Phase 18. 再会
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3(Nano Banana/Pro)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
「…」
目覚める。薄暗い。
<ここは…>
ゆっくりと身体を起こし周囲を見回す。石造りの牢獄。鉄格子の向こうにある廊下の薄暗い明かりが牢獄に差し込んでいる事が判る。窓らしきものは見えない。サツキ自身はベッドのような石造りの台の上で寝ていた。台の上には薄いマットレスのようなものが敷かれ、その上に白いシーツが敷かれている。気温は暑くも寒くもなく、牢獄にしては快適。
サツキは自分の手を見てはっとする。両手とも鬼の手のまま。そして、ここに来る前の記憶がようやく蘇った。レルフィーナに打ち込まれた黒い球を身体から引き離した直後、サツキ自身が黒い球に飲み込まれてしまったのだった。そしてそこで記憶は途絶えた…。
周囲を見回すが、黒い球は見当たらない。
<ここの外はどうなっているんだろう…>
サツキは透かし見の術や心眼の術を使って、外の様子を調べようとした。しかしそのいずれも徒労に終わる。牢獄の外の様子が全く分からないのだ。まるで牢獄の外が何かの結界で閉ざされているように、全ての知覚が遮断されてしまっている。
<それなら…>
立ち上がるサツキ、鬼の手と化した両手で鉄格子を掴む。そして力いっぱいに鉄格子を曲げようと試みる。
「…ふっ! ん…」
しかし鉄格子はびくともしない。諦めて、サツキはもといたベッの様な台に腰掛ける。
[変化]
サツキは両手を人間の手に戻し、衣装も白装束から黒装束に変えた。
<結界が張られていると、その外に転移するのも駄目そうね…。手詰まりか…>
横になるサツキ。
それからどのくらい時間が経過しただろう。牢獄の外で扉を開け閉めする音が聞こえた。
<?>
誰かがサツキのいる牢獄の方に近づいてくる。そして現れたのは、黒いメイド服を着た黒い肌の女性のような姿。目が赤く妖しく光る。そしてその女性は、トレイの上に乗った何かを持っていた。
<え…>
凍り付くサツキ。その女性の姿をサツキはどこかで見たような…。
その女性は牢獄の鉄格子の扉を開け、中に入る。
「お食事をお持ちしました」
女性の声にサツキは鳥肌が立った。忘れたくても忘れられない過去が、サツキの頭の中で猛スピードで蘇っていく。
「ヨシエ…あなたもしかしてヨシエなの!」
それは今から15年前の出来事。
ある児童養護施設に2歳の女の子が預けられた。名をサツキという。
両親から激しい虐待を受け、その後の養育に懸念があったことから、当初は児童相談所で一時保護となった。しかしサツキが一時保護となった後、その両親は消息を絶つ。他に頼る身寄りも無かったことから、サツキはこの児童養護施設に入所することになった。
その約1ヶ月後、他の乳児院からサツキのいる児童養護施設に2歳の女の子がやって来る。名前はヨシエ。彼女が1歳の時に両親が事故で亡くなり、やはり身寄りが無かったため。サツキは乳児院に預けられていた。乳児院は2歳児までの保護となっているため、こちらの児童養護施設に転所してきたのだ。
やがて2人はこの児童養護施設の中ですくすくと仲良く育っていく。ただ、この児童養護施設には他の一般的な児童養護施設とは異なるある特徴的な教育が行われていた。2人が住んでいた地域は遙か昔から『忍びの郷』として多くの忍者・くノ一を輩出していた。現代に於いてはそれらの技術を継承しつつスパイや諜報・工作員を輩出していた。そのため児童養護施設ではありながら、2人に対してもくノ一兼諜報員としての英才教育が実施された。2人はその環境下でたくましく成長し、やがて児童養護施設を出てそれぞれ別の家庭に養子として迎えられる。
養子縁組先としてサツキが迎えられたのは東島家、ヨシエが迎えられたのは曲家である。それぞれが養子先に移ってもなお、くノ一兼諜報員としての英才教育は続く。
