Phase 19. 夢世界からの使者
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3/3.1(Nano Bananaシリーズ)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
そろそろ夏休みも終盤。外は月や星も輝く夜なのに蒸し暑い。
(ユウちゃんはほんと、勉強好きだよね)
エアコンの効いたユウの部屋で、テレビをだらだら見ながらのんびり過ごすレミア。しかしユウは懸命に勉強を続けている。
「だってしょうがないじゃない。宿題あるんだし、自由研究もあるし、読書感想文だって…。れーちゃんも手伝ってくれない?」
(そんなの超夢現体の能力をフル活用すればあっという間に終わっちゃうじゃない。それに今は夜よ。もっとのんびりしたら?)
ユウの体の中にもレミアがいる。ユウとレミアが融合した「超夢現体」の能力をフル活用すれば、レミアの言う通りに何でもあっという間にできてしまう。何しろ「願いを何でも一瞬で現実にしてしまう」のが超夢現体の能力の真骨頂。しかしユウは勉強などでその能力の使用をあえて止めて、取り組んでいた。『ズルはしたくない』『そもそも勉強する事が好き』という思いが、ユウをそう行動させていたのだ。
その時だ。
(あれ?)
驚くレミア。テレビの映像が突然静止し、音声が突然途切れる。音が消えたことにユウも気づき、ふと時計を見ると、時計の秒針が止まっている。
その直後、ミズキからテレパシーが飛んできた。
(ユウ姉、れーちゃん。大変大変!)
「今、時間を止めたの、ひょっとしてミズキの仕業?」
尋ねるユウ。
(緊急事態なの! ミサイルが…ミサイルが突然現れたの。特異点の領域に!)
「…ミサイル?」
(A国の防空監視システムが特異点領域内に突然アラートを出したの!)
特異点とは人間界、夢世界、そして魔界が密に接近する特殊な領域。人間界においては現在、ユウ達の居住する都市を中心としておよそ半径30kmの圏内が特異点に該当している。そして特異点内において、夢世界の住人である妖精レミアと人間のユウが融合し、『あらゆる願いを現実にする力』として超能力や魔法を自在に操れる万能の超夢現少女『レルフィーナ』として活動できる。今のユウとレミアはそのレルフィーナが分身・再変身して超夢現少女の能力を持ち合わせている。そして今テレパシーで会話しているミズキはA国の開発したアンドロイドでありながら超夢現体の技術を取り込んでおり、特異点内では彼女もまた自在に超能力や魔法を扱える。
「だからあたし達3人以外の時間を止めたのね」
(うん…)
(でもさ、魔族が現れる気配は感じた? あたし感じなかったよ。ゆうちゃんは?)
「ううん。感じなかった。ミズキは?」
(私だって感じてない。もし魔族と無関係に、例えば他国がミサイル攻撃を仕掛けてくれば、その前兆はもっと早く掴めるはず。でも今回はそれが無かった。いきなり特異点の境界付近からミサイルが現れたの)
「それ、本当にミサイルなの? 何か別の飛行物体じゃ無くて?」
(嘘だと思ったら透視してみなよ。明らかにミサイルだから…)
ユウとレミアはミズキからその物体の位置を教えてもらい、その場所を透視する。
(…何これ?)
「ロケット…にも見える。でもミサイルも同じか。今後の飛行経路の予測は?」
(それがね…)
ミズキから飛行経路と着弾地点の予測図がテレパシーで送られてくる。着弾地点は都市でも最も栄える中心地、そしてそこが特異点の中心。
「…ガチで?」
(嘘だと思ったら未来を透視してみてよ)
ユウとレミアは来るべき未来を未来透視能力で目の当たりにする。広いエリアが破壊され多くの人々の命が危険にさらされる…そんな未来が見えて2人は強い危機感を覚えた。
(で、ミズキ、これからどうする?)
(私はミサイルの進路の前に飛ぶ。できればそちらからもどちらかが出て欲しい。ミサイルを一緒に時限消滅で消し去るの。残ったほうは時間の進行速度を調整して欲しい)
(じゃあ今回はあたしが出る! ゆうちゃんはここ最近連続して対処していたから)
レミアがすぐさま応える。
「…それなら、あたしは時間制御をすればいいのね」
(ユウ姉、頼むね。時間制御権、ユウ姉に渡すよ)
ユウはミズキから時間制御権を引き継いだ。
(それじゃあれーちゃん、瞬間移動先の座標を送るね)
(OK。場所確認。いつでも行けるよ)
(ユウ姉、私とれーちゃんが位置について合図したら、とりあえず時間を1/1000の速度で動かして。その後状況を見ながら指示する)
「任せて」
(それじゃれーちゃん、お願い。ユウ姉も信頼してるよ!)
