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23.悪魔

 次の日起きた私は朝食の席で、エリュシカ様に声を外に漏らさない術を使ってくれるようお願いをした。テッサは後ろに控えさせている。

「エリュシカ様。コルネリアにテッサの異能が効かなかったことに関してどう考えますか?」

 エリュシカ様は沈黙していた。

「シーリーン。あの女の居場所がわかるか? 調べてくる」

 しばらく考え込んだエリュシカ様はそう言った。

 コルネリアは父が王都に家を持たないので、今日は私が寄子たちのために用意した宿に泊まっているはずだ。テッサがすぐに紙にさらさらと地図を描いてくれたので、エリュシカ様はそれを見て文字通り姿を消した。

 守護獣は姿を消せる。声を聞こえなくする術もそうだが、こんな芸当ができるのは悪魔か守護獣、そして神くらいだろう。この世界の人間と獣人は異能を持っている人はいても、ファンタジー小説のように魔法が使える者はいないのだ。

 だから小さい頃はよく背中に乗せて空を駆けてもらった。空を飛んだことは私の小さな自慢だ。

「今はエリュシカ様の帰りを待ちましょう。テッサ。お礼状を書くわよ」

 

 私は机に向かって一心不乱に高位貴族宛に昨日のお礼状を書いた。そして使い方の説明を書いた少量の胡粉ネイルにラメ、ビーズを包む。まあ唯菜の世界で言う試供品のようなものだ。寄子たちの家にもお礼として贈ろう。

 父の家には……これ以上何かを期待されても困るから贈らないようにしよう。

 私はふと思い立って、私より少しだけ年上の寄子たちに手紙を書いた。少しだけ年上なのは、同い年の子では意味を理解しきれないかもしれないからだ。

 内容はしばらくしたら一度でいいからマリアンを子供だけの茶会に招いて優しくしてやって欲しいというものだ。子供だけの茶会というところで私の感情を察してくれたらありがたいなと思っている。

 コルネリアと父は自らのやらかしで派閥内で煙たがられるかもしれないが、強力な治癒の異能を持っているマリアンは親とは別の交友関係を持つことも可能だろう。

 これから勉強を重ねてくれれば、うちの派閥の人間として守ることも厭わない。

 

 すべてを終えた時には夜になっていて、エリュシカ様も帰ってきた。

 夕食の席で私はエリュシカ様に問う。

「それで、コルネリアはどうでしたか?」

 エリュシカ様は大好きな猪肉を前に難しい顔をしていた。

「わからない」

 私はエリュシカ様でもわからないことがあるのかと驚いた。

「はじめは悪魔と契約したのではと疑った。悪魔がテッサの異能を妨害していたのだと……思ったのだが……本人からまるで悪魔の気配がしない、過去に悪魔と契約した人間はわかるものだが、その残滓すらなかった」

 悪魔は地上では人間と契約しないと力を使えない。だから必ず人間を巧みに騙してその死後の魂と引き換えに地上での自由を得るのだ。

 エリュシカ様ははるか昔の神魔大戦以降、神が地上を守るために遣わした守護獣だ。要するに、神が作りし対悪魔のスペシャリストなのである。

「エリュシカ様が気配を感じなかったのなら大丈夫なのでは?」

 しかしエリュシカ様はまだ首をひねっている。

「悪魔ではないと思うが……あの女には念のために近づくな。それと他の守護獣にもこの情報は共有しておく。お前たちにとって都合の悪いことにはならんから心配するな」

 守護獣がそう言うのなら私たち人間は口を出せない。テッサの異能の情報が他の高位貴族に漏れないかは気がかりだがしょうがない。私もテッサも肯いた。

 

「エリュシカ様でも気配を捕らえられないような強い悪魔は居ないのでしょうか?」

 テッサがおずおずとエリュシカ様に質問する。確かに、いないとも限らないのではないだろうか。

「そういうものは神魔大戦のときに消滅したか封印されている。悪魔には序列があって、生まれついての強さで決まるのだ。序列が額に浮き出るから、封印されている者より強い悪魔が生まれればすぐにわかる。封印は各守護獣が管理しているが、封印が解けたという話は聞かない」

「そうですか……」

 テッサは何やら深く考え込んでいるようだ。その顔は真剣そのもので、何か気になることがあるのではないかと思った。

「テッサ、どうかした?」

「いいえ……いいえ、お嬢様。なんでもないのです。どうかご心配なさらず」

 テッサは無理やり笑ってごまかした。

 私は守護獣がいるのだから大丈夫だろうと軽く考えていた。何かあったらエリュシカ様がなんとかしてくれるはずだ。

 コルネリアのことは気にならないわけではないが、特に困ったことにはならないだろうと高をくくっていたのだ。

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