春は出会いの季節
様子見しながらところどころ手を加えていきます。
俺、夕凪陸人が高校2年生になった春の夕方。
放課後の教室で睨み合っている2人の少女を見て、ため息を吐いた。
なんで、こんな事になったんだ…。
そう思わずにいられない。
*
ここは、県立の高校だ。この辺りで進学校がここだけなので人気がある。
そんな県立の進学高校に陸人は通っていた。
彼の見た目は少し耳にかかる程度の長さの黒髪で、茶色っけが混ざった黒色の瞳。
平凡な顔で、学力は平均よりちょい下ぐらい。
人付き合いはあまり得意ではなく、学年で気軽に話せるのは1人か2人。
そんな男子高校生が陸人だった。
そんな陸人がこの高校を選んだのは、ただ近かったから。
その理由だけである。
徒歩5分ほどで校門を通ることが出来る。
他にしたいことや考えがあるわけでもなくなんとなくで受験し、なんの偶然か合格を得ていた。
人付き合いが苦手、というより1人が好きな陸人とって、わざわざ人が多いところに行きたくない。
電車やバスでは、朝からどこの誰かも知らない人と一緒の空間にいる。
それだけでも疲れる。
そう考えると本当にここに合格してラッキーだったな。
そう陸人は思うのだった。
*
春休み明け。
陸人は高校2年生となっていた。
休み明けのだるい体で、慣れた道を進み学校の自分の教室を目指す。
陸人が教室に入ると、
「あ、夕凪くん!おはよう!」
元気よく挨拶をしてくれる少女がいた。
彼女の名前は、真昼海。
去年、陸人と同じクラスメイトで一緒にクラス委員をした仲だ。
そんな彼女はバレー部に所属しており、髪は少し色の抜けた亜麻色で太陽の光によっては彼女の名前のように真昼を思わせる輝きを放つ。
そんな髪を肩あたりまで伸ばしており、服装は校則に引っかからない程度の今時なオシャレをしている。
そんな真昼は明るい性格で、人の輪に入るのが得意だった。
今も人の輪の中から、陸人に声をかけていた。
「あぁ、真昼か。おはよう。」
陸人は慣れた感じで返しながら自分の席に座る。
「もう!またゲームして夜更かししてたの?好きだねぇ〜」
そう言いながら真昼は近づいてくる。
ふと、陸人は真昼のいた輪の中から視線を感じた。
「まあな。でもこればかしは息抜きで必要なんだよ。…相変わらず真昼は人気だな。」
陸人は苦笑しながらそう言った。
「私は嬉しくないけどね?友達と話してだんだけど、男の子が急に入ってきて… 正直、困ってたんだよ?」
真昼は声を潜めて陸人に話す。
どうやら誤魔化しとかではなく、本当に困っていたらしい。
陸人は話していた男子をチラリと見て言葉を返した。
「あぁ、真昼はチャラそうな男って苦手だったな。」
陸人は思い出しながら言う。
そう、真昼は今時な格好をしているし、何より容姿が整っていてモテる。
そのせいか、よく派手な主張が激しい人に声をかけられるらしい。そういったこともあって、派手な人や軟派な人たちが苦手なのだとか。それに普通に付き合うなら真面目で誠実な人がいいそうだ。
去年のクラス委員で仕事をしている時、陸人に話していた。
真昼と話していると、ホームルームが始まるチャイムがなる。
「明日、委員会決めがあるらしいから、今年も良かったら一緒にクラス委員しようね!」
真昼が自分の席に帰る前にそんな事を言った。
特に部活をしているわけでもなく、断る理由もない陸人は
「わかった。立候補がいなかったらする。」
陸人がそう答えると、真昼は嬉しそうに笑うのだった。
*
チャイムがなり、担任の福原先生が入ってきた。
20代の女性教員で、一般的な女子生徒とそう変わらない身長。
歩く姿が可愛らしく、年も他の先生より近いので、生徒からは親しみを込めて、福ちゃん先生と呼ばれていた。
福ちゃん先生じゃなくて福原先生と呼びなさい!
そうプンプンと怒る先生は更に可愛らしさを増すので、福原先生呼びされるのはまだ先のことだろう。
そんな福ちゃん先生が今日は心なしかキリッとした表情でこう切り出した。
「みんなさん!おはようございます!今日はホームルームを始める前に、みんなさんに紹介したい人がいます!」
その言葉を聞いて生徒は、
「えっ!先生の彼氏ですか!?」
「転校生?転校生なのか…!?」
冗談混じりの声もあり、段々と盛り上がりを見せる教室。
福ちゃん先生は、なだめようとしていたが、盛り上がった教室には届かなかった。
「それじゃあ、もう入ってきちゃってください!」
教室をなだめることを諦めた福ちゃん先生がそう廊下に声をかける。
ガララ。
教室の前の扉がスライドして開く。
そこから1人の少女が入ってきて教壇の前に立った。
陸人は、思わず目を見開いた。
「朝日…」
もう会うことはないだろ。
そう思っていた少女が入ってきたのだ。
彼女の名前は、朝日空。
陸人とは幼馴染だった。
出会いのきっかけは、小学校で1人だった朝日に陸人が声をかけたことだった。
それからは家も近いこともあり、ほぼ毎日一緒に登下校をしていた。
彼女は昔から可愛らしかったが、今では誰が見ても美少女、そう言うであろう容姿をしていた。
陸人が朝日に最後に会ったのは小学校の卒業式。
そこから、中学校は別で高校1年生の頃も含めると実に4年間会っていない事になる。
時間の流れがそうさせたのか、その4年間で朝日の見た目は陸人の知る朝日とはだいぶ変わっていた。
肩あたりまであった黒い髪は、少し赤みを帯びており、背中にかかるようになっていた。
その前髪は1つのヘアピンで分けられている。
そこから覗かせる顔からはあどけなさが抜けていて、見知っているようで、知らない顔。
そんな顔を見ていると、陸人は恥ずかしさが込み上げてきた。
「朝日空です。これから同じクラスの仲間としてよろしくお願いします。」
教室がシンと静まり返っていた。
そこに凛とした朝日の声。
簡単な自己紹介だったが、おそらく朝日の容姿に魅了されているのだろう。
クラスメイトが黙っているので、朝日が恥ずかしそうに福ちゃん先生に言う。
「あの、福原先生。私の席はどこでしょうか?」
朝日が誤魔化すように周りを見渡す。
すると窓際の一番後ろの席の陸人と目があった。
陸人は誤魔化すように笑うと、彼女はすっと視線を切るように動かした。
陸人は少し驚いたようだが、気にしない事にする。
「えっと、あ!窓際から2列目の一番後ろが朝日さんの席だよ!」
そう福ちゃん先生は答えた。
「ありがとうございます」
その言葉を聞いて朝日が一言お礼をいい、陸人の隣の席にやってくる。
そして、陸人をチラリと見ながら、
「お隣、失礼しますね?夕凪さん?これからよろしくお願いします。」
「お、おう、よろしく。」
ニコニコとした作ったような笑みを浮かべた朝日。
陸人は気まずい、そんな顔をしていたと思う。
幼馴染2人の再会は夕凪陸人のぎこちない返事で終わるのだった。
簡単に幸せになれると思うなよ!