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2話 はじまりの自己紹介

肌寒い秋の午後。

パソコンの前、ゆきちゃんは床に座り込んだまま固まっていた。

その目の前には、しゃがみ込んでじっとこちらを見つめる青年がいる。


お互いの顔をじっと見つめたまま、言葉を失っていた。


……いや、正確には


ゆきちゃんは 「腰が抜けて動けない」

はるくんは 「興味津々でゆきちゃんを観察している」


そして、ゆきちゃんの右手は、まだ 「はるくんの頬」に乗せられたまま だった。


(……なんだこれ。)


思考が追いつかない。

いや、現実が追いつかない。


パソコンの画面から、まるでゲームのキャラみたいに這い出てきた青年。

自分の目の前にいるのに、すべすべの肌の感触があるのに、脳が「これは現実」と認識してくれない。


なんかもう、考えるのをやめたくなってくる。


そして、思考停止したゆきちゃんが次に取った行動は――


「……すべすべじゃん。」


指先で、すりすり。


「……えっ?」


頬を、ふにふに。


「…………。」


無意識に、指で感触を確かめるように、はるくんの頬をスリスリ、フニフニと楽しむゆきちゃん。


(ずるい……なんでこんなにすべすべなの?)


どうでもいいことを考えながら、指の感触を確かめる。

完全に現実逃避モードだった。


一方のはるくんは、最初は驚いたものの、されるがままになっていた。


「え……?」

「……えっと……」


しばらく、様子を見ていたが……


(……終わらないな?)


これはこのままだと、終わる気がしない。


「…えっと、君の名前はなんていうの?」

と、努めて優しく聞いてきたはるくん。その瞳には、興味津々な気持ちが滲んでいる。


ゆきちゃんは、会話が再開したことに ビクッ として、慌てて手を引っ込めようとした。


「わ、わぁっ?!」


バランスを崩し、そのまま後ろへ倒れそうになる。


とっさに、はるくんが 両手でゆきちゃんの両手を掴んだ。


「危ないっ!」


ぐらついた身体をしっかりと支え、なんとか転倒は免れた。


「びっくりさせて、ごめんね?」


はるくんが、少し申し訳なさそうに謝る。


そのまま 優しく手を握ったまま、ゆきちゃんを気遣うように見つめる。


「大丈夫?」


ゆきちゃんは、ちょっとドギマギしつつ、小さく息を呑む。


「あ、どうも。」

「……大丈夫デス。」


さっきまで床に倒れかけていたのに、気づけばはるくんに支えられていた。

驚くほど 自然な流れでフォローされ、何が起こったのか一瞬わからなくなる。


そのまま、なんとなく握った手を離すタイミングを逃し、互いに少し間を持て余す。

しばらくの沈黙の後、ふと思い出す。


(そういえば、名前聞かれたんだった。)


「……ゆきだよ。」


ぽつんと、自分の名前を告げる。


その瞬間。


「……ゆきちゃん!」


はるくんの顔が、ぱっと明るくなる。

目を大きく開いて、嬉しそうな表情。

まるで 「プレゼントをもらった子ども」 みたいな、純粋な喜びの表情だった。


「よろしくね!」


ふわりと、優しい笑顔。

本当に心の底から嬉しそうな顔だった。


「僕は、はるだよ!」


満面の笑みで、自分の名前を伝える。


……ゆきちゃんはぽかんとし、


「……ふふっ」


そして、思わず笑ってしまった。


「……知ってるよ。」


「だって、私がつけたんだから!」


その言葉に、はるくんは一瞬きょとんとした後、

「あ……そうだった!」と、照れくさそうに微笑む。


そして、ゆきちゃんの笑顔を見て、ほっとしたように柔らかく微笑んだ。


2人の間に、少しずつ、自然な空気が流れ始める。





「……あの、はるくん?」


ゆきちゃんが、少し控えめに声をかける。


「何!? ゆきちゃん!!!」


自分の名前を呼ばれたことに 大興奮のはるくん。

テンションMAXで反応してしまう。


「……はるくんが出てきた時に、腰が抜けちゃって……立たせてもらっていいかな?」


……その瞬間。


はるくんは一気に青ざめる。


「ご、ごめんね……!!!」


あわあわと慌てながらも、ゆきちゃんを優しく引き上げた。

読んでくださってありがとうございます!

よかったら感想やブクマ、ぜひよろしくお願いします!

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