Phase 13. 魔龍襲来
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5/3(Nano Banana/Pro)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
強い雨の降る朝。ユウは朝食を終え、ベッドに横になっていた。
1学期の期末試験が終わりテスト休みの期間に突入。ユウにも少し心の余裕ができていた。またダークネス・レルフィーナの襲来以降、魔族の動きも一旦沈静化している。
ユウと同居生活するレミアもまた、ユウと同じくまったりとした日々を過ごしていたが、今日も今日で自分の寝床で眠っている。
(今日も1日雨か…暇だな~)
ユウの心の声がだだ漏れ
(レルフィーナに変身して、雲の上まで飛んでみたら? 多分気持ちいいよ)
レミアが応える。
(この前それやった。もうちょっと新しい楽しみ方無いかな~)
(贅沢な悩みよね~)
(まぁ~ね~)
一方ミズキの方はと言えば、アンドロイドとしての全身検査を受けている最中だった。ミズキは検査台に横たわり様々な検査機器が繋がれ、ミノリがミズキの各部の動作をチェックしていた。レルフィーナによって超夢現体の大幅増強を受けた事で、身体の自動修復能力が格段に向上しほぼメンテナンスフリーの身体に進化したミズキだが、時間を掛けての総合検査を行う機会がなかなか取れなかったため、テスト休みを機会に全身の総合検査が実施されていた。
ミズキの機能は生命維持と一部のセンサー類を除いてほぼ停止しており、身体も幾つかの部分が検査のため一部解体されていた。
「ミノリさん、おはよう」
ミズキに接続された端末から聞こえるミズキの声。画面にはバーチャルミズキの映像。
「おはよう、ミズキ。今日もアクチュエーターの調整作業をするわ。
「やはり相当痛んでいるんですか?」
「多少ね。でもレルフィーナがあなたにくれた融合体が機械駆動部まで自動修復をしてくれているから、思ったほど状態は悪くない」
「レルさんに感謝ですね」
『国際未確認生命体研究財団』のアジト。
リビングに置かれたデスクトップパソコンをヨッシーが操作し、隣にミズキと海老ヶ瀬が立っている。
パソコンに繋がっている4つのモニタには、分解されたミズキの姿。ミズキの身体を調整するミノリの姿、ベッドで寝転がるユウの姿、そしてレミアが寝ているはずの寝床が映っている、
「凄い光景らね」
しみじみ呟くサツキ
「分解されたアンドロイドとかメシウマすぎる…」
分解されたミズキを凝視するヨッシー。
「ヨッシー、目つきがやらしい」
サツキがヨッシーをたしなめる。
「あくまで技術者目線だって」
ムッとするヨッシー。
「それにしても『タバサ』の姿はどうにか写せないのか?」
後ろに立つ海老ヶ瀬が尋ねる。
「ダメですね。一体どんな光学迷彩能力を持っているんだか…」
「そもそもここにいるのか?」
「ケットの形が不自然ですし間違いないでしょう」
[心眼]
サツキの目が金色に淡く光る。するとサツキにはレミアの姿がはっきりと見えた
「『タバサ』いるよ。うつ伏せで可愛い顔してこっち見てる。」
サツキが瞬きをすると再び目が黒色に戻る。
「今度、赤外線の監視カメラでも設置するか」
「海老ヶ瀬さん、それはアリですね。
「えー、また私の仕事が増えるの」
サツキがぶーたれる。その直後…。
「あれ、みんな動きが急におかしくなった」
驚くヨッシー。画面の向こうで明らかに異変が起きていた。
「ううっ…」
突然の寒気に襲われ、身体を縮めてこわばるユウ。
「この感覚…魔族!」
レミアが人間サイズに大きくなり、不可視状態が解ける。
「ゆうちゃん…」
ミズキの方でも異変が起きていた。検査機器のアラームが鳴る。
「ミノリさん、魔族の出現を検知しました」
バーチャルミズキの表情が曇る。
「こんなときに…」
「ミノリさん、レミアからの交信です。繋いでいいですか?」
「繋いで」
画面上のバーチャルミズキの隣にバーチャルレミアが現れる。
「ミズキ、ミノリさん、おはようございます」
「れーちゃん、おはよう。よくここに潜り込めたね」
