スコット
第2章
─時は1985年。
イタリア北部にある、住民が60人程の小さな街で不可解な事件が起こる。
住民全員が惨殺される事件が発生したのだ。
事件が起きたのは、9月9日。
良く晴れた日だった。
事件を担当したイタリア国家警察のスコット(34)は頭を抱えていた。
当たり前である。
9月7日に別邸のあるこの街を訪れ、久々の休暇を楽しみながら、のんびりとワインとピザを味わいながら過ごしていた彼の休暇は驚くほど単純に消えた。
1ヶ月に1度はこの街を訪れ、それなりに見知った顔も多かった。
近所に住むロメオ(29)とは特に仲が良く、2人で朝まで飲み明かした事もあった。
もちろん、ケンカも何度もした。
死んでしまえと罵りあった事もある。
だが、仲良く肩を組みサッカーの試合も見に行ったり、釣りにも出掛ける程に仲は良かった。
9月9日にも2人で出掛ける約束をしていた為に、朝からロメオを迎えに行こうと車を準備していたスコットは、ある異変に気付く。
周辺が何やら血生臭かったのだ。
無二の親友とも呼べる、そんな友人の家の方から血の様な赤い線が細く、長く描かれていた。線を追いかけながらも、心配は募るばかり。
どうか無事でいてくれと願いながら、友人の家へと急ぐ。
だが、家の扉を開け中に入るといつもの友人の姿はなく、既に息絶えていた。
慌てて警察へと通報をしようにも電話線は切られており、電話のある街へと向かう事にしたスコット。車を走らせ、街の小さな酒場へと入る。
だが、そこにも同じ様に息絶えた酒場の主人の姿があった。
何とか電話を見つけるや、自身の所属と身分を名乗り、応援を呼ぶ。
1人で何をしていいかもわからず途方に暮れていたが、現場の状況だけでも…と、酒場の主人の様子、友人の様子をノートに記録を残した。
応援を待つ間に街が静かすぎるのも気になり、
洋服屋、電気屋、パン屋をそれぞれ訪ねたが、全戸扉の鍵は開いており、全員が同じ様にうつ伏せに倒れ息絶えていたのだ。
どういう事なのか?
何が起きているのか?
理解も出来ず、混乱しながらもスコットはメモを残し続けた。
─事件から20日後。
スコットは獄中にいた。
街の大量殺人犯の最重要参考人として、逮捕されていた。
冤罪を訴え続け、何も知らない!
と、主張をするも、街の中で唯一生き残った男の疑惑は晴れなかった。
裁判では自らの不利な証拠を並べられ、何も言い返せない状況が続いた事もあり、判決までは驚くほど早く進んだ。
結局は死刑を宣告され、そのまま投獄された。
元国家警察官である男の収監は世を賑わせた。
誰も彼の言う事に耳を傾ける事もなく、信用出来る人もおらず、彼は全てに絶望していた。
………だが、そんな彼にも光が差したのだ。
─10月20日
元国家警察官の殺人鬼の前に、現れた自称エクソシストであり世界の嫌われ者、クラッチ博士。
当初は面会と聞いて戸惑ったスコットだったが、こんな見放された男に会いに来る変わり者を見てみたくもあり、面会を受け付けた。
見た時には、世界の嫌われ者として有名な男だった事もあり明らかに落胆した様子を見せた元国家警察官に対し開口1番、クラッチ博士はハッキリとした声で話し掛けた。
『君の冤罪を助けるのが、私の役目だ』
と。
一瞬何を言っているのか理解も出来ず、なぜそんなハッキリ言い切れるのかもわからずに、キョトンとしていた死刑囚ではあるが、そんな彼にクラッチ博士は続けた。
『君はこの街で起きた皆殺し事件の、唯一の生き残りだったね?ならば、その時の状況を出来るだけ詳しく。そして、出来るだけわかりやすく、簡潔に述べてくれたまえ。』
ハッキリと、わかりやすく、そして聞き取りやすくクラッチ博士は死刑を宣告され世の中全てに絶望している男に告げた。
それを聞いて、この男なら信用するに値するかもしれない!
と、耳を傾けてくれた唯一の、目の前に座る男にスコットはゆっくりと9月9日に自身がその身をもって体験した事を話し始めた。
9月7日から街にいた事、この街に別邸がある事、最初に発見したロメオとは特に仲が良く出掛ける約束もしていた事なども含め全てを話した。
その話を聞きながら、また細かく質問を繰り返しながらも、クラッチ博士はメモを取り続けた。
必要な情報を手に入れたのか、メモを見て満足そうに頷く。
そして、コレが最後の質問だよ?
と、優しく語り掛けた博士に、
子供のように、うん。
と大きく頷くスコット。
『その時の君が書いたメモとか手記とか。何でも良いんだけど、持ってないかな?』
その言葉にハッとなり、帰りに受け取ってくれと告げていた。
裁判ではまるで証拠とされなかった、あの自らのメモが役立つ時が来たのだ。
答えに満足したクラッチ博士は、しばらくは来れそうにないのだが、きっと君の冤罪は私が晴らしてあげよう。。
と、世の中全てに絶望をした死刑囚に希望を告げるとその場を後にした。。