しかし8歳頃になってくると、2人の実力に大きな差が出始める。ヨシエの方は体力や技能で極めて優秀な成績を収めていたのに引き換え、サツキの体力や技能は伸び悩んでいた。そこでサツキの育ての両親は郷の他の者とも相談の上、サツキに対してある人体改造術を施すことを決断する。それは通称『練り込み』と呼ばれる忍術の秘術だ。サツキの身体に様々な動物の身体を練り込みサツキの身体と一体化させ、それらの特質をサツキに与えようというものだ。動物だけで無く、人外の妖怪や魔物といったものも『練り込み』の対象となったことが、サツキの運命を大きく変えていく。
サツキ13歳。既に身体には多くの動物や物の怪の身体が練り込まれ、多くの特殊能力を獲得していた。ヨシエもまた自らの体力や技量を大きく高め、サツキと互いを理解しながら切磋琢磨していた。時間の余裕があるときは互いに仲良く笑い合い、良好な関係を築いていた。
そしてサツキに対して新たな『練り込み』が施されることになる。サツキには『ある強力な怪物』としか知らされていなかった。
「あぁーっ!」
『練り込み』の秘術が施され絶叫するサツキ。これまでの『練り込み』とは明らかに違う違和感。そしてサツキの身体に染みこんでいく強大な力。全身の血液が湧き上がる様な感覚。全身から汗が吹き出し、一時意識も遠のく。このまま死んでしまうのでは…そんなふうにさえ思えた。
『練り込み』の秘術が施されてしばらく経ち、意識を取り戻したサツキ。その自分自身の変化にサツキは大いに戸惑った。身体からは未知なる力が満ちあふれ、思考もより鮮明になり、まるで別人のようになった感じだ。身体から湧き上がる不思議な力が、サツキの超人的な能力を飛躍的に高めていた。
明くる日、サツキは自身の能力に驚くことになる。遠くの場所を透視したり、離れた場所に瞬間移動したり、相手を自分の意のままに操ったり、空中に浮遊したりなど、これまで出来なかったことができるようになっていた。身体能力も明らかに向上している。
その日のお昼休み、昼ご飯を食べたあとヨシエとおしゃべりの一時。
「サツキ、そういえば今日のサツキの動き、すごくキレが良かったね。昨日の『練り込み』で何を練り込まれたの?」
「…私もよく判らない。『強力な怪物』とは聞いているけど、具体的な怪物の名前は教えてもらえなかったの。ヨシエは何か聞いてる?」
「私が知ってるわけ無いじゃん」
あどけなく笑うヨシエ。
「でも、色々な超能力持ってて、身体能力も優れた怪物って何だろうね? 鬼とかでもないでしょ」
「鬼の身体は3年前に練り込まれた」
「じゃあ違うか…」
「…ねぇ、ヨシエ。その右手の傷どうしたの?」
ヨシエの右手の傷をじっと見つめるサツキ。
「あ、これ? さっき手裏剣の訓練しているときにやっちゃってさ…」
あっけらかんと笑うヨシエ。しかしサツキがその傷を見たままじっと動かない。
「…どうしたの?」
不審そうにサツキを見るヨシエ。サツキの様子が明らかにおかしい。
「…血…」
「ケガすりゃ血が出るのは当たり前じゃん」
「…欲しい」
「え?」
サツキの言葉に耳を疑うヨシエ。しかしその瞬間ヨシエの意識が途切れた。
サツキはヨシエの首筋に噛みつき、ヨシエの血を吸い始めていた。サツキも最初自分が何をやっているのかよく判らなかった。しかしヨシエの血を吸い続けているうちに、自分が恐ろしいことをしていることに気づく。必要な量の血を吸い終え、サツキがヨシエの首筋から口を離す。そしてヨシエは我に返った。
「ねぇ、さっき私の血を『欲しい』って言わなかった?」
サツキを問い詰めるヨシエ。その直後サツキは両手で自分の顔を覆い、突然泣き始めたのだ。
「え…?」
「ごめんなさい…。ヨシエ、本当にごめんなさい…」
「…どうしたの急に? 何があったの?」
それでも泣き続けるサツキ。
「泣いてばかりじゃ分かんないよ」
しばらく泣き続けていたサツキが、ようやく重い口を開く。
「私、あなたに取り返しのつかないことをしてしまった」
「何が?」
「私に練り込まれた怪物の正体が分かったの。…吸血鬼だった」