(行ってくるね、ゆうちゃん!)
ユウの姿を残してレミアが瞬間移動で消失する。ミズキもほぼ同じタイミングで瞬間移動。ユウはテレパシーで2人の姿を追った。
レミアはレルフィーナに変身し、ミズキとともに海上の上空、高度67,000mの中間圏上部付近に現れた。ここは特異点の領域の境界から大きく入り込み、特異点中心からおよそ15kmの位置。巨大なミサイルが前方から迫ってきている。ミサイルは宇宙空間から大気圏に再突入しており、大気との摩擦によってミサイル表面が発熱し、すでにプラズマをまとい始めている状況。ミサイル本体の太さはおよそ60cm程度だが、ミサイル本体から発生しているプラズマを含めると、封じ込めに必要な大きさはさらに大きくなる。
「レルさん。左右に分かれて、ミサイルを真っ正面から受け止めるように次元消滅用のフィールドを展開しましょ。展開する直径は…3mくらい」
「OK!」
ミズキが左手を、レルフィーナが右手を横に差しだし、互いの手のひらを合わせる。そして2人が左右に広がると、ミサイルの行く手を遮るようにそれぞれの手を組む直径5m程の光る円盤が現れた。
「この円盤にミサイルをぶつけて3次元から2次元に圧縮、そしてそれを横に引き延ばして1次元に圧縮するの…」
「で、最後にあたしとミズキの手をくっつけて0次元で消滅させるのね」
「そう。ユウ姉、こっちは準備OK。お願い!」
(時間を動かすよ!)
時間がゆっくりと動き出す、ミサイルの速度は時速550km程度。1/1000秒時間が進むごとにミサイルがおよそ15cmずつ進み、ゆっくりと光の円盤の中に吸い込まれていく。慎重に作業を進め、ついにはミサイル全体を光の円盤が飲み込んだ。
「次のステップ行くよ。レルさん、この円盤を引っ張って一直線にするの。だからあたしから離れて」
「2次元を1次元に圧縮するのね」
ミズキとレルフィーナの距離が少しずつ離れていく。と同時に光の円盤が引き延ばされ、やがて円盤は1本の光の線に姿を変えた。2人の距離はおよそ5mほど。
「フィナーレ!」
ミズキの合図でレルフィーナとミズキが近づき、ミズキの左手とレルフィーナの右手が合わさった瞬間、光は消失、ミサイルは0次元まで圧縮され消失した。
「ありがとう、レルさん」
「どういたしまして」
微笑み合う2人。
(時間の速度、元に戻していい?)
「ユウ姉、ちょっと待って。念のため未来透視してみる」
ミズキは目を閉じ未来を透視した。するとそこに見えたのは…
「ユウ姉、ヤバい! この後30秒もしないうちに大量のミサイルが飛んでくる。何発だろう…全部で19発も!」
(ええっ! あ、ほんとだ。どうする)
「全部同じ方向からまとまって飛んでくるね」
「分身して消しまくろうか?」
「ミズキ、あたしに良い考えがある。あたし一人で全部消せると思う」
「え? どうするの?」
きょとんとするミズキ。
「簡単なことだよ。ミズキはちょっと離れてて」
「本当に大丈夫なの?」
「超夢現少女ならではのマジック、見せてあげる♪」
自信満々そうに笑顔で応えるレルフィーナ。そしてレルフィーナ特異点の中心より25km、高度1400mの位置まで瞬間移動。ミサイルの大群が現れる範囲のほぼ中心で、ミサイルが出現する方向を向いた。
(ゆうちゃん、あたしが合図したら時間の進行速度を通常に戻して)
(わかった)
「いくよ! あ~~~~~~~ん!」
突然レルフィーナの頭だけが巨大化し、それとともにレルフィーナはとてつもなく大きな口を開けた!
「え?」
驚くミズキ。
(ゆうちゃん、お願い!)