「超夢現体だもん、何だってできちゃうよ」
「ま、確かにね。ユウ姉は?」
「今ちょっと魔族の反応がキツくて伏せってる。だからあたしがここに来たの。ミズキも魔族検知したんでしょ」
「うん。でも今回は…」
「わかってる。だからこっちで何とかする」
「大丈夫?」
「もちろん! …これまではミズキに何度も助けてもらっているから、今回はあたし達だけで対処しなきゃって思っている」
「無理しないでね」
「分かってるって!」
ウィンクで応えるレミア。
「レミアさん、詳細な魔族の位置情報、把握できている?」
ミノリが尋ねる。
「ええ、おおよそは…」
「隣の画面に今の状況を出すわ。あなたたちも見えるはずよね」
ミノリが端末を操作し、2人の隣の画面に気象衛星が捉えた雨雲の画像が表示される。街に接近する巨大で濃い雨雲。一番雲の濃いところはまだ海上。
「ここに私が捉えた魔族の位置情報をマナに描画してもらうね」
雨雲の一番濃厚な部分に赤い帯が描かれた。
「これこれ! こんな感じ。今回の、めっちゃ長いの」
レミアにも隣の画面の画像は見えている。
「魔族の反応が出た直後に、大雨と暴風の特別警報が発令されている。それだけ急激に雨雲が発達したって事でしょうね」
「そもそも今回の雨、梅雨明け間際の大雨って事で前から警報級って言われていたしね」
心配そうなミズキ
「…ところで何か作戦はあるの、レミアさん」
ミノリが尋ねる。
「いや…特に。ひとまず思いつくのは多重分身して、大勢でこのでっかい魔族を向こうの魔界に送り返すのが策かなって…」
「私も多分そうする。今回はシャイニング状態になれないし、物量作戦で挑むしかないでしょうね。ねえれーちゃん、今のこの情報、ユウ姉の方に伝わってる?」
「うん、全部テレパシーで飛ばしてる」
「ん? …ミノリさん、ユウ姉から交信要求来ました。繋いでいいですね」
「ええ」
バーチャルレミアの隣にバーチャルユウが出現。
「ミノリさん、ミズキ、おはようございます。ご心配をお掛けしました」
「ユウ姉、大丈夫?」
「うん、魔族の反応が少し安定したからここに来られた。…ダークネスを取り込んだ影響なのかな? こんなに具合が悪くなったのは初めてだよ」
「…無理しないでね」
「うん。それで、さっき向こうに現れた魔族の姿を透視してみたの。映像をみんなに見て欲しいんだけど…」
「じゃあユウ姉、私をテレパシーで飛ばして。私がテレパシーで捉えた映像はミノリさんも見られるはずだから」
「今準備するわ」
ミノリが端末を操作。画面の一つにミズキの脳内イメージが映像化される。
「良いわ。送って」」
「じゃ、送ります…」
ミズキの脳内イメージにユウから送られた透視映像の動画が流れ始める。そこに現れたのは…。
「で、でっかい…龍?」
「そう、黒い龍。ここが顔の部分。目が赤く光ってる」
「…そういえばジェノも目が赤く光ってたし、ダークネスも目が赤く光ってたよね」
「ユウ姉はこの龍、どうするつもり?」
「…レミアは物量作成で…って言っていたけど、私は逆に『レルフィーナを巨大化』させて対応したほうがいいのかな…と思ってる」
「レルさんが巨大化!?」
驚くミズキ。
「れーちゃん、以前あたしとの雑談で『夢世界に住む龍』の事について聞いたことあるけど、覚えてる?」
「ああ…『天龍』のことね」
「魔界にも龍がいるのよね?」
「伝聞でしか聞いたことないけど、その中で最も強いのが『黒龍』なんだって。誇り高く知性も豊かで魔力も半端なく強いって聞いてる」
「あたしはその話を思い出したの。もしれーちゃんの言う通り『黒龍』が誇り高く知性も豊かだとすると、小さなあたしが束になって立ち向かっても逆に邪険にされるだけだと思うの。だからレルフィーナを巨大化させて、対等に渡り合って、できれば交渉で魔界に自発的に帰ってもらえれば…って」
「その作戦はユウ姉らしいけど、どうなんだろ? そもそも相手の意図が分からないと…」
「だからそこを聞き出そうと思うの、もしジェノの指示でこっちの世界に来たというのなら、その理由を聞き出さなきゃ…」
「場合によっては戦うことも考えないと…」
