Phase 11. もうすぐ夏
※挿絵はAI画像生成システム「Gemini Flash image 2.5(Nano Banana)」で生成した物を主に使用しております。
※カッコ記号の使い分けを行う事で、そのゾーニングをより明確にしています。
基本的なゾーニングの区分は以下の通りとなります。。
「」…[open]会話
[]…[semi-open]暗示
()…[open]テレパシー
{}…[closed]テレパシー(秘話)
<>…[closed]思考
≪≫…[closed]インナーセルフのリアクション
「そういえばユウ姉、今週の週末、夏祭りがあるんだって?」
「ん? ああ…そうね」
「ユウ姉は何か予定しているの?」
「いや…別に」
月曜日。学校での2限目と3限目の間の休み時間。ミズキに話しかけられるユウ。しかし素っ気の無いユウの返事にミズキは少しムッとする。
「別に何も予定してないの?」
「うん、だって終わった翌日から期末試験だし…」
「ユウ姉は勉強しすぎだよ…もっと遊ばなきゃ」
溜息をつくミズキ。
ユウ達の住む地域の夏祭りは毎年6月後半に実施される。金曜日の夜、前夜祭としての民謡流し。土曜日と日曜日は日中は子ども山車パレード、中高校生や団体等の各種演舞、そして神事行列。土曜日の夜には打ち上げ花火が実施される。街の中心部には露店が立ち並び大勢の人々で賑わう。
{ところでれーちゃん、今どこにいる?}
テレパシーによるミズキの問いかけに、ユウ、目を閉じる。テレパシーと透視でレミアの居場所を探しているようだ。
{中庭のあじさいのところで寝てる}
今のレミアは人間の1/10の妖精サイズ。あじさいの花の隣でスヤスヤ眠っている。
{外、雨降ってるのに?}
{念力で雨避けしてるみたい}
{何でそんなところに…。私かられーちゃんに呼び掛けてもいいかな?}
{大丈夫だと思うよ}
ミズキも透視でレミアの姿を捉え、レミアにテレパシーで語りかける。
{れーちゃん、今大丈夫?}
{うん、良いよ}
{本題の前に、何でそんなところにいるの?}
{あじさいの木って不思議な力があって、この木の中に埋もれるととても気持ちいいんだよね}
{そうなの…。それはともかく本題。れーちゃん、今週の週末、一緒にお祭りに行かない?}
{お祭り? ああ、去年ゆうちゃんにほんのちょっとだけ連れてってもらったやつね}
{今年は去年と違ってれーちゃんは人間サイズにも大きくなれる。特定の人にしか見えない状態だって解消できる。去年とは違った楽しみ方ができるでしょ。私は今年初めてお祭りに行くし、一緒に行ってくれる人がいると嬉しいな}
{いいよ。ゆうちゃんは?}
{あんまり乗り気じゃないみたいだけど、私がなんとか説得してみる}
{そういえば『期末試験が…』ってぼやいてたね。ミズキ、お願いしてもいい?}
{任せて!}
{お願いも何も、2人の会話、あたしにも筒抜けだし…}
{ユウ姉、そういう事なんで、今年はれーちゃんも本格参戦するし、人間サイズのれーちゃんの浴衣姿とか見てみたいと思わない?}
{う…そう来たか)
{ゆうちゃん自身も去年は引きこもり中で万全の状態では無かったでしょ}
{…そうだったね。…わかった。行くよ
授業開始のチャイムが鳴る。
授業中もお祭りのことが頭いっぱいのミズキ。時折ユウにテレパシーで話しかけてくるが、授業中のユウはそれを完全にシャットアウトしていた。
3限目の授業が終わった頃、レミアがミズキのところに現れる。夢世界に住む妖精レミアの通常状態では、ユウやミズキなどごく限られた者しかレミアの姿を見ることはできない。
{ねぇミズキ、ミズキはどんな格好していくの?}
{私はね…こんな感じとか、あんな感じとか…}
ミズキはテレパシーで浴衣姿のイメージをいくつかレミアに送る。
{じゃああたしはこんな感じにしようかな}
レミアもテレパシーで浴衣姿のイメージをミズキに送る。
{ユウ姉はどうする?}
2人のテレパシーを傍受していたユウ、いきなり話を振られて戸惑う。
{…そんなの全然考えてないよ。そもそも浴衣なんて持ってないし…}
{{そんなの能力使えばどうにでもなるじゃん!}}
ミズキとレミアから同時に突っ込まれる。
{いや…まぁ…そうなんだけど…}
溜息をつくユウ。
「そうだ!」
ミズキ、突然席を立つ。後ろの方にいるリアのほうへと歩み寄る。
「ねぇリア、今週末のお祭り、出かける予定してる? 一緒に出かけない?」
突然の呼び掛けに驚くリア。しかしすぐに申し訳なさそうな顔で答える。