「え…」
「そして私、あなたの血を吸ってしまったの」
「え、いつ?」
「あなたは覚えていないはず。その時だけ私があなたの意識を奪ったから…。でも吸血鬼に血を吸われてしまったことは事実。だから…あなたも吸血鬼になってしまった」
「…」
「私が吸血鬼だと気づいていたら、あなたにこんな迷惑を掛けることはしなかった。本当に取り返しのつかないことをしてしまった。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい…」
再び泣き出すサツキ。
「しょうがないよ。サツキも知らなかったんでしょ」
優しく微笑みかけるヨシエ。
「…うん」
「2人で吸血鬼として生きていこう。これ以上被害者を増やさないように、互いの血を吸い合ったり、他の獣の血を吸ったりして、生き延びていこう」
「ヨシエ…本当にごめん」
抱き合う2人。
それから2人の生活は変化した。2人とも能力は大幅に向上したが、週に一度は血を吸わないとならなかった。当初は互いの血を吸い合っていたが、それで身体が持つはずもなく、やがて獣の血を吸うようになった。そうして約1年半の月日が流れた。
しかし運命の日が訪れる。ヨシエが吸血鬼であることが育ての親にバレてしまったのだ。ヨシエの育ての親、曲家は別名『魔狩家』とも呼ばれる人外の魔物狩りを得意としていた一族。その一族の中に吸血鬼がいたということで、ヨシエの存在は曲家の存続に関わる一大事となった。
ヨシエが吸血鬼であるとバレて3日後、サツキはヨシエから呼び出された。
「ヨシエ…ごめん、私のせいで」
「気にしないでサツキ、あなたにはとても大事なお願いがあるの。あなたにしかできないこと」
「何? 私でできる事なら何でもする」
「…ありがとう。サツキ、私の身体の血を全部吸って、私の身体を灰にして」
「え…」
「あなたに血を吸われて死ぬなら私も本望。私はもう生きていけない。たとえ逃げ出したとしても、私はいずれ曲家の人たちに捕まって殺されてしまう。だったら、あなたに殺されたほうがよっぽどマシ」
「そんな…。嫌だよ、ヨシエを殺すなんて。それより、なんとか生き延びる方法を考えようよ」
「私も一生懸命考えた。でももう覚悟を決めたの」
「そんなの勝手だよ…」
泣き出すサツキ。そんなサツキをヨシエは優しく抱きしめた。
「サツキ、私はあなたと出会えて本当に感謝している。あなたには何としても生き延びてほしい。私が天国に行くか地獄に行くか分からないけど、私はずっとあなたを守り続ける。約束する」
「ヨシエ…」
しばらく2人は抱き合って泣き続けた。そして自分の運命を呪った。
2人はようやく落ち着きを取り戻す。そして互いを見つめ合う。
「サツキ、お願いね」
「…いつか天国で会おうね」
「私はいつもあなたの側にいるよ」
サツキはそっとヨシエの首筋を噛む。
「サツキ、ごめんね。ありがとう。とっても幸せだよ。嬉しいよ。またね…」
サツキはヨシエの血を吸い続ける。どれ位経っただろうか。穏やかに微笑むヨシエは静かに真っ白な灰になっていった…。
「ヨシエ…あなたもしかしてヨシエなの!」
「ええ。お久しぶり」
立ち上がるサツキ。ヨシエは食事の載ったトレイをサツキの脇に置いた。
「ヨシエェ…」
ヨシエに抱きつくサツキ。ヨシエもサツキを優しく受け止める。ボロボロと涙をこぼすサツキ。ヨシエの目からも一筋の涙が流れた。
「サツキ、生きてて良かった。少し身体がたくましくなったね」
「ヨシエも元気で良かった」
「約束通り、あなたのことはずっと魔界から見守っていたよ。素敵な人たちに出会えたんだね」
「うん…」
しばらく抱き合った後、2人は離れた。
「サツキ、あなたは魔界の王の子、ジェノ様に捕まえられたの。私は今はジェノ様のメイドとして仕えている」
サツキはジェノのことをユウ達から聞いていた。
「メイド…。もしかして、いじめられてない?」
「ううん。ジェノ様は私にはとっても優しく接してくださっているわ」
「そう…」
ヨシエは寝床の上に置いていた食事の載ったトレイを拾い上げ、サツキの方へ差し出す。