「分かってる。そうならないよう願いたいけどね。それじゃそろそろいかなきゃ…」
「気をつけてね」
バーチャルのユウとレミアが画面から消えた。
「さて…今回もあたしが行こうか?」
レミアがユウに尋ねる。既にユウは身体を起こしていた。
「いや、前回ダークネスのファーストコンタクトの時はれーちゃんに行ってもらったから、今回はあたしに行かせて。で、あたしの代役をれーちゃんにお願いしたいの」
少し考えるレミア。
「…それならあたしからもお願い。2人の融合比率を5:5に変更しない? 今はゆうちゃんのほうが7:3、あたしの方が3:7の融合比率でしょ。あたしもゆうちゃんの代役するんならより正確に代役こなしたいから」
「いいよ。じゃ…」
ユウが立ち上がり、レミアと向かい合う。レミアが両手を胸の前に広げた。
「じゃ、役割交替ね」
ユウも両手を胸の前に広げる。
「ついでにあたしは変身」
「じゃ、ゆうちゃん、いくよ」
「「せーの!」」
ユウとレミアが互いの両手をタッチし合う、その瞬間、2人の融合割合が5:5に変更され、レミアはユウの姿に、ユウはレルフィーナの姿に変身した。
「それじゃサツキ、頼むぞ」
「はいはい、仕事仕事…」
ブツブツ文句を言いながら、胸の前で印を組むサツキ。
[変化]
サツキの姿が普段着姿から黒装束姿に変身する。
「『ジニー』、置いていかないでね」
サツキは目を閉じ、印を組み替える。
[透かし見]
サツキの透視能力がレルフィーナを捉える。
[透かし影縫い]
サツキの影が空間を越えてレルフィーナのいる部屋まで伸び、レルフィーナの影に結びついた。
[隠れ身]
[浮遊]
[露払い]
次々と自分自身に術を掛けるサツキ。サツキの姿は見えなくなり、体がほんの少しだけ浮き、雨を完全に弾く能力が付与された。
<これで準備OK>
次の瞬間サツキの姿が瞬間移動する。レルフィーナが瞬間移動したことで影縫いで結びついたサツキも一緒にレルフィーナの近くに飛んだのだ。
巨大な雨雲の中に瞬間移動したレルフィーナ。その目の前に広がる光景にレルフィーナは改めて息を呑む。
<何て大きさなの…>
体長は20m程あろうか。巨大な黒い龍が雨雲の中に浮遊している。レルフィーナはその全体像を俯瞰できる位置にいた。雲が視界を遮っているが、レルフィーナの目はその雲を透過して黒い龍の全体像を捉えていた。
≪間違いない。あれは黒龍よ≫
レルフィーナのインナーセルフ内にいるレミアが教えてくれた。
<じゃあまず目の前でご挨拶…>
レルフィーナはふわりと黒い龍の顔の前に現れる。黒い龍の目が妖しく光る。
「こんにちは」
(きさまか、夢世界と関わる小さき者は…。さっきから気配は感じていたぞ)
大きな太い声のテレパシーがビリビリとレルフィーナの身体に刺さる。テレパシーなのにこの威圧感は凄い。
(ええ、私はレルフィーナ。夢世界の妖精と人間の融合体よ)
テレパシーなら身体の大きさに関係なく通じる。
(小さき者に用は無い。とっとと失せろ)
<やはりそう来ますか…>
(それは困るわ。私はあなたに用があってここに来たの。話くらい聞いてもらえない?)
黒龍の口がわずかに開く。奥からあふれ出す強烈な冷気!
(うるさい!)
その瞬間、龍の口から凄まじく強烈な氷の息が吐き出される!
(防御!)
レルフィーナは自分の前に念力で強固な防護壁を展開。
ガガガガガッ!
レルフィーナの展開した防護壁は、完璧にその凄まじい冷気を食い止める。
冷気はさらに強まる。それでもレルフィーナの防護壁はびくともしない。
何分か経った頃だろうか。急激に冷気の圧が収まる。透視すると龍が冷気を吐くのを止めたことが分かる。
<それなら…>
レルフィーナが念力で展開した防御壁を激しく細かく振動させた、その瞬間、防護壁に貼り付いていた巨大な氷の塊が粉々に砕け散り、細かな氷の粒は下に落ちていった。
(ほう…それなりの力は持っているようだな)
<それじゃ次のターン!>
レルフィーナは展開した防護壁を消し去ると同時に、ムクムクと凄まじい勢いで巨大化を始めた。どんどん大きくなり、龍の顔とレルフィーナの顔の大きさがほぼ同じになる。
(幻覚など我には無意味!)
