Phase12. つけ狙う者達
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5(Nano Banana)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
12畳ほどの広間。中央の奥の机で腕組みをする男。白髪で七三分け。じっと目をつむる。机の上には閉じたノートパソコンが1台。
部屋の右手の机で4つほどの液晶モニタが並んだデスクトップパソコンに向かう男。髪型はキツい天然パーマで、分厚いレンズの丸眼鏡を掛け、画面を見ながらしきりにキーボードやトラックボールを操作している。
部屋の左手に置かれた3人掛けのソファー。その前に突然栗毛のツインテールをした少女が姿を現す。
「帰ってきたれ~」
「ご苦労」
白髪の男が片目を開けて一言。
「サツキ。結果は?」
パソコンを叩きながら少女に尋ねる男。サツキと呼ばれる少女はソファーにどっかり座り天井を見上げる。
「ヨッシー、あたしがしくじるわけ無ぇろがね。証言取ってきたれ」
「じゃ髪飾りに記録されたデータ、もらうよ」
ヨッシーと呼ばれた男がパソコンを操作すると、何やらデータをダウンロードする画面が表示される。白髪の男は閉じていたノートパソコンを開け、両目を開けその表示を見つめる。
「海老ヶ瀬さん。データ回収完了。再生するよ」
ヨッシーがパソコンを操作すると動画が再生される。サツキの髪飾りに仕込まれていたビデオカメラの再生動画だ。そこに映っているのはリア。リアはユウのことについて語り始める。
「彼女は天神建設の令嬢だな」
「そうよ」
白髪の男、海老ヶ瀬の問いに答えるサツキ。
動画の時間は30分近く。海老ヶ瀬とヨッシーはそれを全て視聴し終えた。
「島見、この動画、本部に送っておけ」
「もう送った」
「うむ」
「で、海老ヶ瀬。これからどうするん?」
サツキが尋ねる。
「まだ情報が不足しているので、そこを証拠固めしていく必要がある。島見、『サマンサ』の家の状況はどうなっている?」
「家のあちこちに監視カメラが設置されているね。しかもその情報がA国の軍事用無線で流れてる。もちろんハッキングしてこちらでも傍受できるようにしたけどね。でももう少しだけ見たいところもあるので、追加の監視カメラが欲しいところ」
「そうか。『サマンサ』が出入りする、隣の『メリー』の家の方はまだ監視カメラ未設置だな」
「ええ」
「それはうちの仕事らね」
「サツキ、『メリー』の家の中の様子は分かるか?」
「もちろん」
そう言うとサツキはソファーの上で姿勢を正し、胸の前で忍術の印を組み、目を閉じる。
[透かし見]
するとサツキの脳内にミズキの家の様子が透視されて現れた。
「見えた。『サマンサ』と『タバサ』と『メリー』と『ジニー』。『ジニー』が『サマンサ』の中に取り込まれて、残った3人が…浴衣姿から普段着に一瞬で変化しちゃった。やっぱりみんな能力者なのね」
「やはり情報通りみたいですね」
ヨッシーが呟く。
「『メリー』の家に一般家庭ではありえない設備が大量にあるという前回の透視結果からみても、『メリー』 はA国情報局が管理する融合体とみて間違いなかろう。同居している『ジェーン』が『メリー』を管理しているに違いない」
サツキが目を開き手の印を解く。
「で、『メリー』の家に仕掛ける監視カメラの準備はできてんの?」
「サツキに一度見て欲しいんだ。ほら、これ」
ヨッシーが手近に置いてあった箱から巾着袋を取り出し、それをサツキの方に放り投げる。それをキャッチするサツキ、巾着袋を開き中から小さなプラスチックの頭がついた画鋲に似た物がたくさん入っている。サツキはその一つを取り出し、それを見つめる。
「うわ、ちっさ。それにメチャ軽い。こんなので撮れるの?」
「ああ、高性能高感度の監視カメラさ。見た目も目立たないようにしてある」
「これ私が付けんの?」
「サツキならできるだろ」
「え~ちょっと待ってぇ…」
監視カメラを三つほど右手に取る。
「上手くいくかな…」
そう言いながらサツキは右手を天井に向けて素早く振った。その瞬間、3つの監視カメラがそれぞれ天井の離れた場所に刺さる。
