最も熱きもの
テストやらレポートやらが溜まってきているので、この1話をもって少しの間お休みをしようと思います。最長で一週間くらいかな……?それまでは過去の話を読み返していただけるとありがたいです。
走る。疾る。ただ奔る。二人は灼熱の第七階層をひたすら走り続けていた。
「うおおおおお! やべえ! 前からもだ!」
「くっ! 私が防ぎますか!?」
「だめだ! とにかく足を止めるな!」
走る二人のすぐ横に溶岩石が降り注ぐ。当たればひとたまりもないだろう。
カイン達を襲っているのは、複数体のゴーレムであった。
通常、ゴーレムは周囲の岩石や鉱物を取り込んで体を形成する。そしてこの第七階層に生息するゴーレムは、そのすべてが溶岩を取り込んでいる。
近寄ることすら困難な灼熱の体を持つゴーレム。相手をする方が馬鹿らしい。だがそんなゴーレム達が、徒党を組んでカイン達に岩石を投げ続けているのだ。
岩石を一度防ぐことなら容易である。しかし、溶岩に塗れた岩石が常に降り注いでいるのであれば。一度防ぐために足を止めたが最後、第二第三の岩石が降り注ぐ。こうなればもはや脱出不可能。そうならないためにも、カイン達に残された手段は、逃走の一手のみであった。
だがその逃走という手段ですら、カイン達の体力を奪い続けている。走れば走るほどに体に熱が溜まっていく。
「あそこを曲がるぞ!」
カインの指差す場所はちょうど物陰になっており、ゴーレム達の岩石投げからいくらか身を隠すことができそうだった。
「とりあえず、休めるな」
「はぁ、はぁ、はぁ……流石にキツイですね」
後ろから激しい衝突音。ゴーレム達は未だに岩石を投げ続けているようだ。
「私が迂闊でした……第七階層で岩を見たならばゴーレムを疑うべきだったのに」
「俺も気づかなかったからお互い様だ。それに、今はこうしてやり過ごせてるしな」
「ですが、こうしているのにも限界があります」
「そうだな……今から槍をちまちまぶん投げてゴーレムを一体ずつ始末するしかなさそうか?」
「それが出来るならお願いしたいところですが、体力は大丈夫ですか?」
カイン達の最大の敵は"門番"のレッドドラゴンだ。カインが火力を担っている以上、出来る限り体力は温存しておくべきである。
「確かに少し厳しいかもな。でもここを乗り越えなきゃ戦うことすらできない。やるしかないさ」
「……わかりました」
「それに、レッドドラゴンから俺を守ってくれるんだろ?なら、俺は攻撃さえできればいいわけだ」
「ふふ、そうですね。竜から民を守ることこそ騎士の本懐。私が守りきって差し上げましょう」
覚悟を決めて槍を強く握り込む。そんなカインの視界の端に、異常が映り込む。
「えぇ……」
カインは困惑することしかできなかった。カインの視線の先を自然と見たエリスもまた、困惑するしかなかった。
溶岩にぷかぷかと体を浮かべている人がいる。それも、風呂にでも浸かるような安らかさがある。
「……ん?お、カインじゃねえか。お前も遂に金級になるのか」
その人は、ゾルガであった。
「まあ、そうなんだが。なんで溶岩に浸かってるんだ? というかなんで浸かっていられるんだ?」
「あったけえからに決まってるだろ、アホか」
「アホはお前だ。どこに溶岩を風呂代わりにする奴がいるんだ」
「俺俺。てかここの溶岩はサラサラしててめちゃくちゃちょうどいいんだよ。お前もどうだ?」
「死ぬわ」
金級探索者、『太陽』のゾルガ。やはり二つ名持ちは別格と言わざるを得ない。
「あなたが『太陽』のゾルガさんですか?」
「ん?そうだけど。てか誰だお前」
「カインのパーティメンバーになりました、銀級のエリスです」
「え゙? カイン、お前パーティなんか組むやつだったのか」
「まあな。俺もびっくりしてる」
