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嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)  作者: 【規制済み】
第1章 迷宮都市ラークル

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闘いの後


実は最初から考えるとかなり想像もしていなかった方向に話が進んでいます。連載って面白いですね。





 賞金を受け取り、闘技場の試合会場から悠々と歩いて出ていくカイン。会場の近くには、お前のおかげでボロ勝ちしたぜ、と話しかけてくる人や、泣きながら地面に這いつくばる人がいた。それらを苦笑しながら見つめていると、後ろから声をかけられる。


 振り向くと、そこには先程の騎士がいた。しかし、もう甲冑は纏っていない。


 彼女は長く美しい銀髪を頭の後ろでまとめており、衣装は騎士の礼装のような仕立ての良い服であった。


「突然すみません。私は、エリスと言います。先ほどは本当に良い闘いでした。あんなにも心躍る闘いは久しぶりです」

「こちらこそ。俺はカイン。最高の闘いだった。……ところであなたは本物の騎士でいらっしゃるので?」


 カインは困惑していた。王国の騎士には、男性しかなれないというのは有名な話だ。となると目の前の彼女はわざわざ外国からやってきた騎士ということになる。


「ああ、いや、違うんだ……恥ずかしながら、私は昔から騎士に憧れていまして。つまるところこれは、いわゆる仮装というやつになりますね」


 彼女は少し顔を赤らめながらそう答えた。


「仮装か。にしては似合っているな。本物の騎士と見紛うほどに」

「……そう言ってくれると、とても嬉しいな」


 エリスは試合での凛とした表情とは違い、優しくふんわりと笑った。……なんだが妙な雰囲気になってしまった。


「コホン……えっとそれで、俺に何か用があるのか?」

「あ、ああ、すまない。一つ、頼みがあるんです」


 エリスはすっと真面目な顔になってカインを見つめる。どこか緊張した雰囲気。数秒見つめ合った後、エリスは漸く意を決して口を開いた。


「私と、パーティを組んでほしい」

「パーティ?」

「ええ。貴方も探索者でしょう?私は今銀級なんですが、金級に昇格するために第七階層の"門番"を倒したい。しかし、相性的にまず間違いなく一人では倒せない。そこで貴方の手を借りたいんです」

「ちなみになんで俺なんだ?」

「私よりも強いからです。実際に闘い、私が負けた。それ以上に信頼できる情報は、ない」

「……」


 パーティ。ほとんどの探索者はパーティという複数人で迷宮を攻略する。しかし今までカインは一度もパーティを組んだことがなかった。


「パーティか……いくつか条件がある」

「なんでも言ってください。できるだけ善処します」

「俺は今までパーティを組んだことがない。その理由は一人で事足りるから、というのはもちろんある」

「その気持ちはわかります。私もずっと一人で迷宮を攻略していました」

「そうか。だが、自由に迷宮を探索したいからという理由もある。パーティを組むことによって俺のしたいことが妨げられるのならナシだ。俺が自由に行動することを許してほしい」

「……わかりました」

「本当にいいのか?自分で言っておいてなんだが、かなりめちゃくちゃなことを言っているぞ。いきなり君を置いていくかもしれないし、見捨てるかもしれない」

「大丈夫です。貴方のことを、信用していますから」


 曇り一つない目。エリスは本当にカインを信じている。


「武器を交えれば、わかることもある。君は真っ直ぐな人だ。それでいて真摯に向き合う人でもある」

「なんでそう思う?」

「槍が君の手に戻った時。貴方はもう一度私に槍を投擲するという選択肢もあった。そして、勝つにはそれが最も堅実な方法だったはずです。それでも私と正面からぶつかり合うことを選んだ貴方が、真摯と言わずしてなんと言うのでしょうか」

「……」


 図星だった。エリスが向かってきた時。彼女のただひたすら前を見据える目を見て、カインはそれに向き合うことを選んだ。それが礼儀であると思ったからだ。


「カイン。貴方は多分、自分で思っているよりも遥かに責任というものをわかっている。真面目ですよ、貴方は」

「かも、しれないな」


 他者からの評価というものは馬鹿にならない。自分では自分の背中を見ることができないように、他者は自分では気づくことのできない部分を見つめているからだ。


「それに、私を倒した人に背中を預けることができるというのは何よりも心強い」

「そうか。……俺も、君に守ってもらえるのならそれ以上に心強いことはないかもな」

「ふふ、そうですか」


 エリスは嬉しそうに笑った。

 