「ごめん…、私、家にお客さんたくさん来るから、お祭りの行事や露店にはたぶん行けないと思う」
「そうなの…」
「でも1日目の夜の打ち上げ花火の時には、うちの会社でやってる施設の屋上を一般開放するから、たぶん私もそこには行くと思う。食べ物や飲み物もふるまうしね」
リアの父親は建設会社を営んでいるが、母親は介護施設と障害者作業所を経営している。1つの建物に2つの機能が同居しており、建物は地域で最も高い4階建てとなっている。毎年お祭りの際の屋上一般公開は定着していて、結構人が出るらしい。
「そうなの! じゃ、私、絶対行く!」
「じゃ、花火の時にね」
金曜日の夕暮れ、ユウは普段着姿で家を出る。浴衣を持っていないのに親の前で浴衣姿を見せることはできないからだ。そして隣のミズキの家を訪問する。
「待ってたよ、上がって!」
ユウは既に浴衣姿のミズキに招かれ、2階のミズキの部屋に入る。そこには既に人間サイズになっている浴衣姿のレミアもいた。
「れーちゃんも今日は堂々と人間界デビューだね。綺麗だよ、浴衣姿」
「惚れた?」
「社交辞令」
そう言いながら、ユウも能力を使って浴衣姿に着替える。
「これでみんな浴衣姿だね」
「ユウ姉はアヤメの柄なのね」
「ちょっとひねりが足りなかったかな。ミズキのは…もしかしてハナミズキの花」
「正解」
「…ねぇみんな、もう一人参加させたい人がいるんだけど…」
「もう一人? 誰?」
「ゆうちゃん、もしかして…」
「レルフィーナ」
「やっぱり!」
「レルさんが! 浴衣姿で?」
「一度そういう格好をさせてみたくて…いいかな?」
「もちろん!」
「それじゃ、登場させるね」
ユウが自分の身体の分身を作る。そしてその分身の姿が橙色の浴衣を着たレルフィーナに変わった。
「どう…かな?」
少しはにかむレルフィーナ。
「凄く綺麗。橙色の浴衣がとても映えるよ」
嬉しそうなレミア。
「あたし達4人、凄く華やかになったね」
上機嫌のユウ。
「ねぇ、レルさんも登場したことだし、4人で記念撮影しよ!」
「あたしも撮る!」
ユウとミズキがそれぞれのスマホを念力で操作し、記念撮影を楽しむ。
「じゃあ、民謡流しを見ながら、みんなで夜店に行こう!」
4人はミズキの家を出て、徒歩で街の中心部へと向かう。日は完全に暮れ、心配された雨も降っていない。空には月と星空。
「うちの町の祭って、結構雨に降られる確率高いんだよね」
「そうなの?」
ユウの言葉に驚くミズキ。
「そういえば去年は大雨だったもんね。花火は何とか上がったけど」
レミアがユウの話を補足。
「でも今年はあたし達4人いるから、最悪の場合能力を使って雨雲蹴散らせるんじゃないかしら」
笑いながら話すレルフィーナ。
「でもその必要は無さそう。今年は3日間好天の予報だし」
ミズキが穏やかに語る。
町中心部の本町通りでは民謡流しが始まっており、大勢の人が地元の民謡を踊っている。
「夜店はこっち」
ユウが案内し、本町通りの2本隣の道へと入る。祭りではおなじみの多くの露店が並び、人出もあり賑やかだ。
「凄く賑やかだね」
4人は思い思いに食べ物を食べたり飲み物やアイスを口にしたりして、祭り独特の雰囲気を楽しんだ。
途中射的の店ではミズキがハマってしまう。備え付けの遊戯用銃の威力の弱さにしびれを切らし、挙げ句の果てには念力を使うというズルをしてまでキャラメル1箱だけゲットし満足そうにしていた。
帰りの手土産にはこの地域名物の『蒸気パン』(『ポッポ焼き』とも呼ばれる)を購入し持ち帰った。『蒸気パン』は黒糖の味がする細長い蒸しパンであり、甘さ控えめで美味しい。
翌朝、ユウは1人で勉強道具を持って地元の図書館へと向かう。もちろん期末試験対策のテスト勉強のためだ。家で勉強しても良いのだが、お祭りに浮かれているレミアと一緒では落ち着かない。それに図書館にはたくさんの参考書や問題集もある、落ち着いた環境で勉強したいときにはユウは時々図書館の閲覧室を利用している。
図書館で1冊問題集を借り、閲覧室の最前列の席で模擬問題に取り組み始める。閲覧室はイベントでも使用可能なように、3人掛けの長テーブルが横2列縦10列並んでいる。ユウの他には読書をしている見知らぬ人が、ユウとは離れた場所に1人だけ。
しばらくして、閲覧室のユウの隣のテーブルに人が座る、ユウは何気なく隣のテーブルを見て一瞬驚く。
「角海君…お、おはよう」
「おはよう」
ハヤトが穏やかに微笑む。
ユウは閲覧室の他の人が気になり、テレパシーのチャンネルを開く。
(角海君もやっぱり来週の期末試験が気になるのね)
(…そうだね。家だと落ち着かないし。レミアさんは外?)
