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嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)  作者: 【規制済み】
第1章 迷宮都市ラークル
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迷宮都市ラークル


 カインは時折襲いかかる魔物や盗賊などをあしらいながら一週間ほどの護衛をこなした。何日かは町へと宿泊したので大した襲撃もなく、あの魔猪が最も手強い相手だった。


 キャラバンはようやく迷宮都市ラークルへと辿り着いた。検問では特にトラブルもなくあっさりとラークルへと入ることができ、カインは初めてこの商人達の信用の高さを実感した。


「これが迷宮都市ラークル…すっげえ…」


 門を抜けると目の前には大通りが広がる。多くの人でごった返し、道の脇には多くの出店と屋台が並んでいる。幾人かは平然と武器を身につけており、探索者であることが一目でわかる。


「ここまでの護衛、ありがとうございました。こちら報酬となります」

「ああ、また縁があったらよろしく頼む。…おっも」


 ダリから手渡された巾着には報酬としてぎっしりと硬貨が詰まっていた。


「こんなにもらってもいいのか?」

「もちろんですとも。多少色はつけさせていただきましたが、適正な報酬の範囲内です」

「そうか…あんたら銀行業はやってるか?やってるなら半分程度は預けておきたいんだが」

「承知いたしました。ではお預かりいたします」


 カインは田舎者でさらには狩人の息子である。ここまでの大金に触れたことはないし、案外金銭に対しては小心者であった。


「この大通りを真っ直ぐに進めば探索者ギルドと闘技場がありますので、そこで探索者の登録をすれば迷宮に潜ることができます」

「ああ、ありがとう。今度迷宮に潜る前にあんたらのところで装備を整えるとするよ」

「是非とも。こちらのカードをお持ちください。このカードを商会で見せていただければすぐに私が対応いたしますので。トリカチ商会一同は、カイン殿をお待ちしてます」


 そういってカインとダリ達は別れた。


 ひとまず、ギルドへ向かおうと決心したカインは大通りを歩く。大通りではそこかしこから串焼きやスープ、いくつかの見慣れないけれど美味しそうな料理の屋台によって、いい匂いが漂う。カインはその匂いを嗅いでまだ食事をとっていないことを思い出した。


 数々の屋台飯に目移りするカイン。散々悩んだ結果、とりあえずは絶対に失敗しないであろう焼き鳥串を買うことにした。


「この焼き鳥4本くれ。80オンでいいよな」

「まいど。あんた、ラークルは初めてか」

「まあな。やっぱりわかっちまうもんか」

「へへ、すぐにわかるのは俺ぐらいだろうさ。お前さんは背中に槍も背負ってるし、普通なら探索者だと思われる。でも俺は一度見たやつの顔は忘れねえのさ。とりあえず、ラークルによく来た。一本おまけしてやるよ」

「お、おお。ありがとうなおっちゃん」


 予期せず増えた焼き鳥に顔をホクホクとさせながら大通りを食べ歩きするカイン。焼き鳥の焼き加減は絶妙で、特に皮が少しだけ焦げているおかげか、パリパリの食感と香ばしさが鶏肉のポテンシャルを最大限に引き上げている。


 あっという間に5本の焼き鳥を食べ終えて、口の周りを鳥の脂でベタベタにしたまま、それに気づくこともなく歩いていく。口元をテカテカに光らせているカインを周囲の人はなんだか微妙に避けている気も、笑っている気もするが、カインは首を傾げるばかりで特に気に留めなかった。


「ここが探索者ギルドか……だいぶ年季入ってるけど流石に立派だな」


 探索者ギルドは巨大な木造建築で、少し足を踏み入れるのを躊躇するような風格があった。しかし中からは野太い男の笑い声が聞こえてくる。そんなすこしチグハグな印象が、荒くれ者でありながら、億万長者もいる探索者というものを体現しているようだった。


