Phase16 情報共有
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3(Nano Banana/Pro)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
ミズキやユウ達が海に行っていた頃、ミノリのもとには海老ヶ瀬から『お互いの情報交換をしたい』という申し出が届いていた。ミノリはA国本国と連絡を取り交渉戦略を調整。そして翌々日朝10時、ミノリの家の小会議室に海老ヶ瀬達を招いて、交渉が始まった。
A国側はミノリとミズキ、財団側は海老ヶ瀬、ヨッシー、サツキが出席。内容の進捗に応じて適宜ユウやレミアに出席してもらう方式が採られた。事前に双方の保有情報を交換している。ミノリの見込みとしてはその日で会議を終えられると考えていたが、延長したり途中で決裂したりする可能性も無いとは言えなかった。
「改めまして、海老ヶ瀬です」
「助手をしています、島見 ヨシハルと申します」
「同じく助手の東島 サツキです。よろしくお願いします」
「四ツ郷屋です。ご足労ありがとうございます」
「調査員の五十嵐 ミズキです、お見知りおきを」
互いに名刺交換を行い、席に着く。
「あれ? 財団事務所の住所…ここのすぐ近くじゃん」
ミズキが海老ヶ瀬達の名刺を見て驚く。
「実は、菖蒲塚さんのお宅の斜め裏の家をお借りしまして…」
「あ~、そういう事なんですね」
先般財団から送られてきた監視カメラ動画の中に、明らかにA国側設置の監視カメラ映像が混じっていて、おかしいなとは思っていた。そのカラクリがミズキの中で解けた。
小会議室には縦横2面計4面の液晶モニタが壁に設置され、左右をミノリ側と海老ヶ瀬側で分け合う。
「まず始めに、こちら側が行った行為に関して、全面的に謝罪を述べたい」
海老ヶ瀬が頭を下げる。
「ありがとうございます。私としては今までの件についてどうこう言うつもりはありません。むしろそちらの組織と協力関係を確立できればと考えています。それが互いの利益になると考えていますので」
ミノリの表情は穏やかである。
「ご配慮ありがとうございます」
「では、昨日双方で事前に保有情報を交換していますので、その擦り合わせから始めましょう。財団側から質問はありますか?」
ミノリの問いかけにヨシハルが口を開く。
「確認したいことがあります。『超夢現体が悪意、恨み、妬み、欲望などで超常能力を使おうとすると、能力が勝手に止まったり、融合そのものが解除されてしまったりすることもある』と報告書にありましたが、それは何らかの実験で確認したのですか?」
「ええ、うちのミズキがご存じの通りアンドロイドと超夢現体のハイブリッドなので、実際にそういう実験もしました。実験の結果ミズキは超夢現体の活動が強制シャットダウン状態になりました。超夢現体はアンドロイド側の動作にも介入していました」
「そのことから考えると超夢現体のコアにあたる部分が固有の潜在意思のようなものを持っていると考えたほうがいいのでしょうか?」
「恐らくそうでしょう。今融合状態にあるユウさん、レミアさん、そしてレルフィーナさんも、人格としてはユウさんやレミアさんの人格を適切に配分していますが、より深いレイヤーに超夢現体のコアがあって、スーパーバイザーとして機能していると考えたほうが良いでしょう」
「わかりました。大変興味深い内容ですね」
顎に手を当てながら頷くヨシハル。
「この超夢現体のコアが持つ『意思』の存在が、A国が超夢現体の軍事利用を断念する要因の一つになっています。教授、ご理解頂けましたか?」
「わかりました。それにしても、コアが存在するということで、『超夢現体とは何者なのか。超夢現体の出現に何者が関与しているのか』という新たな疑問が生まれますね」
「仰る通りです。少なくとも人間界でそのような意思を司る存在があるとすれば、いわゆる『神』的な存在でしょう。でも科学的に『神』の存在は確認されていない。私はむしろ『夢世界』側に超夢現体を司るものが存在すると考えたほうが自然だろうと思っています」