「あ、でも少し待ってほしい」

「?」


 カインは一つ大切なことを忘れていた。


「俺、まだ銅級なんだ」

「……え?あ、あなたが?銅級?」

「まあ、そうだ」

「金級は全員把握していますから、あなたの実力からてっきり銀級だと思っていました……ちなみに銅級なのは迷宮にそこまで興味がなかったり…?」

「いや、そんなことはない。単純に探索者になってまだ一ヶ月くらいしか経ってない。それに色々あって槍も失ったからな。つい最近やっとまた迷宮に挑めるようになったんだ」

「なるほど……もしや、噂になっていた第九階層に落ちて生還した駆け出し探索者というのは貴方のことですか?」


 カインの顔が歪む。リゼもエリスも知っているとなれば、これは本格的にほとんどの探索者に広まっていると考えていいかもしれない。

 

「やっぱり結構広まってんのね、それ」

「まあそうですね。でも正直眉唾物だと思っていました。駆け出しが第九階層から生還できるはずがない。……でも貴方なら納得はできますね」

「うーん、実際は普通に『黄金』に助けてもらっただけなんだけどな」

「これまたビッグネームですね。でも、それなら理解できます」

「まあその話は置いておいて。そろそろ俺も第五階層を攻略するから、パーティを組みたいなら攻略が終わるまで待っていてほしい」

「どのくらいかかりますか?」

「うーん、最速で明日。遅くても一週間か?」

「それなら全く問題ありません。……私も貴方に破壊された装備を整えないといけませんから」

「……」


 謝るのはなんだか違う気がするが、気まずい。カインは斜め上に目線を逸らした。


「俺が銀級に昇格したらまた連絡する。ギルドに君宛の手紙でも送ればいいか?」

「いえ、面倒ですので私の家を教えておきます。パーティを組むならば私の家を知っている方が色々と便利でしょう。銀級になったら、直接私の家に来ていただいて構いません。しばらくは迷宮に潜る予定も、闘技場にいく予定もありませんし、家にいると思いますので」

「わかった」


 彼女は簡単に家の場所の説明をしたあと、カインに一礼をして去っていった。


「パーティかぁ……まあ、あの人なら大丈夫だろ。いい人そうだし」


 ぼんやりと空を眺める。日が暮れ始めていた。帰ろう。カインはリゼの家へと向かうのであった。



 ◇◇◇



「おまえの苦労をずっと見てたぞ。本当によく頑張ったな?」


 リゼの家に帰ると、彼女が玄関で仁王立ちして、カインを待っていた。……なぜか彼女の背後に金色の虎が見えた気がした。


「あ、はい。ありがとうございます」

「……せっかく弟子を労ってやったんだ、もう少し嬉しそうにしろ」

「俺が戦ってるところ、ずっと見てたんですか?」

「私が闘技場に出ろと言ったのに、弟子の勇姿を見ずにただ家で待っているというのはいくらなんでも薄情だからな」


 見られているとは思っていなかった。途端にカインの脳内に蘇る自身の行動。何かまずいことはしていないか冷や汗が出てきた。


「正直拙い部分はかなりあった。最後もわざわざ正面からぶつかる必要はなかったしな」

「はい……返す言葉もございません」

「ただ、私も人だ。誇りというものを理解しているさ。忌憚のない意見を言うとするならば、良い戦いだった。よく頑張ったな」


 リゼがカインの肩を叩く。その手に込められた力から、労いの念が伝わってくる。カインの涙腺が少し緩んだ。


「これからもその調子で頑張れ。今日は料理を作らなくていい。ゆっくり風呂にでも浸かって休め。かなり魔術も使っていたし、どうせ魔力痛になっているんだろう?」

「そうですね。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


 そうやってリゼに背中を押されて、カインは風呂場に向かった。


 カインの体には、想像以上の疲労が溜まっていた。多くの観客に見られながら、人と真剣に戦う。その状況がカインの体に奇妙な緊張を与えていたのだ。


「ふぅ〜〜……ほぐれるな……」


 リゼの家にはかなり大きな浴場がある。到底一人用とは思えないその大きな浴場は、曰く、スペースが余っていたから、だそうだ。


 そんな大浴場を、贅沢にもカインただ一人が使っている。富豪にでもなったような気分だった。


「明日からも、がんばるぞー」


 両手を突き上げ、宣言する。その声が、大浴場に反響した。


「うるさいぞ〜」


 浴場の外から文句が飛んでくる。


 ……なんともしまらないものだ。


 




 


Tips:リゼはカインが勝った時、感極まって泣いた。ちなみに当然カインに賭けていたので、かなりの配当金が出た。



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