久方ぶりの平穏
今日から週3くらいになるかもしれません。すみません。
カインがギルドに戻った後、彼が語った内容はギルドを揺るがした。
第三階層の大部屋に落とし穴があったこと。その落とし穴が第九階層に繋がっていたこと。そこでデーモンと遭遇し、辛くも勝利したこと。荒唐無稽な内容ではあったが、カインの持つデーモンの角がその全てを証明していた。
そして多くの人々に同情されながらも、ネクロマンサーを倒して手に入れた銅の指輪によって銅級へと昇格した。しかし、今のカインにとっては全てどうでも良いことだった。
カインは疲れ果てていた。一刻も早くベッドに倒れ込み、寝たい。カインに今必要なものは休息である。
カインはいつもの宿に泊まり、そのままベッドに倒れ込んだ。
「はあ……疲れた」
体は未だに痛む。傷ついた内臓や骨はポーションとギルドでの手当てで治した。しかし、それでもなお痛みは続いていた。
痛みの原因はわかっていた。【起源】とかいう魔術式を使ったせいだろう。
魔素操作はやりすぎると作り出された魔力によって体内を傷つける。一般的に魔力痛と呼ばれる現象だが、概ね筋肉痛のようなものだ。
そしてあの【起源】の魔術式はカインが知る中で最も複雑な魔術式であった。そんなものを使用したのだから、魔力痛になるのも当然であった。
「【起源】って一体、なんだったんだろうな」
今もなおカインの脳裏にはあの魔術式が焼き付いている。しかし、あの時のように魔術式に従って魔素を循環させようとしても、スムーズに魔素を操作できなかった。
疲労のせいか、魔力痛のせいか、はたまたただの奇跡だったのか。カインにはわからなかった。
「まあ、いいや。未来の俺がなんとかするでしょ」
細かいことは気にしない。カインは眠気に身を任せた。
◇◇◇
日差しが部屋に差し込む。心地の良い朝だ。
「んん〜……ん?」
カインは大きく伸びをして起きた。そして違和感に気づく。
「なんか、体が軽いな」
明らかに体が軽かった。疲労が取れたからというにはあまりにもおかしな違和感。
少しだけ身体強化をする。滑らかに循環し始める魔素。
「俺、強くなってるな」
身体強化の出力が上昇していた。あまり心当たりもないのに、いきなり強くなった事に若干の不安を感じる。
「なんか最近わかんねえことばっかりだな」
たった一日二日であまりにも多くのことが起きた。多くのことが起きすぎて、もはやカインのキャパを超えている。
「もういいや。とりあえず槍を作りに行くか」
カインはデーモンの角を適当な袋に入れて背中に靡かせ、外に出た。
鉄棒をかき集めた時に何箇所も武器屋を巡ったカイン。その武器屋の中から一番腕が良さそうな武器屋を選び、カインは足を運んだ。
「お、鉄棒の坊主じゃねえか。今度は何のようだ?冷やかしなら帰りな」
カインが店に入るなり、店主はニヤリと笑って軽口を叩く。立派な口髭を蓄えたその店主の名前はダインという。
どうやら鉄棒だけを集めていたカインは、かなり印象に残っていたらしく、しっかりと覚えられていた。
「今回はちゃんと武器を作ってもらいに来た。冷やかしじゃなくて残念だったな」
「ほー、珍しいこともあるもんだ。何を拵えてほしいんだ?」
「こいつを使って槍を作ってほしい」
そう言ってカインは袋からデーモンの角を取り出して、ダインの目の前に置く。禍々しく捻れたその大きな角からは圧迫感を感じた。
「こいつは……立派なデーモンの角だな。どこで手に入れた?前まで鉄級だったはずだが」
「落とし穴で迷宮の深層に落ちた。その時にデーモンの頭からへし折ってやったのさ」
「中々やるだろうなと思っていたが、そこまでとはな。あいわかった、こいつで最高の槍を作ってやる」
デーモンの角を見つめるダインの顔は、既に職人の顔つきになっていた。
「金はどんくらいかかる?」
「そうだな……デーモンの角は高く売れる。だから槍を作る時に出る余りを俺にくれるなら、かなり安くしてもいい。なんなら槍の出来を見てから相応しい金額を考えてもらっても構わん」
「ならそれでいい。俺が持ってるよりもそっちの方が有効活用してくれそうだ」
カインからすれば、槍さえ新しく手に入れられるのであればそれで良かった。
「一週間後に来い。完璧な状態で仕上げてやる」
「わかった」
そうしてカインはダインの武器屋を後にした。
一週間。絶妙に長いその期間、カインは迷宮に挑むことができなくなった。
まあ、色々ある疑問を解消するには丁度いい時間だろう。そう思いながら、カインは暖かい日差しを受けて欠伸をした。
Tips:魔力痛も筋肉痛と同じく、治ると魔素操作が成長する。