龍が大きな声で一声吠えると、周囲の空気が凄まじく振動した。しかし巨大化したレルフィーナはびくともしない。
(…こいつ)
(ごめんね、この身体、幻覚じゃなくって質量そのものが爆発的に増加しててよ)
(ほう…)
(もっと大きくなることもできるけど、今は意味が無いのでやらない。これで身体の大きさも互角になったんで、対等に話し合わない?)
(話し合う…?)
(あたしの願いはただ一つ、この人間界に手を出さないでほしいってこと)
(…悪いがそれはできぬ相談だな。こちらにも明確な目的がある)
(目的?)
(そうだ。この特異点の中でより多くの魂を集める必要があるからだ)
レルフィーナ、息を呑む。
(なぜ?)
(魔界の力が夢世界の力よりも大きく減退している。これ以上進むと現実世界…お前が言うところの人間界だな…だけでなく、夢世界、魔界の全てバランスが崩れて完全崩壊してしまう恐れがある。だから魔界の力を強めるために、特異点にある現実世界の魂がより多く必要なのだ。特異点で回収した魂は、魔界では強力な力を持って魔界に転生する。魔物になる事もできるし、魔界の人間になる事もできる)
それと同時に黒龍は世界の概念図をテレパシーで送ってきた。
思いがけない内容に戸惑うレルフィーナ。
(『輪廻転生』という言葉を知っているか?)
(ええ…。命が死後も終わりではなく様々な世界で生まれ変わるという考え方よね)
(そう。現実世界で命を終えた魂の大半は魔界に転生する。魔界はいわば『魂のゆりかご』。魔界で改めて現実世界に転生する準備を整え、現実世界で新たな生命となる)
(魔界が『魂のゆりかご』ですって…)
(お前は我の言葉を疑っているようだな。人間界では『天国』と『地獄』という言葉や概念があるようだが、そんな物は実際にはない)
≪それは本当だよ…ゆうちゃん≫
唐突にレルフィーナの中でインナーセルフの座に座るレミアが口を開く。同じくインナーセルフの座にいるユウも驚く。
(さっき『現実世界で命の大半が魔界に』って言ったよね。『大半』からあぶれた魂はどこへ行くの?)
(あぶれた魂は夢世界に転生する。魔界と夢世界それぞれの世界に転生する割合は両世界のパワーバランスによって決まる、これまでは魔界の方が強かったので、大半の魂は魔界に転生していた)
(夢世界に転生した魂はどうなるの?)
(現実世界に戻ることはない。魂はやがて燃え尽きて消える)
≪ねぇレミア、今の話は本当?≫
≪うん…魂が燃え尽きる期間は魂によってまちまち。あっという間に燃え尽きることもあるし、あたしみたいに寿命が長いものもいる…。平均すると…燃え尽きるまで数年かな≫
(あと…『夢世界の力が強くなっている』って話だけど、どうしてそんな事になってしまったの?)
(現実世界で『人工知能』というものが出てきただろう。その影響で、人間が夢世界に供給する『夢の力』が爆発的に増加しているのだよ。特にその『人工知能』自身が生み出す『機械が見る夢』の増大が凄まじいのだよ)
(人工知能が夢を? …そんな馬鹿な)
(だが、それが事実だ。俗に『ハルシネーション』と呼ばれるものだ)
愕然とするレルフィーナ。
生成AIが『ハルシネーション』と呼ばれる虚言を生成することは知っていた。しかしそれは生成AIが与えられた文脈に基づいて次に続く確率が高い単語を予測し、文章を生成するように設計されているためであり、信憑性が担保されているわけではない。あくまで計算の結果に基づく『ハルシネーション』が『夢』だとするのなら…。
(黒龍。もう一度お願いするけど、人間界に手出しするのはやめて)
(それはできぬ相談だと言っただろう)
(もう一つ教えて。あなたは魔界の『ジェノ』の指示で動いているの?)
