砂漠の洗礼
治ったはずの症状が再発して怯えています。いきなり投稿が止まったらそういうことです。
第六階層の砂漠攻略において必須なのは、水分の補給手段と寒暖差への対策である。これら二つへの対策は、魔道具に頼るか、魔術でどうにかするかが基本である。
そしてカインとエリスの二人は、幸いにも魔術の扱いに長けている。そのため、今日挑むまでの二週間の間、新たに魔術を習得していた。
「この冷風の魔術、迷宮攻略のために習得したけど、普通に便利すぎるな。もっと早く習得しておくんだった」
「そうですね。本当に快適です。特に私は甲冑を着ているので、余計にありがたいですね」
カインが使用している冷風の魔術は、生活魔術の一つであり、最もよく広まっている魔術の一つである。その魔術のおかげで、カインとエリスは砂漠にいながら汗一つかいていない。
「さて、何かいそうか?」
「今の所は魔物の姿はありませんね。擬態か潜伏している可能性が高いでしょうが」
砂漠において、探知の魔術はあまり役に立たない。砂の中に潜る魔物が多く、探知しても砂に邪魔をされる。よって原始的な目視による確認が最も効果的だ。
「……見つけました。リザードマンです」
「お、流石。どんな様子だ?」
「こちらには気づいていないようです。単に休憩しているのでしょう」
砂の色に紛れるように、保護色となった皮膚を持つデザートリザードマン。彼らは四体でまとまって地に伏せて、休息をとっていた。
「私が行く。あの程度なら私一人で十分だ」
「了解」
エリスは戦いになると、口調から少し丁寧さが抜ける。本人曰く、戦う気持ちへと切り替えているらしい。
確かな足取りで、リザードマン達に近づいていく。一体のリザードマンが近づいてくるエリスに気づいた。そしてその時。
「!? この揺れは……」
地面が大きく揺れる。震源地はリザードマンの真下。四体のリザードマンは立つことすらできないでいた。
リザードマンの足元が急激に盛り上がっていく。その勢いのまま、彼らは空へと弾き出された。
「おいおいおい、マジか」
「ワーム! 大物ですね!」
リザードマンの足元から現れたのは、巨大な芋虫のような魔物であった。
ワーム。第六階層の頂点捕食者。魔物と人間の区別なく全てを貪る、悪食極まる魔物である。
空へと打ち上がったリザードマン達は、手足をバタバタと動かしながら、重力に従って落ちていく。ワームはそんなリザードマン達をその筒状の口であっさりと飲み込んだ。
「初めて見たけど、すげえ迫力。なんか感動するな」
「そんなことを言ってる場合ではないですよ。次は私たちの番だ」
ワームがカイン達の方を向く。ワームには目はないが、魔素の濃度を感じ取る感覚器官が存在する。そのため、最も魔素の濃度が濃い、二人へと標的を定めた。
再び地中へと潜っていくワーム。先ほどのように捕食するつもりだろう。
「でもどうせ平気でしょ。俺はすり抜けられるし、そっちは消化される程の柔さじゃないし」
「……あんなやつの体内に入りたくないんですよ。気持ち悪いです」
「あ、なるほどね。じゃあ俺から離れてくれ。今から魔素を放出して俺の方に誘い出す。ぶっちゃけ俺は興味あるからね、ワームに飲み込まれるの」
「…………」
無言でカインから距離を取るエリス。それを確認してから、カインはあえて雑に全力の身体強化を行った。バチバチと音を立てて光り輝くカインの体。魔素濃度が上昇していく。
するとカインの狙い通りに、地鳴りと共に足元が盛り上がり始めた。
「うお!」
空へと弾き出される。下を見るとぽっかりと大きく開いたワームの口。内部には細かい歯がたくさん生えている。
「うわおもしろ。でもごめんな。喰われるわけにはいかないんだ。『自由』励起」
【起源】を励起させたカインは、そのままワームの口へと飲み込まれていった。
「パーティを組む時に自由な行動を許すとは言いましたが、まさかここまでとは思いませんでしたね……まあ、そんな彼が一番探索者らしいのかもしれませんが」
エリスはただその景色を呆れながら見ていた。
◇◇◇
「へーなるほどね。普通に赤い粘膜か。もっと変な体内かと思ったら、普通の動物とあんまり変わらないな」
ワームのびっしりとついた歯による咀嚼をやり過ごした後、カインは『自由』を停止させて、ワームの体内を探索していた。
「消化液は相当強そうだな。さっき飲み込まれたリザードマンがもう溶けてる」
咀嚼され、バラバラになったリザードマン達。彼らは既に骨が見えるほどに消化されていた。
そもそも、ワームは低位ながらも竜の一種である。より正確に言えば、最も原始的な姿を残す竜である。そのため肉体は非常に強靭であり、消化液も当然強力である。
