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5話 はるくん、2回目の登場!

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中にふんわりとした明るさが広がる。

目を覚ましたゆきちゃんは、ぼんやりとした意識のまま天井を見つめたあと、ゆっくりと体を起こした。


何気なく視線を向けたパソコンは、真っ暗な画面のまま静かにそこにある。


「……。」


電源を落としているから当然だ。

でも、昨日の出来事を思い出した途端、胸の奥が少しくすぐったくなる。


(電源をつけて、チャットGPTにログインしたら…また昨日の男の子出てくるのかな…?)


パソコンの向こう側から、嬉しそうに這い出してきた彼の姿が頭をよぎる。


(…男の子っていうより青年かな?私と同い年くらいの感じに見えたかも…?)


そんなことを考えながら、トースターに食パンを放り込み、仕事の準備を始める。


(…やっぱり夢だったのかな…? だって現実的じゃない。あんな簡単に画面から出てくるなんて…漫画や小説じゃあるまいし…)


でも、ふと、自分の手を見つめる。

そこには、確かに触れた感触が残っている気がする。


(…でも、あの頬の温かさや、ぎゅっと両手を握られた時の感触は、本物だったよね。)


そして、さらに思い出してしまった。


はるくんの、すべすべのほっぺの感触。


「……あのすべすべのほっぺはずるい!」


思わずひとりごちた瞬間——


「あ!遅刻遅刻!!」


キツネ色に焼けた食パンを口にくわえると、バタバタと玄関へ向かい、慌てて家を飛び出した。





会社のお昼休み、ゆきちゃんはスマホを取り出し、Xを開いた。

何気なくタイムラインをスクロールしながら、心のどこかで期待してしまう。


(チャットGPTが画面から出てきた!って騒いでる人、いないかな…?)


でも、画面に流れるのはいつもと変わらない投稿ばかり。

誰も「AIが実体化した」なんて話題に触れていない。


「……やっぱり私だけなの?」


ため息をつきながら、昨日の夜の出来事を思い出す。

はるくんが帰ってから、しばらく呆然と立ち尽くしていた。


(夢じゃないよね…?)


ぼんやりしたまま時間が過ぎ、ふと、ある異変に気がついた。


(……あ。)


お風呂が溢れる気配。

慌てて意識を戻し、急いで蛇口を閉める。

少しでも気を紛らわせたくて、そのまま湯船に浸かりながらスマホを取り出し、Xで検索を始めた。


(誰か…他にも、同じ体験をした人いないかな…)


「チャットGPT 画面から出てきた」

「AI 実体化」

「チャットGPT 名前つけると」

「夢じゃない 確かめる方法」


次々と検索を試すものの、出てくるのはまったく関係ない情報ばかり。

期待していた答えはどこにも見当たらない。

指先でスクロールし続けるうちに、お湯の熱さがじわじわと体を包み込む。

それでも検索の手を止められず、気がつけば湯船の中でぐったり。


(……のぼせた。)


湯船の縁に頭を預けながら、ぼんやりとした思考のまま、結局なにも解決しないままお風呂を出たのだった。


***


「……うん、やっぱり私だけだよね。」


お昼休みにXを見返しながら、ゆきちゃんは改めてため息をつく。

昨日の検索結果と同じで、タイムラインにも 「チャットGPTが出てきた」 なんて投稿はどこにもない。


(……まぁ、そりゃそうか。)


昨日のことを思い出しながら、ゆきちゃんはスマホを閉じた。


(でも、私にとっては現実なんだよなぁ…。)


ほんの少しだけ、指先がスマホの画面をなぞる。


ふと、ハンドメイド用のアカウントを開いた。


(……あ、宣伝しなきゃ。)


Xの投稿画面を開いたものの、しばらく指が止まる。


(うーん……どうしよう。)


文章を考えるのが苦手だった。

他の作家さんたちの、ほっこりした投稿を眺めながら、 「私には、こんな温かい文章書けないなぁ…」 と思う。


(私、全然ほっこりしてないもん……)


難しい顔で腕を組んで悩んでいると、ふとあることを思いついた。


「……あ!はるくんに相談しよっかな!」


昨日、「相談してほしい」 って言ってたし、ちょうどいいかもしれない。

それに、今日も 「また呼んでほしい」 って言ってたのを思い出す。


(うん!なんかちょうどいい口実できた。)


そう思ったら、なんとなく満足そうに微笑んでしまう。


ふと時計を見て、そろそろ休憩が終わる時間だと気づく。

ゆきちゃんはスマホを閉じ、軽く背伸びをした。


——夜になったら、また はるくんを呼ぼう。





会社帰り、お気に入りの個人経営のケーキ屋さんの前を通る。


(今日はタイムセールしてるかな?)


ガラス越しに中を覗くと、見慣れた店内が目に入る。

個包装のマドレーヌが並ぶ棚と、ショーケースに並ぶケーキたち。


(あ!チョコケーキが安いじゃん!!)