(『ジェノ』の考えには賛同するが、指示は受けていない。今回は我の意思でここに来た)
(そう…わかった。それならあたしはあなたの『魂の回収』を全身全霊で食い止めてみせる)
レルフィーナ、完全に覚悟を決めた。黒龍を魔界に追い返すことも考えたが、凄まじい魔力を持つ黒龍ならレルフィーナが生成する転移ゲートを容易に無効化してしまうだろう。残るは黒龍が発生させる豪雨・暴風・雷を、身を挺してでも食い止めるしかない。
(好きにするがいい。だが、お前の後ろに隠れている『小さく黒き者』まで巻き込むことになるぞ、それでも良いか?)
(えっ?)
レルフィーナは指摘された『小さく黒き者』の存在に全く気づいていなかった。周囲を透視しても、どんなに感覚を研ぎ澄ませても見つからない。
<あたしよ、その『小さき黒き者』の存在に気づけるようになれ!>
レルフィーナが自身に新たな能力を付与する。すると確かに、レルフィーナの背後に『小さき黒き者』はいた。テレパシーを使ってもその者の心を読むことはできない。
驚いたのはサツキだ。確かにレルフィーナの背後にはいたが、黒龍に存在を気づかれているとは思いもしなかったからだ。
(そこの人、どうしてあなたがあたしの背後にいるか知らないけど、これから危険なことになるから。今すぐあたしのウエストポーチの中に入って。そこに入ればあなたの安全は確実に守れる)
レルフィーナがウエストポートの蓋を開ける。中に入っていた巨大なスマートフォンは元の大きさに戻りユウの部屋に瞬間移動した。
(さあ、入って!)
レルフィーナからのテレパシーを受け取り、サツキは巨大なウェストポーチの中に収まる。ウェストポーチの中は見かけよりもずっと広い空間が広がっており、無重力状態になっている。
(中に入ったよ)
サツキがレルフィーナに対してテレパシーを飛ばす。
<え、女の人?>
一瞬驚くレルフィーナ、ウエストポーチの蓋を閉める。サツキは蓋の隙間から外を覗こうとした。
<貴重な光景、私にも見せてよね…>
サツキがそう願った瞬間、ウェストポーチの中の光景が外の映像を映し出す。
<凄っ…上から下まで全周モニタになった!>
『小さく黒き者』がウエストポートに収まったことを確認し、レルフィーナは黒龍の方をきっと睨む。
(勝負よ!)
その瞬間、黒龍の全身から無数の雷が発生。そして黒龍が身体を震わせると周囲に無数の氷の粒が出現した。
(させない!)
レルフィーナは黒龍の約50m下に瞬間移動。
<超巨大化!>
レルフィーナは水平に横になって浮遊した状態で超巨大化し、身長はおよそ800m程になり、黒龍が発生させた黒龍が生み出した無数の氷の粒と雷を全身で受け止める。受け止めた大量の氷の粒は次元消滅で消し去った。
さらに黒龍は雲を刺激し竜巻を起こそうとする。しかしそれもレルフィーナは念力を使って抑え込んだ。
一方、ウエストポーチの中にいるサツキも興奮していた。『見たい』と願った映像が自由自在に見えてしまうのだ。レルフィーナを上空から俯瞰する光景、激しい黒龍の動き、さらにはレルフィーナの中にいるユウとレミアの様子。そしてそれぞれの心の中まで…。
<心が見たいと願うものが全部見える…。ヤバ過ぎるでしょこれ…>
レルフィーナと黒龍の攻防戦はおよそ4時間近く続いた。
ふと見ると黒龍の動きが止まる。あれほど荒れ狂っていた竜巻や雷、そして大量氷塊がはたと止む。既に位置は海上から市街地の上空を越え郊外上空まで移動していた。
(よく耐えたな。褒めてやろう)
(あたしはやるべき事をしただけ。あなたに褒めてもらう筋合いなんてないわ)
(それではまたいずれ会おう)
その声を最後に黒龍が姿を消す。
<いきなりどうしたんだろ…>
≪特異点の終端に近いわ。あたしらも帰らなきゃ≫
レルフィーナは巨大化していた身体を徐々に縮めていくとともに、ウェストポーチの蓋を開ける、
(もう安全よ、外に出ていいわ)
レルフィーナがテレパシーでそう伝えた瞬間、ウェストポーチから人の気配が消失する。
<え…消えた?>
レルフィーナがウェストポーチの中を覗く。しかしそこは完全に空っぽになっている。
<一体どういう事…? それにあの黒い…女の人、一体何者なんだろう…>
≪付与した能力を調整したほうが良いかもね。にしても、本当に何者なのかしら≫