「ただ、夢世界の情報があまりにも断片的なんですよね。レミアさんからも聞き取りをしていますが、彼女の記憶も今ひとつ曖昧…。資料にも記しましたとおり、うちのミズキの体内にある超夢現体に含まれる夢世界側組織のDNAと、今のレミアさんのDNAが一致している点は注意する必要があります。ミズキの体内に組み込んでいる夢世界側生命体のDNAはA国が80年前に採取した組織を培養したもの。普通に考えればレミアさんが80年前に人間界に来ていたことになる。でも彼女にはその記憶が無い。妖精は夢世界でも長寿らしいので、世界を跨いで移動する際に記憶が欠落・消失した可能性が高いです」
「レミアさんが超夢現体のコアを内包していると考える事はできないかね」
「ただうちのミズキに組み込まれた夢世界側の細胞は組織培養で増殖させたもので、それ単体が意思を持っているとは考えにくい。なのにコアの意思の影響を受けている。そこで私が立てた仮説は『クラウド・コア』という考え方です。
「『クラウド・コア』?」
「ええ。細胞組織側の物理コアの他に、何らかの手段で通信を通した先にある『クラウド・コア』が別の場所にあって、そこからコントロールを受けている…と言う考え方です。ご存じの通り超夢現体はテレパシー能力を持っていますので、テレパシーは有効な通信手段になり得るでしょう」
「…なるほど」
「他には?」
「…いや。こちらが持っている情報よりもはるかに多くて体系もしっかりしている。参考になります」
「では海老ヶ瀬博士、私の方から質問させてもらっていいですか?」
「どうぞ」
「博士の方から頂いた資料を拝見すると、超夢現体に関する資料の他に、魔族に関する資料も豊富ですね。特に『魔族と人間の融合』という項目に大変興味を持ちました。そこについてもう少し詳しく教えて頂けますか?」
「ええ。まず紹介しておきますが、ここにいるサツキは、外見は普通の人間と変わりありませんが、体内には明らかに魔物の身体が埋め込まれています。自我は人間として確固たるものを持っていますが、体内には明らかに複数の魔物の身体が埋め込まれています」
「それで…あんなに能力使えるんだ」
驚くミズキ。
「彼女に会った時は気づかなかったのですが、彼女が使う忍術を幾つか見て『おかしい』と思って、彼女を徹底的に検査したんです。その結果『彼女は魔物と融合状態にある』という判断に至りました」
「魔物との…融合体…」
ミズキはうろたえる。
「うちの財団の方針としては『科学的事実は全て公開する』と言う方針があります。当然サツキのことも科学的事実として公表すべきでしょう。ただサツキの身体にはまだ未知の部分も少なくない。自我は完全にサツキ自身のもので、今のところ融合した魔物も危険性の高い吸血鬼などとの融合は無く、細胞組織や能力の掌握はサツキが自律的にに行えている。だから私も上層部と掛け合って、サツキの件はまだ非公開としています」
「そういう事だったんですね。サツキさん、この前はありがとうね」
「どういたしまして」
ミズキの言葉にサツキが笑顔で応える。
海老ヶ瀬の説明が続く。
「ご存じの通り、人間界には今も様々な未知の生物や存在がいます。それらの大半は『魔物』であり、魔界との関わりを持っていると私は考えています。魔物は過去から綿々と人間界に入り込んで幾つもの伝承が残っているのはご存じの通り。我々の財団の当初目的は『魔物の存在の解明』から始まっています。それは魔物が人間達に及ぼす被害を未然に防ぐことに繋がるからです」
「その過程の中で、『夢世界』『魔界』の存在にたどり着いた訳ですね」
「魔物の由来を調べていく過程でまず最初に『魔界』の存在を認知しました。しかし『魔界』の存在だけでは説明がつかない魔物もいた。そこで新たに認知したのが『夢世界』の存在だったというわけです。そちら側で関係を持っていらっしゃるレミアさん、我々の定義では彼女も『魔物』に属するわけです。彼女は『夢世界の魔物』と言う事になります」
「そう…なんでしょうね。確かに人間に害を及ぼす可能性のある魔物についてその存在を明らかにすることは私も否定はしない。しかし超夢現体は人に害をもたらすことはない。ただその超夢現体を悪用しようとする考えを持つ者がいる事も事実。だぜなら超夢現体が持つ力はあまりにも強大だから。そういった事は何としても避けなければならない。そのために超夢現体の情報は絶対に公開してはならない…そう思うのです」