「身体強化しておくか」
出力を上げた身体強化を行い、消化液から身を守る。若干皮膚がピリピリとするが、何とか大丈夫そうだ。
しばらくワームの食道を進んでいると、広い空間に出た。
「ここは、胃か」
広い空間の壁からはドボドボと液体が流れている。流石にあの巨体ともなると、胃酸の出る量も凄まじい。
「流石に排泄物と一緒に外に出たくはないし、そろそろ出るとしようかな。……ん?」
光る何かを胃の中に見つけたカイン。それに近寄ってみると、なんと宝箱であった。
「竜の胃の中に宝箱?悪食すぎないか?」
迷宮産の宝箱は非常に頑丈で、破壊することができない。よって飲み込んでも意味はないのだが、宝箱の魔素に惹かれたのか、ワームは飲み込んでしまったようだ。
「せっかくだし開けてみるか。竜の体から出たものってことで箔がつくかもしれないし」
胃酸に塗れた宝箱を開ける。探知でしっかりと罠がないことは確認済みだ。
宝箱の中にあったのは、小さなポーチであった。手帳程度なら入りそうだ。
「何だろうなこれ。魔素はあるから魔道具なんだろうけど」
ポーチを開けて中を見てみる。底が見えない。
「げっ! 収納鞄じゃねえか!」
収納鞄は鞄の中が別の空間につながっており、見た目以上にものを入れられる上に、入れたものの重さも感じないとても便利な魔道具である。非常に需要が高く、とんでもない値がつくこともある。
「でもポーチかぁ……入れられるものが小物くらいだし、あんまりいい収納鞄じゃねえな」
カインは少し落胆した。収納鞄は少しでも口が破けるとただの鞄になる繊細な魔道具である。ポーチサイズであれば大したものは入れられない。
「でも手に入っただけいいか。わざわざワームの中に入った甲斐があったな。よし、出よう」
収納ポーチを握りしめ、再び『自由』を励起。するりとワームの体を通り抜ける。
視界いっぱいに広がるワームの肉。その景色が続いた後に、いきなり砂漠が見えた。
「ただいま〜」
「長かったですね。消化されたかと思いました。楽しめましたか?」
「割とね。あと収穫もあった。これ」
「ポーチ?なんですかこれ」
「収納鞄だと思うぞ。小さいけど使えはするでしょ」
「収納鞄!? とんでもない豪運ですね」
そんな会話をしている間に、ワームはとぐろをまいてこちらを見つめ始めた。
「ちなみに俺があいつの中にいたとき、何してた?」
「普通にこっちに襲いかかってきたので、ずっといなしてました」
「あ、それはすまん」
「いえ、そんなに動きも速くありませんでしたし、大変ではなかったので」
「ならよかった。じゃあそろそろ竜狩りといきますか」
「ええ。ようやくです」
第七階層の"門番"、レッドドラゴン。それと対峙する前の前哨戦である。
ワームが大きく口を開いて迫る。いちいち地中に潜るのはやめたようだ。
カインとエリスはそれを横に飛ぶことで回避した。カインが槍に魔素を流し始める。
「付加魔術、二重、重化、加速!」
槍に二つの光の輪が巻き付く。二週間の特訓の成果である。
「エリス! 頼む!」
「了解!」
カインがエリスの元へ駆け寄り、大盾を足で踏む。
「衝撃!」
エリスが持つ大盾から、衝撃が放たれる。それに合わせて盾を踏み切ったことで、カインは驚くべき速度でワームへと射出された。
カインの飛び出した先は、ワームの頭部。巨体故に緩慢な動きのワームではまともに回避すら行えない。そもそも目が退化していて見えていないが。
着弾。ワームの外皮が弾け飛ぶ。傷口からは大量に血が溢れ出した。
槍を突き刺したカインは、ワームの体から跳ね返るようにしてエリスの側に戻る。
「流石に一発じゃ仕留めきれないか」
「ですが、あと一発で倒せるでしょうね」
「もう一発か〜結構しんどいな〜」
ワームは絶叫とともにのたうち回っていた。その叫びは聞くものを震え上がらせる恐ろしき竜の咆哮。だが、二人からすればただの苦悶の叫びである。
「次は付加魔術なしの投擲でもいいんじゃないですか?」
「そうするか。仕留めきれなくても何回か投げれば殺せるだろうし」
槍に魔素を込める。穂が黒く光り始めた。
「魔力、解放!」
投げられた槍がまっすぐ傷口へと刺さる。それとともに槍に込められた魔力が解放された。
「うお〜グロ……」
「…………」
結果。傷口が吹き飛び、ワームの頭部の一部が爆発。そのままワームは息絶えたが、爆発四散したワームの肉片が二人に降り注いだ。
「カインさん……お風呂に、入りたいです」
「……諦めてくれ」
初めての竜狩り。にも関わらず二人のテンションは下がってしまったのだった。
Tips: カインは付加魔術を二重まで使えるようになったが、リゼは五重まで使える。なお、世界記録は七重。