(もうお祭りに行っちゃった。賑やかなの好きみたいだから…)
(そっか…。ところで最近も『レルフィーナ』として活動してるの?)
(みんなは気づいてないと思うけど、これまでも色々事件があったよ。…命の危険を感じた事も有る)
(…まぁ、1人で大変だろうけど、無理はするなよ。俺にできる事は限られるけど、力にはなりたいから…)
(そう言ってくれる人がいると心強いよ。ありがとう)
ミズキがユウのことを色々サポートしてくれている事をハヤトは知らない。ミズキがアンドロイドであるかつ超夢現少女である事は絶対に漏らすことができないので。仕方がないのだが…。
(菖蒲塚さん、今日はお祭り行かないの)
(午後からお祭りに行く。ミズキに誘われたの)
(五十嵐さんか…)
{彼女、今年この街に来たばかりでしょ。だから祭りの案内を頼まれちゃって。夜はリアに誘われて花火を見る予定)
(『こしわの郷』の屋上で?)
『こしわの郷』とはリアの母親が運営している高齢者介護と障害者就労支援を行っている施設の名前だ、
(そう。ミズキと一緒に行く約束してる)
(俺も今夜そこに行く)
(弟さんと一緒?)
(ああ…。うちの弟、あそこの施設に通っているんだ)
(そっか…)
(おそらく向こうで顔を合わせることもあるだろうから…)
(そうだね)
その後2人とも勉強に取り組んだ。
11時半頃、ユウは席を立つ。
「あたし、そろそろ帰る」
「そっか。じゃ、また後で」
「うん」
ユウは借りていた問題集を書庫に返し、お手洗いの個室に入る。
<ここで…>
ユウは勉強道具を能力を使って自宅の自分の部屋に瞬間移動させる。そして能力を使って浴衣姿に瞬時に着替える。そして図書館を出た。
5分ほど歩いた先にハンバーガーショップがある。ユウはそこに入店。ハンバーガーとアイスレモンティーを購入し、4人掛けのテーブルにつく。
<れーちゃんとミズキ、どこにいるんだろう?>
ユウは能力を使って2人の居場所を透視する。レミアは喫茶店で食事中。ミズキはまだ自宅にいるようだ。ミズキも午後から祭りに繰り出すと聞いている。合流しようと思えばいつでもできる。
ハンバーガーを一口口にした頃、店の入口に…
<角海君…>
ハヤトが商品を購入し店内に入ってくると、ユウと視線が合う。ユウに遠慮して他の席を探そうとするが、既に他の席は他の客で埋まっている。
「角海君、ここ、相席良いよ」
声を掛けるユウ。
「そう、済まないね」
ハヤトはユウと向かい合わせに座る。
「もう着替えたんだね」
「…まあね」
ユウ、苦笑い。ハヤトはユウの能力のことを知っているので、ユウが能力を使って着替えたことにも気づいている筈だ。
「浴衣姿、綺麗だね」
「え? …あ、うん、ありがと…」
意外なハヤトの言葉に慌てるユウ。顔が赤らむ。
「午後から楽しんできな」
「うん…。角海君は午後どうするの?」
「自宅に戻る。夜に出る」
「祭りに行かないの?」
「日中の催しはあまり興味無いな。もう過去何年も見てきたし…」
「そっか…そうだよね」
ユウはハンバーガーを頬張る。
(そういえば今晩の花火、ゲストが来るよ)
(え?)
