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悪役令嬢だそうですが、保護施設をつくりたいと思います。  作者: はにか えむ


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15/30

15.さよなら

 領主任命式まで残り二週間ほどとなった日のことだった。私は忙しくしていて、正直父のことなど忘れていたのだが、その父から夕食に呼び出される。

「何かしら。テッサ、ミーシャ、わかる?」

 テッサとミーシャに聞くと、あからさまに顔を歪めて知らないと返された。

「きっとまたろくでもない用事に決まっています。なんだか最近は出かけていることが多かったですし、金の無心かもしれません」

 ミーシャの中の父はどうしようもないクズ男であるようだ。まあ確かに異能婚が主流のこの国でも、ここまで妻と子を蔑ろにする男は少数だ。ほとんどが最低限の体裁は守る。

 たまに叔母が襲来してその度に父を直接罵ってはいたが、いまだにコルネリアと共にこの屋敷で暮らしている。

 母が亡くなる前はコルネリアのために建てた家で暮らしていたのに、母が亡くなってからはこちらの方が豪華だからとこの屋敷に滞在しているのだ。恐らくコルネリアがそうしたいと言ったのだろう。

 

 私は時間を作ると、久しぶりに父たちが夕食をとっている食堂に向かう。

「お父様。何か御用でしょうか?」

 席に座らず立ったまま聞くと、父に座れと言われる。めんどくさいなあと思いながら席に座ると、明らかに父たちとは違うメニューが運ばれてきた。

 コルネリアたちの滞在費用は、父からしっかり頂戴している。私はコルネリアたちのために侯爵家の予算を使うつもりなどこれっぽっちも無かった。父が屋敷に納めている食費では、コルネリアたちに私と同じメニューは出せない。だから父もコルネリア達と同じメニューにしているのだ。叔母が来た時もそうなのだが、コルネリアはそれが気に入らないらしく、不満そうにしている。

 

「実はな、私は男爵位を得たのだ。名はカトリルとなった」

 本当に唐突に、父は言った。それはつまり私の親権を放棄したということだ。私に一言も相談することなく事後承諾で伝えてくるあたり、私は父になんとも思われていなかったのだなと思う。 

「そうですか、カトリル男爵。では早めに侯爵家を出てください」

 私は無表情のままそう言った。

「わかった、明日にでも出て行こう。しかしな、親権を失ったとはいえ私たちは血のつながった親子だ。領主任命式には招待してくれるだろう?」

 はあ? と私は心の中で思った。要するに親権は失うが侯爵家と不仲ではないと見せつけたいということだろうか。領主任命式では高位貴族がほぼ集まる。そして侯爵家の寄子の家も。まさか父は、侯爵家の寄子になるつもりなのだろうか。馬鹿げていると、私は思う。

 確かに親権を放棄したとて領主任命式に呼べば、少なくとも円満に別れたのだろうと周囲は思うだろう。どこが円満なんだと思ったが、そこで不安そうにしているマリアンと目が合った。私は少しだけ、断った場合のマリアンの未来を考えてしまった。

 今でさえ、社交界では父の評判は最悪だ。元妻の喪も明けぬうちに愛人とその子を本家に連れ込んだのだから。もし侯爵家が彼らを許す姿勢を見せなければ、彼らは社交界で煙たがられるだろう。そうしたら治癒の異能を持つマリアンは、評判の悪い人間のところに嫁がざるをえなくなる。それはちょっとかわいそうだ。

 まあ父とは別段争う気はないし、招待するくらいならいいかと、私は了承した。

「わかりました。最後の恩情として招待はいたしましょう。ですが父親面はしないで下さい。あなたはもう他人なのですから。この先カトリル家に何があろうが助けるつもりはありません」

 このくらいきつく言わないと、父はきっと勘違いする。私は父の願いを叶えるつもりなどない。領主任命式に招待するのは、せめてもの恩情だ。

 

 無言で食事を食べ進めるコルネリアとマリアンは、貴族になるというのに相変わらず食事のマナーが悪い。いや悪いというよりマナーを知らないのだろう。

「忠告ですが、貴族になるのならマナーを学んでください。あなたたちが高位貴族の集まる場所で粗相をしても、私は庇いませんから」

「……わかった。すぐ学ばせる。お前についている家庭教師がいるだろう。領主任命式まで貸してくれないか?」

 私は頭の血管が切れそうなほどの怒りを覚えた。どの口でそんなことが言えるのか。

「でしたらご自分で交渉してください。侯爵家の家庭教師は安くありませんよ」

 私が要望を撥ねつけずこう言ったのは、マリアンのことが気がかりだったからだ。私が家庭教師を直接融通すると父のサポートをしたことになってしまうが、父が直接家庭教師に頼み込んだなら私が父を助けたことにはならない。後で家庭教師にこっそりとマリアンに貴族としての教育をしてくれるようお願いしておこう。

 

 そして私と父の最後の会話は終わった。あまりにもあっさりとしていて、本当に親子だったのか疑問に感じるほどだ。翌日、父たちは元々暮らしていた家に帰っていった。

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