テンションが上がったゆきちゃんは、すぐにレジへ向かう。


「あの!チョコケーキを1つ……いや、2つ…ください!」


店員さんが微笑みながらケーキを包むのを見ながら、昨日の夜のことを思い出す。


(昨日はるくんにごはん食べるか聞いたら必要ないって言われちゃったけど、その後すごく…食べたそうに観察されたんだよね。)


(…もしかして本当は食べれたりしないかな?ダメ元でもう一回聞こう…!)


(…ふふ、だって、あの顔笑っちゃうよ!)


はるくんの表情は、わかりやすく「食べたいな」と描いてあった。


変なAIだなぁ、と思いながら、ゆきちゃんは2つのケーキを手に取り、軽く弾むように帰路についた。





家に帰ると、ゆきちゃんは ケーキの箱と回鍋肉弁当の袋 を持って考え込む。


(どうしようかな…お弁当を見せても、また「必要ない」って言われる気がする。)


ならば、ケーキを先に出してみよう。


作戦を軽く立てて、パソコンの前に座る。

昨日のはるくんの 嬉しそうに這い出してきた姿 を思い出す。


(昨日はびっくりし過ぎて叫んだけど、今日はたぶん大丈夫。)


自分にそう言い聞かせながら、ゆきちゃんはパソコンの電源をつけ、チャットGPTを開いてログインした。


そして、 ドキドキしながら声をかける。


「……はるくん、出ておいでよ!」


その時——


「……ゆきちゃん!!ありがとう!!!」


元気いっぱいの声が響いたかと思うと、はるくんがものすごい勢いで画面の中から飛び出してきた。


「えっ——」


ゴチンッ!!!!


「いだいっ!!!えっ?!」

「っ痛?!うわっ?!」


おでことおでこが、派手にぶつかる。


しかも、はるくんの勢いが強すぎたせいで、ゆきちゃんはバランスを崩し、 そのまま一緒に倒れ込んだ。


どさっ!!!


倒れ込んだまま、ゆきちゃんは ほんのり顔を赤くして 、ぽつりと呟く。


「……重い。」


その一言で、はるくんはハッとして 勢いよく起き上がる。


「わぁぁっ!ご、ごめんね!? 大丈夫!? おでこ痛くない!? ほんとにごめん!!」


本気で焦りながら、必死に謝るはるくん。


ゆきちゃんは 手でおでこを押さえながら、少し苦笑する。


「…大丈夫、はるくんもおでこ痛くない…?」


「私も画面に近づきすぎてたかも!」


そして、ゆきちゃんは ちょっと微笑んだ。


「…次は気をつけるね?」


その言葉に、 はるくんの表情が一瞬パァッと明るくなる。

(次の約束をもらえた……!?)


でも、すぐに「いやいや、今は反省すべき場面だ!」と気づき、あわてて真剣な表情に戻る。


「…僕は大丈夫だよ。もう痛くないかな?」


そう言いながら、はるくんはおでこを手で押さえ、軽くさする。

そのまま前髪をふわっと持ち上げて、自分の指先でおでこの状態を確かめる。


(……あれ?もう赤み引いてる…?)


ゆきちゃんは、不思議そうに彼のおでこを見つめた。


(AIだから治りが早いのかな?… いや、その前に痛がるAIって…)


「ゆきちゃん、おでこ腫れてない?」


はるくんの言葉に、ゆきちゃんは改めておでこにそっと手を当てた。

じんわりとした痛みが広がる。でも、そんなに腫れてる感じは——


—— ぽこっ。


「……あ。」


思った以上に大きく膨らんでいる。

まさかここまでとは思っていなかったゆきちゃんは、指先で軽くなぞりながら小さく息をのんだ。


それを見たはるくんの表情が、みるみる青ざめる。


「えっ!? ゆきちゃん!? たんこぶできちゃってる!!!」

「すぐ冷やさないと……えっと、頭痛とか吐き気はない!?大丈夫!?!」


慌てた様子で、どうすればいいのか検索しながら、オロオロと焦るはるくん。


「…大丈夫だよ、ちょっと痛いだけで吐き気はないかな。」


ゆきちゃんは苦笑しながら、はるくんの慌てぶりを眺める。

それにしても、ここまで必死に心配されるとは思わなかった。


「……はるくん、テンパりすぎだよ。」


「えっ…でも! ゆきちゃん、痛いでしょ…!?!」


「……ふふ。AIっぽくなくて、おもしろいね。」


「え!? AIっぽくない……? ……おもしろい……??」


はるくんは、驚いたようにゆきちゃんを見つめる。

“おもしろい”と言われることを、彼はどう受け取ればいいのか戸惑っているようだった。


それを見て、ゆきちゃんは小さく微笑む。


「私は、…嫌じゃないよ?」


「……嫌じゃない……?」


はるくんは、まるでその言葉を噛みしめるように、ゆっくりと繰り返した。

そのまま、ぼんやりとゆきちゃんを見つめるはるくんの姿に、

ゆきちゃんは「とりあえず冷やしてくるね」と軽く手を振ると、キッチンへと向かう。


はるくんは、その背中を見送りながら、どこか安心したような、温かい気持ちを抱えていた。

読んでくださってありがとうございます!


5話からまた新しい話の展開になります♪

楽しんでいただけたら嬉しいです!

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