ヨッシーがパソコンの画面を確認すると、今サツキが放った監視カメラが捉えた映像が映し出される。
「うん。ちゃんと機能してる。これを『メリー』の家のあちこちに設置して欲しい」
「…分かった。ところで今私が付けた監視カメラはどうするん?」
「貴重な機材だから回収して使って欲しい」
「え~回収すんの? ヨッシーやってよ」
「サツキの方がてっとり早く回収できるだろ」
「ちっ、しょうがねぇな…」
サツキは監視カメラの1つの方に右手を向ける。
[蜘蛛糸]
サツキの右手の指の先から細い糸が飛び出し天井の監視カメラの一つに貼り付く。くいっとサツキが右手を捻ると、糸に絡め取られた監視カメラがサツキの右手の中に収まった。そしてサツキは同じ要領で他の2つの監視カメラも回収する。
「さすが天才くノ一」
「天才じゃねぇって」
サツキは回収した監視カメラを巾着袋にしまった。
「ところでサツキ」
海老ヶ瀬がサツキに声を掛ける。
「何?」
「その監視カメラの設置だが、明後日の午前中に頼みたい」
「なんで?」
「『メリー』は明後日午前のみ学校にいく。家に能力者がいてはお前も仕事をしづらいだろ」
「…まあね。以前『サマンサ』と接触したとき、あの子には私の術がなんも効かんかった。おそらく『メリー』も同じと思わんきゃらっけね」
「で、その時ついでに『ジェーン』からも聞き取りをしてきてほしい」
「…そっちの方が時間掛かるねっか」
「お前の特殊能力が頼りだ。期待している」
「…はーい。あと、何か盗んで欲しいもの、ある?」
「重要そうな文書があれば写しを持ってきてもらえると助かる。あとは島見の仕事だ」
「海老ヶ瀬さん、そう簡単に言いますけど、あそこの家のシステム、凄まじくガード高いですよ…」
「お前ならできるだろ」
「時間を掛ければ…ですけどね」
「ねぇヨッシー。『メリー』の家、尋常じゃ無いくらい侵入検知センサーてんこ盛りなんらけど、そのセキュリティーシステム殺せるん?」
「もうハッキングしてある。サツキが侵入する時間だけセキュリティを無効化する予定」
「わかった…。じゃ明後日ね」
「海老ヶ瀬さん。本部から全員に対して音声通信要求が入ってきました」
「珍しいな…。島見、スピーカーモードで流してくれ」
「マイクもオンにします」
ヨッシーがパソコンを操作すると、『本部』からの音声が部屋全体に流れてきた。
『海老ヶ瀬君、島見君、東島君。日々の諜報活動ご苦労である。『国際未確認生命体研究財団』のスティーブだ』
流れてきたのは男性の声。だが口調がやや人工的な音声だ。
「理事長…」
呟く海老ヶ瀬。
『今回の君達の活動は、本財団の活動の目的の一つである『未確認生命体の研究』において極めて重要な成果を上げている。特に東島君の活躍は賞賛に値する。心から謝意を述べたい』
「あ…ありがとうございます」
サツキが答える。
『島見君の活躍にも大変注目している。今後の成果を大いに期待している』
「ども…」
小さく呟くヨッシー。
『今回はこれまでの成果を踏まえて皆に特別に謝意を述べる目的でメッセージを送った。今後の君達の活躍に期待している。以上』
「通信が切れました」
ヨッシーの一言で2人の緊張がほぐれる。
「あ~、ガチたまげた~」
ほっとするサツキ。
「ねぇ、海老ヶ瀬」
「ん?」
サツキが海老ヶ瀬に声をかける
「海老ヶ瀬は理事長と直接会ったことあるの?」
「何度かな。B国の本部で」
「へ~」
そう言うとサツキが立ち上がる。
「私、よろっと自分の部屋戻るわ」
「うむ」
「おつかれ~」
サツキは2人を残して部屋を出た。
その日の深夜0時過ぎ、街から少し離れた自然公園。
空には三日月と星が輝く。他にこれといった照明は無い。
緑地内の遊歩道、音も無く黒装束を着た人間が忽然と現れる。
目が淡く金色に光り、胸の前で印を結ぶ。
[獣寄せ]
サツキの小さな声。しばらくするとサツキの足下に猫が3匹寄ってきた。
サツキはしゃがみ込むと1匹の猫を優しく撫でる。
「あなたは飼い猫さんね。お家にお帰り」
サツキには動物に触れるだけでその動物の日々の生活の様子や気持ちを感じ取れる特殊能力があった。そしてサツキが手を離すと、その猫はサツキの元を去って行った。
