リオン
第3章
アメリカ、イタリアで起きた不可解な連続殺人事件。
その被害者達との会話で、頭を悩ませるクラッチ博士だが、そんな彼の前に、第三の事件が…。
─時は1985年
アルゼンチン北東部。
ウルグアイとの国境が近く昔より農業や畜産で栄えた住民60人程の小さな村で事件は起こる。
事件を担当したのは、村に常駐していた連邦警察配属3年目の若手であり、この村出身で村の誇りとも言われたリオン。
しかし、リオンはかつてない程の難解な事件に遭遇し、頭を抱えていた。
事件が起きたのは、10月13日。
前日の12日には、誕生日パーティーを住民総出で盛大に行ってもらい、気分良く家に帰ろうとするのだが、余りの千鳥足に親友の家へと向かう事にした。
彼の親友はイルハン。
子供の頃から仲の良い。
まるで、兄弟の様でもあった。
そりゃ、ケンカも数えられない程した。
くたばれと言いあった事もある。
もちろんではあるが、殴り合いもした。
だが─。
今となっては全て良い思い出である。
家に着くなり、部屋を用意してもらいベッドへと横になると、疲れもあってそのまま熟睡したリオンが翌朝目を醒ますと、家の中はいつもの見慣れた光景とは変わり果てた惨状と化していた。
両親を早くに亡くし、1人で家を守っていたイルハンではあるが、扉の前で変わり果てた姿になっていたのだ。
誰の目にも明らかな、動かぬその姿は息をしていなかった。よく見れば、イルハンの遺体から外へと続く様に赤い線が描かれている。当然の様にその線を追い掛け走ったリオンは、村中の人という人を訪ねて回った。
誰か生きているかもしれない─!!
僅かな希望を抱きながら。
しかし、2人の育ての親であるニコライも含め、誰1人生きてはいなかった。
どの家でも皆、同じ様に扉に向かってうつ伏せに倒れ、息絶えていたのだ。
─事件から4日後。
リオンは牢屋にいた。
村の中で唯一の生き残り。
そして、親友の家へ泊まり油断をさせた上での殺人との判断。
罪は重かった。
必死に冤罪を訴え続けたが、誰も彼の味方にはならなかった。堕落した英雄、廃村を作った男、血も涙もない殺人鬼とも言われた。
だが、彼は無罪を主張し続けた。
国をあげ死刑に処すべき!!
との声も上がったが、リオンは諦めなかった。
まだ死ぬ訳には行かない!
親友の仇を取るまでは─。
そう心に決めていた。
犯人は、別にいる!
─10月30日
警察に留置されていた堕ちた英雄の元に、面会希望者として1人の嫌われ者が現れる。
自称エクソシストのクラッチ博士だ。
面会用の椅子に腰掛けるなり殺人鬼と呼ばれた男へと声を掛ける。
『君の起きた状況を端的に、そしてわかりやすく教えてくれたまえ。私なら、君を助けてあげられるかもしれない。』
藁にもすがる思いで、希望を見つけたリオンは当時の状況を話し始めた。
聞きながら1つ1つ丁寧に、紐解く様にまた、時には質問を返しながらメモを取りウンウンと頷くクラッチ博士。
リオンにはまるで何が起きてるのかわからなかったが、クラッチ博士はコレが最後だよ?と前置きをした上で質問をした。
『君の親友の名前はイルハンであっているね?そのイルハンに消えて欲しいと思った事はあるかい?』
ハッとした表情で、世界の嫌われ者を見る堕落した英雄。
なぜそう思ったのかはさておき、ケンカをしていたらそう思った事はないわけではない。と答えた。
誰しも1度くらいは、本気じゃなくても死ねとか消えろとかくたばれとか言った事はあるのではなかろうか?
そう疑問に感じたリオンではあるが、博士はその答えにも満足そうだった。
そうだろうな。
と呟き、頷きながら自己解決している様子である。
そんな世界の嫌われ者は、リオンにしばらくは来れそうにないが、きっと君を助けてみせるよ。。と、希望を告げると席を立ったが、何かを思い出したかの様に振り返ると…
『君は何もメモを取っていないよね?』
と、現場や状況がわかるものが何かないかを訪ねてきた。
持ってないです…。
と語るリオンに少し不満気な表情を浮かべたが…じゃ、また。と告げると部屋を後にした。
─11月10日
そろそろ寒くなってくる頃か。
ストーブでも炊き始めようか?と、自らの、すきま風がたっぷりと入り、床もギーギーと鳴く、古ぼけた自慢の事務所の奥で、わずかばかりの日光に晒された肘掛けの半分取れかかった椅子の背もたれに体を預ける大男。
ハットを顔の上に置き、デスクの上には足を組んで伸ばし、一見すると寝てるのか?と思わせる姿だが、コレは彼の考える為のポーズらしい。
この姿で考えないと、推理力が4割は落ちるのだと常日頃から呟いていた。
この数ヶ月で3件、同様の難解な事件が起きている。場所や年齢は違えど、犯人とされた男はみんな警察関係の仕事をしており、住民全員がもれなく惨殺されていた。
実に不可解だった。
『だが、面白そうではないか…!』
そう呟くと、
これまでの事件経過や状況も全て整理しなければなるまい。まだまだ時間は足りないのだ。そう心に決めたクラッチ博士は、考えをまとめる為に思案に入った。
─zzzzz
………はず?
3人の聞き取りを終え、博士得意の考えるポーズを取り、事件のあらすじを頭の中で考え始めた…!?
嫌われ者は、事件の真相へと辿り着けるのか!?