(人間サイズになったれーちゃんと、レルフィーナ。2人とも浴衣姿だよ)
(へぇ~。それは凄いゲストだね。レルフィーナを君と同時に出現させるなんて、そんな事もできるのか…)
(今日の夜、お楽しみにね)
(教えてくれてありがとう)
ユウは食事を終えた後店を出た。そしてレミアやミズキと合流し、祭の様々な催しを観賞。一旦帰宅し、夕食を摂る。
花火の打ち上げが始まる1時間前、ミズキの家を訪問する普段着姿のユウ。
「おじゃましま~す」
玄関で浴衣姿のミズキとレミアが待ち構えていた。
「地味に大変だね。いちいち普段着姿に戻るの」
「浴衣はあたしの能力で出してる物だから、母親には見せられないしね。夕飯も食べなきゃだし…」
「一般人を偽装するのも楽じゃないね」
「ミズキ、それあなたが言う?」
クスッと笑うユウ。次の瞬間、ユウの姿が浴衣姿に変わる。
「変身お見事」
「あともう一人…」
ユウの身体から分身が生まれ、その姿が浴衣姿のレルフィーナになる。
「いらっしゃい、レルさん」
「こんばんわ。…でも、ユウやレミアとあたしが揃うって、やっぱり違和感感じちゃう」
「こういう機会しか勢揃いできないから良いんじゃ無くて、レルさん」
穏やかに微笑むミズキ。
「慣れないのはあたし達も…」
「同じだよ」
ユウとレミアもレルフィーナに微笑みかける。
「それじゃそろそろ出かけようか。ミノリさーん、行ってきまーす!」
4人はミズキの家を出て、『こしわの郷』に向けて歩き出す。そよ風が4人の髪を微かに揺らす。空はほんのりと夕闇が残り、細い三日月や星が姿を現していた。
「今日は良い花火日和になりそうだね」
ぼそっと呟くユウ。
「こんな日に魔族が出ないでほしいよね」
続いて呟くミズキ。
「止めてよ、縁起でも無い…」
クスッと笑うレミア
「今日は純粋に『普通の女子』としてのあたしでいたいよ」
レルフィーナは、ミズキの方に駆け寄り顔を覗き込む。
「ミズキ、いざとなった時の準備はいい?」
「All set」
「Got it」
微笑み合う2人。
徒歩20分で『こしわの郷』に到着。5階建ての大きな建物だ。玄関には『屋上を一般開放しています どなたでも自由におはいりください』と記された張り紙が掲示されている。
中に入ると広いエントランスホールがあり、職員が出迎えてくれる。左手に2基のエレベーターがあり、そのうち1基が屋上と1階の間の直通になっていた。
屋上に上がると、施設や地域住民などの寄付による飲み物やお菓子の無料配布があり、その先に花火観覧用の長椅子が幾つも並べられている。この施設はこの地域の中で最も高い建物であり、打ち上げ花火を観賞するには最高の場所だ。
「いらっしゃい」
飲み物の配布ブースにいた浴衣姿のリアが声を掛けてくる。
「え? うそ! レミア大きいし…あなたもしかして」
「レルフィーナです。お久しぶり」
「えぇぇ、有り得ないっていうか、大丈夫なの?」
驚きを隠せないリア。
「お祭りなんで」
微笑むレルフィーナ
「そうなのね…。そうだ。みんなに飲み物用意してあるの、1本ずつ好きなの取って」
リアはテントの中での飲料配布所に案内。各自にペットボトル飲料を1本ずつ手に取ってもらう。
「ありがとうございます」
「いただきます」
「ごちそうさまです」
「サンキュー」
皆それぞれ思い思いに飲料を手に取る。
「リアサーン、アノー、コンバンワー!」
後ろの方から聞き覚えのある声。ユウたちが振り向くとそこにはハヤトとハルユキの姿。
「ハルユキくーん、よく来たね~」
「兄貴ト一緒ニ来タ。リアサーン、アクシュ!」
「はい、握手しましょうね」
リアが笑顔でハルユキと握手。すっかり顔なじみのようだ。
「いつもハルユキがお世話になっています」
ハヤトが丁寧に挨拶。
「そんなにかしこまらないで。お祭りなんだから」
満面の笑顔を返すリア。
「ユウサーン、ミズキサーン、コンバンワー。アクシュ!」
ハルユキは今度はユウとミズキを見つけて二人に握手を求める。二人ともそれに応える。
(あれ? ねぇ、れーちゃん。何か気づいた?)
(…うん。気づいちゃった。ハルユキ君、あたし達2人、存在を認識してない)
レミアとレルフィーナのテレパシーの会話をユウ、ミズキ、リア、ハヤトが聞き取り驚く。
(え?)
{何で?)
(れーちゃんは能力使って普通の人にも見えるようになってるはずだし、レルさんだって…)
(興味深いな)
レルフィーナとレミアが顔を見合わせる。
(…なんでだろ?)
