約束の時
本当にお久しぶりです……凄まじいスランプに陥ってました。これからはゆるゆると更新していくと思うので、また読んでいただけるとありがたいです。
「あれ、思ったよりも全然早いね。あと一ヶ月くらいは待つと思っていたんだけど」
雪が降り積もる中、胡座をかいて座っていたエクサは一人で第八階層に訪れたカインの方へと振り向いた。
「嫌なことは先に終わらせる主義だからな」
「はは、すまない。そういえば、元々は僕が君のところにいく約束だったね。そういう意味でもご足労かけたかな」
すっとエクサが立ち上がる。あの日、カインが第九階層で出会った時と何一つ変わらずエクサは光り輝いていた。
「リゼ師匠から話は聞いた。というか、師匠があそこまでボロボロになったのは初めて見た。やっぱりほんとに強いんだな」
「……戦うつもりは全然なかったんだけどね。いやあ、でも楽しかったなあ」
エクサは見るからに機嫌が良さそうだった。やはり毎回迷宮の魔物とばかり戦うのは精神衛生上よろしくないのだろう。久方ぶりの人との手合わせはエクサにとっても良い気分転換になったようだ。
なお、死闘を演じてギルドに帰ってきたリゼの姿は、見るも無惨であり、大量の血痕も残っていた。傷は既になかったが、どんな戦いをすればあんなことになるのかカインには見当もつかなかった。
「ふむ、そろそろ本題に移るとしよう。君にやってもらいたいことがあるんだ」
「……あんたに頼まれることがあるとは思えないんだけどな。俺がやらなくても自分でどうにかできるだろ」
「世の中にはそうもいかないことがたくさんあるんだよ」
硬く握りしめた左手を見つめるエクサ。その姿は何かを思い出しているように見えた。
「カイン。君には、僕と一緒に第九階層の門番を倒して欲しい」
「はい?金級最強のあんたが、なんで第九階層の門番を倒せてないんだ?」
『黄金』のエクサ。彼が金級最強であることは誰もが認める事実である。その彼がリゼが既に攻略済みである第九階層を攻略できていないというのは実に不可解であった。
「おや、まだ知らなかったのか。第九階層の門番はドッペルゲンガーと言ってね、大部屋に入った挑戦者の能力をそっくりそのままコピーする。つまり、挑んだ人によって難易度が変わるんだ」
「あー……なるほどな。一人じゃ攻略不可能なのか」
「そうでも無い。例えば君なら一人でも無傷で攻略できるだろうね」
「???」
自分と全く同じ力量を持った相手と戦って無傷で勝つ自信はカインにはなかった。一体エクサは何を根拠に話しているのだろうか。
「ドッペルゲンガーはね、身体能力や技術を模倣できても、魂までは模倣できない。故に、【起源】だけはどう足掻いても扱えないのさ」
「あー……つまり、『自由』の使えない俺と戦えばいいわけか。それならまあ、無傷で倒せるな」
魂とは、生物の唯一性そのもの。いくらドッペルゲンガーといえどもそれを模倣することは叶わないし、その魂に由来する【起源】もまた模倣できない。
「ということはエクサ、あんたはまだ【起源】が使えないってことか?」
「そう思ってもらって構わない。だから、俺一人では攻略不可能なんだ」
自他共に認める最強、『黄金』のエクサ。そんな彼が【起源】を扱えないという事実は驚くべきことであると共に、どうしようもなく恐ろしく感じられた。『黄金』はまだまだ強くなりうるのだ。
「……ちなみになんで俺だったんだ?」
「君以外だときっとすぐに死んでしまうからね。僕にとっては金級も石級も大して変わらない。どちらも一振りで命を奪うことができる。でも君は違う。君ならどんな攻撃からも生き残ることができる……君がデーモンと戦っているのを見た時は、まさに運命だと思った」
「そりゃどうも」
実のところ、カインはエクサからのお願いを聞いて拍子抜けしていた。それどころか、最強と共に第九階層を攻略できるだなんて願ってもないことだった。だがしかし。
「あ、やべ」
「ん?どうしたんだ?」
「いや、一緒に迷宮を攻略してきた仲間がいるんだけど、そいつを置いて第九階層を突破してもいいのかなって」
「……そうか。その子には悪いが、こっちを優先してもらうよ。その子は【起源】を使えるのかい?」
「ああ、キチンと戦闘用の【起源】を持ってる」
「ならドッペルゲンガーとの戦いで苦労することはないだろう。その子には僕の方からも謝る。だから今回は僕と第九階層を攻略してもらう、いいね?」
「はぁ……命を救ってもらったしな、仕方ない」
話しているうちに二人の方には少しだけ雪が積もっていた。それを軽く払い落とす。
「よし、じゃあ早速行くか」
「そうだね。体調は万全かい?」
「すこぶるいいね」
「なら行こう。第九階層は僕が先頭に立って進む。なるべく力は温存しておいてくれ」
「了解」
こうして、カインとエクサにとって最後の門番攻略が始まった。