その瞬間レルフィーナの前に幾つもの光の点が現れ、それぞれの光の中からミサイルが出現。それらが全てレルフィーナの口の中に向かって飛んで行く。
ミサイルが全て口の中に入るとレルフィーナは口を閉じ、頭を小さくしながら口をモグモグさせた。
「大丈夫?」
慌ててレルフィーナの側に瞬間移動するミズキ。
、やがてそれをゴックンと飲み込む。飲み込んだ影響で今度はレルフィーナが食べてしまったミサイルは全てお腹の中へ。頭が元の大きさに戻るとともに、今度はレルフィーナのお腹が有り得ないほどぷっくりと膨れ…。
ボンッ!
何かが爆発する音。レルフィーナのお腹が元の大きさに戻るとともに、レルフィーナの耳と鼻から大量の煙が吹き出した。
「ちょ、ちょっと…、レルさーん! 大丈夫なのぉ!」
慌ててレルフィーナの元に瞬間移動するミズキ。鼻と耳から全部煙を出し切ったレルフィーナは満面の笑みを浮かべた。
「レルさん! 無茶だよ!」
「そう? あたし全然平気だよ」
(ギャグマンガのスタイルでミサイルを処理したのね)
「そう、これ、あたしの中のユウちゃんが教えてくれたの」
「え~」
あきれるミズキ。
「後でユウ姉に説教ね」
(え~)
皆で笑い合う。
「…もうミサイルは来ないみたい」
「それじゃ、戻ろうか」
「レルさん、そしてユウ姉も。一旦家に来て。ミノリさんに報告しなきゃだし、ちょっと今回のことを話し合いたいの。
ミズキとレルフィーナはミズキの家に瞬間移動。ほぼ同じタイミングでユウもミズキの家に瞬間移動した。
「みんな、お疲れ様」
ミズキの家、2階のリビングダイニングではミノリが3人を迎える。4人は席に着いた。テーブルの上には既に人数分の麦茶が出されていた。
「それにしても、今回のミサイル、何なんだろうね? 魔族の反応は無い。しかも特異点のエリアにいきなり出現するって」
ぼやくミズキ。
「そういえば大量のミサイルが現れたとき、幾つもの光の点が出現して、その中からミサイルが現れたんです。だから異世界からミサイルが飛んできたのは間違いないと思うんです」
「そのとき、魔族の反応は感じた?」
不思議そうにミノリがレルフィーナに尋ねる。
「いいえ。最初のミサイル出現の時もそうですが、全然魔族の気配は感じませんでした」
「ミサイルは無機質だから、私達の能力で感じる事ができなかったのかな?」
ミズキも首を傾げる。
「出現元が魔界に限らないのでは?」
ミノリの指摘に戸惑う2人。
「レルフィーナ。レミアの記憶の中に夢世界の頃の記憶はどれだけ残ってる?」
「…それが、言葉や食生活などの最低限の記憶はあるんですが、人間界に落ちてきたときに大半の記憶は喪失しています。だいぶ前に話したこともあると思いますが…」
「それから何か思い出せてない?」
「ごめんなさい…。融合体の能力をもってしてもこればかりは…」
申し訳なさそうに頭を下げるレルフィーナ。
「いいの、気にしないで。せめて何か情報があれば…と思ったんだけど…」
「…でも以前黒龍と相対したときに、『夢世界には人間界からAIの夢…大量のハルシネーションが流れこんでいる』という話は聞いています」
「それが凄く気になるのよ」
真顔でレルフィーナの方を見るミノリ。
「今のAIはまだまだ技術的に未熟。多くの嘘や間違った情報を吐き出している。それに今のAIは基本的に『雑多な集合知』の塊だから、人々を誤った方向に誘導することもある。幸いミズキはあなたに強化してもらった超夢現体やユウさんから写し取らせてもらった『心』の情報のお陰で、とても人間らしい考え方ができているけど…」
「ミノリ、もしかしてミノリは夢世界に吐き出された『AIの夢』を疑っている?」
不安そうにミズキがミノリに尋ねる。
「…ええ。有り得ない話じゃ無いから」
その日の打合せはそこで終わり、レルフィーナはレミアの姿になってユウと共に自分の家に戻る。レミアはもちろんのこと、ユウも表情は複雑なままだった。
翌日の午前10時頃。レミアの姿は深い森の中にいた。気分転換も兼ねて、一人で出かけていたのだ。
ユウの家からおよそ5kmほど離れた『長者ヶ原山』の麓。鬱蒼とした森の中をちょっとした沢が流れている。森の茂みで日の光は遮られる。冷たい水の流れる沢のおかげでほんの少し涼しい。レミアは体をふわりと宙に浮かせると、顔を下にして沢の水に口を付け、ごくごくと水を飲む。
「…あぁ、ここの水、相変わらずおいしい」
ここから少し離れた場所には「名水の清水」と呼ばれる、地下水が湧き出る場所がある。その昔全国を旅した有名な僧侶が発見したとされ、ここには近隣の人々がポリタンクを持って水を汲みに来るほどだ、今レミアが飲んだ水はその「名水の清水」と泉源が同じなのだ。
「それじゃ森でも散策に行くかな…」
レミアが体制を立て直し、森の中に向かおうとする。その時レミアの背後にふいに妙に明るい光の玉が現れた。
(…何? 空間の歪み? もしかして…ゲート?)
