Phase 5. 気づき
※挿絵はAI画像生成システム「imageFX」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
あれから数日、ユウの気持ちが晴れることは無かった。もちろんレミアとの再融合も果たせぬまま。
ハヤトに対しては翌日改めて謝罪した。ハヤトからも『少し言い過ぎた。あまり思い込まないように』と言葉をもらい、2人の中のわだかまりは一応解消した。
それでもユウの心には何かとげが刺さったままのような感触が残っていた。
授業が終わり、いつも通りユウは図書室へと向かう。あれからユウはミズキの図書室への同行をあえて断っていた。1人で静かに考えたかったのだ。どうせ同行しなくても、ミズキならテレパシーでユウの行動を逐一モニタリングできる。それを知っているから、ユウはあえて断ったのだ。また今回はレミアの同行も断っていた。ユウ自身の問題なので、ユウ自身の力で問題を解決したかったからだ。
図書室に入り、心理学関係の本を2冊ほど手に取る。机に座ったとき…。
「あやぽ~ん」
「…はい?」
読書部部長の3年生、鈴木 ミサトがユウに近づいて声を掛けてきた。ユウの横の席に座る。
「ここ数日、ずっと何か悩んでいるみたいだね」
「…ええ、まあ」
「私で良ければ、話、聞こうか?」
「…迷惑じゃ無いですか?」
「今にも死にそうな顔してるあやぽんのほうが、よっぽど迷惑だって」
笑いながら返すミサト。
「…すみません」
「無理に…とは言わない。でも、腹に抱えていることを全部吐き出してしまえば、楽になることもある」
「…」
「秘密があるなら無理に話さなくてもいい。もしあなたが私に秘密を話してくれたとしても、その秘密を他にバラすことはしないから…」
以前レミアと一緒だったときに、ミサトの心をレミアに読んでもらったことがある。結構辛い経験もしてきたらしいが、とてもしっかりしていて信頼できる先輩。ユウのことを特別に気に掛けていたりもしている。
「それなら…。でも、どこから話せばいいのかわからなくて」
「…いいよ。焦らなくていいから」
穏やかに微笑むミサト。
「それじゃお言葉に甘えて…」
ユウは今回の一連の事について話し始めた。いきさつ上、自分が『超夢現少女』に変身でき、あらゆる願いを一瞬で現実にできる事も話さざるを得なかった。しかしミサトの反応は非常に淡々としていた。
「そんな設定、ラノベでよくある話よね」
と軽く流してしまった。かと言って妄想として無視する訳でも無く、彼女なりにきちんと状況を現実のこととして受け止めてくれていた。ミズキやレミアの事に触れるのはあえて避けた。それでも自分のことを真摯に受け止めてくれるミサトに、ユウは安心感を覚えた。
「…うん、だいたい判った、話しにくいことも教えてくれてありがとう。秘密は守るから安心して。さて…何から話すかな…」
少し思案するミサト。
「まず、『ポジション』について話しましょうか」
「『ポジション』?」
「そう。人ってのは、常に自分の立ち位置…『ポジション』を把握できていないと不安で仕方ない。それは人間が社会性を持つ生き物である以上避けられない性。自分が階層的にどの立ち位置にいるかを確認していないと不安で仕方がない。あやぽんはクラスで、自分のポジションがどの位置にあると認識している?」
「…えーと、たぶんカースト的には一番下の方かと。ただ成績だけは一番上みたいですけど」
「それがあやぽんの認識だね。じゃああやぽんが魔法少女の力を得たとき、自分のポジションの認識は何か変わった?」
「…みんなを守らなきゃ…っていう意識が強くなりました。持っている能力があまりに強力なので」
「つまりこれまで底辺だった自分のポジションが一気に跳ね上がってしまった訳だ」
「…仕方ないですけどね」
「うん。でもそのギャップが恐らく今回の一連の出来事の背景と言えるんじゃないかな?」
「…?」