「主旨は理解しました。我々も今回の内容をもとに上層部に掛け合ってみましょう」
「感謝します。よろしくお願いします」
軽く会釈するミノリ
「他には…」
「私からサツキさんに質問しても良いですか」
ミズキが発言を求める。
「どうぞ」
「サツキさんが取り込んでいる魔物って、具体的にはどんなものがあるんですか?」
「…」
少し戸惑うサツキ。
「恐らく今後、あなたと連携して事案に対処しなければならなくなる事も有ると思うんです。なので事前情報として、ある程度能力の範囲を知っておきたいな…と。先日あなたの人魚姿見ましたけど、あの泳ぎの速さは私達でさえ驚きました。もっと凄い能力を持っているんじゃ無いかな…と思って」
「…あれは人魚というより半魚人の身体を練り込まれた影響です。他に代表的な魔物としては鬼…とかですかね」
「鬼…ですか」
「他については正直あまりおおっぴらにしたくないので、できればミズキさんやユウさん達の『融合体仲間』で情報を共有できれば…と思います」
「…わかりました」
「他にはありますか」
ミノリとミズキが顔を見合わせてうなずき合う。
「ありません」
「それでは今後の情報共有体制について協議しましょう」
海老ヶ瀬が切り出す。
「では財団側のご提案をお願いします」
海老ヶ瀬から資料が提示される。
「基本的には、A国側の方では超夢現体や夢世界に関する情報を主に収集。財団側では魔界や魔物に関する情報を主体的に収集するという分担を考えています。そしてそれぞれが収集した情報を共通の共有プラットフォームに整理保管するという方針で行きたいと考えています。もちろんA国側で魔界や魔物の情報を得る事も有るでしょうし、我々財団側でも夢世界や超夢現体に関する情報を得ることもあるでしょう。その際も情報共有プラットフォームを通じて情報を共有します」
江木ガセに続いてヨシハルが説明する。
「情報保管の安全性の観点から、情報共有プラットフォームの保管リソースは双方で準備し、それを適宜で同期する方法を採りたいと思います。もちろん情報のバックアップリソースについては双方で用意します。同期システムについては財団側で既にプロトタイプがあるのでこれを流用します」
「わかりました。基本方針はそれで良いと思います。ただ、本格稼働にあたってはA国のシステム管理側の監査を財団側でも受けて頂くことになりますので、ご承知頂けますようよろしくお願い致します」
「分かりました。島見もいいな」
「問題ありません。承りました」
「ありがとうございます。次にこれから起こりうるインシデントの対応方針についてとなります」
「はい」
「現在ユウ、レミア、ミズキの超夢現少女3名が魔族感知能力を保有し、魔族の人間界出現を感知した時点で対応して頂いています。出動時には私の方にも連絡をもらう体制ができています。当面はこれを維持しますが、今後は出動情報を財団側にも流すということでよろしいですか?」
「はい。それでよろしくお願い致します。また、うちのサツキのほうで支援することも可能と思いますので、その際は遠慮無くご連絡ください。サツキも優秀なくノ一ですので、お役に立てるはずです」
「助かります。そちらの方でも魔族出現等のインシデントを探知した場合は速やかにこちらへも連絡ください」
「わかりました」
「それじゃ、海老ヶ瀬博士、ユウさんとレミアさんも呼びましょうか?」
「…来て頂けると助かります」
「じゃあミズキ、2人を呼んで」
「わかりました…ふふっ」
「どうしたの?」
「『どんな格好していったらいいの?』ですって。冗談で『水着姿で来なさい』って言ったらガチでビビってました」
思わずサツキも吹き出す。
「『ビジネスの場なんだから、ちゃんとした格好で来なさい』って言っときました」
「それならいいけど…」
不安層が表情のミノリ。
「今連絡来ました。瞬間移動で正面に現れるそうです」
ミズキのそのことが終わると同時に、ユウとレミアが壁の液晶モニタ前に現れた。