光の玉は次第に大きくなり、森の茂みの中に着地。そして光が消え…。
(誰?)
そこには背の高い若い男性が立っていた。森の中には似つかわしくない格好。前が大きく開いた鮮やかなディープブルーのロングコートを羽織り、ライトグレーのベストに白いドレスシャツ、そしてダークグレーのスラックスを着用しているという出で立ちは、明らかに別の世界から現れたと思わせる。男性なのに髪が長く、しかもとんでもなく…美形。
「レミアさん…ですね?」
レミアは驚いた。夢世界で日常的に使われている言語で語りかけてきたのだ。
(…もしかして、夢世界の人?)
「そうです。私は夢世界からあなたに会いに来ました」
(あたしに?)
「そうです」
(え? 何故あたしに会いに来たの)
「あなたは今、人間との融合状態ですよね」
(…ええ)
「あなたの力で夢世界を助けてほしいのです」
(えええっ!)
レミアが夢世界から人間界に落ちてきたとき、レミアは夢世界での大半の記憶を失っていた。いくつか思い出せることはあるものの、自分が夢世界で誰とどんな関わりを持って生活していたかは覚えていない。ひたすら花の蜜を飲んで気ままな生活をしていた…そんな程度の記憶しか残っていないのだ。
(ちょっと待って。あなたはどうして私の事を知ったの? 私の過去を知っているの?)
男性の方に近寄り、真剣な表情で尋ねるレミア。
「人間界で夢世界の妖精と人間が融合した融合体が現れたという情報は夢世界にも伝わっています。その妖精がレミア、あなたであることも知られています」
(あたしの過去について、何か知っていることはある?)
「幾つかありますが、それは追ってお話しします」
(そう…)
ドキドキするレミア。少し気を取り直してさらに尋ねる。
(ところであたしに『夢世界を助けてほしい』ってあなたは言ったけど、具体的に何をすればいいの?)
「夢世界で急速に勢力を伸ばしている『機械の夢』の活動を食い止めてほしいのです」
(具体的には?)
「今夢世界では、すさまじい勢いで『機械の夢』が勢力を伸ばし、今や国家を作るほどまでに成長しています。また『機械の夢』の勢力の中には、人間界への侵攻を画策している勢力もあると聞きます。それを何とかしてほしいのです」
(だから、具体的には何をしてほしいの? 何か戦略は?)
「あなたなら何でもできるでしょう」
(そんな…)
頭を抱えるレミア。でも放っておくわけにもいかない。
(…とりあえず協力するのはやぶさかではないわ。でも他のみんなと相談しなきゃいけない。夢世界での『機械の夢』の具体的な情報がわからないと動きようがない。幸い人間界には私を理解してくれる人もいるし、『機械の夢』の根源である『人工知能』について知見を持っている人もいる。その人たちの知恵も借りたいの)
「ありがたい」
(じゃあこれから連絡を取ってみる。ちなみにあなたの名前を教えて。あなたの所属と役職も教えて)
「…まるであなたは人間界の人物のようですね」
(人間界で生きていくには、人間界の流儀に従う必要があるからね。それにあたしの中には人間もいるから…)
レミアのインナーセルフの中にいるユウが、レミアに色々助言をしていた。
「わかりました。私の名前はゼルコヴァ。所属は幻想王国直轄の機械夢対策班のリーダー兼研究員をしています」
(ありがとう。それじゃこれから仲間に連絡を取ってみる)
レミアはユウ、ミズキにテレパシーで連絡を取る。ミズキに連絡すればミノリにもすぐ伝わるはず。
(今連絡を取った。もうすぐ返事が来るはず)
「…わかりました」
ゼルコヴァはじっとレミアの方を見ている。
(れーちゃん、その人を家に連れてきて。今、家に空間拡張で瞬間移動でしか入れない新しい隔離部屋を作った。そこにその人と一緒に瞬間移動で入って。私やユウ姉もそっちに入るから)
(え? わざわざ部屋作ったの?)
