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解雇天使  作者: ぽよ!ん
5/7

失敗

リリアは手を横に伸ばし、笑いながら、駆けていく。

さっきまで転んで大泣きしていたのに、もうこんなにケロッとしている。人間の子供は不思議だ…。


「へへへ!おっはな〜おっはな〜!」


随分とご機嫌だ。お菓子でももらったのかな…

そういえば、お腹すいたな…。みんなはもう今頃お昼食べてるだろうな。『守護天使の昼は現地調達だ』なんて言われたけど、こんなに雑にできた自然にある食べ物って安全なのか?うーん、気が乗らないなぁ…。


ぼーっとしながらリリアの後ろをつけていると、リリアは早速小さな石につまづきそうになった。前から少し風を送る。リリアはバランスを取り戻した。


「おっとと、あぶないあぶない。」


ふぅ。

ナナはもう一仕事終えたような気になった。



リリアは小走りでどんどん進む。村が少しずつ小さくなる。汚い配置の木が横を流れ、これまた汚い配置の雲がついてくる。ずんずん進む。10分ほど歩いただろうか、先を眺めてみると、遠くに、ピンク色の地面がかすかに見えた。お、あれかな、お花畑。


お花畑がくっきりしてきたところで、突然リリアがぴたりと止まった。

…?どうしたんだろう。

ナナは少し横にずれて、前を見てみた。


…!ジポッドだ。少し先の左側の木の影から一匹だけ顔を出している。あれ?群れは?まぁ、一匹でよかったけど。ナナがそこらへんの石を拾って構えていると、リリアがジポッドに向かって駆け出した。

うわっ!だめだめ!離れて!


ナナは急いで引き留めようと、腕を伸ばした。しかし、ナナより先に、ジポッドがリリアに飛びついた。


…!


ナナは思わず目を瞑ると、聞こえてきたのは叫び声ではなく、笑い声だった。


「あははは!久しぶり!元気だった、ポチ?」 


ジポッドはまるで普通の犬のように尻尾を振り、舌を出し、リリアと戯れている。…あれ。

ナナは腕を下げ、石をポイっと投げ捨てた。なーんだ、凶暴じゃないのもいるんだ。ナナはその場であぐらをかき、微笑ましい光景に目を細くした。そういえば、天使界にいた犬はみんな私になついてくれなかったな。エリザはあんなに簡単に「お手!」とかやってたけど、私は足首を噛まれるばっかりだったなぁ…。


ナナが思い出に浸っていると、突然リリアがはっとした。

どうやら用事を思い出したようだ。


「あっ、ごめんね、ポチ!今日は遊びに来たんじゃなくて、お花をつみにきたんだった!またね!」


リリアはスッと背筋を伸ばし、ポチ?に手を振りながら、また駆け出した。

ナナも急いで立ち上がり、ついていく。





「よーし、このくらいでいいかなー。」

リリアは満足げな顔で、鮮やかな色でいっぱいの籠を持ち上げた。ナナも、屈んで一つ摘んでみる。…かわいい。天使界の庭園で水やり当番をしていた頃を思い出す。まぁ、天使界の花の方が綺麗だけど。

ナナは花を髪に挿してみた。が、すぐに落ちてしまった。

ありゃ。ま、いっか。


そうこうしている間に、リリアが帰り道に向かってスキップし始めた。もちろんついていく。

結構暇だなぁ。万が一の責任が重い代わりに普段は楽なのかな。リリア、思ってたより死ぬ気配ないし。ていうか、お腹空いたよー。


ナナはリリアの後をピッタリつけながら、あたりを見渡す。お、何かの実がある。

少しリリアの側から離れ、採ってみる。真っ赤で、硬い。典型的な感じ。だが油断は禁物だ。

本当に大丈夫かー?これ。

数秒疑った後、ナナは覚悟を決めて齧った。


う〜んおいし〜い。って、危ない危ない。側から見たら果物が空中に浮かんでるんだから、見られないようにしないと。ナナは一度木の後ろに回り、リリアの視界から外れたところでいそいそと食べた。

芯を投げ捨て、まぁまぁ先まで行ってしまったリリアへ向かって飛ぶ。もうなんだかんだで、だいぶ時間が経っているようだ。太陽が昼過ぎだと伝える。

あ〜あ、早く戻ってエリザたちと遊びたいな〜。

ナナはあくびをした。背伸びをして天を仰ぐ。


何か、輝く物がが空を切り裂いた。


……あれ?

流れ星?

こんな昼間に?


ナナは不思議な顔で空を眺める。




「あ、」

ゴッ。



…?


リリア…? 