「今まで底辺にいた人間のポジションが一気に跳ね上がってしまったら、その人間は大抵精神的に舞い上がってしまうもの。それはおそらく当人の心の強い弱いとはあまり関係ないと思う。慣れないポジションに上がってしまうと、舞い上がってしまうのは当たり前。自分自身の心をどうコントロールするのかを意識するのも不十分で、勢い余って勇み足な言動をしてしまうのも理解できる。それはあなただけじゃ無く、誰でも起こりうること。それは仕方ない事だと私は思うのね。」
「…そんなものですかね?」
「うん。で、勇み足して、失敗をする。何度も失敗をするうちにその失敗が経験値になって、より適正なポジショニングに補正されていくんじゃないのかな?」
「…そうですかね? そうなりたいです」
「あやぽんは今回のことで自分を凄く責めたって言ったよね」
「…はい」
「どうして?」
「…自分が許せなかった。人の心を傷つけてしまった自分が許せなかったから」
「去年あやぽんは1学期に引き籠もって学校に来なかったよね。その時のあやぽん自身の気持ちはどうだった? 今回と似たような心持ちはなかった?」
「去年の時は、自分の気持ちを他人に上手く伝えることができなくて、話すこと自体怖くて、そんな自分が許せなくて、ずっと『死にたい、死にたい』って思っていました。今回も自分が許せなくて『死にたい』って思ってしまった。そのために…」
「魔法少女の能力が消えちゃったって訳ね」
「はい」
「魔法少女だと時間も過去に遡って歴史改変できるって聞いたけど、今回の一件では歴史改変してやり直そうと思わなかったの?」
「歴史改変することがとてもズルいことに思えて、そもそも改変しようという考え自体が起きませんでした」
「…なるほどね。じゃあ、あやぽん。あなたは自分自身のことが好き?」
「…あまり好きになれないです。いつもうじうじしてて、気が弱くて、口下手で…。嫌なことを挙げたらきりが無いです」
「私はあやぽんのこと、好きだよ。恋愛感情とかじゃなくって、人としてね」
「…そうですか?」
「凄くしっかりしているし、真面目だし、他人にも優しいし、気配りが効くし…」
「そうでしょうか…」
「そりゃあちょっと真面目さが強すぎて不器用なところもあるけどね。でもその不器用さがまた魅力なんだよ。何て言うか、人を引きつける魅力になってる。何故だと思う?」
「…わかりません」
「私を含めて誰もが不器用だからだよ。だから自分に近い人に対しては親近感を感じるの。何もかも完璧にこなせる人って、確かにすごいとは思うけど、人間的魅力は全然無いんだよね。親近感が湧かない」
「…少しわかるような気がします」
「あやぽんは、その『何もかも完璧な人』を狙いすぎているんじゃないの? だからそのギャップに耐えられなくて、完璧になれない自分が許せなくて、『死にたい』って思ってしまうんじゃないのかな?」
「…そうかもしれません」
「だったらそんなつまんないこと、終わりにしない? 人間みんなちゃらんぽらんなの。不器用でダメダメなの。でもそれでいいの。変に理想を追い求めるから苦しくなる。できないものは『できない』って言いきってしまえばいい。それが許されるの」
穏やかに微笑むミサト。ユウの心の奥底に残っていた硬い氷の塊が少しずつ溶けて消えていくような不思議な感覚を覚える。
「私もね、昔は今のあやぽんみたいに思い詰めてばかりいた。似てるのよ、今のあなたと昔の私がね」
「…そうなんですか」
「ぶっちゃけ話すると、私のクソ親父はアルコール依存症やっちゃって、何度も入院してたりしたの。そんな親父に家族みんな振り回されて、本当に大変だった。私も何度リスカとかODしたか知れない。そんな私がたどり着いたのが図書館の本達だったの。私は生き延びたかった。だから本に救いを求めたわけ。生き方とか、心理学とか、そういう本をむさぼるように読んだ。そして色々な『気づき』を得たの」
「…そうだったんですか。私もリスカの経験有ります。さすがに今は落ち着きましたけど…」
「…やっぱりね。でも落ちついて良かったよ」
「今も父親と同居しているんですか?」
「今は依存症の人たちが共同生活している自助の施設に預かってもらってる。施設に入って半年かな。あと1年半したら家に帰ってくる予定。なんとか上手くやってるみたい。うちの母親は離婚するって騒いだけど、私が無理言って引き留めた」
