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嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)  作者: 【規制済み】
第1章 迷宮都市ラークル
8/12

"門番"


本日は2回行動です。



 "門番"。それは探索者ギルドの階級制度に最も大きな影響を与えている存在である。


 迷宮の奇数階では、次の階層に降りる階段がとある大部屋に存在する。その大部屋には魔物が待ち構えている。それこそが"門番"。


 彼らはあらゆる点で他の魔物達と一線を画す。彼らは何度でも蘇る。例えどのように彼らを倒したとしても、倒したそばからすぐに戦う前の姿に戻る。


 また、彼らを初めて倒すとどこからともなく宝箱が出現する。その宝箱にはあるものが入っていて、これこそが門番討伐の証であり、階層踏破の証でもある。よって探索者階級を昇格させるには、ギルドにこれを提示すれば良い。


 さらに彼らを一度倒すと、まるで認められたかのように二度と彼らに襲われることはなくなる。


 次の階層に進むためには必ず彼らを倒す必要があり、一度倒せば二度と障害になることはない。それ故の"門番"である。


 カインの正面には巨大な門がそびえ立っている。その門は僅かに開いており、密着すれば二人程度なら通ることができるだろう。


 意気揚々とカインはその門を通り、大部屋へと入る。カインが大部屋に入ると共に、門が重々しい音を立てながら一人でに閉じていく。


「おお〜すげーどうやって勝手に閉まってんだろうなこれ」


 "門番"と戦う際、同時に戦っていいのは5人までだ。それを超える人数が大部屋へ入ろうとすると、門が勝手に閉じてそれを拒絶する。どんな方法であっても5人を超える人数で大部屋に入ることはできないのだ。


 大部屋の中は非常に暗い。しかし、"門番"へと挑戦するものが現れればそれは一変する。


 大部屋の壁に掛かっている古ぼけたランプが一斉に点く。ランプの灯りは不安定な青色で、大部屋を不気味に照らし出した。


 カインは槍を強く握り、構える。彼の正面には人型の影があった。


「胸を借りるとしますか。ドクロ教官」


 その人型はスケルトンであった。


 第一階層の"門番"、スケルトン。彼は無骨な長剣と盾を持ち、非常に堅実で技巧的な戦い方をする。特筆すべきは彼の魔物らしからぬ行動。彼は探索者への致命的な一撃を寸止めする。そして寸止めされた探索者は"門番"に敗北したと見做されて、彼に大部屋の外へと叩き出される。そのため駆け出し探索者は何度も彼に挑み、何度も彼に大部屋から叩き出される。よって付けられた愛称がドクロ教官である。


 盾を構えたスケルトンがジリジリとカインににじりよる。スケルトンの骨は非常に太く、生前は体格の優れた戦士であったことが見てとれる。果たして迷宮のスケルトンが人の死体由来なのかは議論の余地があるが。


 ゆっくりと近寄ってくるスケルトンに対して、カインは構えた槍の先をゆらゆらと揺らして誘う。そして武器の違いによる射程の差によって、まずはスケルトンがカインの攻撃圏へと入る。突き出される槍。しかしそれをスケルトンは前転で避けた。


 想像以上の身軽さにカインは不意を突かれた。スケルトンはそのままカインの首へと剣を振るう。


 身体を大きくのけ反らせる。剣はカインの髪の数本を断ち切るにとどまった。身体をのけ反らせた勢いのまま、カインは宙返りをしてスケルトンとの距離をとった。


「懐に潜り込まれるとちょっと困るな」


 対人経験に乏しいカインは、懐に潜り込まれた時の対処法を知らなかった。カインの新たな課題を浮き彫りにしたスケルトンはまさに教官であった。


 槍は長く、また両手で扱うので剣よりも動作の一つ一つが大きい。身軽なスケルトン相手に先制して攻撃する方が不利であると判断したカインは、リーチの有利を捨ててカウンターを狙い始めた。


 スケルトンがカインに斬りかかる。至って普通の袈裟斬り。それをカインは身体を半身にして避けると、槍を横に薙いだ。


 しかし、その槍がスケルトンに当たることは無かった。槍はスケルトンの構えた盾の上を滑り、見事に受け流された。


「すげえ!」


 カインは素直に感心した。村には狩人しかいなかったため、これほどまでの戦いの技巧を見たことがなかった。


「でもそろそろ終わらせるぜ、ドクロ教官」


 カインはリザードマンとの戦いと同様に、身体強化を使っていなかった。使ってしまえば相手がいくら技量に優れていても、ただの膂力による圧倒的な速度と力のみで叩き潰せてしまうからだ。対人戦闘の経験を積むのが目的であればそれはあまり望ましいことではない。