「粗末なもので悪いけど、食べて。大丈夫、毒は入ってない。味も丁度いいよ。私が準備したから」
ヨシエから食事の載ったトレイを受け取るサツキ。
「…ありがとう」
「たぶん食事が終わった頃に、ジェノ様があなたと会われると思う。そこでたぶん色々なお話があるはず。ジェノ様からは私に、その場に一緒にいるよう指示されたから…」
「そうなの…」
「でもこれだけは覚えておいて。恐らくジェノ様はサツキにとても厳しい要求をしてくると思う。その時私を人質として使うと思うの」
「…うん」
「私のことは気にしないでいいからね。私は魔界で死んでも人間界で新たな命に生まれ変われるから。だからサツキは自分の信じる道を進んで欲しいの」
「ヨシエ…」
「生まれ変わって、もしあなたと出会うことができたら『素敵なオバサンになっちゃったね』って言ってあげるから」
「何それ。ひどいなぁ~」
クスクス笑うサツキ。しかしサツキにはヨシエの心遣いが深く心に染みる。
「それじゃ私、一旦下がるわね」
「…わかった。ありがとう」
そう言うとヨシエは牢を出て廊下に出た。そして奥へと消え、遠くで扉を開け閉めする音。
食事を摂りながら、あれこれ考える。
「何故私は捕らえられたんだろう?」
深く深く考える。
「もし私が邪魔ならとっくに殺しているはず。でもそうしないってことは、私に利用価値があるって事なんだろうな…」
あれこれ考え筒も食事を終えた頃。廊下の奥から扉が開く音。そして姿を現したのはヨシエ。ヨシエは牢の扉を開けた。
「サツキ、来て。ジェノ様のところに案内するから」
「わかった」
牢を出るサツキ。廊下の奥には鉄でできた扉が開いている。ヨシエの後について廊下を進むサツキ。そしてヨシエと共に廊下の扉を潜った瞬間、辺りの空気の流れや光景が一変する。こうこうと明るい照明の光が降り注ぐまるで宮殿の謁見室のような広間。後ろを振り返ると先程まで自分達が通っていた薄暗い廊下は消え、一面白い壁になっている。
「…瞬間移動したの?」
「ええ。さあ、こちらへ」
ヨシエの後に続き部屋の奥へと進む。中央奥の1段高い巨大な玉座らしき椅子に誰かが座っているのが見えた。近づくにつれその姿がはっきり見えてくる。頭に2本の角があり、少年のような姿をしながらもおびただしい威圧感を漂わせている人物。サツキは直感でそれがユウから伝え聞いていたジェノだと理解する。
ジェノの座る王座の下、右側の方に歩み寄り、ジェノに深々と一礼するヨシエ。
「ジェノ様、サツキを連行いたしました」
「ご苦労」
ヨシエは脇に退き、サツキの方を向く。
ジェノが静かに口を開く。
「サツキとやら、君は『魔物と人間の融合体』と言う大変素晴らしい能力を獲得しているようだね。一体どうやってその体と能力を獲得したのかね?」
「…私達の郷で古くから研究され編み出された秘術で、魔物や獣の身体を人体に練り込むことで、人体の能力を強化する手段として、私に術が施されました。私達の郷はは昔から戦闘や諜報を生業としていましたので…」
「ほほう…。興味深い。ここにいるヨシエも同じ郷の出身と聞いたが、彼女にその秘術が施されなかったのは何故かね」
「彼女は元々人間としての能力が極めて高かったからです。逆に私は大きく劣っていたので、無理矢理にでも能力を高める必要があって、術が施されました」
「面白い。実に面白い。そして君は魔族の持つ優れた能力を獲得したと言うわけだな」
「私自身が望んでいたわけではありませんが…」
「ところでサツキ、僕は君のその能力を買って、君に『仕事の依頼』をしたい」
「『仕事』…ですか?」
「そう」
「内容は?」
「レルフィーナ、ユウ、レミア、そしてミズキ、夢世界と人間の融合体に関わるこの4人を人間界から抹殺して欲しい」
サツキの嫌な予感が的中し、心が凍り付く。
「達成すれば、君には巨万の富を約束しよう」
「拒否すれば?」
「拒否すれば、こうなる」
ジェノはヨシエの方に手をかざした。
「きゃあっ!」
ヨシエの悲鳴。何と、ヨシエの身体の下半身が見る見るうちに石化していく!
