海の街
1シエル10円くらいで考えてください。
ライカさんは3000円くらいくれました。
ガタガタガタ…
ナナは、震えていた。新品の錆一つない剣を両手に握りしめて前に向け、片足を前に出していた。冷や汗が全身を伝う。
村を出発して早10分、目の前には、低音でうなるデカい紫色のザリガニが居た。こちらを睨み、敵が動くのを待っている。
「ひぃ…」
やばいやばい。
甲殻類ってこんな声出るっけ…
ていうかここ、まだめちゃくちゃ陸なんだけど…
どう考えても、魔物だ。普通の動物じゃない。
…ということは、倒して売るべきだ。
「よ、よーし…」
ナナは深呼吸し、覚悟を決めた。
動くな…動くなよ…。
勢いよく剣を振り上げ、一歩踏み出しながら振り下ろす。
ザリガニはナナの動作を感知すると、勢いよくこちらに飛びつこうとした。
「うわーーっ!!」
ナナ思わずは叫び、目を瞑ってしまった。
…ザリガニは、よく研いである剣に自分から突き刺さりに行ってくれた。
奇妙な甲高い鳴き声を発し、剣が殻の隙間に突き刺さったまましばらくジタバタし、やがて、動かなくなった。
「やったか…?」
…
やった。、
「ふぅ…危なかった…。」
ていうか、これからは生きていくためにもっと倒さなきゃいけないんだよな…。
ナナは「無理」と言いたげな苦い顔をした。
とりあえず、ザリガニを街まで引っ張っていく必要がある。ロープなんてないから、尻尾を掴んで引きずるしかない。
「重っ!」
ナナはそのまま5分ほど手で引きずった。しかし、早々に限界が来てしまった。甲羅が細かいから、手に食い込んで痛い。
「うぅ…ロープ…。」
すると、都合よく移動販売のよろず屋がやってきた。
OHミラクル!
「おじさーーん!」
ナナはザリガニを置き、荷台を引くおじさんに向かって飛ぼうとしたが、飛べないことを思い出し、走った。
「おじさん!ロープありますか?」
「おう、あるよ。お嬢ちゃん、一人?珍しいね。」
「あはは…」
「50シエルだよ。」
ナナはライカさんにもらった袋の中をあさる。あったあった、お財布。
しかし、どのコインがどれだかわからない。
「えっと…」
「足りないのかい?」
「いえ、たぶんあるんですけど…えっと…」
とりあえず一番キラキラしたやつを出してみる。
「はい、150シエルおつりね。」
銀色のコインを3枚手渡された。
なるほど、銀が50シエルで、金が200シエルね。覚えておこう。
「ほらこれ、ロープ。」
「ありがとうございます」
おじさんは商売が終わるとすぐに行ってしまった。
よかった、これで楽になる〜。
ナナは早速ザリガニのところに戻り、結ぶ。落ちたら嫌だから、三重にきつく結んだ。自分でもよくわからないほど複雑に結ぶ。
そんなこんなで30分ほど進むと、いい加減お腹が空いてきた。あ、そうだ、ライカさんのおまんじゅう。
ナナは立ったまま袋をあさった。大きいのに、3個もある。
一つ取り、片手で食べながら進む。おいしい!もちもちで、素朴な味わい。よく考えたら、食べなきゃよかった果物以来、クッキー一枚しか食べてない。
おいしかった。もうひとつ。
美味しい!もうひとつ。
もうひと…。あれ。もうない。
ナナは、しょんぼりした顔で歩みを進めた。
そのままさらに40分ほど歩く。ナナも流石に疲れてきた。
少し休憩しようかな…。
木の影に座る。呼吸を整えていると、潮風の匂いがしてきた。
少し遠くに、文明が見える。
コンパスを確認してみる。
…!南西だ。
ってことは、海の街!!