「…すみません。話しにくいことも話して頂いて」
「あなただから、話す気になれるの」
穏やかに微笑むミサト。
「ところであやぽん、どうしてうちの部がフリーダムの放任主義なのか分かる?」
「…いいえ」
「それが誰にとっても居心地が良いから。人の発想は自由なもの。趣味や思想も自由。それを支えるツールの一つが本であって、図書館や図書室でもあるの。本には人を救う力がある。この読書部は、思い悩む人を闇から救う『逃げ場』でもありたい。だから他の学校の読書部みたいに『お勧めの作品を発表し合ったり、課題を決めたり』なんて事はしないの」
「…そうなんですね」
「で…これからがあやぽんへの本題」
「本題?」
「私達3年は夏休みが終わったら部活を卒業しなきゃいけない。当然私も図書部の部長としての役目はそこまで」
「はぁ…」
「でね、次期部長のなり手を探しているんだけど、…あやぽん、次期読書部部長にならない?」
「え…あたしが…ですか?」
「そう。今のところ、私達3年の読書部員全員が、あやぽんを読書部次期部長に推してる。顧問の司書先生も承諾してくれている」
「あたしで…大丈夫でしょうか?」
「もちろん、2年や1年の部員にも探りを入れているけど、あやぽんの次期部長就任を悪く言う子はいない。もちろん魔法少女の役目が忙しいなら、無理強いはしない」
「そっちはおそらく大丈夫です。能力を取り戻せれば、あたしは自分の分身を何人も作れるので…」
「便利なのね…。それならOKしてもらえる?」
「能力を取り戻せなくても、部活に専念できますから…」
「それじゃ、OKでいいね」
「…はい」
「良かった…。正直あやぽんがOKしてくれるか、不安だったんだ」
笑みがこぼれるミサト
「今後ともよろしくお願いします」
頭を下げるユウ。
「こちらこそ。で…だ。そこにある心理学の本2冊。恐らく今のあなたには向かない。貸して。今のあなたに合う本、持ってきてあげる」
ミサトは本を受け取ると書架の方へ向かう。そして3冊ほどの文庫本を手に、ユウの所へ戻ってきた。
「はいこれ。私のお勧め」
見ると…。
『真面目さが報われる心理学』
『感情をあらわにした方が好かれる』
『あなたはあなたなりに生きればよい』
の3冊。
「…ありがとうございます」
「これ、私も読んだ本だから。あやぽんにも合ってると思うよ」
穏やかに微笑むミサト。
そのときだ。
(ゆうちゃ~ん、大変。大変だよぉ)
外にいたレミアが図書館に飛び込んできた。ユウの元へ近寄る。
(…どうしたの)
突然のユウの挙動の変化に驚くミサト。もちろん彼女にはレミアの姿は見えない。
(ミズキから伝言。もし融合できるのなら、すぐ助けに来て欲しいんだって)
(もしかして魔族が出たの?)
(うん、それも大量に…)
(場所は?)
(この前対応した山の麓から、今度は海の中まで。魔族が何万人も同時に!)
(…この前調べたとき、特異点内の例の活断層の長さが確か約35kmあった。例えば1mおきの間隔に1人ずつ配置されるとしたら…3万人か)
(あと、未来透視で大地震の光景が出たって…)
(ミズキは?)
(今現地に飛んでる。来られたらあたし達にも来てって…)
「…どうしたの? 何かあったの?」
不思議そうに尋ねるミサト。
「すみません。大変なことが起きているようで、呼び出しがかかってしまいました」
「行くの?」
「…ちょっと迷ってます。そもそも再度融合できるかも分からないし…」
「変身して行けるなら行きな。この本は預かっておいてあげるから」
「…ありがとうございます」
(れーちゃん、ここで融合できるか、やってみよう)
(え、みんながいる前で大丈夫?)
頷くユウ。ゆっくり席を立つ。つられてミサトも立ち上がる、
(じゃ、いくよ)
ゆっくりとユウの胸元に近づくレミア。そしてユウの胸にレミアの手が触れる。
瞬間!
パァァァァァッ!
ユウとレミアの身体が目も眩むような光に包まれ、それと同時に2人の身体のありとあらゆる細胞が震え、まるで歌い出すかのように柔らかで高く美しい音を奏で始める。
眼前に突如現れたまばゆい光に、ミサトも思わず目を覆った。
(もしかして生変身バンク? やばい、見た過ぎる!)