「初めまして。菖蒲塚 ユウです」
「初めまして。レミア・レミルです」
2人とも少し緊張した面持ち。
財団側の3人が立ち上がり、それぞれが2人に名刺を渡しながら自己紹介。そして席に戻る。
それを見届けてミズキが口を開く。
「2人に対しては、今日の会議の内容を私がテレパシーで送ってあります。届いているよね」
「あ、はい。皆さんが協力関係になれたようでよかったです」
安堵の表情を浮かべるユウ。ユウにとってはギスギスした人間関係が一番苦手だったので、ミノリの配慮は本当にありがたかった。
「それにしてもサツキさんが魔物との融合体だったなんて驚きました。これからも仲良くしてくださいね」
「ええ」
「でもサツキさん…」
ユウが少し腑に落ちない表情でミノリに尋ねる。
「何?」
「私達、魔族の存在を検知する能力があるはずなんですけど、サツキさんが近くにいてもその魔族検知の反応が出ないんですよ。ミズキもそうでしょ?」
「言われてみれば、確かに…」
「何故だと思いますか?」
「私に聞かれても…」
困惑するサツキ
「サツキさんがこの前人魚の姿に変身したときも魔族の反応が出なかった。サツキさんが練り込まれた魔物の力を使っているとすれば、反応が出るはずなのに…」
「それは恐らく、サツキが人間として魔物の力を完全に制御しているからではないのかね?」
海老ヶ瀬が口を開いた。
「サツキはくノ一としてとても厳しい鍛錬を積み重ねてきたから、人間として魔物の力を使いこなしている…そう考えるのが自然と私は思っている」
「ユウさん…」
サツキが席を立つ。
「もし何なら今、実験してみますか」
「実験?」
きょとんとするユウ。
「私が身体の一部を魔物のものに変化させた時にユウさんがどう感じるか…」
そう言いながら、サツキが液晶モニタの前に進む。
「いまはまだ魔族とは検知していませんよね」
「…ええ」
「じゃ、今から私の左手を鬼の手に変化させます。ユウさんがどう感じるか教えてください。いいですか?」
「…わ、わかった。無理しないでね」
不安そうなユウに軽くウィンクで応えるサツキ。
「それじゃいきますよ」
サツキが左手を自分の前に差し出す。
[変化]
するとサツキの左手が見る見るうちに鋭い爪を持った鬼の手に変化していく。
「おお…」
周囲から同様の声が聞こえる。
「ユウさん、どうです?」
「…ごめんなさい。まだ何も感じない。ちょっとその手に触らせてもらっていい?」
「ええ、どうぞ」
ユウが鬼の手と化したサツキの左手に優しく触れる。
「あ…変化した部分に直接触れてやっと魔族の反応を感じた。…でも、思ったほど感覚が強くない。やっぱり海老ヶ瀬さんが言うとおり、サツキさんが魔物の力を完全掌握しているから、弱い反応なのかもですね」
ユウが手を離す。
「サツキさん、わざわざごめんなさい。本当にありがとうございます」
「いいのよ。[変化]」
再びサツキの左手がもとの人間の手に戻った。
「貴重なものを見せて頂きありがとうございます」
ミノリもサツキに頭を下げる。
「この能力が役に立つ時が来るかわかりませんけどね。ちなみに鬼の力を使うと、もの凄い怪力や破壊力を発揮しますんで。必要なら…」
「そうね。ミズキ、あなたもサツキさんと仲良くするのよ」
「…うん、わかった」
ミズキが席を立ち、サツキのもとへ歩み寄る。
「よろしく」
右手を差し出すミズキ。
「そういえば2学期から同じクラスなんで、よろしく」
ミズキと握手するサツキ。
「えっ! ガチで!」
「本当なの?」
ユウも驚く。
「編入通知が来たの。みんな同じクラスよね」
「えーっ、やりにくいなぁ…」
困惑するミズキ。
「よろしくね。じゃあもうタメで呼んでいい?」
ユウは笑顔でサツキに声を掛ける。
「もちろんだよ、ユウ」
笑顔で返すサツキ。
「あと、レミアさんも、これからよろしく」
サツキはレミアにも握手を求める。レミアもそれに応じて握手。
<ん?>
レミアがサツキの手を握った瞬間、レミアは何とも言えぬ違和感を覚えた。何故かは分からないし、違和感も微弱なものなので、とりあえずは無視することにする。しかしレミアが違和感を感じたことはテレパシーを通じてユウにも伝わっていた。




