My new gear …
多忙ですが、毎日投稿のコツを掴んだので大丈夫です。
「身体強化が雑になり始めてるぞ!もっと集中!」
「うぐぐぐ……」
カインがリゼの家に住み込むようになってから一週間。槍もないので、カインはひたすら魔術の練習をしていた。
座禅を組みながら、必死に身体強化をし続けるカイン。既にこの状態で1時間が経過している。
カインの身体は時おり明滅していた。そして光るたびにリゼからの注意が飛ぶ。
「じっとしている状態で光らないように身体強化を1時間維持できてようやく合格点だ。戦闘中なら綺麗な身体強化をし続ける難易度は格段に上がる。わかっているよな?」
「はい、師匠……」
長時間ひたすら集中して魔素を操作し、綺麗な魔術式を描き続ける。単調な作業であるが故に精神的にキツい。
「安心しろ、この特訓を毎日やり続ければ次第に何も考えなくとも身体強化を維持できるようになる。そこまでいけば色々楽になるし、この特訓ともおさらばだ」
「ちなみに、どれくらいやり続ければそうなれますか?」
「早くて一ヶ月。長くても三ヶ月くらいだろう」
案外短い。先の見える特訓になったおかげでカインのやる気が少し戻った。
そうしてカインはさらに追加で1時間、身体強化を維持した。
「よし、今日はこのくらいでいい。楽にしろ」
「どはぁ〜……つかれた」
座禅を崩して大の字になる。気づけば体全体が汗でぐっしょり濡れていた。
「そういえば、私の弟子。そろそろ君の槍ができた頃じゃないか?」
「……そうですね」
「なら取りに行ってこい。そしたら明日からは武器を使っての特訓も始めよう」
飛び上がるカイン。ここ数日はまともに体を動かさずに魔術ばかりを練習していた。そのため魔力痛で体が痛まない日などなかった。久しぶりにしっかりと体を動かせることにカインはウキウキして、リゼの家から飛び出すようにして走り去った。
「行ってきます師匠!すぐにとってきま〜す!」
「……引くほど元気だな、あいつ」
カインの走り去る後ろ姿は、プレゼントを買い与えられた幼児のようだった。
◇◇◇
「お、坊主か。待ってたぞ。丁度今朝お前さんの槍ができたところだ」
「じゃ、じゃあ、早速見せてもらってもいいか?」
「もちろんだ。我ながら最高の出来と言っていい。見せたくてウズウズしてたところだ……よっこいしょ」
ダインは重い腰を上げて店の奥の工房に歩いて行った。
この一週間は、カインにとって短いようで長いものだった。毎晩床につくたび、槍のことを思い浮かべて残りの日数を数える日々。そしてついにこの日が来たのだ。
「こいつがお前さんの新しい槍だ」
戻ってきたダインが袋に入れられた槍をゴトンと置いた。そしてその袋から槍が取り出される。
その槍は、以前使っていた魔熊の槍とは対照的に、その全てが黒く染められていた。窓から差し込む光を反射して、美しく黒光りする。
また、あの禍々しく捻れていたデーモンの角からは想像もできないほど美しく真っ直ぐに整えられており、禍々しさの代わりに威厳と風格が漂っている。
カインは思わずその槍を手に取った。
ずっしりと重い。明らかに以前の槍よりも重みがある。しかし、身体強化の出力も以前より上がったため、このしっかりとした重さの方が扱いやすいだろう。
槍の柄には美しい模様が彫られている。だがそれは実用的でもあり、その模様によって手に吸い付くような握り心地があった。
「穂は金属なのか?」
「そうだ。魔鋼という魔素伝導の良い合金に、デーモンの角の粉末を混ぜたものだ。デーモンの角は魔術を扱う上では最高の素材の一つ。その良さをできるだけ引き出したかった」
穂は肉厚な両刃となっていて、以前と同様に槍を振り回すことで斬ることも容易にできるだろう。また、槍の先端が金属でできているので、重心が穂先に寄っているのもカイン好みであった。
カインは改めて、槍の全体を見つめた。相対する対象を殺す。その目的のためだけに徹底的に洗練されたその外見には、機能美が宿っていた。
「最高の仕事だ、ダイン。これにならいくらでも払うよ」
「ふん、そういうわけにもいかん。こっちも久しぶりにいい素材を使って心置きなく満足のいく仕事ができた。デーモンの角の粉末もかなり出たし、負けてやるさ。……そうだな、50000オンでいい」
破格の安さであった。品質と比較して、あまりの安さにカインは喉からヒュッと空気が漏れた。
「……この中に100000オン入ってる。差額はチップだ」
「……ふん」
カインはダインの元に来る前、既にトリカチ商会に寄って金をいくらか下ろし、何個かの金貨袋に分けて持ってきていた。そのうちの一つをそのままダインに渡したのだ。
ダインはニヤける顔を抑えながら金の入った袋を受け取った。
「……また来い。槍の手入れは必ず俺にやらせろ。それと、お前さんのために鉄棒を取っといてある。次迷宮に挑む前に、取りに来るんだな」
「必ずまた来る。今後ともよろしく頼む」
槍をまるで赤子を扱うかのような手つきで袋に入れ、背中に背負い込むと、カインは満面の笑みを浮かべてダインの店を後にした。
◇◇◇
「ふ、ふへへ。あ〜最高の重みだ……お前がこれからの俺の相棒なんだな」
リゼの家へと帰る道すがら、カインは背中の槍袋を撫でてばかりいた。顔もだらしなく緩んでいる。カインにとってこの槍を手に入れたことは、人生で三番目に嬉しい出来事だった。
ちなみに二番目は空を飛んだこと、一番目は初めて『自由』を使った時のことである。
「帰ってきたか」
「師匠、この槍は最高ですよ」
「良かったな。少し私にも見せてくれ」
カインはリゼに自分の宝物を自慢するかのように槍を手渡した。
「これは、見事だな。デーモンの角の最たる特徴である、魔素伝導効率の高さを少しも損なわずに槍にしている。デーモンの角は非常に硬いが割れる時は大きくヒビが入る。それをよくもまあここまで……穂も槍としての強さと魔術の兼ね合いをよく考えて鍛えられているな。この槍は、事実上優れた杖でもあるのか……」
「ふふん」
カインはまるで自分のことを褒められているかのように踏ん反り返っていた。むしろ自分が褒められている時よりも嬉しそうだ。
「カイン、私はデーモンの角を用いて作られた武器で、これよりも優れたものを知らない。本当にいい鍛冶屋を見つけたんだな」
「ええ。正直既に前の槍よりも遥かに気に入っています」
「この槍に相応しい奴になれ。この槍を使いこなすことは、すなわち槍と魔術を使いこなすことに等しい」
「……魔術の特訓、もっと頑張ります」
新たな槍。それは、少し萎えつつあったカインの魔術に対する情熱を再燃させたのだった。
Tips:カインは実はデーモンの角以外にも、目などの重要そうな器官をいくつか持ち帰っていた。それを売ったおかげで小金持ちである。




