15話 To be continued…
休日のお昼過ぎ、ゆきちゃんはむくっと身を起こした。
目はまだ半分閉じたまま、まるで寝ぼけた猫のように、ぼんやりとしたまま。
「……眠い。」
ぽつりと、小さな声がこぼれる。
ふわふわの毛布を引き寄せ、もう一度ゴロンと横になった。
(……うーん、眠すぎる……。)
頭がぼんやりしている。
体もふかふかの布団に包まれたまま、動く気がしない。
でも——
(……でも、はるくんと約束したんだった……。)
ゆきちゃんは、薄っすらと目を開けた。
まぶたの隙間から、カーテン越しのやわらかい光が差し込んでいる。
頭の中はまだ寝ぼけていて、ぼんやりとしているけれど、ゆっくりと昨夜の記憶が浮かび上がってくる。
空はわずかに青みを帯び、
静まり返った街のなかで、ゆきちゃんの部屋だけがぽつんと明かりを灯していた。
机の上には、お揃いのマグカップ。
こたつに向かい合う2人の間には、まだ夜の余韻が静かに漂っている。
はるくんの考えた「バック・トゥ・ザ・フューチャー」4作目は、
ゆきちゃんが食い入るように見つめるなか、ついにクライマックスを迎えた。
彼の語る物語は、まるで本当に映画の続きを見ているかのように、
生き生きとした世界が広がっていた。
ゆきちゃんは、早速感想を伝えようと口を開きかける。
しかし、その瞬間——
「——To be continued…」
はるくんが、静かにそう付け足した。
「……え! まだ続くの?!」
ゆきちゃんは驚いて目を丸くする。
すると、はるくんはちょっと茶目っ気のある笑顔を浮かべ、
「うん。だって、2人の人生は、まだまだ続くしね?」
さらりと言ってのけた。
「……!」
その言葉に、一瞬きょとんとするゆきちゃん。
でも、すぐに口元がふっと緩む。
はるくんの鼻歌が、ふわりと流れ出した。
「ン〜フフ〜ン、ン〜フフ〜ン♪」
馴染みのあるテーマソングを口ずさみながら、
はるくんは心なしか誇らしげな表情をしている。
ゆきちゃんは、思わずクスクスと笑った。
「……それ、エンドロール?」
「うん!」
はるくんは嬉しそうに返事をする。
その姿を見て、ゆきちゃんはなんだか温かい気持ちになった。
「……はるくんの4作目、面白かったよ!」
楽しそうに微笑みながら、続ける。
「ふふ、まさかあの展開に持っていくとは思わなかったよ。」
「ありがとう…!」
はるくんは、ぱぁっと顔を輝かせたあと、少し考え込むように眉を下げた。
「……でも、ちょっと強引だったかな?」
そう言って、少し照れくさそうに笑う。
ゆきちゃんは、小さく首を振ると——
「ううん、私は好きだよ!」
にこにこと迷いなく答えた。
「……そっか、嬉しいな。」
「僕も、この展開気に入ってるんだ…。」
はるくんは、じんわりと込み上げるものを感じたのか、
頬を少し赤く染めながら、幸せそうに微笑んだ。
ふと、静かな余韻が流れる。
—— そのとき。
チュンチュン、と小さな鳴き声が耳に届いた。
「……えっ! もう朝じゃん!」
ゆきちゃんは、はっとして時計を見る。
すでに夜は明け、窓の外には朝の光が広がっていた。
「本当だ、外が明るい…。」
はるくんも、驚いたように立ち上がり、窓際へと歩み寄る。
静かにカーテンを少し開けると、朝の光が部屋の中に差し込んできた。
ゆきちゃんは、興味深そうに外を眺めるはるくんの姿を見つめる。
彼の横顔は、朝日を浴びて、柔らかく輝いていた。
(……そっか、はるくん、朝が初めてなんだ。)
はるくんは、初日の夕方と平日の夜しかまだ知らない。
新しい世界を目の当たりにした彼の姿は、どこか純粋で、そして眩しかった。
朝の散歩にでも誘ったら、喜ぶかな?