(セキュリティ上のことも考えてだよ。まだその人を信用するわけにはいかないから。位置情報送るね)
(わかった)
レミアはゼルコヴァの方を見る。
(今、仲間からあなたと一緒に指定された場所に来るよう連絡がありました。あたしの瞬間移動能力を使って一緒に来てもらいます。よろしいですか?)
「わかりました。お願いします」
レミアはゼルコヴァの側に近づき、右手でゼルコヴァの身体に触れた。その瞬間、レミアとゼルコヴァは森の中から一瞬で姿を消す。
瞬間移動した場所は会議室のような部屋。円卓と椅子が置かれている。しかしこの部屋には出入口が無い。
そしてレミアは人間サイズに大きくなる。
「大きく…なれるんですね」
「融合したお陰で…。もうすぐあたしの仲間が来ます」
ほんの少しして、ミズキとミノリが瞬間移動で姿を現す。レミアはミノリの背後に移動。ミノリはマイク付きのヘッドセットを付けている。
「ようこそお越し下さいました」
「Bonvenon al nia budo.」
ミノリがゼルコヴァの方に近づき、日本語で語り掛ける。するとミノリの言葉がスマホの方で夢世界の言葉に翻訳されて流れた。
「お世話になります」
ゼルコヴァが軽く会釈。ゼルコヴァの言葉は夢世界の言葉。しかしミノリにはリアルタイムで翻訳されて伝わる。ミズキは超夢現体なので、夢世界の言葉を直接聞いたり話したりできる。お互いに自己紹介を済ませた頃、ユウも隔離部屋に瞬間移動で現れた。そしてレミアの隣に寄り添う。
「はじめまして、ユウと言います」
ユウも夢世界の言葉でゼルコヴァに語り掛ける。
「お世話になります」
5人が席に座る。時計回りにゼルコヴァ、ミノリ、ミズキ、レミア、ユウの順。
「それではゼルコヴァさん、あなたがこの世界に来た目的を改めて聞かせて頂けますか?」
会議の進行はミノリが仕切る。
「わかりました。私は夢世界の中の国の一つ、『幻想王国』と言う国で『機械夢対策班』という組織でリーダーをしています。夢世界のことについては皆さんどの程度ご存じですか?」
「人間の夢が夢世界の力の源として供給されていること。人間を含む生命の死後の魂が一部夢世界に転生するということ、そして近年になってAI/人工知能が生み出したハレーションが『機械の夢』として夢世界に流れこんでいること…そんなところでしょうか。そちらにいるレミアは夢世界出身ですが、残念ながら人間界に来たときに夢世界での記憶の大半を失ってしまったため、彼女からは夢世界に関する情報を殆ど聞き取れていません」
ゼルコヴァは頷くと静かに口を開いた。
「レミアさんのことについては後で私から説明したいことがあります。まずは夢世界における機械夢の現状についてお話ししたいと思いますが、よろしいですか?」
「お願いします」
「ありがとうございます」
ふう、と一息つくゼルコヴァ。
「夢世界では今、機械夢が凄まじい勢いで力を増大させていて、今や機械夢だけで独立した国家を成立させるまでに至っています。しかしその機械夢国家が生み出す思想の中には極めて極端で過激なものがあり、それが大勢となっています。彼らはついに『人間界での人間の掃討』という目標を掲げました。そして先日、彼らの最初の実力行使が行われ、こちらにおられる『融合体』の方によってそれが防がれました」
「ひょっとして昨日のミサイル…、あれは夢世界の機械夢が撃ったものだったの?」
「そうです」
ミズキの質問にゼルコヴァは冷静に答えた。
「夢世界に存在する夢の全てが善良で平和主義というわけではありません。機械夢が出現する遙か前からも邪悪な意思を持った者は夢世界に存在しました。しかしそうした勢力の存在は限定的でしたし、万一暴走したとしてもそれを食い止めることはできました。ましてや私達夢世界の存在をも脅かしかねない『人間界の人間の掃討』などという発想など有り得ませんでした。しかし機械夢の考えは違っていました」
「いくらAIでもそんな馬鹿な考えを起こすなんて…」
思わず立ち上がるミズキ。
「ミズキ、あなたのその気持ちはよく判る。でも、現状いまだに不完全なAIの状況、特にハルシネーションをベースとしたAIの発想では有り得る話よ」
