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2.父の愛人と義妹

 食堂についた私はミーシャに言って扉を開けさせる。するとそこにいたのは父だけではなかった。

 真っ赤なドレスに大きな宝石をいくつもつけた金髪の女性と、同じく金髪でフリルたっぷりのピンクの服を着た私と同い年くらいの女の子。

 その二人を見たとたん、私は嫌な予感がした。

「おお、シーリーン。やっと起きたのか。今度から私の愛しいコルネリアとマリアンも一緒に暮らすことになった。仲良くするように」

 父に愛人がいる事は知っていた。そもそも父と母は異能婚だ。異能婚とはより強い異能が子供に引き継がれるように同じ異能を持った者同士が結婚することである。父も母も治癒の異能を持っていた。それ自体は異能の中ではよく発現するものだが、その利便性ゆえに有難がられる異能だ。傷や病気を治せるのだから重宝されるのは当然だろう。

 父と母はその異能を受け継ぐために結婚した。このテレス侯爵家の当主は母の方で、父は入り婿である。しかし父には結婚する前から平民の恋人がいた。私と同い年の子供がいる事も知っていたが、常識的に考えて母が病気で死んですぐ連れて来るだろうか。私は黒のドレスを着て喪に服しているというのに父はギラギラしたスーツを着ているし、怒りを通り越して呆れてしまった。

 

「それはその二人を侯爵家の財産で養えということでしょうか?」

 私は立ったまま父に聞く。この質問の答え次第で今後の対応が変わる。

「いや私の稼ぎで養うが、家に置いておくくらいいいだろう」

 その答えを聞いて安心した。父はちゃんと侯爵家の財産を継承したのが私であることを理解していたらしい。父も異能で稼いでいるから、金をせびられることは無さそうだ。

「そうですか、では問題ありません。私は下がります」

 母が生きていた頃、私は母に厳しく躾けられた。私の幼い精神に母の教育は厳しすぎる所もあったが、不思議と唯菜の記憶を得てからは侯爵家の跡取りとしての教育が体に馴染んだような気がしている。

 母は特に父には常に侯爵家当主として接するよう、愛情を求めないよう教育していた。それが今役に立っているのだから、母の教育は正しかったのだろう。

 

「まあ待ってちょうだい。シーリーンちゃんも一緒に食べましょう。マリアンもお姉ちゃんと食べたいでしょう。うふふ、マリアンはねこの間治癒の異能を発現させたばっかりなの。優秀な子なのよ。シーリーンちゃんの異能は何かしら。教えてちょうだい」

 そう言った父の愛人の目はいやらしかった。仲良くなりたいなど微塵も思っていない、ただマウントをとりたいだけなのだろう。だから私はこの世界の常識を説くことにした。

「平民が貴族の許可なく発言しないで。不愉快だわ。名前も呼ぶ許可もだしていないわ」

 そう言うと、コルネリアの顔は醜く歪んだ。許可なく貴族に話しかけてはならない、名前を呼んではならない。これはこの世界の平民の不文律だ。

「まあまあ、いいじゃないか。コルネリアと再婚したら、お前のお母さんになるんだぞ」

 父は笑いながらそう言った。この人は馬鹿なのだろうか。

「法律により、そうなったらお父様は爵位を失います。平民は侯爵である私の父にも母にもなれません」

 そう父は入り婿だから、再婚したら爵位を失う。貴族籍を持つ子供がいる場合、親権を失う。そんな法律も知らなかったのかと私は呆れた目で父を見た。

「そんな! 噓でしょう!」

 それを聞いたコルネリアは父を問いつめるように立ち上がる。きっとおバカな父に貴族になれるとでも言われていたのだろう。それからは二人が言い合いを始めたので、シーリーンは部屋に戻った。

 

「お嬢様、申し訳ありません」

 部屋に戻るなり、膝をついて謝罪してきたのはメイド長のテッサ・ミラジェだ。

「あの女がこの屋敷に住むのを止められませんでした。いかなる罰でもお受けします」

 テッサが悪いのではない。他のメイドから話を聞くに、テッサはかなり奮闘してくれたらしい。

 いわく父が亡き母の宝石をコルネリアに与えようとしたときには、侯爵家の財産である母の宝石を勝手に持ち出すことは父の立場では窃盗罪になると冷静に諭してくれた。

 母の寝室に泊りたがったコルネリアにも、当主は私であるために客間以外には通せないと堂々と言ってのけたそうだ。

「テッサは悪くないわ、むしろありがとう。おかげで家を守れそうよ」

 コルネリアが表向き友好的な態度だったのは、当主としての権限を持っているのが私だということをそれで察したからだろう。

 父は貴重な治癒の異能持ちで、貴族を相手に治癒をしているから私財は山ほどある。それ以上を望まずに父のお金で得られる贅沢だけで我慢すればいいのにと、私はため息を吐いた。

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