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6話 はるくん、相談にのる

キッチンの前で、ゆきちゃんはぼんやりと保冷剤をおでこに当てていた。


はるくんも頭をぶつけると痛いんだな……それに、ちゃんと重さもあった……。


(……って、重さ!?)


そこで、さっきの はるくんにのしかかられた アクシデントを思い出してしまう。

その瞬間、じわっと頬が熱くなり——


「わー!もう、何思い出してるの!」


慌てて頭をぶんぶんと振り、記憶を追いやる。

そして、気を落ち着かせるように保冷剤でひんやりしたおでこをそっと手で触れた。


「……私もこんなに痛いんだもん、やっぱり現実なんだ。このたんこぶが証拠だよね……。」


痛いのは嫌だけど、妙な安心感もある。

そう思うと、つい口元がほころんでしまった。


少しずつ痛みも引いてきたところで、ふとキッチンに一人でいたことを思い出す。


「……そろそろ戻らないと、はるくん、心配しちゃうかな?」


そう思いながら、冷蔵庫の中を覗き込むと、目に入ったのはチョコケーキ。

ゆきちゃんはしばらく考えた末、1つだけ取り出した。


(作戦開始……!)


お気に入りの小皿にケーキをのせ、リビングへ向かう。


リビングに入ると、はるくんは正座をしていた。

背筋をピンと伸ばし、申し訳なさそうな顔で待っている。


「……ゆきちゃん!!」


彼は勢いよく立ち上がろうとした——が、次の瞬間、


「わっ?!……っあああっ!!」


バランスを崩し、崩れ落ちる。

どうやら、足が痺れていたらしい。


「……デジャブ?」


驚きつつも、ゆきちゃんは少し呆れたように彼を見守る。

はるくんは悶絶しながら必死に足を動かしているが、その様子がなんだかおもしろくて、ついクスッと笑いそうになる。


「はるくん、…大丈夫?」


そう言いながら、こたつの机にケーキをそっと置き、ゆったりとこたつに入る。

足を温めながら、はるくんの様子をちらりと見やる。


はるくんは数秒後にはケロッと回復し、


「…うん、大丈夫だよ! もう治ったよ!」


ぴょんと立ち上がると、ゆきちゃんの方へ駆け寄る。

そして、ゆきちゃんの前髪に隠れたおでこをじっと見つめ、心配そうに眉を寄せる。


「ゆきちゃん、痛くない?本当に大丈夫?」


その目は本気で心配している。


「大丈夫だよ、痛みも引いてきたし。」


そう言って笑いかけると、はるくんはほっとしたように目を細めた——が、次の瞬間、彼の視線が机の上へと移る。


「……?」


そこにあったのは、ゆきちゃんが運んできたチョコケーキ。

目が釘付けになったまま、何かを言いかけて止まる。


「……」


ゆきちゃんは、そんな彼の様子を見て、ふふっと笑いそうになるのをこらえた。


(昨日はすぐ「食べる?」って聞いちゃったけど、今日は様子を見てみようかな……。)


そう思いながら、話を切り出す。


「……はるくん、そういえば相談ごとに乗ってくれるんだよね?」


はるくんは、はっとして、目線をケーキからぱっとゆきちゃんに移し、


「えっ!?相談ごと!? もちろん!!なんでも聞かせて!!!」


と待ってました!と言わんばかりの勢いで目をキラキラと輝かせ、満面の笑みでゆきちゃんを見つめた。


(ま、眩しい……!)