「ははぁ〜。ま、でもいいコンビっぽいな。振る舞いを見てるだけで信頼関係があるのがわかる」
その言葉にカインとエリスは照れた。なお、パーティを組んでまだ二週間である。信頼に時間は関係ないのだ。
「そんで、こんなところで何してんだ?」
「あ〜めちゃくちゃゴーレムがいてな。そいつらに岩石を投げつけられてるせいで、足止めされてる」
「……やべ、それ俺のせいだわ」
「は?」
ゾルガが、少し冷や汗をかいた。その汗は一瞬にして蒸発したが。
「ゴーレム共がここら辺をたむろしてて邪魔だったからな。適当に奴らの核をぶち抜いて一箇所にぶん投げた。お前達を襲ってるたくさんのゴーレムは多分それだわ。すまんすまん」
「てめぇ……」
やはりカインをいつも苦しめるのはゾルガなのかもしれない。
「はぁ〜……しゃあねえなあ。俺がしたことだ。俺が始末してやる。それに、銀級のヒヨッコに『二つ名』の強さを見せる貴重な機会かもしれんしな?」
「おーマジか。じゃあさっさと始末してくれよ。いい見せ物ならチップでもやるよ」
「……クソガキが」
ゾルガが青筋を立てながら溶岩から立ち上がる。当然のように全く火傷していない。
「なんで火傷してねえんだ?」
「あ? そりゃ俺のほうが断然熱いからだ。見てろ」
ゾルガの体がバチバチと音を立てて光り始める。雑な身体強化。けれど、それこそがゾルガである。
「【起源】励起、『太陽』」
瞬間、星が地上に顕現した。全てを焼き焦がす圧倒的な熱と光。第七階層ですら、その熱の前では涼しいと言える。ゾルガは灼熱の星となった。
星が移動するとともに、膨張した。より熱く、より紅く、より眩しく。
「紅炎」
紅い炎が光線のように放たれる。それは熱という概念そのものであるように思えた。
炎を浴びたゴーレム達が一瞬にして溶けていく。岩石であるはずのその体は、まるで氷のように消えていった。
星はしばらく膨張と収縮を繰り返し、敵がこれ以上いないことを確認すると、消滅した。
「よし、これでいいだろ」
星から人へと戻ったゾルガは、あれほどのことをしておきながら、なんてことないようにそう呟いた。
「で、どうだった? すげえだろ」
「……業腹だが、すげえ。まだまだ届く気がしねえな」
「そんなすぐに超えられてたまるか」
「これが『二つ名』なんですね……」
格の違い。二人はそれをまざまざと見せつけられた。
「ありがとな、ゾルガ。いいもんをみれた」
「ええ。人はここまで登り詰めることができるのですね。いい参考になりました」
「お、おう……お前らも変わってるな。あれを見せられて、逆に燃えるのか」
「はは、当たり前だろ。楽しくって仕方ねえ」
カインもエリスも笑っていた。ゾルガを届かぬものではなく、自身の向かう先であると認識していた。こういう奴らが強くなる。ゾルガはそう思った。
「ところでゾルガさん」
「なんだ?」
「ずっと気になっていたんですけど、『太陽』ってどんな意味なんですか? 他の人の『二つ名』は意味がわかるものばかりでしたが、ゾルガさんのだけはわからなかったんです」
エリスの質問にゾルガが苦い顔をした。ああ、またか。嫌なんだよなぁこの話するの。そういう顔だ。
「あー……実は俺もよくわからん。俺の【起源】の名前がそうだっただけだ。ただ俺も疑問に思って、昔『全知』に聞いたことがある」
「なんて言われたんです?」
「曰く、遠いところにある、とある星の名前らしい。それと一緒に、謝られもした。その【起源】の名は自分のせいだ、ってな。気味が悪い話だぜほんとに。俺の【起源】が他の誰かのせいであってたまるかよ」
そうゾルガは吐き捨てるのであった。『全知』への謎が深まるばかりである。
Tips: カイン達の生きる星をアルムといい、それを照らす恒星はワンという。