そしてサツキは2匹目の猫を優しく撫でる。
「あなたは…野良さんね。ちょっと待っててね」
サツキが手を離すがその猫はじっとしている。そしてサツキは3匹目の猫を優しく撫でる。
「…あなたも野良ちゃんね。でも、あなたはまだ若い。お帰りなさい」
サツキが手を離すとその猫はサツキの元を去って行った。サツキは2匹目の猫を自分の胸に優しく抱き、ゆっくりと立ち上がる。猫はサツキのなすがままに眠るように身を委ねている。
サツキは顔の前を覆っていた黒い布を顎まで下げる。
「ごめんね、あなたの命、いただきます」
サツキの左目から一筋の涙。サツキが口を開くと歯の一部が牙のように鋭くとがっている。そしてサツキは、胸に抱いた猫の首元に噛みつき、その生き血を吸い始めた。
これがサツキの抱える誰にも言えない秘密。彼女は生まれながらにして忍びとして育てられていく過程において、身体の中に様々な獣や妖怪の身体の一部を忍術によって練り込まれてしまっていた。その結果サツキは非常に多くの超人的な忍術が使えるようになったのだが、週に1度動物の生き血を飲まなければ生きていけない身体になってしまっていた。おそらく何らかの妖怪の身体を練り込まれた際にそうなってしまったのだろうと、サツキは育ての親から聞いていた。サツキが週に1度吸血を繰り返していることは海老ヶ瀬もヨッシーも知らない。
血を吸い終えたサツキは猫の喉元から口を離す。既に猫は全身の血液のほぼ全て、量にして約200ccを吸われ絶命していた。
[灰化]
サツキがそう唱えると、サツキが胸に抱きかかえていた猫の死骸はあっという間に灰になり、風に飛ばされて跡形も無く消え去る。金色に光っていたサツキの目は元に戻った。
胸の前で印を組むサツキ
[転移]
その瞬間、サツキの姿が忽然と消えた。
月曜日の朝6時半、手早く2人分の朝食の支度と片付けを終えダイニングのテーブルにつく室内着姿のサツキ。自分の分の朝食を食べ始める。もう一つが海老ヶ瀬用。ヨッシーは朝は食べない。
「おはよう。いつも済まない」
海老ヶ瀬がダイニングに現れる。
[おはよう。済まないと思うんなら海老ヶ瀬も早起きしてよね」
トーストを頬張りながら応えるサツキ。
「今日は頼むな」
「特別手当とか出ねぇの?」
「出ただろ、昨日」
「え、うそ」
側に置いていたスマホを手に取り画面を調べるサツキ。
「ほんとだ…」
「理事長からお前と島見だけに特別手当が出たそうだ。お前達の働きが認められたということだろう」
「理事長、粋じゃん」
「それだけお前達に期待しているということだ」
「…それじゃ、きっちり仕事しゃんとならんね。そういえばヨッシーは起きた?」
「ああ、さっき私が起こしてきた」
「…ヨッシーのサポート無いとあの家ガチで侵入困難らっけね。…不可能じゃねぇけどリスク高すぎて」
「『不可能じゃ無い』というのがお前らしいな」
「あたしもダテにくノ一してないんで」
サツキは早々に朝食を済ませた。
「ごちそうさま。海老ヶ瀬、今日は私の分も片付け頼んでいい?」
「ああ、そこに置いとけ」
「サンキュ!」
サツキはダイニングを出て、ヨッシーの部屋の方に向かう。ヨッシーはパソコンの前で操作をしていた。
「ヨッシー、おはよー!」
「おはよ」
ヨッシーはパソコンの方を向いたままだ。
「セキュリティ殺す準備できた?」
「ああ。いつでもいける」
「じゃああとは『メリー』が学校行くのを待つだけね」
「まだ『メリー』の反応が家の中にある。普段だともうすぐ家を出るはず」
「そっか…」
サツキは胸の前で印を結ぶ。
[変化]
サツキは瞬時に黒装束に変身した。
『監視カメラ、忘れんなよ」
ヨッシーが監視カメラ入りの巾着袋をサツキに渡す。
「ほい」
巾着袋を受け取るサツキ。腰にそれを結びつけた。
「『メリー』が動き出したよ」
それを聞いて、サツキが胸の前で印を結び目を閉じる
[透かし見]
ミズキの家の中を念入りに透視するサツキ。
「まだ『ジェーン』が2階で家事してんね。『ジェーン』の仕事場は1階の検査室らっけ、彼女がそこ行くまでセキュリティ殺せんね」
「1階だけ先に仕事する? 1階だけセキュリティ殺せるよ」