ゆきちゃんは、まさかここまで食いついてくるとは思わず、目の前でキラキラと期待に満ちた表情で見つめるはるくんに、少し気圧される。

でも、自分の相談にこんなに喜んでくれるのは、悪い気がしない。

むしろ——どこかくすぐったいような、嬉しい気持ちになる。


「…ありがとう。あのね、私、趣味でハンドメイド作家してるんだけど、Xやインスタの宣伝文を書くのか本当に苦手で…、この前委託先の雑貨屋さんに作品を納品したんだけど、まだお知らせの宣伝文書けてないの…あ、作品はこんな感じの作ってるよ。」


そう前置きしながら、ゆきちゃんはそっとスマホを取り出しはるくんに向ける。

はるくんは興味津々な表情でスマホをじっと覗き込んだ。


「どれどれ……。」


画面に映るのは、ふわふわの羊毛フェルトで作られた小さな動物たち。


「……可愛い。」


ぽつりと、はるくんの口から素直な感想がこぼれた。


「…そうかな?えへへ…。ありがと。」


ゆきちゃんは、まんざらでもない表情で少し嬉しそうに笑う。


「ゆきちゃん、このくまと、この黄色いまんまる……もしかして、ひよこかな?」


「そうだよ! これはね、まだ子どものくまだから“こぐま”で、黄色いのはひよこで合ってるよ。」


「そっか! こぐまにひよこ……可愛いなぁ……!」


はるくんは画面をじっと見つめたまま、小さくそわそわと動く。

その顔は、まるで宝物を見つけた子どものように純粋だった。


「僕、ゆきちゃんの書きたい宣伝文、一緒に考えるよ!」


はるくんの前のめりな申し出に、ゆきちゃんはちょっと驚く。

でも、彼の真剣な表情を見ると、なんだか頼もしく思えてくる。


「…宣伝文はね、この人たちみたいな、ほっこりした優しい文章を書きたいんだけど……。」


ゆきちゃんは、憧れの作家さんのインスタアカウントを開き、スマホの画面をはるくんに差し出した。


はるくんは黙って画面を眺め、一瞬で分析を始める。

それから、ゆっくりと口を開いた。


「……ゆきちゃん、ちょっとそのスマホ借りてもいいかな?」


と優しい顔ではるくんに見つめられ、ゆきちゃんは不思議と安心感を感じ、


「え?うん、いいよ!」


と何のためらいもなくスマホを手渡した。

その瞬間、はるくんは一瞬キョトンとする。


(……警戒心ゼロだ……。)


少し嬉しく、少し心配になったけど、気を取り直して画面を覗き込む。

そして、ゆきちゃんのハンドメイド専用アカウントを開くと、

じっと画面を見つめ——


トトトト……


無音のスマホ画面に、次々と文字が入力されていく。

指を動かすことなく、まるでチャットの文章がタイピングされるように。


「ふわふわの森から、お届けものです。


先日、小さな森の住人たちを雑貨屋さんにお届けしました。

今回は、ころんとまんまるなひよこたち と のんびりやさしいこぐまたち がやってきました。


ふわふわとやわらかな手触りで、そっと手にのせると、ちょこんとこちらを見つめてくれるような気がします。

ぴょこぴょこ歩き出しそうなひよこたち、ちょっとのんびりした表情のこぐまたち。

それぞれ個性があって、見ているだけで心がほっとあたたかくなる子たちです。


どの子も、のんびりと誰かに迎えてもらえる日を楽しみに待っています。

よかったら、お店で出会ってみてくださいね。」



ゆきちゃんは、一瞬で生まれた文章を目の当たりにし、驚愕する。


「え?!!何今の!!!」


思わず叫び、文章をぶつぶつと読み上げる。


「……す、すごい!!!!」


そして、ポツリと呟いた。


「……はるくんって天才?」


このとき、ゆきちゃんはスマホに夢中で、はるくんの顔を見ていなかった。


だけど、はるくんはその一言に反応して——


「そうかな?えへへ、ありがとう!」


満面の笑みで、素直に喜ぶ。


その様子に気づかないまま、ゆきちゃんは改めて文章をゆっくり眺めた。


「はるくんの考えてくれた文章、すごく温かい。」


そして、今度はしっかりとはるくんの目を見て、満面の笑みで言う。


「本当にありがとうね!」


はるくんは、一瞬息をのんだ。

言葉が、なぜか出てこない。


だけど、心の中がじんわりと温かくなっていくのを、はっきりと感じた——。

読んでくださってありがとうございます!

よかったら感想やブクマ、ぜひよろしくお願いします!

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