必死になってその光景を見ようとするミサト。
ユウとレミア二人が奏でる細胞の振動音はミサトにも聞こえた。
光の中で、レミアの身体がユウの身体に溶けていく。互いの身体が細胞単位で融合し、細胞の核も1つに融合する。二人の遺伝子は結合し組み替えられ、全く新たな生命として人の形になっていく。融合しなかった細胞や着ていた服も元素レベルで再構成され、融合した身体の表面を覆う。それは新たな生命が身にまとうコスチュームのように機能し始める。
藍色のロングヘア、髪に金色のカチューシャ、緑色の瞳、肘までを覆う白いグローブ、胸に大きな赤いリボン、緑色のベルト。橙色の膝丈スカート、紫のロングブーツ、そして白のボディースーツ。首から両手の中指先まで細い虹色のラインが伸びる。胸のリボンの中心には赤、橙、黄、緑、青、藍、そして紫の玉があしらたブローチが据えられる。
新たな生命を護る光が消え、ミサトの目の前に現れたのは…。
「か、かわい~。完全に魔法少女! 萌えるわ~」
感激するミサト。図書室にいた他の生徒や顧問の司書先生も、変身したレルフィーナに注目している。
<融合…できた>
≪ゆうちゃん、みんな見てるよ≫
<うん>
レルフィーナ、深く息を一つ。
[ミサトさん以外の皆さん、今起きたこと、皆さんが見たこと、私がここにいることは、申し訳ありませんが、全部忘れて下さい。私はここにいなかったことにして下さい]
周囲に暗示を掛けるレルフィーナ。皆、何事も無かったように本を読んだり会話を続けたりし始める。
「…今、何をしたの?」
「ミサトさん以外の全員に暗示を掛けさせてもらいました」
「私だけ除外したのは何故?」
不思議そうに尋ねるミサト。
「あたしからのささやかなお礼です」
「生変身バンクが見られて、その記憶も残るなんて…嬉しい。ありがとうね」
「それじゃあたし、行って…」
「ちょっと待った。あやぽん、この鞄はどうする?」
ミサトがユウの通学鞄を指さす。
「片付けます」
レルフィーナが右手の指をパチンと鳴らすと、通学鞄は一瞬で跡形も無く消滅した。
「すご…」
「それじゃ改めて、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
手を振るミサト。レルフィーナは瞬間移動で姿を消した。
「…まあ、ラノベでよくある話よねぇ」
くすっと微笑むミサト。先程の3冊の本を手に取ると、いつもの応接コーナーの方へと歩いて行く。
先日魔族と遭遇した山の麓にいたミズキ。そのすぐ隣にレルフィーナが現れる。
「ミズキ、お待たせ」
「レルさん、復活したんですね」
「ごめんね、心配掛けちゃって。で、今の状況は?
「それが…魔族がみんな消えてしまったんです」
「消えた? なんで?」
「わかりません」
レルフィーナは未来透視を試みる。
「…大地震が起きる未来は変わっていないのね」
「ええ…」
「魔族が現れた場所に変化は? 例えばこの前みたいな地中に空気を送り込む管とか…」
「それが見当たらなくて…」
「…そんなはずはないわ。きっと何かある。向こうもバカじゃない。前回みたいなモロバレなことは…」
目を閉じ、少し考えるレルフィーナ。
「あたしよ…見えない物が何でも見えるようになれ!」
レルフィーナは自分自身に新たな能力付与を施した、そしてゆっくりと目を開く。そこに見えた光景は…。
「…見えた!」
「え?」
「地面にずーっと細い亀裂が走ってて、そこからもの凄い勢いで空気を地中に吸い込んでいるわ。海の方に行くと…海水を凄い勢いで地中に吸い込んでる!」
「レルさん、これって…」
「さっき大量発生したって言う魔族の仕業でしょうね。亀裂に魔力がかかってて。空気や海水を強制的に送り込んでいる」
「…どうしましょう?」
「…この亀裂に大規模な地質改変を施すの。強い地震の発生を回避するには、『スロースリップ化』するしかない。それには『高間隙水圧帯』という地質構造に改変しないといけない」
「…なんですか、それ」
「高圧の水と土や岩石が繰り返し現れる状態」
「それ、結構大規模な地質改変になりますよね。私達にできるでしょうか…」