「やめて!」
思わず叫ぶサツキ。
「僕は彼女の全身を石に変える事だってできる。全身が石になってしまったら、彼女は永遠に人間界に転生することはできない。風雨にさらされて朽ちて消えゆくのみだ」
苦虫を噛み潰したような表情になるサツキ。
「それじゃ『仕事の依頼』じゃなくって『脅迫』でしょ!」
「君はかつて彼女を人間界で殺したんだろ? 彼女が永遠に葬り去られたってなんともない筈じゃ無いのか?」
「ふざけないで!!」
サツキの目からわっと涙があふれ出す。
「お前に…お前に何が分かるの!」
「口を慎め!」
ジェノがサツキの方に左手を向けた瞬間!
「ギャアアアアッ!!」
強烈な雷撃がサツキの全身を貫く。思わず床に倒れるサツキ。顔は苦痛で歪む。
「さあ、僕の依頼を黙って受け入れろ」
「サツキ、ダメ。私のことはほっといて!」
「うるさい!」
「ぎゃああああ!」
ジェノはヨシエに向かって雷撃を放った。その影響でヨシエは意識を失う。
<助けて…ユウ>
思わず心の中で呟くサツキ。
≪ジェノの依頼を受け入れて≫
サツキの中でユウの心の声が聞こえた。
<でも…>
≪大丈夫、あたしに任せて≫
サツキは少しふらつきながらも身体を起こし、ジェノの方を向く。
「わかった…。あなたの仕事、引き受ける」
ニヤリとほくそ笑むジジェノ。
「最初からそう言えば良いんだ」
ジェノはサツキの方に左手を差し出す。反射的に身構えるサツキ。
「今から僕の血を君の中に入れる。もしも君が裏切ったら、僕の血が君を殺し、それを感知した僕がこのヨシエを石にする。お前はもう、逃げられない」
ジェノの手から黒いオーラが吹き出し、サツキの身体を包み込もうとした。その時サツキの全身が白い光を放つ。
「なに!」
「そんな事、絶対にさせない!」
サツキの身体から放たれた白い光がゆらゆらとうごめき、サツキの隣に立つ人物の姿を描き出す。
<もしかして…>
サツキの隣に現れたのは…白く光り輝くユウの姿! しかも衣装はレルフィーナのコスチュームを着用している。そしてジェノの魔力を、ユウは自らの魔力で跳ね返した。
「きさま…サツキの身体の中にいたのか!」
ジェノが怒りの表情を露わにした。
「ええ、サツキを守るためにね」
「なぜだ! 魔物との融合体の中になぜおまえまでいる! お前にとっては魔物は敵の筈だろ!」
叫ぶジェノ。それを聞いて高笑いするユウ。
「頭が固いのね。魔物が人間界に被害を与えるようなら、あたしは魔物に立ちはだかる。でも魔物でも人間に害を与えないなら、あたしは魔物でも受け入れる。サツキの中の魔物はサツキがしっかりコントロールしている。だから私はサツキの中に入って、彼女の支えになっているの。サツキは私の大切な仲間だから!」
その言葉にサツキの目から一筋の涙。
「サツキと一緒に人間界に帰らせてもらうわ。あと…」
そう言うとユウはヨシエの方に手をかざす。するとヨシエの意識が戻り、石になっていた下半身も元通りになった。
「ヨシエさんには石化と麻痺の耐性を付与しておいたからね」
そしてサツキとユウの身体がゲートの光に包まれ、ジェノらの前から消失した。
「おのれ…」
「テレパス・リンクも通じない…。どこに行っちゃったの…」
両手で顔を覆い泣き出していたレルフィーナ。
次の瞬間、レルフィーナの足元付近の空間が歪み、白く光る。
「なに? もしかして…ゲート?」
光の消失とともに現れたのは…
「え?」
「サツキと…」
ミズキ、ミノリ、レミア、そしてレルフィーナが唖然とするのも無理は無い。サツキとともに現れたのは、白く光るオーラを纏った、レルフィーナコスチュームのユウ。
「戻ってきたよ」
レルフィーナコスチュームのユウはそう言い残すと、サツキの身体の中に吸い込まれて消えた。
「あたしの血が…実体化したんだ」
ぽつりと呟くレルフィーナ。
サツキがゆっくりと目を開く。
「サツキぃ」
ベッドを飛び出しサツキに抱きつくレルフィーナ。
「ありがとう! ほんとうにありがとう!」
しかしサツキの表情は複雑だった。
<この場にヨシエがいてくれれば…>




