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解雇天使  作者: ぽよ!ん
3/7

初仕事

果てしない廊下を走り、これまた果てしない螺旋階段を下り、ヘトヘトになってやっと34階、ポータルのある広いロビーへたどり着いた。今日はかなり混んでいるようだ。


大きなポータルはいつものように、不思議な青白い光を放ち、定期的に底からうなるような低音を響かせていた。そして、ポータルの端に目をやると、、居た。ケイとエリザと、師匠だ。ん?師匠?私の方が早く向かったよね?…まぁこういうこともある。なにせジード師匠だから。そしてなぜかケイは、俯きながら手提げバッグを抱えている。


少し駆け足で、三人とその他沢山の天使が居るポータルの左端へ向かう。疲れた…。毎日の掃除でこれよりも長い距離往復してるのに、いつまで経っても体力がつかない。なんという謎。


「おまたせしましたぁ」


「もー!遅いよー!見送るためにわざわざ早起きしてあげたんだから感謝しなよね〜!ね、ケイ!」


エリザはいまだ表情の見えないケイに笑顔を送った。ケイは、もう少し深く俯いた。

「…うん」


師匠は一度あたりを見回し、手を叩いた。

「よし、ナナ、そろそろ行くか。」


「あっ、待って!」

ケイが突然顔を上げ、手提げバッグを前に突き出した。頬がほんのり赤い。ケイはナナの目から視線を逸らした。


「その…昨日は…なんかごめんな。これ、向こう行ったら見ろよ。い、今開けんなよ!」


ナナは一瞬困惑したが、すぐに受け取り、へへっと笑った。


「ありがとう、ケイ。」


ケイの顔が真っ赤になった。


「ほ、ほら!早く行ってこい!」


エリザとナナはお互いの目を見て笑った。師匠も、少し口角が上がった気がする。


「よし、じゃあ行くか。初日は俺がついていく。途中でいなくなるからな」


「はい!」


「頑張ってね!ナナ!またあとでね!」

エリザは軽く手を振った。

ケイも、控えめに腕をあげた。


そうだった、すぐに戻れるんだった。まるで長旅に出るような雰囲気だったけど、これからは毎朝のルーティンになるんだ。

ナナはエリザとケイに手を振り返し、横を見る。師匠は腕を組み、ナナを目で催促した。


ポータルを覗いてみる。こんなに近寄ったことがなかったから気づかなかったけど、実際かなり不気味だ…。てか、よく考えたら長老の命令ってなに?なんか嬉しくて流されちゃったけど。私長老に会ったことないし…そもそも会う権利無いし…。師匠の言う通りだ。おかしい。なんで優秀でも無い私が?考えれば考えるほどおかしい…。でもここまで来たら行かなきゃなぁ…。あぁ、なんでもっと早く気づかなかったんだろう…。怖い…


ナナは突然不安に襲われた。しかし、行く以外の選択肢はない。とてもゆっくりと深呼吸をして目を瞑り、ポータルへ、足を踏み入れた。







つま先がポータルに触れた瞬間、ナナはとんでもない勢いで吸い込まれた。声を出す暇もなく、終わりの見えない青白い光と奇妙な音の中を猛スピードで進む。速っ!これ何か落としたらどうなっちゃうんだろう…。

ナナはケイからもらった手提げをギュッと抱きしめた。




3分ほど経っただろうか。暇になりひとりしりとりを始めていたところに、遠い前方から白い円が迫ってくるのが見えた。出口…かな?ナナは、再度襲ってきた不安を払拭するために頭を振り、少し身構え、息を吸って、吐いた。

円がどんどん大きくなる。

…これ、人間界に着いた瞬間地面に激突したりしないよね?


ついに円をくぐる時、突然強烈な光が目に刺さり、ナナは思わず目を瞑った。

来る…!怪我しませんように…!


トスッ。


ナナは、軽く地面に放り出された。

いたた…よかった。案外弱めの勢いで出てこれた。

頭上を見ると、ポータルの出口はスッと縮んで消えてしまった。


辺りを見回す。木が沢山。草が生えている。空が青い。

うーん、天使界よりもなんだか、、雑だ。木は全然等間隔じゃないし、雲の位置がバラバラすぎるし、不要な石とかが転がっている。地面も、よくわからない草がところどころ生えている。どれもこれもランダムだ。完璧な天使界とは全然違う…。

ナナは少しガッカリして座り込んだ。はぁ…。人間界なんて広いだけかぁ…。

ため息をついた時、頭上のポータルがまた開く音がした。顔を上げると、何かが落ちてくる音がする。

や、やばい、ぶつかる!避けなきゃ!


ナナが左に飛んで避けた瞬間、師匠がスッと足から着地した。慣れてるなぁ…。かっこいい〜。


「よし、着いたな。どうだ?全然綺麗じゃないだろ?」


「うーん、もっといいところだと思ってました…」


「ははっ、まぁ最初は汚く見えるだろうな。でも、自然っていうのは本来こういうことなんだ。しばらく仕事を続けていれば、逆に天使界の庭がおかしく思えてくるぞ。」


ほんとかなぁ…。


「そんなことより、とりあえず村に向かうか。一度上から見てみるか。俺もここに来るのは久しぶりだからな。だいたいの地形を理解しておくと便利だぞ。」


「はぁい。」


ナナは師匠と一緒に勢いよく上へ飛び立った。

うーん、やっぱり雲が汚い。へんなの〜!

かなり高い位置まで来たところで、師匠が止まった、ナナも止まった。手提げを落とさないように両腕で抱き抱える。


「そこだ。」

師匠は、西北にポツンと位置する、家の集合体を指差して言った。あれがナギム村?本当に小さいな…。建物は10軒ほどしか無さそうだ。


「お、そういえばお前、帰り方は分かるか?」


…いやいや、そんな大事なことはもっと早めに聞いてよ!?お互い聞くの忘れたらおしまいじゃん!怖っ!


「い、いや、分からないです」


「あーー、そうだな、まず『帰りたいなー』って思うんだ。そしたら、頭の上にポータルの穴が開くから、そこに入れ。それだけだ。」


「…」


…聞かなくても大丈夫だった…




ポータル

ロビーの中心の床にある大きな穴。人間界へと続いている。

青以上の階級の腕章を付けていないと跳ね返される。

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