 けれども、カインは既に自身の力をセーブして戦うことに焦ったさを感じていた。力を制限することは、自由ではないからだ。


 魔素がカインの身体を巡り始める。ぐるぐると循環する魔素はどんどんと加速していき、莫大な魔力を生み出す。それに伴ってカインの身体が光り、バチバチと音を立てる。


 一歩踏み込む。ただそれだけでカインとスケルトンの間にあった距離はなくなり、カインの振るった槍がスケルトンの頭を斬り飛ばした。


 頭蓋骨がゴトンと床に落ちる。その音からは骨の骨密度の高さが伺える。


 頭を失ったスケルトンはそのまま少し固まったのち、カインの方を向き直った。


「まだ動くのか」


 槍を再び構え直す。しかしスケルトンの取った行動はカインの想定外のものであった。


 スケルトンは盾を床に放り投げると、両手で剣を持ち、剣の腹を見せた状態で縦にして構え、姿勢を整えた。それは見事な騎士の儀礼敬礼であった。スケルトンからカインへの賞賛であり、敬意である。少なくともカインはそう受け取った。


 そしてスケルトンは大きく剣を振りかぶり、床に転がる自身の頭蓋を粉々に砕いた。同時にスケルトンは力を失い、全身の骨をバラバラにしながら地面に崩れ落ちた。


 あまりにも誇り高く、潔い戦士。その心に触れたカインは少し涙ぐんだ。


「ううう……ドクロ教官、ありがとうございました!」


 そしてカインもバラバラになった骨へと敬礼した。


 しばらくの間そうしていると、カインはいつの間にか大部屋の真ん中にあった宝箱に気づいた。


 "門番"を倒した際に出現する宝箱には罠が仕掛けられていない。これは迷宮の長い長い歴史が証明している。


「初めての宝箱、何が入っているかな?」


 宝箱の重い蓋を開ける。そこには鉄でできた指輪があった。


「おー?これが踏破の証か」


 指輪を手に取ってまじまじと見つめる。すると自然とその指輪の使い方が理解できた。


「あーなるほどな。すげえ便利じゃんか」


 帰還(リターン)と唱える。するとその指輪は大部屋の魔素を吸い込み始めて、ぐるぐると魔素を循環させ始めた。


 まばゆい光が部屋全体に満ちる。その光が消える頃には、カインの姿はどこにも無くなっていた。


 挑戦者のいなくなった大部屋。バラバラになって地面に転がっていた骨は光の粒になり、一瞬にして元のスケルトンの姿に戻り、ランプの灯りは消えた。そしてまた、門が重々しい音を立てながら少しだけ開き、次の挑戦者を待つのだ。



 ◇◇◇



 カインは気づくと迷宮の入り口に立っていた。


「迷宮、楽しかったな……」


 カインの冒険への欲求不満はある程度解消されたようだ。そしてカインはしばらく名残惜しそうに迷宮の入り口を見つめると、くるりと身を翻してギルドの受付へと向かった。


「カインさんですね!ご用件はなんでしょうか!」


 受付に行くと、昨日の受付嬢が元気よく振る舞っていた。昨日のことを思い出してカインは少し恥ずかしくなった。


「第一階層を踏破しました。これ、踏破の証です」

「確認いたしますね……はい、確認できました!鉄級への昇格、おめでとうございます!」


 受付嬢は嬉しそうに拍手した。カインはどうしてここまで楽しそうに仕事ができるのだろうかと思った。


「それにしても、探索者登録をした翌日に鉄級に昇格するだなんてすごいです!あんまりそんな人はいないんですよ!」

「いやあ、それほどでもないですよ、へへへ」

「昨日が禁足日だったのが悔やまれますね……もしかすると昇格最速記録も狙えたかも」


 受付嬢からの期待が凄い。


「ではギルドカードの提示をお願いします!」

「はいどうぞ」

「少しお待ちください!ただいま更新をいたしますので」


 受付嬢が受付の裏へと消えていく。少し暇になったカインは周りを見渡す。


 ギルド内の探索者は、そのほとんどがテーブルに迷宮で手に入れたであろう財宝や金銭を並べていた。あるものはパーティメンバーと成功を祝って宴をし、あるものはパーティメンバーと財宝の分配で揉めている。


 心地よい喧騒。カインはそう思った。


「お待たせいたしました!こちら、鉄級のギルドカードです!」


 鉄級のギルドカードはその名の通り、鉄でできていた。金属特有の光沢はギルドカードに高級感を与えている。


「おお〜結構立派だ」

「うふふ、次の銅級昇格も心からお待ちしておりますね!」


 受付嬢は手を振ってカインを見送った。


 ギルドから出たカインは、鉄級ギルドカードを両手で掲げて眺めている。


「よーし、これからも迷宮探索頑張るぞ〜」


 そう言って、カインは大きく伸びをした。

 



 


 


Tips: 宝箱から出てきた指輪はその大部屋でしか使うことができない。よって大した価値はない。

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