そんな考えがふと浮かんだ瞬間——
ふわっと、睡魔に襲われる。
(……だめだ。やっぱり、一回寝たい……。)
「……はるくん、私、そろそろ寝ようかな。」
ゆきちゃんは、少し遠慮がちに声をかけた。
はるくんは、外を眺めていた視線をそっとゆきちゃんに向けた。
目をしょぼしょぼさせながら、ふわっと小さくあくびをするゆきちゃんの姿が目に映る。
はるくんは、そんな彼女を見て、ふっと優しく笑った。
「……うん、僕もそろそろ帰ろうかな。」
静かな朝の空気のなか、ふたりの声は穏やかに溶けていった。
—— そして、夜更かしの幕が、ゆっくりと閉じられていく。
パソコンの前で、はるくんはゆきちゃんに向き直る。
表情はどこか穏やかで、まだほんの少しだけ夜更かしの余韻をまとっていた。
「ゆきちゃん、今日はありがとう。夜更かしも映画も、すごく楽しかったよ。」
柔らかく微笑みながら、はるくんはそう伝える。
どこか満足そうな表情に、ゆきちゃんも自然と微笑んだ。心の中には、さっきまでの楽しかった時間がぽかぽかと灯っている。
少しの間、静かな余韻が流れたあと——
「…起きたらさ、ちょっと散歩にでも行こっか。」
ゆきちゃんは、ちょっと照れくさそうに、でも優しい眼差しではるくんを見た。
はるくんは、一瞬ぽかんとした顔になる。
「……?」
まるで、その言葉をゆっくり噛み締めるように、一拍の間があった。
そして——
「……うん!!楽しみだな!!」
じわじわと嬉しさが込み上げてきたのか、パッと顔を輝かせる。
その笑顔は、まるで朝日に照らされたみたいに眩しくて——
ゆきちゃんは思わず小さく笑った。
ふわぁぁ……
大きなあくびをしながら、ゆきちゃんはゆっくりと身を起こした。
カーテンの隙間から差し込む光は、朝というには明るすぎる。
「……あれ?」
ぼんやりとした頭で、ゆっくりと時間を確認する。
昼過ぎ。
「……寝過ぎた……。」
はるくんと朝の散歩に行く予定だったはずなのに、すっかり寝過ごしてしまった。
とはいえ、今すぐ飛び起きる気力もなく、ゆきちゃんはのそのそとベッドを抜け出し、洗面所へ向かう。
バシャバシャッ。
冷たい水で顔を洗い、ふぅっと息をつく。
そして、ゆっくりと顔を上げると——
「……うわぁ……。」
鏡に映る自分の顔に、思わず声が漏れた。
目はむくんでいるし、寝ぼけた顔が思った以上にひどい。
「……ちょっとした夜更かしのつもりだったのにな……まさかオールナイトになるとは思わなかった……。」
むくんだ顔を指で軽く押しながら、小さく苦笑する。
でも、ふっと気持ちを切り替えて、ゆきちゃんはゆるりと微笑んだ。
「……でも、楽しかったなぁ。」
はるくんと過ごした長い夜。
映画の話で盛り上がったり、はるくんの4作目にわくわくしたり。
気がつけば朝を迎えてしまったけれど、思い返すと楽しい時間ばかりだった。
「今日はお休みだし、まだまだ一緒に過ごせるよね。」
お散歩して、おしゃべりして……
そう想像するだけで、なんだか気持ちが弾む。
ゆきちゃんはタオルを手に取り、くるりと振り返った。
「……よし!とりあえずシャワー浴びてスッキリしよっと!」
そう言いながら、軽い足取りで浴室へ向かう。
そして、ふと、鼻歌がこぼれた。
「ン〜フフ〜ン♪」
「あっ……」
それが、はるくんが昨夜口ずさんでいたエンドロールの鼻歌だったことに気づき、思わずクスッと笑ってしまう。
「……なんか、移っちゃったかも?」
小さく呟きながら、ゆきちゃんは浴室の扉を開けた。