少し遠くで、微かな声と、


鈍い音がした。


まるで、重い物が、何かを打ちつけたような。




…最悪の想像がナナの頭によぎる。


そんな、そんなわけないよ。


ナナは真っ青な顔で駆け出す。


嘘、嘘嘘うそうそ。


絶対に大丈夫だよ…、、

だって叫んですら無かった、、


絶対に無事だよ、絶対何も…!!



……嘘だ…。

大きな岩に、リリアの頭が下敷きになっている。

血が地面に流れ、あたりに一面に花が散らかっている。

リリアは微動だにしない。即死だったようだ。


ナナは、何も考えられなかった。


ナナはその場に膝から崩れ落ちた。

脳が状況を受け入れない。


私…私はもうすぐ初日の仕事が終わって、天使界に帰って、遊んでご飯食べて寝るんだ。明日もまた人間界に来て、リリアを見守るんだ…。

…違う。私…、リリアは…。


ナナは微動だにしないまま、ボロボロと泣き出した。


私が見てれば…、私がそばを離れなければ…

…なんのための守護天使だ

こんなの…、



「……あ。」

ナナは、自分の運命を思い出した。

人間。

記憶が消える。

…死ぬ。


死ぬ…?

…嫌だ。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」


ナナはパニックになり、叫びながらうずくまった。

死にたくない。死にたくない。死にたくない!!!


ナナは光輪に手を伸ばす。触れると、金色の粉が頭から落ちてきた。…崩れ始めてる。

翼に触る。大量の羽が、抜け落ちた。


次は…記憶……


ナナは必死に天使界のことを思い出した。

「掃除…!!そうだよ、いつも毎日掃除して、それで、置いてかれて、師匠に怒られて、…あと、リリア!!リリアがいつも花で冠を作ってくれて…ケイ…ケイと廊下でかけっこして……」


消えないで…消えないで消えないで消えないで!!!


常に視界に、頭上から落ちてくる金の粉が入ってくる。

後ろを見ると、ほとんどの羽が地面に落ちている。


リリアの体に触れる。

さっきまであんなに元気だったのに……


「リリア…動いてよ…。」


…本当に死ぬんだ、私。


ナナは、嗚咽を抑えて深呼吸した。震える手で手提げの持ち手をぎゅっと握り、前を見る。もう、金色の粉は見えない。全て落ちたようだ。翼の重さも感じない。記憶が消えるのもすぐだろう。


「ごめんなさい、リリア…。本当にごめんなさい…。」


ナナは、まだ生きているように暖かいリリアの手を握り、目を閉じ、頬に伝う水滴を感じながらその時を待った。





………




………











………あれ…?


おかしい、もう3分くらい経ってるのに。

はっきり思い出せる。

天使界の事。自分の事。


どうして…。

すぐだって聞いてたのに。

 


「きゃぁぁぁ!!!」



左から悲鳴が聞こえた。咄嗟に振り向くと、人間の女が口を押さえてひどく怯えた顔をしている。

彼女は持っていた野菜の入った籠をその場に落とし、こちらに駆け寄ってきた。


「リリアちゃん!!!リリアちゃん!!!どうしましょう、あぁ、なんてこと……」


彼女は泣きながらリリアの前で座り込み、手をリリアの体の上でうろうろさせた。まるで、この状態からでも助けるために、何かしようとしているかのように。


「あぁ…こんなの嘘よ…。信じられない…リリアちゃん…。」


彼女は手を顔に持ってきて、さらに激しく泣き始めた。


ぎゅっ…

ナナは唇を噛み締め、うつむく。両手を膝の上で握りしめる。ナナは罪悪感に殺されそうになっていた。


そのまま1分ほど、あたりには女の泣き声と鳥の囀りだけが響いた。


ゆっくり、彼女がナナの方を向く。

ナナは少しだけ顔を上げた。


「あなた…誰なの…?どうしてリリアちゃんと居たの…?」

掠れた、力のない声で女が訊ねる。


「…わ、わた…し」


上手く声が出ない。吐きそうだ。

なんて言えば良いんだろう。

守護天使?私に名乗る資格なんてない。信じてもらえる訳もない。

ナナは唾を飲み込み、深くうつむきながら、ゆっくりと、返事を練って、声を出した。


「私…旅人で、この近くに来てて、たまたま、居合わせたんです。この子が、落ちてきた岩に…」


馬鹿みたいだ。全部私のせいなのに。

…馬鹿みたいだ。


「…そうなのね。この子は、私の友達の子でね、辛いけれど、連れて行かなくっちゃ。村でしっかり葬ってあげないと…。」







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