エリック
第5章
アメリカから始まった、不可解な連続殺人事件が世界中を掛け巡る!
自称エクソシストのクラッチ博士は、被害者で容疑者でもある彼らを無事に救う事は出来るのか!?
─時は1985年。
─11月25日。
冬でも熱気が立ち込め、燦々(さんさん)と太陽が照り返す、灼熱の大地・南アフリカを舞台に、住民が50人にも満たない小さな村でもこれまで同様に、不可解な事件が起きていた。
事件が発生した当時、
この村の自警団を務める、この村1番の優しい青年エリック(27)以外の住民が全員家の入口に向けうつ伏せに倒れ死亡していたのだ。
事件前日の24日には、幼なじみであり昔から仲の良かったスーチルから、翌日には狩りに行こう!
と誘われた事もあり、2つ返事で出掛ける事を了承した。
久々の狩りの約束が出来た事もあり、遠足を待ちきれない子供の様にウキウキしながら、また、大きな獲物を取ってやろう!
と心に決めながら、床についたはずだった─。
─事件発生から3日後
この小さな村にも警察が到着し、自警団の青年は当たり前の様に逮捕をされ、そして裁判を待つ身となった。
その過程で、彼は"人間"と言う物を信じられなくなっていった─。
いくら無実を訴えようと誰にも信じてもらえず、誰も味方にもなってくれず、取り調べをする警察官達はおろか、世の中から聞こえて来る声と言えば
大量殺人犯に死の制裁を!
と言う声しか聞こえて来なかったからだ。
その一方で、
同様に、現場に到着した警察官達も全員、頭を抱えていた。
容疑者として逮捕された彼は、村で自警団をして武器を持ってはいるが、そんな彼の持つ唯一の武器であり、主に狩りに使う様にしか使われない磨き込まれた、しっかりと手に馴染む年季の入ったお気に入りの槍は、綺麗なままで血の跡すら付いていなかったからだ。
容疑者のベッドの横に立て掛けてあり、前日より動かした形跡も全くなかった。
そもそも、犯人は彼ではないのだろうか?
と、疑われる事すら無意味に思えるのだが、村で生き残っていたエリックが、警察が考える最重要参考人である事に変わりはなかった。
しかし警察としても、きっと彼が槍以外の武器を使ったのだ!
と言う声が大多数であり、彼はその武器をきっとどこか遠くに捨てたのだと考えていた。
─だが、ここでまた警察は壁に直面する。
村の半径2キロ以内に容疑者エリックの物と思われる足跡はただの1つも見つからなかったのだ。
事件が発生する前の数日で、雨が降ったのは23日だった事も、頭を悩ませる直接的な原因になっていた。
そう─!
雨でぬかるんだ土の地面は、凶器を捨てに行ったのならば確実に、容疑者の足跡を残すはずなのだ。
なぜ、見つからないのか?
そうでなければ、村のどこかに隠したはずである。
当然そう考え、徹底的な村の大捜索が行われた。
しかし、見つからない。
遺体の全てはと言うと、これまで起きた全ての事件同様に、顎の下から下腹部にかけて鋭利な物で斬られ、うつ伏せに倒れる形で死亡していた。
凶器が何にせよ、斬られた事は間違いない。
だが、奇妙な事に遺体から染み出た赤い線を辿って見ると、何やら紋章の様な物が出て来そうではあった。
上空から見ると歪な形ではある物の、五芒星を模した様な形をしており、悪魔の仕業なのでは?
とも、警察内部の一部からは囁かれ始めた。
─12月10日
そんな容疑者を一目見る為に、遠くはるばるアメリカから世界の嫌われ者がやって来る。
そんな自称エクソシストにとっては猛暑と呼ぶに相応しく、自身の体には全く適さないであろう灼熱の太陽に耐えかねる様子で、しきりに額の汗を拭いながら、青年との面会をしていた。
『この村で君が体験した事を、全て話して貰えないだろうか?』
クラッチ博士は、丁寧に。
そして穏やかに聞いた。
当然ではあるが、容疑者の反応は全員同じだ。
必ず人間不信に陥っている。
それもそのはず、誰も信用など出来ないだろう。
昨日まで笑いあっていた仲の良い、同じ土地で暮らす住民が全員惨殺され、挙句自らが犯人として扱われ、酷い扱いを受けて来たのだ。
逆の立場でも、きっとそうなるだろうなぁ。
と、ある程度の理解を示しつつも、解決に向けて動くには、どの事件も同様に目の前に座る殺人者かもしれない人物達に話を聞くしか、クラッチ博士には出来る事がなかった。
自分は無力だと痛感する瞬間でもあった。
だが、この難解な事件を解決さえすれば、それなりに名声は得られるだろう。
富も得られるかもしれない。
もしかしたら、学会で馬鹿にして来た年老いた頭の固い連中を黙らせる事が出来るかもしれない!
そう思うと、彼らの為もあるが自分の為に意地でも解決をしたかった。
エリックは当然ではあるが、知っている事を全て話してくれた。
目の前に座る世界の嫌われ者であり、自称エクソシストを名乗る、この胡散臭い男を信用して。
時折質問をするが、基本的にはメモを取り、容疑者の話を聞きながら相槌を打ち続けた。
クラッチ博士はある程度、答えに繋がる未来が見えていたのかもしれない。
いつもの様に話を一通り聞き終わると、君の事はきっと助けてあげられると思うよ。
と告げ、その場を後にした。
─12月23日
クリスマスが目前に迫った、アメリカへと帰国した世界の嫌われ者。
いつも通り床がギーギーと鳴き、すきま風がたっぷりと入ってくる自慢の部屋では、今にも消えそうなストーブの微かな明かりに照らし出される黒い影。
いつもの様に肘掛けが半分取れかかった椅子の背もたれに背中を預けながら、机の上に組んだ足を伸ばした大柄な男が悩んでいた。
いや─。
今日は珍しく、その顔にハットを乗せておらず、その両目をしっかりと開けながら、天井をジッと見つめていた。
机の隅にハットを避け、お気に入りの万年筆をクルクルと指で遊ばせながら、その顔に僅かな笑みを浮かべながら男が呟く。
『後、1件か……。』
ここに来て、新展開!
捜査する警察側にも
『壁』が……。
そして、後1件…とは!?
世界の嫌われ者・クラッチ博士は
見事、この難事件を解決に導けるのだろうか!?
次回の展開をお楽しみに。