 一呼吸置いてから、ギルドの正面扉を開ける。扉はギギィと音を立てながらも案外滑らかに開いた。


 ギルドに足を踏み入れる。けれどカインを見つめる視線などは一つもなく、中にいた探索者のほとんどは昼間から酒盛りをしていた。


 カインはギルドをきょろきょろと見渡すと、受付を見つける。受付には何人かの受付嬢が座っているものの、みな暇そうな顔で探索者達を眺めていた。


「あの〜探索者の登録をしたいんですけど」


 一人の受付嬢に話しかける。受付嬢は眠たげな瞳をこちらへ向けて一拍おくと、すぐにニコニコとしながら目を輝かせた。


「登録ですね!承りました!」


 そういってパタパタと受付の裏へと去っていった受付嬢はすぐに幾つかの書類を持って戻ってきた。


「ではまずこちらの書類にお名前とご年齢、性別を書いた後に各種同意のサインをお願いいたしますね!必要でしたら代筆もいたしますが」

「あ、文字は書けるから大丈夫だ」


 カインはいきなり元気になった受付嬢に少し気圧されながらも書類への記入をスムーズに行い、記入はものの数分で終わった。


「では確認いたします。…うん、大丈夫ですね!では探索者について幾つかの説明をいたします!」


 そうして受付嬢は、探索者についてカインへ幾つかの説明をした。


 まず、探索者の階級には石、鉄、銅、銀、金の五つがある。これらの区分は迷宮の踏破階数によるもので、最初は石級から始まり、一階を踏破したものは鉄級、三階を踏破したものは銅級、五階を踏破したものは銀級、というように奇数階を踏破するごとに階級が上がっていく。そして、金級の中でも目覚ましい功績や実力を持つものは「二つ名」を与えられるという。


 また、迷宮はいくつかあるものの、そのどれもが各々の特色はあるものの難易度にさほど差はなく、さらには全て十階が最終階層であるということ。


 あとは探索者ギルドの施設に関する簡単な説明と、初心者に対する簡単な講習があることを説明された。


「…ふむ。なるほど、よくわかった。ところでなんだが、なんで受付で揃いも揃って暇そうにしていたんだ?」

「あー見られてしまいましたか…実は今日は迷宮への禁足日でございまして。誰も迷宮に潜ってはいけないんですよ」

「禁足日?なんだそれ」

「実は迷宮では、多少のズレはありますが内部の構造が変わる日が、月に一度やってくるんです。そんな日に迷宮に潜ってしまうと、どんなに熟練の探索者であっても常に道が変わり続けてしまいますから迷ってしまうんです。これが迷宮の由来でもあるんですが、そんなこともあって立ち入りを禁止しているんですよ」

「ああ、なるほど。だから受付嬢たちは仕事が全くなくて暇だし、探索者もやることがないから昼間から宴をしていたわけか」

「はいぃ…そうなんですよ…」


 要するに今日はとても珍しい探索者にとっての休日だったのだ。


「あ、でも今日でも初心者講習はやっておりますよ。今ならなんと5000オン!」

「いえ結構です〜」


 カインは断固として拒否した。カインは自由を求めて探索者になったというのに、講習とやらでベテラン探索者のやり方なんぞを教えられ、凝り固まった方法で迷宮を攻略するだなんて死んでもごめんだった。自ら手探りで迷宮を進んでいく。これこそが浪漫である。


「む〜…でもやっぱり講習を受けたいなと思ったらすぐに言ってくださいね。いつでも受け付けておりますので」

「あーうん、ワカリマシタ」


 カインが講習を受けることはなさそうだ。


「では、こちらがあなたの探索者としての身分を証明するギルドカードです。これを提示すれば様々なギルド内の施設の利用ができます」


 カインに手渡されたカードは至って普通の灰色のカードであり、そこにはいくつかの個人上が書かれていた。


「探索者としての階級が上がればカードは再度更新する必要がありますので、またいらしてくださいね!金級になればなんと、ほんとの金でカードが加工されちゃいますよ!」


 金メッキされたカードを想像してみるが、すぐにメッキが剥がれそうだなと現実的なことを考えた。


「…ところで。少々失礼したしますね」


 受付嬢はそういってどこからか白い布をひらりと手にとってカインの口元をゴシゴシと拭う。


「うふふ、お口元が脂でベタベタでしたよ?」


 受付嬢はそうやって悪戯っぽく笑った。彼女の持つ白い布はほんのりと黄色い脂で汚れている。


 カインはそこでようやく自分の口元がずっと脂でテカテカと汚れていたことに気づいて、赤面し、うずくまるのであった。




Tips:月に一度の頻度で迷宮の内部構造が変わるので、地図屋の需要が凄まじい。中には金級探索者が引退した後に地図屋へと転身することもある。


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