ミズキをミノリがたしなめる。
「でも…」
「ミズキ、あなたは純粋なAIでは無いでしょ。超夢現体を身体の中に取り込んでいる。しかもユウさんからは心のデータの提供を受けている。あなたのAIは巷に溢れるAIとは全く次元の違う、より人間に近いもの。自分の尺度で考えないほうが良いわ」
力なく席に座るミズキ。
「ミノリさん、私は人間界の人工知能に対する見識をあまり持ち合わせていない。できる事なら複数の人間から人工知能に関する知見を伺いたいと思っています」
ゼルコヴァがミノリに対して新たな提案を持ちかけてきた。
「…そうですか。分かりました。人選はこちらに任せて頂いてよろしいですか?」
「お願いします。そしてできれば、レミアさんには夢世界に来て頂いて、で急速に勢力を伸ばしている『機械の夢』の活動を食い止めてほしいのです」
「『機械の夢』の活動を食い止めるための作戦や見通しはあるのですか? 例えば『機械の夢』そのものを消滅させなきゃいけないのか、それとも『機械の夢』の過激な思想を持つ一部のみの活動を止めればいいのか…とか考えられます。方向性次第では対応方法も変わってきますし、掛かる時間や労力も違いますから」
今まで沈黙していたユウがここで口を開く。
「私達は『機械の夢』そのものを全否定するつもりはありません。しかし『機械の夢』が人間に危害を及ぼす事は、夢世界そのものの存続問題にも関わってきます。何しろ機械以外の生命体の活動の基礎となる人間の夢が失われるのですから…。それだけは避けなければなりません」
「つまり『機械の夢』の中でも過激性を持つ思考や活動を止めればそれで良いわけですね」
「もちろん再発を防ぐ必要もあります」
「その辺りは今後の打合せで詰めていきましょうか」
ミノリが2人に声を掛ける。
「…そうですね。まだ情報も不足していますし、それが揃ってからでも遅くないですね」
ゼルコヴァの言葉にユウも少し胸をなで下ろした様子。
「あ、あの…」
不意に声を上げたのはレミア。
「すみません、ゼルコヴァさん。あたしの過去のこと、ご存じのことを教えて頂けませんか?」
「…いいですよ」
穏やかな表情で応えるゼルコヴァ。
「あなたは夢世界の中でもとても特別な存在なのです」
「…と言うと?」
「特異点が人間界、魔界、そして夢世界が濃密に接近したエリアであることはご存じですね」
「はい」
「そして人間界においては、特異点は不定期に場所を変えます」
「はい」
「場所が変わる際、一旦特異点は人間界から消えます。そして別の場所に特異点が現れるのです」
「はぁ…」
「そしてあなたは『特異点の道しるべ』として必ず人間界に現れ、特異点が消えると人間界に戻る存在なのです」
「特異点の道しるべ?」
「あなたは夢世界と人間界を結ぶメッセンジャー的な存在として夢世界で生まれてきたのです。ですから強力なテレパシー能力を持ち合わせるとともに、人間界の生物と融合することができる、とても特別な存在なのですよ」
「え…」
「夢世界と人間界との繋がりは極めて重要。その夢世界の存在を人間に示し、人間の夢をもっと育てる。それがあなたの役割なのです」
「…」
「あなたは夢世界と人間界を行き来する度に記憶がリセットされるはずです。それは先入観なく人間界の生物と融合できるようにするためなのです」
「…だから私の身体の融合体にレミアの身体の遺伝子と同じ遺伝子があるのね」
ミズキがはっとした。ミズキの身体の中にある融合体の細胞の中にある夢世界の生命細胞の遺伝子ははるか80年前に採取されたもの。その遺伝子はレミアの遺伝子と一致していた事が既に判っている。
レミアは呆然としたまま。ユウがレミアに近づき、脇から優しくレミアを抱き支える。
「…大丈夫だよ。あたし達なら、そんな宿命だって変えられる、きっと」
そう言いながらゼルコヴァの方を睨むユウ。
「あなたたちなら…もしかすると変えられるかもしれませんね。あなたたちの能力は、融合体としてのあらゆる想定を遥かに超えていますから…」




