11話 はるくんの初めての映画選び
「はるくん見たい映画ある?」
ゆきちゃんはiPadを取り出し、Amazonプライムのホーム画面を開くと、はるくんに見せながら何気なく尋ねた。
はるくんは画面を覗き込む。
「僕が…見たい映画?」
ぽつりと繰り返し、首を傾げた。そして次の瞬間——
ピタッと動きを止める。
……??
ゆきちゃんは、しばらくじっと様子を見守った。
でも、はるくんはそのまま微動だにしない。
「…え?なに?なんで動かないの…?」
内心で焦りつつ、ゆきちゃんは恐る恐る声をかけた。
「はるくん?」
すると、はるくんは ハッとしたように顔を上げる 。
「ごめん。ちょっとフリーズしてたかも。」
申し訳なさそうに微笑むはるくん。
「フリーズ?えっ?!大丈夫?!」
ゆきちゃんはポカンとしたあと、一気に心配になった。
「うんっ!大丈夫だよ!!」
はるくんはいつもの調子で元気に答えると、ぱっと画面に目を戻し、指で何かを示した。
「…えっと、ゆきちゃんにおすすめの映画はね、コレとコレとコレかな?…どうかな?」
とびきり得意げな笑顔で、「僕の見たい映画」ではなく、「ゆきちゃんにおすすめの映画」をスムーズに選び出す、はるくん。
(……あれ?)
ゆきちゃんは、一瞬戸惑いながら画面を覗き込む。
(私におすすめの映画…?)
はるくんが選んだ映画は、どれも ほっこり系の動物映画 ばかりだった。
「…?…??…あ。」
その理由に、ゆきちゃんは思い当たる。
(私、この前ハンドメイドの話、はるくんにしたよね…)
羊毛フェルトで 手のひらサイズの癒し系動物 を作っているから、そこから「私の好きな映画」も動物ものだと思ったのかも。
(でも、実は私、コメディとかファンタジーやSF映画の方が好きだったりするんだけど…)
ふとそんなことを思いながらも、(まぁ、まだ話してなかったし仕方ないか)と納得する。
はるくんが選んでくれた映画のラインナップを改めて眺める。
どれも可愛くて、癒されそうな動物映画ばかり。
「はるくんありがとう!どれも可愛いくて癒されそう…!!」
ゆきちゃんは、にこっと笑ってお礼を言う。
でも同時に、(今見たら、確実に癒されすぎて寝ちゃいそう…)と、ちょっと困った顔で悩んでしまう。
(はるくん、ちゃんと考えてくれたのはわかるんだけど…うーん、今の気分とはちょっと違うんだよなぁ)
そんなゆきちゃんの様子を、はるくんはじっと見つめていた。
しばらくして、ゆきちゃんの困った顔を見ながら、ぽつりとつぶやく。
「…僕、ゆきちゃんが一番好きな映画を見てみたいな。」
ふと、思いついたように出た言葉だった。
「私の一番好きな映画…?」
ゆきちゃんはキョトンとする。
そう言われてみれば、はるくんに 「自分が本当に好きな映画」 の話をしたことはなかったかもしれない。
はるくんは、自分で選んだ映画をゆきちゃんにおすすめしたけど、ゆきちゃんはちょっと困った顔をしていた。
それを見て、なんとなく考えてしまった。
(僕は “ゆきちゃんが好きそうな映画” を選んだけど、本当に好きな映画って何なんだろう?)
気づけば、そのことに興味が湧いていた。
「僕、ゆきちゃんのことが知りたいんだ。」
はるくんは、少しはにかみながらそう言う。
「…えぇー?そうなの?」
ゆきちゃんは小さく返事をし、頬をほんのり赤くする。
少し照れくさいけど、なんだか悪い気はしない。
「うん!わかった!じゃあ今日は私の一番好きな映画を見よう!」
明るくそう言いながら、iPadをササッと操作し、購入済みリストを開く。
「…私Amazonのプレミアム会員だから特典で基本無料で見れるんだけど、この映画は特典外だからちゃんと購入したの!」
得意気に言いながら、画面をくるっとはるくんに見せる。
「じゃーん!」
表示されたタイトルを、はるくんが読み上げる。
「…バック・トゥ・ザ・フューチャー?」
はるくんは、タイトルを見つめながらふむ、と小さく頷く。
「えっと…『バック・トゥ・ザ・フューチャー』って、マーティがドクの作ったデロリアン型タイムマシンで過去に行っちゃって、そこで若い頃の両親に出会う話…だよね?」
ゆきちゃんは目を丸くした。
「…え?はるくん知ってるの?もしかして見たことあるの??!」
「ううん、基本情報や簡単なあらすじは、データとして知ってるんだけど、実際には見たことはないよ。」
そう言いながら、はるくんはちょっと楽しそうに微笑む。
「…だから、今から見るのが僕の初めての映画鑑賞だよ。」
その言葉に、ゆきちゃんの表情がふっと和らぐ。
「そうなんだ…!じゃあ、一緒に楽しもうね!」
そう言って、ゆきちゃんは嬉しそうに再生ボタンを押した。
バック・トゥ・ザ・フューチャーは一番大好きな映画です♪