「いいねヨッシー、それ頼むわ」
ヨッシーがパソコンを操作。1階の侵入検知セキュリティを止める。
「1階だけ停止完了。1階の仕事が終わったら一旦こっち戻ってきな」
[転移]
サツキがミズキの家の1階玄関に瞬間移動。全く音を立てる事無く、玄関、廊下、階段に次々と監視カメラを設置していく。
そして検査室に入ろうとドアノブを回すサツキ。しかしドアには鍵が掛かっていて中に入ることができない。サツキは胸の前で印を結んだ。
[壁抜け]
サツキがゆっくりと前に進むと、サツキの身体は木製の分厚いドアをすり抜け、検査室の中に入った。
検査室に入ったサツキは素早く各所に監視カメラを仕掛ける。
<それじゃあ一旦戻っ…!>
背後の気配に気づき後ろを向くサツキ。素早く印を結ぶ。
[固縛]
[透かし見]
ドアの向こうの気配を固縛の術で動きを止め、ドアの向こうを透視するサツキ。そこに見えたのは…
<ジェーン…意外と早かったのね>
透視で見えたのはミノリの姿だった。
印を解くサツキ。それと同時にサツキの体の固縛も解ける。
鍵を開け、研究室のドアを開くミノリ。目の前には黒装束のサツキの姿。
「あなた…誰?」
恐怖の表情を浮かべるミノリ
[安息]
サツキの目が淡く金色に光り、ミノリに安息の術をかける。その効果でミノリは少しずつ落ち着きを取り戻す。
[饒舌]
ミノリのほうに一歩歩み寄るサツキ。
[あなたの知っていることを包み隠さず何もかも教えて。『菖蒲塚 ユウ』という子、そして『五十嵐 ミズキ』という子について]
「え…」
[あなたは私の言葉に逆らうことはできない。全て話してくれれば、あなたには何もしない。私に心を許して、全てを話して…]
ミノリは完全にサツキの暗示に掛かり、ユウのことやミズキの事について知っている全てを話し始める。レルフィーナやレミアの事も全て…。
[色々教えてくれてありがとうね。これから私が指を鳴らすと、あなたは私に会ったこと、私に話したことを全て忘れるの。またいつか会いましょ]
サツキが指をパチンと鳴らした瞬間、サツキの姿が完全に消える。そしてミノリは我に返った。
「…ん?」
ミノリは今自分の身に起きたことが思い出せないまま、普段通り検査室のパソコンの方へと歩みを進めた。
「あ~びっくりした」
ヨッシーの隣に姿を現すサツキ。
「おかえり」
「『ジェーン』があんなに早く1階に降りてくるなんて思わんかったわ」
「そうだね。どうする? 2階のほう行く?」
「うん、すぐ行く。時間ないから」
「じゃ。いま2階のセキュリティ殺した」
「それじゃ行ってくる」
サツキは再び胸の前で印を結ぶ
[転移]
ミズキの家の2階に瞬間移動したサツキ。手早く監視カメラの設置を終えた。
その日の夕刻。再び海老ヶ瀬、ヨッシー、サツキの3人がリビングに集まる。
「サツキ。明日午後、爽林高校に編入試験を受けに行く件、忘れてないよな」
海老ヶ瀬がサツキに声を掛ける
「…うん」
「試験に備えて準備しているんだろうな」
「もちろん」
不敵な笑みを浮かべるサツキ。
「それより私の素性の偽装のほう、大丈夫なんらろね」
「問題ない。以前話したとおりだ」
翌日のお昼時、サツキは爽林高校のある街を訪れていた。
お昼時の通学路を家路へと歩くユウとミズキ。その脇をすれ違い、爽林高校の編入試験へと向かうサツキ。
<『メリー』や『サマンサ』と学校生活か…>
サツキはそんな事を考えていた。
学校に到着し、事務室で受付。職員の案内を受け、ある無人の教室に誘導される。指示された席に着き、受験の準備。
午後12時55分、教室に試験監督の教員が入る。1科目目の試験用紙が配られる。
午後1時、試験開始。サツキは懸命に試験に取り組んだ。
解答を全て書き終え、一通り見直す。
<これでいいかな。それじゃ…>
[心眼]
サツキが小さく呟くと目が金色に淡く光る。そして試験の解答用紙に淡く正答が浮かび上がる。
<…だいたい合ってるね>
サツキが瞬きするとサツキの目の色は元の黒に戻り、浮かび上がった正答は消えた。サツキはそのまま鉛筆を置く。
こうしてサツキは編入試験を終えた。合格すれば2学期からユウやミズキと同じクラスの高校生になる予定だ。




