることはない。

 高位貴族は守護獣に見限られないように正しく貴族としての義務を果たそうとするが、それ以外の一部の貴族はそのことに不満を持っている。その保守派と呼ばれる貴族たちは、平民たちが力を持つことを極端に恐れているのだ。

 高位貴族は守護獣がいるゆえにその立場を失うことはない。しかしそれ以外の貴族はいつ誰に蹴落とされるかわからない。高位貴族が民のための改革を進めるほどに、自分たちの立場が危うくなるのだ。それでこんな歪な社会構成になってしまっている。

「誰に文句を言われても、やりとげて見せるわ」

「ふむ、その意気やよし。侮られるなよ」

 エリュシカ様は私のことを心配してくれているのだろう。母が異能で平民の治療を始めた時も、保守派の貴族は散々文句を言っていたらしい。私は詳しく知らないが、脅迫状のようなものも届いていたそうだ。

 

 テッサとミーシャ、エリュシカ様を乗せて馬車で貧民街へと向かう。もちろん今日も周囲を護衛が囲っているが、みんなピリピリしていた。

 葬儀の日に当家の馬車にひかれた少年を川へ投げ入れた騎士が、左遷されたからだ。彼には当主の指示を仰がず婿養子の指示だけで平民を殺したとして、寄り子の領地の中でも最も遠い僻地へと派遣されることになった。

 その場で指示を仰がなかったということは、幼い当主を侮っていたということだ。おかげで私が幼くとも彼らの主であるということを騎士たちにわからせることができたが、そのために一つの命が亡くなったのは心が痛い。

「そろそろお母様みたいに、私の専属護衛騎士も選ばないといけないわね」

 テレス家には当主と歳の近い専属護衛をつける風習がある。母の専属護衛は母の死と同時に騎士団に戻った。

「良い方が見つかるといいですね。来週には騎士団の新規入隊試験もあるみたいですし、それに合わせて選んでみては?」

 ミーシャが楽しそうに手をうつ。そういえばそんな予定もあったなと私は思い出した。騎士団のことはほぼ騎士団長が管理してくれていて、私は判を押すだけのことが多いので忘れていた。

「今の騎士団にお嬢様と年齢の釣り合う方は少ないですからね。新規入隊者から選んでもいいのではないでしょうか?」

 テッサの言いように疑問を覚える人も多いだろうが、専属護衛騎士と言っても必ずしも最初から強い必要はないのだ。だって私のそばには魔法を使えるエリュシカ様がいるし、出かけるときにはどのみち護衛がたくさんつく。専属護衛騎士はある意味当主と騎士団を繋ぐ雑用係のようなもので、当主となる私と直に信頼関係を築き絶対の味方となる存在だ。

 要は家族のように多くの時間を共にし、絶対に裏切らない誠実な部下となってくれればいいのである。テレス家は代々このように、身の回りの者との信頼関係を築くことを最重要視してきた。

「騎士団長とも相談してみるわ。今年の入隊試験は私も観に行こうかしら」

「そうするのがよろしいかと。お嬢様がいらっしゃったら騎士たちの士気も上がるでしょう」

 そんな風に雑談していると、あっという間に貧民街にたどり着いた。さてこのままスムーズに建築までもっていけるだろうか。

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