終焉
ついに、博士の助手デービッドを含め世界各国、6件の連続惨殺事件が起きてしまった。
犯人は一体誰で、いつまで続くのか!?
悪魔事件とまで言われた、世界を恐怖に陥れた不可解な事件に、クラッチ博士は答えを導き出せるのか!?
1985年12月31日。
世界の嫌われ者であり、自称エクソシストであり、学会の鼻つまみ者であるクラッチ博士に
事件の真相・解決を見せるので12月31日には絶対に集まるようにと手紙を受け取った各国の警察。
その際には、
必ず全ての容疑者を同行させる事!
を、条件に呼び出しを受け一同に集まったこれまでの事件の容疑者でもある、ネヴィル・スコット・リオン・セルゲイ・エリックの5人。
護送車により、各国から連れて来られた全容疑者の脇を警察官が、しっかりと固めていた。
どうやらマスコミも呼ばれていた様で、ヘリコプターも数機、上空を飛んでいる。
指定された時刻になっても現れる様子のない本日の主役でもある、クラッチ博士。
警官や容疑者達も口々に不平不満を出しつつ、暑さのまだ残るオーストラリアの大地を、エアーズロックの上で踏みしめていた。
まだか、まだかと、声も上がり始めてくる─
まさか騙されたのでは?
と、あちこちから声が聞こえ始め、ざわざわし始めた頃に、辺りは突然暗闇に襲われた。
真っ黒な雲が空を覆い、怪しいフードを被った何者かがエアーズロックの真ん中で、何やらブツブツ唱えている。
あれは誰なんだ─?
と全員が疑問に思い、まさかあの世界の嫌われ者なのでは?
と口に出す者もいた。
そんな声が上がり始めた頃に、そのフードを被った何者かは、両手を広げると、右手に持った杖の様な物を空へとかざし始めた。
天空の雲はそれに呼応するかの様に、ゴロゴロと音を立て、荒れ狂い始めた。
さっきまで騒いでいた群衆がシーンとなり、何が起きようとしているのかを、凝視しその、一挙手一投足を固唾を飲んで見守る中で、信じられない光景を目の当たりにする事になる。
次の瞬間、目の前には大きな閃光が走り、その何者かへと、雷が打たれたのだ。
だが、そのフードを被った怪しい影は消える事なく、その場に立ち尽くしていた。
見れば、先程まで空を覆っていた雲はおろか、辺りの暗さは全く無くなって、晴れ渡る青空が見えている。
『あの者が、今回の首謀者ですよ。』
そう声が聞こえた方に、一同振り向いた。
そこにいたのは、紛れもないクラッチ博士。
世界の嫌われ者は、ようやく真打ち登場と言う感じで、その場に立っていた。
ざわつく現場をよそに、クラッチ博士はその何者かへと気付かれぬ様にサッと歩み寄ると、右手に持っていた縄で捕縛をした。
後で聞いた話によると、博士自らが三日三晩眠らずに編み上げた、対悪魔用の特殊な縄との事である。
縛り上げられた何者かのフードを取ると、中から出てきたのは角を持ち、牙の異様に尖った体はドス黒い悪魔とも言うべき見た目。
悪魔は言う。
『なぜだ!計画は完璧だった!俺様が次の大悪魔ディアボロスになるはずだった。。』
その言葉を遮る様にクラッチ博士は続けた。
『6ヶ所で君が起こした、殺人に関しては完璧だったと思うよ。だがね、君の間違いはキーワードに繋がる者を全て殺した事だ!それでは、いくら詠唱が完璧でも、ディアボロスを呼び覚ます事など誰にも出来まい。』
クラッチ博士はその手に握る綱を持ち、集めた容疑者達の方へと向き直るや、1人1人の顔を順番に見て行くと、人差し指を向けながら、語り始めた。
『ここにいる悪魔は、本当ならそこにいる彼らを始末せねばならなかった。だがね、間違えて彼らを生かしたばかりか、ディアボロスのキーワードに繋がる者を始末してしまったのだ。そう…。私の優秀なる助手、デービッドの様に。』
悪魔は一瞬ビックリした様子だったが、それ以降何も言う事もなく、ただうなだれていた。
にわかには信じ難い、各国の警察官達も動揺を隠せていない。
目の前の悪魔を目にしたとて、雷を目にしたとて、クラッチ博士が何を言っているのかすら訳がわからなかったからだ。
だが、この悪魔がやったと言う、確かな証拠が欲しかった。
それを証明出来なければ、せっかく捕まえた容疑者を解放する訳にも行かないのだから。。。
『これより、世紀の証明をしてみせよう!』
嬉嬉として笑みを浮かべた世界の嫌われ者は、意気揚々と叫び、その場にいる全員に聞こえる様に語り始めた。
コレで、この事件は終わりだ!
と、告げると、クラッチ博士は今回の事件のあらすじを、その場の群衆に静かに語り始めた。
アメリカ→イタリア→アルゼンチン→ソ連→アフリカ→アメリカへと連続で起きた惨殺事件である事。
上の国を線で繋ぐと、歪ではあるものの、五芒星が現れる事。
五芒星とは、悪魔の印とも呼ばれる印である事。
容疑者と親しい関係にあったアンジェラ・ロメオ・イルハン・ボロム・スーチル・デービットこの5人の頭文字を取ると、ディアボロスとなる事。
ディアボロス(悪魔)になる為の詠唱により、自らが大悪魔へと、進化しようとしていた下級悪魔が、人々の潜在意識や思った言葉で世界を渡り、世界を駆け抜け、事件を起こしたと言う事。
消滅させた村や、街の順番で悪魔の星とも言われる五芒星を書くまでは良かったが、名前に入るディアボロスと言うキーワードになる人物を殺してしまったが為に、今回大悪魔の為の詠唱では呼び出す事が出来なかったと言う事。
クラッチ博士はその場にいる全員に、わかりやすく丁寧に、1つ1つ説明をして行った。
しかし、集まった警察や容疑者達の顔が、にわかには信じがたいと告げていた。
が、そこに同行していた科学研究班による、被害者の傷と悪魔の爪による一撃が起こした切創の幅が一致したとの報告がされるや、半信半疑ながらも認めざるを得なかった。
事件は、終わった─。
悪魔事件とまで言われ、世界を恐怖のどん底に陥れた連続惨殺事件は、ここで終わりを迎えたのだ。
悪魔は、と言うと─。
最後には罪を反省し浄化される事になったそうだ。
大悪魔ディアボロス─。
この世にもしも蘇っていたら…。
どんな災厄をもたらしていたのだろうか。