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嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)  作者: 【規制済み】
第1章 迷宮都市ラークル

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闘技場 その3


そろそろ前書きで話すことがなくなってきました。でも前書きを書かないとちょっと寂しい気持ちになるのでなんとか書き続けたいですね?





 闘技場のフィールドが爆炎で埋め尽くされる。もはや炎のない場所など一つもなかった。そして、それが数十秒間続いた。


 それを見ていた観客は、一人も音を立てることができなかった。ただ固唾を飲んで見守る。


 ようやく炎が消える。残っているものは、大量の煤。そして二つの人影。


 


 立っていたのは、カインと騎士であった。その姿を視認するなり、観客は大きな歓声を上げる。


「なんということだ!あの巨大な火球に二人も耐えて見せました!さらには魔術を放った本人の姿はありません!どういうことでしょうか!」


 カインは炎が全てを埋め尽くす瞬間、『自由(フリーダム)』を使ってその全てをやり過ごしていた。そして、炎が消えて魔術師の少女の居場所がわかった瞬間に、槍で貫いた。


 障壁すら貼らずに平然と生き残り、自身を突き刺したカインを、彼女は化け物を見るような目で見つめ、「嘘でしょ……」と一言呟いて消えたのだった。それが真相である。


 残るは騎士のみ。そしてそれは驚愕すべき事実である。


 騎士の甲冑には多くの煤がつき、黒ずんでいた。それはカインとは違い、純粋に火球を耐えきったという証拠。その上でアミュレットから、致命的なダメージではないと判断されているということである。


「すごいな、お前。尊敬するよ」

「そちらこそ。あなたは、本当に強い」


 騎士が初めて言葉を発した。


「なんだ、喋るんだな」

「……必要であれば喋るべきです。あなたへの敬意は、伝えるに値する」


 両者は再び構えた。二人を邪魔するものは何もない。


 カインが大きく息を吸う。すると世界から音が消えていく。対照的に、見る景色はより鮮明に。今この瞬間だけは、カインと騎士しか世界に存在しない。カインはそんな風に感じた。


「全力で行く。止められるもんなら、止めてみろ」


 身体強化を全開に。効率的に循環する魔素は光を放たず、魔力の全てが強化に使われる。


 そしてカインは槍を右手で握りしめて、投擲の構えを作った。


付加魔術(エンチャント)一重(シングル)


 カインの黒い槍に、光の輪が一つ巻き付く。


 その光の輪は、以前リゼが使用した付加魔術である。魔術とは、自身の体内で構築し、使用するもの。しかし、それを魔素で作った光の輪を媒介とすることで、魔術の効果を道具などに与えることができる。それこそが付加魔術という技術。


 難度は非常に高いものの、体内でいくつもの魔術式を同時に構築し、実行することができれば、付加魔術を重ねがけすることもできる。カインは一つしか使えないが。


加速(アクセル)


 カインが槍を放つ。既に音速を超えている槍が、更に加速していく。もはや常人ではその残像すら捉えることはできない。


「【起源(オリジン)】励起」


 そして、対する騎士がただ一言、呟いた。


「『不退転(フォーワード)』」


 騎士の身体が白く輝く。恐ろしい速度で迫る槍を見つめ、それでもただ前を見ていた。


 槍が右手の大盾にぶつかる。一瞬のことであった。大盾が大きくひしゃげる。それでも騎士は一歩も引かない。そして二つ目の大盾にぶつかる。ほんの僅かな拮抗。その後、槍は大きく軌道を変えた。軌道を変えた槍はそのまま騎士の兜を弾き飛ばして、闘技場の壁に突き刺さった。


 天高く弾き飛ばされた兜が、ガシャンと地面に落ちる。そして、騎士の素顔が露わになった。


 兜の中に収められていた美しい銀髪が外に晒され、風に靡く。その額からは血が滲み、ポタリと一滴床に落ちた。


 カインの攻撃を受け止め、逸らした騎士は、女性であった。彼女はあれだけの攻撃であっても、凛として佇み、ただ前を見据えている。


「素晴らしい攻撃でした。槍が逸れていなければ、きっと私が負けていた。だがあなたは槍を失い、私は未だこうして立っている。今回は、私の勝ちです」

「……あれを避けるんじゃなくて、防いで耐え切るか。ほんとに、すげえな」


 使い物にならなくなった右手の大盾を放り投げる。彼女はそのまま、残った一つの大盾を前に構えて、カインに突進した。その勢いのままに、盾をカインにぶつけるつもりだ。


「でも、勝負はまだ決まってないな」


 カインが右手を上に突き出す。その手は大きく開かれていた。


 騎士の後方で、壁に突き刺さっている槍。その槍がカタカタと震える。そして、勢いよく壁から飛び出すと一直線にカインの元に飛んでいき、一瞬でカインの手の中に収まる。


 デーモンの角。その素材にはデーモンの魔素が最も強く残っている。その魔素がカインを覚えている。自身を打ち倒したものを許さないと騒いでいる。故に、カインが魔素で呼びかけるだけで、槍はカインの元へと飛んでいくのだ。


「ッ!」


 一度走り始めた騎士は、もう止まれない。ただ突き進む以外に選択肢はなかった。全力の身体強化を盾と身体に施し、白く輝く。


 カインの槍に魔素が集まる。禍々しい黒い光が槍の穂をドス黒く染めた。それはデーモンの角に宿る、悍ましき魔素。しかしそれももう、カインの手中だ。


「付加魔術、一重、重化」


 槍に黒い光の輪が一つ巻き付く。デーモンの魔素が付加魔術に干渉していた。


「穿つ!」

「吹き飛ばす!」


 両者が吠える。槍と盾の衝突。空気が震え、白と黒の光が迸った。


 ギギギと悲鳴をあげて押し合う両者の武器。最後に勝ったのは槍であった。


 盾が大きく抉り取られる。黒い閃光を纏う槍はそのまま彼女の顔を捉えた。


 パキンと割れる音。その音と共に、一度も引くことなく全てを防ぎ続けた、誇り高き騎士は消えていった。




 そして残ったのはカインと、辺りを満たす静寂のみ。カインが槍を天高く掲げる。


「俺の……勝ちだ!!」


 その一言を引き金に、客席が爆発する。


「なんと勝ったのは、飛び入り参加の槍使い!名はカイン!素晴らしい戦いを見せてくれた彼に拍手を!」


 カインの全身が魔力痛で痛む。当然だ。【起源】に加えて、付加魔術。それに最後の攻撃。出せるものは全て出し切った。その上での勝利。


「……最高だ」


 今は痛む身体でさえも心地よかった。





Tips: リゼとの特訓中、床に置いていた槍が突如としてカインに向かって飛来。そのまま腹に風穴をブチ開けられた。ポーションで傷を治した後、カインは莫大な魔素を槍に流して上下関係をわからせた。



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