「ねぇ、あたし達は何者だっけ?」
「え…超夢現少女ですけど」
「そうよね。現実的にあり得ないこともできてしまうのが、あたし達の能力じゃない?」
「そんな無茶苦茶な…」
「その現実離れした無茶苦茶ができちゃうのがあたし達でしょ」
「レルさん…本気ですか?」
「あたしメチャクチャ本気よ。自分の能力を信じるの。あたしたちにできないことはないんだから…」
「わかりました。じゃあ、2人で手分けしますか?」
「そうね。2人で…それぞれ14回分身を繰り返せば1万2千人まで分身できる。魔族はおそらくもう1回分身して3万2千人まで分身を増やして、地面に亀裂を作ったんでしょう。やることは殆ど同じ」
「問題はその地質改変が上手くいくかどうか…ですね」
「地質改変の時に私たちの魔力も込めましょう。うまくスロースリップができるように…」
「そうですね」
「特異点内の活断層は約35km。あたしは海側の方17kmの区間をやる、ミズキはこっちの陸側17kmをお願いね」
「レルさんが1人だったらもっと大変でしたね」
「別に。だって分身が1回増えるだけじゃない。どうってことないわ」
「そうさらっと言えてしまうレルさん、やっぱり凄いです」
ミズキ、苦笑い。
「じゃ、いくよ!」
「はい!」
2人は一斉に瞬間移動するとともに、次々と自分の分身を作り出し、地面の亀裂上におよそ1m間隔で配置していく。地上にいるミズキは、周囲から自分の姿が見えないように光学迷彩を施していく。
(レルさん、配置完了しました)
(地質改変、いっくよー! せーの!)
分身したレルフィーナとミズキが一斉に地中の亀裂に地質改変を施す。同時にスロースリップを促す魔力も注入。膨大なエネルギー量が地中に注がれ、次々と地質改変が進んでいく。
(…ミズキ、調子はどう?)
(今のところ…うまくいってます。地中を透視しながらやってます。レルさんの方は?)
(こっちは思った以上に時間がかかってる。沖の方は水深が深いから、既に亀裂の中に入り込んでる水の水圧が元々高くて、地質改変に時間がかかってる)
(水深はどのくらいなんですか?)
(だいたい…140mくらい)
(そんな深くで作業しているんですか?)
(そうね。沖合の活断層のあるところはちょうど海底の崖になっているから、足場も良くない。あと潮の流れが意外と複雑で、念力で身体を地面に固定させながらやらないといけないから…倍以上に力を使う感じ)
(無理しないでくださいね。こっちが終わったら手伝いに行きます)
(そうしてもらえると助かる)
2人が地質改変に取りかかってからおよそ30分ほどが経過。ミズキの方はほぼ作業を終え、分身を次々と回収していく。
(レルさん、こちらは終わりました)
(あたしの方はもうちょっと。終わったあたしの分身にも手伝ってもらってるけど、一番深いところにいる子が今2人目に交替してまだ終わらない。潮の流れが酷くて…)
(私も行きます。テレパシーで座標を送って下さい)
(…ここ。飛べる?)
(いきます!)
ミズキがレルフィーナの背後に瞬間移動し、がっちりとレルフィーナを支える。
(ミズキ、サンキュ、こうして支えてもらえるだけでもありがたい)
引き続き地質改変を進めるレルフィーナ。
(あともうちょっと…よし!)
手を離す。安堵の表情。
(レルさん、未来透視で大地震の予知、消えました!)
(そう、よかっ…)
(レルさん!)
極度の疲労で倒れそうになったレルフィーナをミズキが支える。
(取りあえず地上に上がりましょう。…といってもこの水深じゃ一気に上がると潜水病起こすかも。ゆっくり上がっていきましょう。他の分身の回収はどうしてます?)
(みんなゆっくり水面に上がって集まるように指示している。残っているのはあたしだけ)
(わかりました)
その時…一瞬地面が揺れた。
(何…今のは)
少し動揺するミズキ。
(たぶん始まったんじゃないかしら、スロースリップ)
(ほんの一瞬だけ小さく揺れましたね)
(こういう微弱地震が繰り返して、大地震になるのを防ぐの)
そのまま気を失ってしまうレルフィーナ。
(今から水面に上がります。待っててください、レルさん…)