ナナはすぐさま立ち上がり、ロープを両手で掴み、最高時速で走る。
とにかく、早くコレ売って身軽になりたい。
「『海の街セルベーユ』…」
すごい。見渡す限り建物と、人だ。天使界より混んでる。
でっかい噴水と、市場。みんな幸せそうだ。子供もたくさんいる。
ナナが活気にうっとりしていると、ザリガニに気づいたお姉さんに声をかけられた。
「おっ、いいもん持ってるじゃん。うちで売ってかない?」
「うんうん、状態がいいね。結構大きいのに、よく一突きで倒したねぇ。」
「たまたまですよ。」
本当にたまたまだけど。
「そうだねぇ。この大きさだと、800シエルくらいかな。」
「えっ、そんなに!?」
「サイズがいいからね。きっと核もデカいよ。」
『魔物買取いちろくや』のお姉さんは、ザリガニを店の奥に引きずると、ロープを持って帰ってきた。
「あんた、固く結びすぎでしょ。はいこれ、余ったところのロープね。次から使う前に切っときなよ。」
お姉さんはロープの束をナナに投げた。
「えーっと、お金お金…」
ガチャガチャと引き出しをあさり、金のコインを4枚、ナナに手渡した。
「ありがとうね。また、よろしく」
ナナは店を後にした。体が何倍も軽く感じる。というか、天使だったころより体力ないか?私。
とりあえず、街を探索してみる。
すごい、よくわからない店だらけだ。
服屋…。私には大きいかな。って、3200シエル!?!?
武器屋!かっこいい杖とかもある。うーん、魔法は使えないな。
ここは…酒場だ。私ってお酒飲んでいい…よね?
…あ、薬屋だ。どうせこれからたくさん怪我するし、買っておこうかな。お金あるし。
800シエル稼いで少し調子に乗ったナナは、元気よく薬屋のドアを開けた。
「あっ、お客さんだ。いらっしゃいませ。」
店員の若い男がニコニコしながら薬瓶を並べている。
一人…みたいだ。
狭い店を見回す。とりあえず一番目立つ、真ん中の大きな棚を見てみる。すごく普通そうな葉っぱが大量に入った袋が大量に収められている。
『一袋100シエル』
…なんだかよくわからないけど、多分これだろう。
ナナは2袋手に取り、お兄さんのところへ持っていく。
「これください。」
「はーい、200シエルだよ。」
お兄さんは特に移動もせずに、脚立に乗ったまま手を差し出した。200シエル渡す。お兄さんはコインをポケットにしまい、作業を再開した。
「あんた、新米の冒険者だろ。」
「まあ…はい、そんな感じです。」
「一人旅は危険がつきものだからな〜、気をつけろよ。」
ナナは店を出た後、お兄さんの言葉を噛み締めた。
「たしかに、一人は危ないな…」
でも仲間なんて、当てがないし、ひとまず今はしょうがない。
そんなことを考えていたら、ナナは足元の水たまりに気づかず、うっかり足を滑らせた。
「うわっ!」
ズサッ。
「いってて…」
石畳の道に膝を少し強めに擦ってしまった。雨も降ってないのに、なんで水たまりが…。汚れと血がじんわりにじむ。痛いけど、こんなのに薬草使ってたらキリがない。我慢だ我慢。
ナナがゆっくりと立とうとしたところに、後ろから声が若い聞こえた。
「おう、大丈夫か〜そこ。」
ナナは振り向いた。高い位置でポニーテールを結んだ、金髪の女の子が小走りで駆け寄ってくる。…私と同い年くらいに見える。人間年齢だと全然違うだろうけど。
少女は勢い余ってドリフトし、まだ座り込んでいるナナのそばへスタイリッシュに屈んだ。
「あちゃー、いたそー。」
少女が、軽く手を膝にかざした。
…?何してるんだ?
少女は少し力み、かざした手の指が広がる。
…すぐに、傷が消えた。跡もない。
ナナが驚きで固まっていると、少女はスタイリッシュに立ち、スタイリッシュに駆け出した。
「礼はいらんよ〜」
振り向かずに軽く手を振り、少女は遠くへ行ってしまった。
ぽかーん。
なんで近所に街あるのに村から引っ越さないの?は自分でも思いました。後々説明します