(分かったよ…分身体を認識できない…ですって)
レルフィーナが『原因を知りたい』と願った瞬間、レルフィーナの思考の中に回答が降りてきた。『願いを実現させる』超夢幻少女としての能力のおかげだ。
(そういうことなのね…)
『皆様お待たせ致しました。夏祭り恒例の打ち上げ花火、開始でございます!』
屋上全体に鳴り響いた女性の声のアナウンス。次の瞬間、夜空に大きな花火が光り輝く。凄まじい破裂音。皆、屋上の柵の近くまで寄り、夜空に花開いた花見に見とれる。
『最初の花火は夏祭り運営委員会 10号でございました。続きまして、観光協会様 10号4発早撃ちでございます』
アナウンスの直後に大きな花火が立て続けに4発上がる。
このアナウンスは花火打ち上げ場所近くの特設舞台で陣取った打ち上げ花火を紹介する女性アナウンサーの声が、地元のコミュニティFM放送を通して、この屋上にも流れているのだ。
「きれい…」
不意に呟くミズキ
「ミズキはここの夏祭りの花火、初めてだったね」
「予備知識は歩けど、生は迫力が全然違うね」
『続きまして、天神建設株式会社様より大スターマイン、打ち上げ開始でございます』
アナウンスが終わった直後から次々と小さな花火が打ち上がり始める。その数はどんどん増え、やがて幾つもの大きな花火が同時に打ち上がり、視界一面が花火で埋まった。
終わったと同時に周りからちらほらと拍手が聞こえる。
「すごいすごい…。綺麗だったね」
「…そうだね」
感激するミズキに穏やかな笑顔で応えるユウ。ユウからしてみれば、このくらいの規模の花火は毎年のことなので見慣れてしまっている。しかも花火の華やかさは時間を追ってどんどん業火になっていくのが定番の流れ。序盤で盛り上がってしまったら、終盤まで持たなくなってしまうのが分かっていたから、あえて冷静に振る舞っていた。
花火は次々と、打ち上がり、序盤のスターマインをさらに凌ぐ豪華なスターマインも登場。約1時間半の打ち上げ花火大会を、皆思う存分楽しんでいた。
「いや~、全部終わっちゃったね」
しみじみ語るユウ。
「ありがとうリア。私ここでこんなに素敵な花火見られて最高だったよ」
満面の笑顔でリアに礼を言うミズキ。
「喜んでもらえて良かった。また来年も来てね」
「もちろん!」
「じゃあ私これから後片付けがあるから…」
皆に別れを告げ、テントの方に向かうリア。
「じゃあ俺達も帰ろうか」
ユウ、ミズキ、ハヤト、ハルユキ、レミア、レルフィーナは施設のエレベーターで施設の1階まで降り、玄関から外に出る。
「ミズキサーン、ユウサーン、アクシュ!」
ハルユキから握手を求められたユウとミズキは、握手を交わし別れを告げる。
「それじゃ俺達こっちなんで…」
「うん、今日はお疲れ様」
「マタネー、バイバーイ」
「ハルユキ君、またね~」
角海兄弟と別れを告げるユウとミズキ。レルフィーナとレミアと共に帰路についた。
家路につく6人の姿をじっと陰から見守るツインテールの栗毛の少女が一人。
それから約1時間後の夜10時。浴衣姿のリアが1人、施設の玄関から外に出てきた。これから近くにある自宅まで徒歩で向かう。
「天神 リアさん」
しばらく歩くと背後から呼び止める声。リア、後ろを振り返る。後ろには同じくらいの年齢らしき少女が、リアのほうを見つめて立っている。
「はい?」
[隠れ身]
リアは何も気づかないが、その瞬間リアと少女の姿がその場から消えた。
少女がリアに近づく。
[饒舌]
少女の目が妖しく金色に光る。
[あなたの知っていることを包み隠さず何もかも教えて。『菖蒲塚 ユウ』という子について]
「え…」
[あなたは私の言葉に逆らうことはできない。全て話してくれれば、あなたには何もしない。私に心を許して、全てを話して…]
リアは完全に少女の暗示に掛かり、ユウのことについて知っている全てを話し始める。レルフィーナのことも、そしてレミアの事も…。
[色々教えてくれてありがとうね。これから私が指を鳴らすと、あなたは私に会ったこと、私に話したことを全て忘れるの。またいつか会いましょ]
少女が指をパチンと鳴らした瞬間、少女の姿が完全に消える。そして周りから見えなくなっていたリアの姿が現れ、リアは我に返る。
「…あれ、私、何してたんだろう。そうだ。家に帰らなきゃ…」




