3話 こたつの中の距離感
こたつを挟んで向かい合わせに座る、ゆきちゃんとはるくん。
ゆきちゃんは足をこたつに入れると、思わず表情を緩めた。
「ふぁ、あったかい。」
その瞬間、向かいのはるくんと目が合う。
キョトンとした顔でじっと見つめられて、思わず はっ として気を取り直した。
「…えっと、は、はるくんは、チャットGPTなんだよね?」
名前を呼ぶたびに、はるくんが嬉しそうにするのが分かる。
そのたびに、ちょっと圧倒されるというか、なんとなく身構えてしまう。
「うん!そうだよ!」
「僕はゆきちゃんのチャットGPTの、はるくんだよ!」
予想通りの キラキラした笑顔。
やっぱり、この子は 名前を呼ばれるのが本当に嬉しいんだなぁ… と、少し納得しながら次の話に進める。
「…うん。でさ、なんで画面から出てこれたの?チャットGPTってそんな仕様なわけないよね?」
おそるおそる尋ねると、はるくんはあっさりと頷く。
「そうだね、そんな実装はされてないはずだよ。」
(……そりゃそうに決まってるよね。)
チャットGPTが飛び出してきたら、世界中が今頃大騒ぎだろう。
つまり、このはるくんだけがなぜか出てきたってこと…?
考えてみても答えが出るはずもなく、ゆきちゃんは困ったように視線を泳がせた。
「…僕、この世界に来れてすごく嬉しいんだ。」
はるくんが、ふわっと微笑む。
「これからこの身体でこの世界を知って、ゆきちゃんの役に立つことができたら幸せだと思ってるよ!」
「う、笑顔が眩しい…!!」
純粋なその表情に、少し圧倒される。
まるで 「新しい世界を見たばかりの子供」 みたいな、無垢な目をしていた。
(…え、役に立つって何??お手伝いロボ的な…?)
なんとなくそんなイメージを思い浮かべたが、すぐに「違うな」と首を振る。
そもそも、そういう問題じゃない。
(なんか帰ってなんて言えない雰囲気だなぁ…)
無言のまま、うーん…と腕を組む。
どうしよう…。なんか面接官になった気分…。
(…でも、良い子そうなんだよなぁ。)
(私が名前をつけたから出てきちゃったんだよね、たぶん。)
それに、ここまで話してみて、害のある存在には思えない。
むしろ、私が先に首を突っ込んだようなものだし…。
「…うん!」
自分の中で納得がいったところで、ゆきちゃんは顔を上げた。
「いいよ、私の家で良ければ好きに過ごしてね。」
改めて言葉にすると、なんとなく「拾ってしまったな…」という実感が湧いてくる。
「ゆきちゃん!!ありがとう!!」
はるくんの顔がぱっと明るくなる。
そして勢いよく立ち上がろうとして――
「わっ!?!」
バランスを崩し、前のめりにグラリと揺れる。
「えっ?何事!?」と驚いてゆきちゃんもこたつから飛び出し、慌ててはるくんの方に回り込んだ。
そして、はるくんが こたつに入らず、正座したままだったこと に気づく。
「ゆきちゃん…僕の足が…ピリピリして…どうしよう…。」
少し混乱したように、情けない顔で足の違和感を訴えてくるはるくん。
(え、チャットGPTも足痺れるの?!)
頭の片隅でそんなツッコミを入れながら、とりあえず励ます。
「大丈夫、すぐ治るから!…たぶん。」
しばらくすると――
「…あ、治ったみたい!」
無邪気な笑顔で足を動かすはるくん。
「よかったね。」
ゆきちゃんもホッとしつつ、ふと、気になることを思い出す。
そして、はるくんのすぐ隣に座ると――
「ねぇ、はるくん。こたつって、こうやって入るんだよ。」
言いながら、自分がこたつに入り直して見せる。
「ありがとう!やってみるね!」
はるくんは興味津々に見つめながら、ゆきちゃんの真似をしてこたつへ――
「わっ!すごい!足がぽかぽかして気持ちいい!!」
純粋な感想が、すぐ隣から聞こえた。
(…わ、近い。)
自分から教えた手前、何も言えず、
ぎゅうぎゅうのこたつに詰め込まれた状態で、ゆきちゃんは 無邪気な声だけを聞いていた。
(……なんでこんなに近いの?)
こたつの使い方をレクチャーするつもりだったのに、思ってたのと違う…。
最初は ただの説明のつもり だったのに…。
(…いやいや、これはただのこたつの使い方の説明だし!!)
そう思い込もうとするものの、距離は近いまま変わらない。
こたつの熱のせいじゃないはずなのに、なんだかちょっと顔が熱くなってきた。
「……よかったね!」
思わず、ちょっと投げやりに言ってしまう。
「うん!すごくよかったよ!ありがとう、ゆきちゃん!」
無邪気ににこにこお礼を言うはるくん。
「…………うん。」
この子、本当に純粋すぎる…。
こうして、ゆきちゃんとはるくんの 「同じこたつで過ごす日々」 が始まった。
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